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3話・酔っぱらってても酔っぱらってなくてもオジサンは大体一緒

食事を終えたフィズ達は、トリステの中を見て回る事に。シェロンとの約束を果たす為に、情報を集めるのだった。

 宿屋の食堂で食事を平らげた私達は、カルミネさんとシェロンちゃんと別れ、国境の街(トリステ)を散策する事にした。牧場区と農場区を見ておきたかったからだ。


「フィズ。アンタさっきの……」


 宿を出ると太陽の眩しい光が降り注ぐ中、ピピアノが不安そうに言う。汗ばむくらいにジリジリと暑いのだけど、彼女はきっと別の理由で冷や汗を掻いているだろう。毛があって分からないけど。


「うん? あぁ、魔物は私が斬り刻むってヤツ?」


「そ、そうよ。まさかまだ魔剣の効果が……」


 少し警戒している様子。


「あはは。将軍達にも言ったでしょ? あれは魔剣に乗っ取られてた訳じゃない。つまり、私自身の言葉だって」


「本当に大丈夫なの? まぁ、あんまり子どもの前で言うもんじゃないわ」


「そう? 斬りたい、殺したい。そういう気持ちも含めて私なんだよ。もう隠さない。たぶんだけど、隠しているとまた暴走しちゃいそうな気がするの。グラキアイルは、隠している、あるいは隠れている気持ちを爆発させちゃう剣なんじゃないかなって思うの」


「……よく分からないけど、暴走しないんなら良いわ」


「今度暴走したら私が射貫いてあげますから、心配いりませんよ」


 リアリスさんが口元を緩ませ、弓を撃つマネをする。リアリスさんは弓の名手だから、外さずに射貫いてくれそうだ。トリステに来る前に遭遇した小型魔物は、その正確な射撃のせいで、彼女に近づく事すら容易ではなかったようだ。加えて冷静な彼女なら、情に流されずにしっかりと止めてくれそうだ。情があるかどうかは別として。


「あはは……その時はお願いね」


 そうならない事を祈り、苦笑いしか出来なかった。射貫かれたい訳ではないのだから。

 街を改めて見回してみると、そこかしこに建築資材が置いてあったり、壁の補強をすると思われるヒト達が、忙しそうに動き回っている。私達はまず、牧場区へと足を運んだ。


「すみません。ちょっと見せてもらっても良いですか?」


 牧場区の入口にいる警備兵に尋ねる。


「ん? 牧場区をかい? 別に構わないけど、飼育員のヒト達まだ気が立っているから、あんまり騒いだりしないでくれよ?」


「はーい」


 牧場区や農場区は、市街区との間に壁が設けられている。これは、家畜が逃げる事を防いだり、盗み等の被害から守る為だ。

 区画間に設けられた内門を潜ると、直してからまだそれほど日が経っていないであろう、新しい木の柵が見受けられた。キョロキョロと見渡してみれば、区画内の壁にも被害があった事が分かる。小屋や道具類も新しい物が多いようだ。

 柵の中には家畜の数が少ないのは、ロロッカの仕業なのかも。柵は一区画で一般的な住宅が十戸ほどの広さがある。それが十区画分がトリステの牧場区の広さであった。ちなみに、首都は倍くらい広い。しかも西地区と東地区の二ヶ所にあった。


「ンだ? アンタら」


 入ってすぐ、飼育員と思われるオジサンに出会った。


「あ、どうも。ちょっと――」


「見学かぁ? 帰れ帰れ! こっちは忙しいんだ」


 しっし。というような感じでぷらぷらと手を振るオジサン。うぅ、まだ何にも言ってないのに。


「邪魔はしないわ。少し話を聞かせてほしいの」


「ンだよ。獣人の姉ちゃん、聞きたい事ぉ? そんなら酌でもしてくれたら何でも教えてやるぜぇ?」


 柔らかく言ってこのオジサン、最低だね。思わずグラキアイルを抜きかけたよ。隣でリアリスさんも嫌悪感を露わに渋い顔をしている。


「別に構わないけど、それだとお金も取るわよ? 貴方が払えるような額じゃないけど」


 言われた本人は、嫌悪感よりも相手をバカにしたような態度を取る。


「ふはっ。面白い姉ちゃんだな。気に入ったぜ。で、聞きたい事って何だい?」


 ピピアノは気に入られたらしい。何でかは知らないけど。


「ここを襲ったロロッカがどこから来ているか、知ってる?」


 ピピアノの言葉に顔をしかめるオジサン。


「あぁ? あのクソ鳥野郎の事かぁ? んなもん知るかよ。そんなん知って何しようってんだ?」


「退治するわ」

 

