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10話・国が違えば、文化も違うよね

中央国を出て獣人国へと入ったフィズ達。初めての他国にだったが、浮かれてばかりはいられないのであった。

 トリステの門を抜けた私達は、獣人国『ダンザロア』に入った。他国と言っても、入国したばかりではまだそんなに実感が無かったが……


「おー、あれってウォルドブの木じゃない? 丸くて小さい実が集まってぶら下がってるんだねっ。初めて見たよっ」


 平野に群生した木に生っているいる実を見て、思わずはしゃいでしまう。甘酸っぱいウォルドブの実はお酒の材料として重宝されている。中央国で『果実酒』と言えば、大半がウォルドブを材料にした物を輸入しているようだ。そのまま食べても瑞々しくて美味しいし、干しても美味しい。


「フィズ。貴女は食べ物の事になると元気になりますね。実に単純です」


「むぅ。良いじゃん単純で。だって美味しそうだよ? ねぇ、少し採って行っても良いかな?」


「少しだけよ? 観光なんてしてる場合じゃないんだからね」


 ピピアノの許しが出て、私は少しウォルドブを採った。早速口に含むと……


「う~……酸っぱいっ!」


「うっはっは! ハズレだな、嬢ちゃん」


「食い意地張っても良い事なんて無いのよ」


「むぅ……」


 そんな調子で私達がワイワイと賑やかに歩いていると、遠くの丘の方に壁が見えた。見るからに薄く(もろ)そうな壁は、恐らく小さな村を囲っている物だろう。こちらから見た限りでは、まだ壊れてはいないようだけど……


「フィズさん、見に行ってみませんか?」


 ウードの提案に、私は頷く。元よりそのつもりだ。


「うん、行ってみようか」


 お腹も減って来たし、何かお店があると良いんだけど。まぁ、小さな村みたいだから、トリステのカルミネさんの料理のようなモノは期待しない方が良さそうだね。


「ちょうど日も沈んできたし、泊めてもらえると有難いわね」


 丸い耳をピコピコと動かし、ピピアノも賛成なようだ。野宿はしたくないから、村を見つけたのが嬉しいのだろう。私達は丘の方へ足を運んだ。



 丘の壁に着くと、壁は十メルトロくらいの高さだった。トリステに比べると全然低く、強度も大した事なさそうだ。こんなんじゃ魔物がいつ入って来てもおかしくない。そんな貧弱な壁の門も横に付けられた覗き穴から男のヒトがこちらに向かって叫んでいる。


「止まれ! 何者だ、お前らは?」


 この展開は……


「おぉ、トリステの時と同じだねっ」


 ちょっと懐かしい。ほんの少し前の出来事なのに、私は何だか嬉しくなってしまった。


「当たり前でしょ。知らないヒトが来たらまず止めるわよ」


 私とピピアノがそんなやり取りをしている間に、ギィさんが前に出る。もうこういうのはギィさんに任せるのが一番だと思う。


「我々は中央国から来た勇者一行だ。今晩泊めて頂く事は出来ないだろうか? 僅かではあるが、謝礼も払う」


「勇者? ほぉ、『王子』と同じ勇者かぁ。良いぜ。入んな」


 驚くほどすんなりと話が通る。やったねっ。でも、王子?察するに、獣人国の勇者は王子様って事なのかな?


「貴族印出すまでもなかったな。やるじゃねぇか」


「ふふん。お兄様の魅力があれば当然です」


 ジフがギィさんを褒めると、本人よりもリアリスの方が嬉しそう。いつも通りだねぇ。木で出来た門を上げてもらい、私達は中に入れてもらった。


「ようこそ、獣人国へ。ここは(はずれ)の村『ハバ』だ。何にもねぇけどよ、歓迎するぜ」


 先ほどの男のヒトが私達に言った。青黒くふさふさの毛並み、尖った耳に鋭そうな牙。犬?の獣人のオジサンだったのね、このヒト。


「ありがとうございます。私はハーシルトの勇者、フィズ・アウレグレンスです」


 私はそう言って獣人のオジサンに頭を下げた。調子に乗ってはいけないと、私は努めて謙虚な態度を取ろうとした。


「おおぅ。随分と小さい勇者様だな。しっかり食ってんのかい?」


「あはは。食べてますけど、なかなか伸びなくて」


 あぁ。身長が欲しいなぁ。オジサンはガハハと大きく笑いながらも、私達を観察するように見ているようだ。


「お、何だ、ニアイだけじゃなくてエオーケもいるじゃねぇか。しかも……こりゃえらい美人さんじゃねぇか!」


 オジサンはピピアノを見て凄い嬉しそうだ。しかしピピアノ、ここでもオジサンに人気なのね……それはそうと、ニアイ?エオーケ?って何?


