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6話・自己紹介って緊張するよね

いよいよ出発する事になったフィズ達。勇者の護衛として数人の仲間と自己紹介をしながら、最初の目的地へと進んで行くのだった。

 雲一つ無い青空が広がる日。中央国「ハーシルト」首都ハーシルト。その国のお城の大きな門の内側に、私『邪神討伐隊』はいる……名前は私が勝手に呼んでるだけ。

 いよいよ今日、今この時が邪神討伐への出発。今この時より、私は「勇者」として皆を護るべく戦いの中へ身を置くことになる。

 ――私に出来るかな……うぅん。また弱気になってどうするの?やると決めたんだから、やってやる!

 私が決意を新たにした時、将軍の声が静まり返る場内に良く響いた。


「それではこれより、邪神討伐へと向かう。各自、気を引き締めろ」


 私は勇者なのだけど、恰好は他の兵士さん達とそんなに変化の無い一般兵服だ。一応象徴として列の一番前にいるけど、これは単純にチビだからじゃないかなぁ……と疑いたくなるほど、私だけ場違いな感じがしていた。勇者っぽいと言えば、お城にあった「グラキアイル」という、刀身が青い珍しい剣を持たされたくらい。


「出発の前に、王よりお言葉を頂く。総員、敬礼!」


 ゼンデュウ将軍がそう言うと、オルさんが即席の台に上がる。神妙な顔つき、金や宝石で煌びやかに装飾された礼装に、思わず笑いそうになってしまうけど、何とか堪えた。彼が壇上に立つと、私達は右腕を握って胸に当て、敬礼。そのままの姿で直立不動。


「邪神という、今までに類を見ない強大なる悪に立ち向かう戦士諸君よ。私は諸君らを誇りに思う」


 オルさんはそこで空を仰ぎ見て、少し間を開ける。

 ――あー、このワザとらしさ、私も文官さんに色々教えてもらったなぁ……

 そんな事を考えて思わず顔が緩んでしまった。強面(こわもて)の文官さんと目が合う。

 ――っと、危ない危ない。

 姿勢を正し、キリっと表情を作る。先が思いやられるね。気を付けないと。勇者としてそれなりの立ち振る舞いをしなさいと、あの文官さんからは口うるさく言われたのだ。


「諸君。私は諸君らに感謝する。邪神の討伐という、歴史上にも類を見ない快挙を成し遂げてくれるからだ。道中、苦しい事もあるだろう。何度も窮地に立たされる事もあるだろう――」


 顔を下げ、壇上から並んでいる兵士達をゆっくりと見やるオルさん。その真剣な表情からは、私をおちょくる姿など、微塵も想像出来ないだろう。


「しかし、諸君らならば、必ずこれを乗り越え、大陸を脅かす脅威を消し去ってくれる事であると私は確信している! 誇るが良い! 諸君らは皆、中央国「ハーシルト」の英雄となるのだ!」


 言い終わると同時に両腕を天高く掲げるオルさん。

 ――うん、もんの凄く演技っぽい。普段のオルさんを知っていれば……ねぇ。

 その演説の言葉も、絶対オルさんが考えたやつじゃないし。そんな下手な演技でも、兵士たちは沸きに沸いた。とびきりの快晴に、空を飛び回る鳥達。鳴り止まぬ騒音に私は一人、空を仰ぎ見ていた。


「行ってきます。お父さん、お母さん。ついでにミスナも」


 その小さな呟きは喧騒に飲み込まれ、誰の耳に届く事は無かった。

 


 国民達に見送られながら、首都の壁門を抜け壁外へ出る。私は十五年間、一度も出た事が無かったから、初めての壁外。基本的にヒトの住んでいる街には壁が設けられている、中は安全。その外安全ではない。単純な話だ。つまり、魔物たちが往来し生きている。魔物同士で独自の集まりを作っているという話もある。

 ここ半年くらい魔物の活動が活発化しているという話は聞いていたので、警戒しながらの進軍。遭遇すれば殲滅。それが基本的な私達の進軍となる。作戦会議でも言っていた通り、軍全体の指揮は基本的にゼンデュウ将軍が執る事になっているので、私は行軍の中では比較的安全な場所にいる事になる。