 ピピアノ、即答過ぎて笑えるよ。


「バッハッハ! なかなか面白い冗談だな、姉ちゃん! 本気で今晩酌付き合ってほしいぜ!」


「残念だけど、冗談じゃないのよね。ここにいるフィズは勇者なの。邪神討伐に行くついでに、魔物討伐もしてるってわけ」


 一層大きく笑うオジサン。リアリスさんの顔が凄い。物凄い不快なのが伝わってくる。


「ひぃ、ひぃ! あんまり笑わせねぇでくれや!」


 オジサンの笑い声を聞いて他の飼育員のヒト達が集まってくる。


「おいおい、どうしたってんだよグジル。忙しいってのによぉ」


 グジルと呼ばれたオジサンは笑いながら説明する。それを聞いた他のヒト達も大きく笑い始めた。


「な、なるほど、こりゃ面白い冗談だ。こんなガキがゆ、勇者だぁ!? ひ、ひゃはははは!」


 もう諦めて農場区に行こうと思う。ピピアノとリアリスさんにそう言おうとした時だった。


「――お前さん達が本当に勇者かどうかは正直どうだって良い。興味もねぇ。だから期待もしねぇ。あのクソ鳥野郎はたぶん明日か明後日辺り、市街区の方から攻めてくるだろうな」


 グジルさんが真顔で教えてくれた。それを聞いてか、他のヒト達も徐々に笑いが収まる。


「どうして分かるの?」


 素直な疑問をぶつけてみる。


「牧場区と農場区は先に区画間の壁の増築を済ませているからな。見ての通り、高さが違う」


 確かに、街の外壁よりも高くなっている。なるほど。この高さだと、ロロッカは入りにくいって事なのかな。


「加えて迎撃用の装備も追加してあるしな。あのクソ鳥野郎は悔しいが、バカじゃねぇ。手薄な市街区の方から攻めてくるはずだ」


 ふむふむ。なるほど。


「――教えてくれてありがと。でも、どうして急に?」


「別に理由なんてねぇよ。強いて言うなら、久しぶりにバカ笑いさせてくれた礼だ」


 グジルさんはニタりと笑う。


「こいつ獣人好きだからなぁ」


 他の飼育員さんがポツリと言う。


「くぉら! 締まらねぇだろうが!」


 再び大きな笑いが起きる。なんだ、ちょっと誤解してたかも。割と良いヒト達じゃん。


「ふふ。無事にロロッカを討伐できたら、一杯くらい付き合うわよ。それじゃあね、行くわよ、二人とも」


 そう言って農場区を出る私達。後ろからはグジルさんが「忘れんじゃねーぞ」と大きな声で叫んでいる。


「本気なのです?」


「さぁね。気が向けば、ね」


 リアリスさんの質問も適当な感じであしらう。そんな風に出来るピピアノは大人びているなと思う。私だったら、まだ無理かな。

 牧場区で有益な情報を得たので、農場区は簡単に見学して終えた。一応話を聞いたが、特に新しい情報は無かった。後は少し商店街を見て回り、男性陣がいる宿へと足を運ぶ事に。行きたくなかったけど。


 中へ入ると、右手側の酒場で皆が楽しそうに飲んでいる。

 ――うわぁ。酒臭いなぁ。

 リアリスさんがギィさんの元に駆けていく。ピピアノと私はゆっくりと向かった。


「ぃよぉ、嬢ちゃん達~。こっちだこっち。何だよ、飲みに来たのかぁ?」


 すっかり出来上がったジフの手招きで、私とピピアノは椅子に座る。リアリスさんは少し頬が赤くなったギィさんの腕に寄り添って幸せそうだ。


「飲まないわよ。っていうかジフは飲みすぎじゃないの? ウード、しっかり面倒みておきなさいよ」


 そう言ってピピアノは、ジフの向かいの席でグワングワンと揺れているウードを指差した。


「しょんな事、いはれまひてもにぇ、ジフしゃん、とまらにゃいん――」


 あ、ダメなやつだ。ウードは最早ろれつが回っていない。顔も真っ赤だし、目がトロンとしている。


「ちょ、ウード、どれくらい飲んだの? 店員さーん! お水お水!」


 私が水を注文する姿を、ジフはゲラゲラ笑って見ている。


「ビラをほんの三杯くらい飲んだだけじゃねぇか。情けねぇな」


 ビラとは麦から作るお酒で、大陸では一般的なお酒、だそうだ。お父さんは果実酒を好んでいたけど、所謂(いわゆる)大酒飲みのヒトにはビラの方が人気があるらしい。ウチのお店にも置いてた気がする。


