表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/119

8話・自然とそこに居れる者を、仲間と呼ぶんだね

圧倒的力の差を見せつけられたフィズと、仇を見つけたピピアノ。思いは違えども、手の届かぬ敵を前にした二人は、何を思ったのだろうか。

 どうも。ウードです。先日のロロッカ討伐の日から、二日が経ちました。街は破壊された家屋等の復旧が開始されています。襲撃していた魔物が討伐され、街のヒト達は安堵しているようですが、その後現れた魔獣のせいで若干不穏な空気は残ったまま。

 そして、俺達的に一番の問題はフィズさんとピピアノさん。二人とも宿の部屋から出て来ません。リアリスさんの話では、ピピアノさんは別にもう一部屋借りてまで一人でいるとの事。


「よぉ、ウード。ちょっくらピピアノんとこ行くんだけどよ、お前さんも一緒に来い。フィズの事は任せるから。適当に元気付けてくれよな」


 自分が泊まっている宿の前でウロウロしていると、ジフさんから話し掛けられた。


「えぇっ!? 俺がですか!?」


 急だ。フィズさんはきっと、魔獣に負けた事が原因で落ち込んでいるのだろうけど……


「ギィさんとかの方が適任だと思うんですが……」


 ジフさんは頭をポリポリと掻いている。言いにくそうな表情で、ゆっくりと口を開いた。


「お前さん、先の戦闘であまり良いとこ無かったろ? せめてこれくらいはやれ。な?」


 グサリと胸に突き刺さる一言を。た、確かに俺は、ロロッカ戦ではほとんど何も……


「ぐぐ――分かりました……」


 観念してついて行く。正直、元気づけられるような自信は無い。でも、フィズさんに元気になってほしいという思いは、当然ある。ただ、落ち込んでいる女性に何と言葉を掛けたら良いのかが、俺には見当も付かなかったのだ。




「ついたぜ。それじゃ、後は任すぞ」


 そう言ってジフさんはズカズカと宿に入り、中にいた子どもに部屋を聞いている。子どもが部屋を指差すと、軽く礼を言って階段のすぐ下の部屋に入っていった。


「よし、少し彼を見習ってみるか」


 俺は彼に習い、宿に入る。


「どーもー! 宿泊ですかぁ?」


 元気な女の子がパタパタと駆け寄ってくる。先ほどジフさんに部屋を教えていた女の子だ。


「あ、いや。違うんだ。フィズさんてヒト、いるかな?」


 俺がそう言うと、女の子の顔がパァっと明るくなる。


「あー! お兄さん、お兄さんもフィズお姉さんと一緒に戦ってくれてヒトだ! うん、お姉さんいるよ。でも、お部屋から出て来ないの……」


 言いながら女の子は寂しそうな顔をする。守った人達がこれだけ心配してくれているのだ、俺達が戦った結果だけを見れば、誇って良いと思う。


「うん、お兄さんはね、お姉さんを元気にしようと思って来たんだ。お部屋を教えてくれるかい?」


 少し屈み、目線を合わせて俺が言うと、女の子の表情が再びパァっと明るくなる。


「ホント? あそこの部屋だよっ! お兄さん、フィズお姉さんをお願いね!」


 女の子が指差したのは階段を上がってすぐの部屋。よし、と心の中で言い、自らの頬をピシャリと叩くと、階段を上り部屋の扉を叩いた。


※※※※※※※※※※※


 宿の階段を上って来る足音が聞こえる。ウードだ。シェロンちゃんの元気な声で内容は分かった。布団に(くる)まった惨めな私を元気付けに来てくれたようだ。

 私はあの日、私はまたも自分の力不足を痛感してしまった。いつもこの繰り返しだ。調子に乗って、失敗して、元気付けられて、また調子に乗る……私は自分がバカなのは分かっている。ミスナにも散々言われてきたし。けど、こうも繰り返されると、バカを通り越した何かなんだと思ってしまう。でも、それよりも……

 ゴンゴンと扉が叩かれると、分かっていても気まずい気持ちが押し寄せてくる。


「フィズさん。俺です。ウードです。入ってよろしいですか?」


 何と応えよう。もはや何も分からない。入って良いかという質問にさえ、何と応えたら良いのか……分からなくなっていた。


「……フィズさん。その、何て言ったら良いのか、正直分からないんですけど、塞ぎ込んでるのは……らしくないです。フィズさんは元気で強くて、優しい。まぁ、抜けてるところはあるし、ちょっと抱え込みやすいっていうのはありますけど、そんなの誰にでもあるって言うか……」