 私は三名ほどの護衛を連れて、行軍の中衛部を行く事になっている。

 ――勇者が先陣を切らないっていうのも何だかなぁ。

 と思うけど……邪神討伐の為に必要不可欠だから、という事みたい。そうそう、護衛の人達は――


「ウード・ラグです。傭兵をしていました。今回はこのような栄誉ある戦いに参加させて頂いた事、感謝致します! よろしくお願いします、勇者様!」


 礼儀正しいウードさん。身長高く、なかなか格好良い。「この人が勇者です!」って言われても多くの人が信じるだろうなぁ。暗めの黄色髪が良く似合っている。


「ピピアノ。私はあんまり戦うの、得意じゃないわ。伝令役としてでも使って。よろしく」


 冷めた感じのピピアノさん。ハーシルトでは珍しい獣人。げっ歯類系の獣人で、モフモフしてる毛、可愛い鼻、フードで頭を隠しているけど、てっぺんに穴が開いていて、そこから丸い耳が出ている。


「……ジフテック・ルビンだ」


 このやる気の無い感じのオジサンはジフテックさん。くたびれた長い外装に、魔術師としては珍しく、木の杖を持っている。とにかくやる気が無い。どうしてここにいるのかと思ったら、ゼンデュウ将軍の推薦らしい。今度推薦の理由を聞いてみよう。

 ――あれ?この四人だけ見ればお伽噺とぎばなしの勇者一行みたい。何だか楽しくなってきたな♪ミスナに教えたら羨ましがるだろうなぁ。


「勇者様、目的地の確認ですが、このまま真っ直ぐ国外へ向けて進軍。国境の街『トリステ』に行きます。行った事はありますか?」


 行軍して直ぐに、丁寧な口調でウードさんが尋ねてくる。そんな丁寧な口調じゃなくても良いのになぁ。私の方が絶対歳下なのに。あぁ、それを言ったらゼンデュウ将軍なんて倍以上は上だと思うけど。


「行った事無いです。私、首都から出た事無いんですよ。だから楽しみで」


 正確に言えば一度だけ出た事あるらしいけど、その時の事はほとんど覚えていない。幼かったしね。

 トリステは獣人国と鉱山国との国境付近にある街で、大きな街だったと思う。まぁ、首都に住んでいた私からすれば、ちょっと物足りなく感じちゃうのかもしれないけど……なんてね。


「――楽しみ、ね」


 ん?ピピアノさんが何か言ったようだけど、良く聞き取れなかった。


「そうですか、俺は最近までトリステを拠点にしていたので、宜しければ案内致しますよ」


「本当ですか? やった♪」


 うんうん、良い調子で会話出来てる。この調子で皆と仲良くなって、力を合わせていきたいなぁ。

 目的地に向けて進軍中、私たちは色んな話をしながら進軍した。トリステまでは約五日ほど掛かる。今日は小さな町に一泊し、二日目以降は野宿となる。




「――へぇ、じゃあウードさんとピピアノさんは志願して邪神討伐に行くんだね」

 

