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8話・告白

王都へ戻った一行はそれぞれにやるべき事をやっていく。圧倒的な魔物の存在に、アルカリ―ナは一つの決意を固めるのだった。

 王都『グランエルノ』に戻ったアルカリーナ一行。帰りの道中は不気味過ぎるくらいに静かだった。息を潜める魔物達、虫の鳴き声だけが木霊する巨木の上は、別の何処かに来てしまったのかと一行を錯覚させた。

 王都に着くとアルカリーナは直ぐに王宮に向かった。軍の司令部が王宮にある為、作戦会議に向かったのだ。当然、アルトを含む一般兵が参加出来るような軍議では無い。


「よぉ、アルト、俺達は待機だそうだな。これからガイのオッサンと珍しく訓練するんだが、お前もどうだ?」


 ラッドとガイハブが、兵舎の食堂で食事をしていたアルトに声を掛けた。アルトは一人食事をしながらも、会議が気になって何処か呆けた顔をしている。


「だッはッは! 珍しくとは何だ。俺も訓練くらいするぜ?」


「えと、僕は、その……」


 言葉を濁すアルトであったが、ラッドの一言で顔つきが変わる。


「ここでボケっとしてる以外に、お前に出来る事はあるんじゃねぇの?」


 ――そうだ。今出来る事をやるしか無いんだ。ここで気にしていても、何か変わる訳じゃ無い。それなら、少しでも強くならなくちゃいけないんだ。


「ガイさん、ラッドさん……お願いします!」


 勢い良く立ち上がるアルト。

 ――将軍を支える。僕が将軍を守る。その為に出来る事は何でもやっておかなくちゃ!


※※※※※※※※※※※


「――話は分かりました。アルカリーナ大将(・・)。しかしそのような魔物を放置しておめおめと逃げ帰って来るなど、『軍神』も落ちぶれたものですなぁ」


 真っ直ぐサラサラの白髪に真っ直ぐ伸ばした白い髭、という出で立ちの老兵のゲハゲハという下卑た笑いが司令室に響く。その嫌味の音を、アルカリーナは表情を変えずに聞いていた。


「止めんか、デッジボード中将。して、アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)の攻略方法は考えているのか? アルカリーナよ」


 森林国の女王ガーデナは、嫌味を言うデッジボードを制し、疑問を投げ掛ける。人形のように白い肌に白銀の長い髪。宝石のような緑眼が真っ直ぐにアルカリーナを見つめている。


「……正直に言えば、無い」


「ゲハハッ! 聞いたかよ皆ぁ! 軍神様ともあろうお方が、お手上げだとよぉ! ゲハハハハハ!」


 デッジボードの笑いに、数人賛同したかのように小さく笑っている。その様子を見てもなお、アルカリーナは表情を変えない。


「――犠牲を出さずに勝つ方法は無い。確実に攻略できるかも分からない。だがこの国に生きる者として、この国を守る兵士として、やらねばいけない事だ」


 静かな言葉だった。しかし強い言葉。その場にいた皆がアルカリーナに気圧されている。それは馬鹿にしていたデッジボードも同じであった。


「……どうするのだ?」


 ガーデナは目線を伏せ、溜め息混じりで言った。


「部隊を編成し、ぶつける。とにかく何度も何度も。前衛は出来るだけ攻撃を(さば)くのが上手い奴が良い。防ぐのは無理だろうからな。攻撃の要は魔法になる」


「基本戦術ですな、うぅむ」


 真面目な顔になったデッジボード。蓄えた白い髭をなぞりながら唸っている。


「罠を張って誘い込むっていうのは考えられ無いのですか?」


「誘い込むのが非常に難しい。それどころか味方の動きが制限されかねない」


 またも唸るデッジボード。軍の将として、勝利はもちろん、犠牲を減らす作戦を考えなければならない。しかし、老将の彼の経験からしても、今回のような強力な魔物と戦った事は無かった。そして、そのカンが告げている、今回は過去に類を見ない犠牲が出るという事を。


「……しかしそれでは、兵に命じねばならんのじゃな……死ね、と」


「……」


 ガーデナがそう言うと静まり返る場内。


「それについては……オレがやる。オレが言うしかない、国の為に死んでくれと」


「アルカリ―ナ……」


 見つめ合うアルカリ―ナとガーデナ。少しの沈黙の後、ガーデナはハッとした表情になる。真剣なアルカリーナの表情の中に、(ただ)ならぬ覚悟を感じたガーデナ。それは戦いに赴く覚悟だけではなく、もっと別の覚悟のように感じられた。