 私が応えずにいると、ウードは扉越しにそう話す。きっとこういう話はし慣れていないのであろう。言葉を選びながらゆっくり話しているのが分かる。

 ――私が『強い』かぁ。


「今回は、あの魔獣にちょっと遅れを取ってしまったけど、次があります。次は俺も! 皆も一緒に戦いますから! フィズさんの足を引っ張らないように努力します。だから、だから!」


 違う。そういう事じゃない。私はたぶん、あの時ウードがどれだけ強くても、きっとドウセツとの闘いの時は一対一で戦っただろう。


(おやァ? まだ君は塞ぎ込んでいるのかィ?)


「っ!?」


 ――グラキアイル? 変だな、グラキアイルはそこに立て掛けて……


(何を言っているんだィ?)


 私はしっかりとグラキアイルを抱きしめている。いつの間に?


「一緒に強くなっていきましょう! もう、誰にも負けないように、俺達と一緒に……!」


(ヒトは不安だったり心細さを感じるとォ、無意識に武器を持ったりするもんさァ)


 ――そ、そうなのかな。


(うんうん。それよりィ、どうするんだィ? まさかたった一度負けたくらいでお仕舞いなのかィ?)


 ――違うよ。負けたのは確かに悔しいし、それで落ち込んでる部分もある。でもね、私ね。


「フィズさん、俺は貴女が勇者で良かったと思ってます。最初は俺よりも五つ以上も年下の女の子で大丈夫かって思いました……」


 ウードの声に集中出来ない。元気付けてくれているのは分かるが、内容がまるで入って来ない。

 ――私、きっと皆を仲間だなんて、思ってないんじゃないかなぁって。


(ふぅん。それで落ち込んでいるのかィ?)


 ――ふぅんて、冷たいね。さすが氷の魔剣だよ。


「でも、年齢なんて、関係ありませんでした。いつだって俺達を率いて立派にしています。年相応の部分ももちろんありますけど――」


 ――ねぇ、仲間って何なのかなぁ?


(さァねェ。剣の僕には仲間はいないからねェ。でもさァ、フィズゥ。例えば今扉越しに話してる彼がいるだろォ? その彼と全く同じ能力ゥ、容姿のヒトがいたとするゥ。そいつが彼に代わって明日から仲間ですって言ってたらァ、変に感じないかィ?)


 ――ん?何を言っているの?グラキアイル。ウードと同じ能力でも、容姿でも、そいつはウードじゃないんでしょ?だったら変に決まってるじゃん。


「そういった部分も含めて、僕はフィズさんについて行こうって思いました。上手く言えない自分がもどかしいですけど……」


(でもォ、能力ゥ、容姿は全く同じだよォ? 考え方とか声も全部一緒さァ)


 ――うん、変だよ。


(どうしてェ?)


 ――どうしてって……だって、あれ?上手く言えないな。あれだよ、一緒に旅してきたのはウードだから……?


「他の勇者は知らないですけど、邪神を倒すのは、きっとフィズさんだと思うから! だからフィズさん……」


(きっとそういう事なんじゃないかなァ? 何なのか分からないけどォ、一緒にいる存在を仲間って呼ぶんじゃないかィ?)


 ――そう、なのかなぁ。でも、何だか私もそんな気がしてきたよ。


(答えは分からないよォ。けどォ、僕から言えるのはもう一つだけさァ)


 ――何?