「はぁ。ありがと。で、宿はどこかしら?」


 ――冷めてるなぁ……まぁ、それが彼女の魅力の一つだと思うけどね。

 私達がやり取りをしていると、続々と村のヒト達が何だ何だと集まって来た。


「おぅ皆ぁ! このちっこいの、中央国の勇者様だとよぉ!」


 結構な数の村の人々が私達を取り囲むように集まり、ザワザワと騒ぎ始める。

 ――嫌だなぁ、こういう好奇(こうき)の目で見られるの。しかもちっこいのって、まぁ本当のことだけれども。それにしても、トリステの時と言い、どこにでもこういうオジサンているんだなぁ。

 その後、私達は展示品のように村人から見られ、陽も沈みかけた頃にようやく宿に案内される。


「さ、入ってくれ。ワシん家だけどよ、自分の家だと思ってゆっくりしてってくれよな!」


 宿……ではなく、先ほどのオジサンの家らしい。私が見た限りでは、村の中でも相当大きな部類に入る建物ではないだろうか。


「あ、ありがとうございます。あ、えーと……」


「お? あぁ、そういやまだ名乗って無かったな。ワシはガガル・クラシアキという者だ。一応、この村の村長をやっている」


 ――えぇ!村長さん!?

 という心の声は押し殺し、私は笑顔で感謝の言葉を述べ直した。


「ガガルさん、ありがとうございます。お陰で野宿せずに済みました」


 リアリスがトリステで言ったように、勇者らしく振舞えているかは分からないけど、一応これでも気を付けているつもりだ。しかし、村長なのに……


「村長なのに、門の番をしていたの?」


 ピピアノの言葉にガガルさんは耳をピクリと反応させた。私もそれが気になっていたけど、勇者っぽい立ち振る舞いをしていると、聞くに聞けなかった。


「あぁ。人手不足だしな。それに……」


 ガガルさんは両腕に力を込めて力こぶを作った。凄い大きさだ。この筋力で殴られたらきっと、痛いなんてものじゃ済まされないだろう。


「ワシが村で一番強いからな。ワシが番をするのが一番安全だという訳だ」


「――そ、そう。それは頼もしいわね」


 若干引いてるピピアノ。まぁ、目の前で力こぶを自慢げに披露しているオジサンに、若い女性はどう反応を示せば良いのだろうか。


「よーし! こんなところで突っ立って話するのもなんだ。飯を食いながら話そう」


 ガガルさんは扉を開け、中に入って行く。


「お、良いねぇ。酒があると更に良いんだがなー」


「お腹が空いてたんです。ありがとうございます!」


 ジフとウードは嬉しそうについて行く。私とピピアノは顔を見合わせ、軽く笑ってついていくのだった。




「――あ、気になっていたんですけど、ガガルさんが言っていた、ニアイ? とかエオーケ? ってなんですか?」


 食事を摂りながら、ウードがガガルさんに問い掛ける。私も気になっていたんだけど、ガガルさんが用意してくれた肉料理が美味しくて美味しくて、夢中になって食べていた。


「ニアイってのは、ワシら獣人が獣人じゃないヒトを呼ぶ時の名称だ。エオーケは獣人が獣人を呼ぶ時に名称。この国特有らしいな」


「へぇ~。そうだったんですね、ありがとうございます」


 名称か。国ごとにそういうのがあるもんだね。面白いなぁ。


「あ、私も一つ気になったんだけど、獣人国の勇者って王子様なの――ですか?」


 気を抜くとどうしても、丁寧に喋れなくなる。気を付けないと、またリアリスに怒られかねない。


「ガハハッ! 楽に話してくれて構わねぇぜ! あぁ、ウチの勇者様はガンザリア・デッグタム・ダンザロア。獣人国の第二王子様だ」


 第二王子……王子様っていうと、私はオルさんしか知らない。この国の王子様もオルさんみたいなヒトなのかな?あんなに口の悪い王子が他にもいるなんて考えたくも……いや、あれも演技(・・・・・)だったのかな?まぁ、考えても分かる訳無いよね。