「ジフさんはもう数えきれないくらい飲んでいるのに……いやホント、強いですね」


 ギィさんが苦笑いしながら言う。ギィさんのは果実酒のようだ。


「おぅ、久しぶりの酒だから弱ってねぇか心配だったんだがよ。まだまだ全然イケるぜぇ」


 水が運ばれてくる。私は机に突っ伏しているウードを起こし、水を飲ませた。


「うははっ! 何でぇウード、嬢ちゃんに介抱してもらえるたぁ、贅沢な奴だな!」


 ――もう、今日はうるさいオジサンをよく見る日だなぁ。しっかし、ジフとグジルさん、似てるなぁ。というか、酔っぱらったオジサンなんて大体一緒だよね。あ、グジルさんは酔っぱらってなかった……よね?


「アンタが潰れても、誰も介抱してあげないわよ」


 ピピアノが冷たく言うが、今のジフには何を言っても無駄な気がするよ。


「およ、冷たいじゃねぇの、ピピアノ~。っていうか、お前も飲めよ。おーい店員の姉ちゃーん! ビラ一つ、いや二つ頼まぁ!」


 ジフが叫ぶと、店員さんが元気よく返事をする。


「ちょっと、私飲まないわよ? というか飲めないのよ」


「お? なんだ、酒は嫌いか?」


 ジフの絡みにピピアノはため息をつく。


「まだ十七だからよ」


 ウードを除く皆が驚きの声を出す。リアリスさんも驚くとは珍しい。この国では、お酒は十八歳からだ。男女共通。というか大体の国ではそうなっている。


「……何よ。悪かったわね」


 不機嫌そうなピピアノ。


「なんだ、まだ未成年だったかよ……」


 ジフは驚くというより残念そうだ。いや、それともちょっと違うな。何だろう、この感じ。


「大人びているから、二十三くらいだと思っていたよ、はは」


「私もです、お兄様」


 私は愛想笑いしか出来なかった。ウードに水を飲ませるのに忙しくて。


「ふん。酔いが醒めたんなら丁度良いわ。明日か明後日、この街に魔物が来る可能性が高いわ」


 急に真面目な話。さすがピピアノ。場を切り替えるのが上手い。


「魔物? どういう事だい?」


 ピピアノは今日の出来事を話した。


「――なるほどな。ロロッカといやぁ、昔はよく食ったな。焼いて食べると旨いが、よく火を通さねぇと腹を壊しちまう」


 話を静かに聞いた後、一拍置いてジフは飲みながら言った。


「食べるのは勝手だけど、お腹壊したら置いていくからね、ジフ」


 私がそう言うと、ジフが肩をすくめる。


「さて、じゃあ、とりあえずの方針は決まったね。ロロッカを討伐後は獣人国へ。良い? 皆っ」


 ウード以外頷く。ウードは突っ伏したまま寝てしまっているからだ。そんなウードをギィさんに託し、私とピピアノとリアリスは宿を出る。


「あ、私ちょっと行く所あるから、先に戻って休んでて良いわよ」


 ピピアノがそう言って商店街の方へ消えていった。彼女の背中を見て思う。最初は怒鳴られたり失望されたりしたけど、ピピアノと仲良くなれて良かったな、と。仲良しこよしは良くないってピピアノは言うかもしれないけど、やっぱり私はこういう関係を大切にしたいと思う。

 ――だって、大切じゃないモノは……私が斬って壊してしまいたくなるからねぇ。


「勇者フィズ、早く行きますよ? グズグズしないでください」


 ――リアリスさんとも仲良くなれるよね、きっと。うん、きっと大丈夫、一緒に美味しいパイを食べたんだもん。大丈夫大丈夫。

 星の綺麗な夜、私は期待を胸に宿への帰路へと着くのであった。

「アンタ、こんな所で何やってるのよ?」

「おーい! ビラを二つー!」

「――お前、一体何者だ?」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」四章4話――

「お酒を飲むには、良い夜ね」


「世の中広いのか狭いのか、よく分からないわね」

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