 しばらく進むと、見晴らしの良い丘で休憩を取った。天気も良く、吹き抜ける風が気持ち良い。ここまでの行軍中、魔物との戦闘も無く、順調に進んでいた。


「……ジフテックさん、だっけ? 貴方は志願じゃないの? 見たところ軍人でもなさそうだけど。」


 ピピアノさんが胡散臭そうな者を見る顔でそう問う。腕を組み、冷静と言うより、ただ冷たい感じで。


「あぁ。面倒くさい事に、ゼンデュウのヤツから無理やり連れて来られた。ったく。邪神討伐? 何で俺が行かなきゃなんねぇかね――」


 本当に面倒くさそうに答える。このオジサン、大丈夫かな。ピピアノさんの顔が引きつる。良くない雰囲気。


「あ、あの! そう言えば皆さん! 皆さんはどんな戦い方するんですか? いざ戦いの時に知らなかった、ではやりにくいと思うんですよね」


 苦し紛れの質問のようだったが、私にしては良い質問だったと思う。戦い方を知っていれば連携も取り易い。


「……戦い方、ね。私は一応、短剣術かしらね。魔法は自己強化系の魔法を使うわ。でも、言った通りあんまり戦うの得意じゃないから、そこは期待しないでよね」


「ふむふむ。ピピアノさんは短剣術……ウードさんは?」


「俺は剣術ですが、特に流派等はありません。自己流です。魔法は同じく、自己強化を主に使いますね」


「ふむふむ。ウードさんは自己流剣士。ジフテックさんは魔術師、ですよね?」


「あぁ、俺ぁ見ての通り魔術師だよ。火系列の魔法が得意さ」


「おぉ。火系列ですか……羨ましいです」


 そう言って溜め息。

 ――良いなぁ。


「うん? 羨ましいってのは、どうしてだい?」


 ジフテックさんは不思議そうにこちらを見る。


「えと、実は私、闇系列なんです。得意なの。闇系って、勇者っぽくないじゃないですか……」


 再びため息。ウードさんの気の毒そうな微笑みが少しツラい。

 ――何で私は闇系列なのかなぁ……

 ハーシルトのヒト達は炎か光が多い。風や地、水もちらほらいるけど……闇は本当に珍しい。


「そうか? 良いじゃねぇか。闇系列を使う勇者なんて、お伽話でも出て来ねぇ。本物の勇者は闇系列魔法で邪神を倒した。ってのも面白そうだと思うぜ」


 ニタりと笑うジフテックさん。そんな風に言われるのは初めてだし、素直に嬉しくなる。


「そ、そう、かなぁ」


 言われてみれば、別にお伽噺(とぎばなし)の勇者になりたい訳じゃないんだし。確かにお伽話(とぎばなし)と現実は違うし。


「そうですよ。ジフテックさんの言うように、お伽噺(とぎばなし)と現実は違うっていうのは面白いです。勇者様は勇者様らしく、堂々として闇魔法を使ってください」


「う、うん。ありがとう。二人とも」


 ――私、気にし過ぎてたんだね。うん、何だか元気になってきた!

 二人の励ましの言葉ですっかり気分が良くなる私。単純だなぁ。


「それよりよぉ、さん付けで呼ばねぇで、呼び捨てで良いぜ? 敬語もいらねぇ。その方が楽だろ、皆?」


 面倒くさがりなジフテックさんらしい提案。確かに、気さくに呼び合った方が仲良くなった感じで良いかも。こういう感じで少しずつ、皆と仲良くなっていけたら良いな。


「そうですね……や、そうだね。私はジフテックの意見に賛成♪」


 うんうんと両腕を組んで賛成する。


「嬢ちゃんは話が早くて良いねぇ。そっちの二人もそれで良いな?」


 嬢ちゃんて……ホント、オジサンだなぁ。そういえば、実家のお客さんにいたなぁ。こういう酔っ払い。


「えぇ、俺は構わないです。と言ってもなかなか慣れないので、徐々に。で」


 少し困った様子ではあったが、ウードも提案には賛成のようだ。


「……私は何でも構わないわ」


 うーん。あんまり賛成ではないのかな?ピピアノは難しいヒトなのかなぁ。うぅん、時間は掛かるかもしれないけど、きっと仲良くなれるよね。

 私たちが話をしていると、一人の兵士がこちらへ走ってくる。慌てた様子。どうしたのかな?


「勇者様、伝令です!」


「ど、どうしました?」


「本日進駐を予定しておりました町ですが、先遣隊が赴いたところ……」


 兵士さんが悔しそうなに拳を握り締める。嫌な予感がする。まさか――


「既に、魔物に攻め落とされた後だったようです……」


「っ!」


 私たちに緊張が走る。え?まさかこんな、首都からもそう遠くない場所が?


「それで、生き残りは?」


 冷静な調子でピピアノが兵士に問う。こういう時も冷静でいられるなんて素直に凄いと思う。私は全然落ち着いてなんていられなかった。


「ゼンデュウ将軍が向かっていますが、先遣隊の伝令からは、ほぼ絶望的、との報告が」


「そんな……」


 ――町で一体何があったの?

 うぅん。今はそんな事を考えている場合じゃない。こうしちゃいられない。


「私たちも向かおう!」


 皆の返事を待つ前に、私は駆けだした。ガチャガチャと軽鎧の金属がぶつかる音を鳴らしながら。

 雲一つ無い青空が広がるこの気持ちの良い日に、地図の上から町が一つ……消えたのだった。


「無力なヒト達の無念な気持ちが分かるのか!」

「それでも、私は、勇者だから!」

「死んでは、いけませんぞ」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」一章7話――

「私が悪い」


「私、私が自分の事しか考えていないから――」

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