「失礼。ガンザリア王子は、今どちらにいるか分かりますか?」


 小さく手を挙げ、ギィさんが尋ねる。そうだね。もしまだ獣人国にいるなら、合流するっていう選択肢もある。


「うーん……それは分からねぇなぁ。このご時世だからな、王子の動向を知ろうにも、触れが村には直ぐに届かねぇ」


 ガガルさんは腕を組んで(うな)った。


「ま、それもそうだわな。中央国でも流通はほとんど止まっているんだ。どこの国でも、壁外に出るにはそれなりの準備が必要になっているはずだ」


「そうですか……」


 ガガルさんとジフの言葉に、ギィさんは残念そうな顔をする。そんなに会いたかったのかな、獣人国の勇者に。それはそうと、壁内の生産区画で何とかなっているトリステやハーシルトならまだ良いが、この村は大丈夫なのだろうか?村の規模の割には、村人が多いような気がするけど。


「ガハハ! 勇者様よ、今この村は大丈夫かって思ったろ?」


「えっ、あはは……」


 表情に出ていたようだ。私は笑って誤魔化す。


「この村は確かに生産区画が小さい。流通なんてもちろん無ぇ。だがそんなの関係無ぇ。魔物を狩って食ってるからな」


「えぇ! 魔物を?」


 ウードが驚いて目を丸くする。


「あぁ、あんたらニアイからすれば、魔物の肉なんぞ硬くて食えんかもしれねぇが、俺達エオーケには関係無い、特にこの村はアゴの強ぇヤツばかりだからな、全然問題ねぇのさ」


 そう言ってガチガチと歯を鳴らすガガルさん。実はトリステに着く前、私達は一度、バウアウを食べてみた。スジっぽく、とても硬くて食べられたモノではなかったけど……


「ハーシルト以外ではよ、結構魔物って食べられてるぜ?」


 ジフはお酒の入ったコップを傾けて言った。


「そ、そうなんだ……バウアウはマズかったよね?」


「ありゃ食用に向いて無いからな」


 あ、そう言えば、ジフは食べなかったような……


「しかし、魔物は活性化で強力になっているはず……大丈夫なのですか?」


 苦い顔をしている私をよそに、ギィさんが質問をしている。確かに。兵士ですら苦戦する事もあるていうのに。まぁ、さっきの筋肉は凄かったけど。


「ガハハハハッ! 楽勝よぉ! 実はワシゃあ、若い頃は傭兵をしていてな? それなりに知名度もあったんだぞぉ!」


 楽しそうに笑うガガルさん。傭兵か、ウードと同じだね。


「――あ! もしかして『死なずのガガル』!?」


 ウードが立ち上がって叫ぶ。勢い余って倒れた椅子から、ウードの驚きようが伺える。


「ガハハッ! 懐かしいじゃねぇか、よく知ってるなぁ、兄ちゃん」


「死なずのガガルって言やぁ、二十年くらい前の、小国同士の小競り合いの時に活躍した傭兵じゃなかったか?」


 二十年前か。生まれてないけど、それくらい前に小さな国同士で戦争があったとは兵学舎で習っている。ジフとウードの話を聞いていると、何だかガガルさんが輝いて見えた気がした。


「――へぇ強いんだねぇ、ガガルさん」


 ちょっと興味が沸き、ガガルさんを見つめる。鍛えられた筋肉が途端に、斬りごたえのある肉(・・・・・・・・・)に思えてしょうがなくなる。

 ――私って、本当に戦い好きなんだなぁ。


「まぁな。見たところ、フィズもそこそこやるようだが……まだまだだな」


 小さく笑うようにそう言われ、私はカチンとしてしまう。


「むっ」


 私の不満そうな顔を見て、ガガルさんは腕を組んで言った。


「どうだ? ワシと自分、どちらが強いと思う?」


 挑戦的とも取れる言い方……


「私の方が強いよ。力は敵わないだろうけど、剣技なら私の方が強いと思うよ」


 私も腕を組んで言う。これまでの実戦経験と、グラキアイルの存在が、私の自信に繋がっている。

 ――確かに、ドウセツとかいう魔獣には勝てなかったけどさ、あれは別格だと思いたいね。


「ガハハッ! じゃあちょっと試してみるか! 外に出な!」


「良いよ! 勇者の強さを教えてあげるよ!」


 売り言葉に買い言葉と言った感じで、私とガガルさんは腕試しをする事になったのだった。

「ガハハッ! そんな程度かぁ?」

「はぁぁあ! ベイル・ディル!」

「――ねぇ、皆。ちょっと話があるんだけど」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」四章11話――

「手が届かない悔しさ」


「……」

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