「ま、まさか……」


「あぁ。そのまさかだ」


 二人のやり取りにを、その場にいた者は首を傾げている。


「……よし、では皆の者。作戦開始は五日後じゃ。その前に明日の夕刻、王宮前に兵士を含む国民を出来るだけ集めるのじゃ」


「ちょ、ガーデナ、そん――」


「ほほほ。ちょっとした意地悪じゃ。20年分(・・・・)の、な」


 またも場内の者は首を傾げる。


「聖王と大将は幼馴染ってヤツでしたな? 仲が宜しいようで」


 デッジボードは肩をすくめて言った。その言葉にアルカリ―ナは苦笑いだが、ガーデナは嬉しそうに笑った。


「さぁ解散じゃ。明日が楽しみじゃの」


※※※※※※※


 次の日の夕方、王宮前広場には大勢の人々が集まっていた。急な呼び掛けにも関わらず、兵だけではなく住民も賑わっている。


「何でしょうね、ラッドさん。急に集まれだなんて」


 アルトは隣に並ぶラッドに話し掛ける。アルト達兵士は今朝、緊急の招集があると伝令を受けたのだ。


「そりゃアーモ・マイデグリア(森を喰らう者)の事に決まってるだろ」


「それはそうでしょうけど。でもそれなら兵士だけで良くないですか? ワザワザ国民の不安を煽るような事は……」


「あ、ほら、大好きなアルカリ―ナ将軍達が来たぜ」


「だ、誰が大好きですか!?」


 そう言いつつ、アルトはラッドの指差す方向を向いた。王宮のテラス部分に、女王ガーデナとアルカリーナ達将校が並んでいた。

 その姿を確認すると国民は大いに沸き、大きな歓声が王都に響き渡った。


「――聞けッ! 国民よ!」


 ガーデナがテラスから両手を広げて呼び掛ける。多少の違和感。普通ならまず黙らせるのは臣下がやるような気がする。


「現在この国は危機に瀕しておる! 伝説級の魔物、アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)が確認されたのじゃ!」


 案の定、国民にザワザワと不安の声が広がっていく。


「何だその魔物? ガドルラスーやジャーグよりも危険なのか?」


「急に集められたんだ。物凄い魔物なんだ、きっと……」


「大丈夫なのかしら……」


 そんな国民の様子を見て、ガーデナは口を開く。


アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)は王家に伝わる文献にのみ記載されている魔物じゃ。その姿は巨大な蟷螂(かまきり)。その鎌は巨木の枝を真っ二つにするという」


 一気にザワつきは加速する。心配する声は一部悲鳴にも変わっていき、今にも暴動が起きるんじゃないかと、アルトは心配になった。


「しかし、倒せぬ相手では無い!」


 ガーデナの叫びに、民衆のザワつきが少し治まっていく。アルト達兵士はその様子をほとんど動かずに聞いていた。心配なのは兵達も同じだが、守るべき立場の自分達が動揺してはいけない、と皆自身に言い聞かせて立っている。


「百年以上の昔、アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)は勇者によって討伐されておる。その強さは尋常ならざると王家に伝わる文献に記載がある通り、被害は甚大なものだったそうじゃ」


 ガーデナの演説を聞き、アルカリーナは悔しそうに唇を噛んだ。


「しかし、我が先祖の勇者(・・・・・・・)がそうしたように、力を合わせれば必ずや奴を倒す事が出来るはずじゃ!」


 国民のみならず、兵達からもザワつく声が聞こえる。


「え? 聖王の先祖って勇者だったの?」


「いやいや、百年以上前にはこの国あったんだぞ? あ、勇者は王家に婿に入ったのか?」


 様々な疑念の声が漏れている。テラスの上にいる将校達ですら、動揺の色が隠せていない。


先代(その)勇者が聖王と協力し、この国の民と協力して魔物を倒したと王家の文献には記載されておる。勇者の名は『シェイド・ハッシュベル』という。この名は王家の文献にのみ記載されている事じゃ。知らぬのも無理は無い」


 ザワザワと大いに場内は沸いた。アルトもラッドと顔を見合わせ、言葉にならぬ声をパクパクと出している。


「――静まるが良い。皆の疑問に答えよう。皆も知っての通り、この国の王家は開国後、何百年と変わっておらん。脈々と続く、初代聖王『ロステト』の名を受け継ぐ者がこの国の王族である」


 静まり返る場内。今更自国の歴史を話されたところで、誰一人関心の声を上げる者はいなかった。

 テラスの上にいる人物が、聖王ガーデナ・ロス・テトであるという事を知らぬ者はいない。即位してから10年ほどになるが、幼い頃から先王の側にいる姿は、民衆の中にも知っている者は多く存在する。


「余の、いや……私の名前はガーデナ・ハッシュベル。これだけ言えば皆ももう、分かるであろう?」


 ニヤリと笑うガーデナと、再びザワつく場内。テラスの上で静かに椅子に座っているアルカリ―ナに視線が集中していく。ガーデナはアルカリ―ナの前まで歩き、笑い掛けた。


「後は貴女の仕事です」


「はぁ。オレがやるとは言ったが、何でこんなに芝居臭くやるんだよ……」


「ふふふ。それはもう、長い間私に聖王なんて面倒な仕事を押し付けた仕返しですよ」


 周囲の将校達の戸惑う視線を気にもせず、アルカリ―ナとガーデナは立ち位置を交換し、アルカリ―ナはテラスから静まり返った国民を見渡した。

 ――ふぅ。不思議だ。緊張は無い。

 群衆の中にアルトを見つけると、アルカリ―ナ本人も気づかないくらい僅かに口角を上げたのだった。

「次回予告だ、アルト」


「はい。次回は過去と今の話ですよ」


「そ、そうか……え? それだけか?」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」外章9話――

「王家に生まれるという事」


――(まこと)と嘘は、等しく人々に笑い掛ける――

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