「こんなところでウジウジしてないで、行きましょうよ!」


(こんなところでウジウジしてないで、行こうよォ)


 ――あははっ。


「あはは。二人とも、同じ事言ってるね」


 私は頬を両手で叩くと、寝床から立ち上がる。腰にグラキアイルを付け、扉へ。


「フィズさ――」


 扉を開けると、ウードが驚いた顔で立っている。


「フィズさん!」


「ごめんね、心配掛けちゃったね」


 軽く頭を下げる。


「心配しましたよ。でも、信じていました。きっとフィズさんなら、また立ち上がってくれると思っていました!」


 信じていた、か。そうか、こんな風に言ってくれるヒトがきっと仲間なんだ。ピピアノみたいに冷静に抑えてくれるのも仲間、ジフみたいにめんどくさがりだけど頼りに出来る存在も仲間。ギィさんだってリアリスさんだって。

 それにやっぱり私はバカなんだ。あれこれ難しく考えたりしても、きちんと説明なんて出来もしない。自分の感情や考えすら、上手くまとめられない。だったら、せめて私も信じよう。ウード達仲間を。


「信じてくれて、ありがとう。私、皆と仲間で良かった。これからもよろしくね、ウードっ」


 ――グラキアイルもね。


(もちろんさァ! よろしくねェ、フィズゥ)


 笑って差し出した手を、ウードは力強く握ってくれる。きっとこれからも、私は沢山悩むけど……心配はいらないはず。皆がいてくれるし、悩んだ数だけ、大きく成長出来ると思うから。


※※※※※※※※※※※


「それで、アンタはそこで何してんのよ?」


 私がワザワザ新しく部屋を借りてまで一人になりたかったっていうのに、こいつは――ジフはどうして部屋の中にいるの?


「ん? あぁ、気にすんな。いるだけだよ」


 少し前に勝手に入って来て、椅子に座って机に肘をついて読書している。鍵はシェロンちゃんに借りたみたい。ムカつくわね。こっちはオジサンに構っている気分じゃないのに。


「そう。じゃ、勝手にすれば? 私が出て行くわ」


 そう言って腰かけていた寝床から立ち上がる。ここに居たって、イライラするだけ。


「お、そうかい。じゃあ行こうか」


 読んでいた本を閉じ、ジフも立ち上がる。


「ちっ。アンタねぇ。何なの? 私は今一人になりたいの! 邪魔しないでくれるかしら!」


 ムカつく。本当にムカつく。コイツの事でイライラしていたのではなかったのに。


「まぁ、落ち着け。お前さんが苛立っていてもどうにもならねぇよ」


 ヘラヘラとニヤケるジフを見て、私は大きく息を吸い込んだ。


「イラつかせてるのはアンタでしょうがっ!」


 私の怒鳴り声に、ニヤついていたジフは真顔になった。


「いいかピピアノ。お前さんはきっとこう考えてただろ? 『あの時、どうして私を行かせてくれなかったの』とか、『どうして逃がしたの』とか、そんな風に考えてて俺達を見たくなかったんだろ? だから部屋を別に借りたんだ」


 ほとんど正解。まぁ、私も単純よね。あの魔獣を逃がしてしまってから、コイツらの顔を見ると思い出しちゃって。それにしても、その気持ち悪い声真似(・・・・・・・・・・)は本当にイラつくわ。


「だったら何? 分かってるんなら出てってくれないかしら?」


 私の言葉に首を横に振る。全てを見透かしたように微笑む顔が本当にムカつく。

 ――ちっ。何だってのよ、本当に。


「そういう時はな、飲むぞ」


 そう言ってジフはどこからかお酒を取り出す。果実酒に、透明な米酒。


「はぁ? 前に言わなかったかしら、私は酒なんて――」


「ウソ言うな。俺の酒飲みのカンをナメるんじゃねぇ。お前さん、本当は飲めるだろ」


 酒飲みのカン?何よそれ……まぁ、確かに飲めるけど。

 

「たとえ飲めたとしても、今はそんな気分じゃないわ」


 ジフの目を睨み、拒絶の意思を伝える。


「そんな気分じゃねぇから飲むんだよ。肴はそうだな――アーディの話なんてどうだ?」


 アーディの話、ね。そんな事を言われれば、私が乗って来ると思っているのかしら?


「はぁ……少しだけよ。少し飲んで満足したら出て行きなさいよ?」


 ――本当に単純ね、私も。少し付き合ってやらないと、ずっと付きまとわれそうだし……

 私は観念して向かいの席に座り、目の前のムカつくオジさんを睨み付けた。

「お? どぅいぅ事よ?」

「――根拠はらによ」

「らんらのよ……アーディ、わらしに隠し事ばっかりじゃらい」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」四章9話――

「少しずつ流る時は、ほろ酔う足取り」


「……予告の言葉選びに悪意を感じるわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