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5話・世の中の広さを知る時は大体痛みを伴う

休憩を終え、旅路を再開した一行は初日の目的地である街に到達したが……

 休憩を明けて旅を再開してから、歩く事数時間。日も落ちかけてきたところで、私達は中規模程度の町に到着する。今日の行軍の終点はこの町『リフテア』だったから、陽が落ちきる前に着けて良かった。


「予定よりも遅れているが、到着だ。リオ、開門要求をして来い」


「はっ」


 王子の命令で、リオは壁の見張り部分に近づいていく。高い壁の上部には外を見張る為の穴があり、そこには見張り番が数名待機しているのが一般的だ。


「ふ~。やっと着きましたね。ボクもう、足が棒ですよ~」


 そう言うタカトの背中をポンポンと軽く叩く。


「ふふ。これくらいで疲れてたら、どこかのオジサンから『先が思いやられるぞー』とか言われちゃうわよ」


「あははっ。それ、リオさんの真似ですか? 凄く似てますねっ」


 我ながら、リオの真似は良いデキだと思う。本人の前でやると激昂するんだけど。


「よし、開門許可が下りたようだ。行くぞ」


 リオが私達に手を振ると、私達は王子の後に続き門を通過する。私達が全員入ると、門は重々しい音を響かせて閉ざされた。門を抜けて前を見ると、整った町並みが眼前に広がる。陽が落ちかけて色が判別しにくくはなっているが、所々に灯された明かりで、花が煌めいている。

 確か『リフテア』は、花の町と呼ばれるくらい、町並みに花が調和していて美しい町だと聞いた気がする。王都からも比較的近いから、行き来し易い癒しの場として王都のヒト達から人気の町だとも。


「宿の手配はされているな? リオ、案内せよ」


「はっ」


 同じ側近でも、リオと私では役割が違う。リオは身の回り全般や、外出の際の段取り等、幅広い役割がある。対して私の役割は……王子の夜伽(よとぎ)。なんて嘘々。私は主に戦闘要員ね。まぁ、本気で戦えば、リオより強いのよ?魔法有りで、相手を殺す気なら、王子よりも強いと自負しているわ。


「っ!」


 何処かから不意に嫌な視線を感じ、王子の(かたわ)らへ。周囲を見渡し警戒する。既に無くなっているが、確かに感じた冷たい視線。殺気というより、物を見るような無機質な視線、と言えば良いのだろうか?


「ハル。貴公も感じたか?」


 騎士さん達や、リオもタカトも気づいていない様子。しかし、一瞬だったようだ。どの方位に注意を向けても、もう何も感じない。

 ――何も感じない?何だかそれはそれで違和感があるわ。


「はい。何だったんでしょう、今の。とてもヒトの放つモノとは思えませんでした」


「うむ。恐らくは魔物。もしくは魔獣の類だろう。警戒を怠るな」


「承知致しました、王子」


 私達のやり取りを見て、他の皆も警戒する。一瞬、ぐわん、と視界が歪んだ。今になって気づいたけど、町の中、屋外にヒトが一人も見当たらない。屋内にも明かりが点いている様子は無い。屋外の魔法照明だけが、町中を照らしている。

 ――そうね、変だわ。何も感じなさ過ぎる(・・・・・・・・・)。まだ寝るにしては早い時間。町民の動く気配すら感じないなんて、どう考えてもおかしいわ。


「王子。今になって気付くなんて変な話なんですけど……町民、誰も見当たらないですよね。怪しいです」


 そっと王子に耳打ちする。王子を含め、他のヒト達は気づいていないようだ。まったく気にする素振りを見せずに進んでいる。


「う、む? 言われてみれば妙だ。しかし、我は何故、こんな事に気づかなかったのだ?」


 町に入った時、町民がいない事に気付けなかった?となると気になるのは……


「リオ、ちょっと」


 私はリオを呼んだ。リオと一緒にタカトもやって来る。騎士さん達は訝し気にこちらを見ている。


「何だ? 早く宿で体を休めねば、明日に触るぞ?」


「ねぇリオ、開門要求した時、見張りの兵士さん、見た?」


 開門要求をしに行ったリオなら、少なくとも見張り番を見たはずだ。


「え? あ、いや……ぐむ。見て、いない……な」


 リオは額を押えて言った。傍らでタカトも頭を押さえている。


「……あれ? ボク達、この町に入ってから誰とも会って……ない?」


「そう、だな。私は誰に開門要求を出したのだ?」


 これは、オカシイ。不穏な空気が私達を包む。弱く吹いた風が生温く、肌に絡みつくように通り過ぎていく。


「王子、これは何かしらの罠と見るべきです」


 そう、どう考えてもこれは罠だわ。ただ、まだ物理的な攻撃を受けていないだけ。


「総員警戒態勢! 攻撃が来るやもしれん!」


 王子がそう叫ぶと、騎士団の皆は頭を押さえた。どうやら皆気付いたようだ。


「――全対象の効果解除を確認。予想解除時間よりも早期です。加点します」


 そう言いながら、民家の影から一人の女性が現れた。青髪を二本別に結って尻尾みたい。王宮の給仕係みたいな恰好っていうのも妙だわ。


「誰だ!」


 リオは咄嗟に剣を抜いて叫ぶ。焦ってるわね、リオ。何だか分からない状態なんだから、そりゃ慌てもするわよね。


「ミア。と申します」


 女性は深々と頭を下げた。さっきの視線、絶対にこのヒトだ。この無機質な感じ、間違いない。


「……ミア。貴公は何者だ? この妙な術も、貴公が?」


 王子の冷静さを、リオも見習ってほしい。


「はい。私はある御方より、勇者一行と遊ぶよう(・・・・)にと命じられています。ガンザリア王子とお見受けしましたが、間違いありませんか?」


 全く訳が分からない。ある御方?遊び?


「そうだ。我がガンザリア・デッグタム・ダンザロア。この国の第二王子である」


 堂々と名乗る王子。こんな時くらい、様子見や駆け引きをしてくれると良いんだけど。それをしないのが、王子の魅力なのかもね。


「ライブラリデータに照合……特殊登録個体データ参照。ガンザリア本人である確率、99%以上。よって、本人と断定します」


 何を言っているか、さっぱり分からないけど、何となく無駄な問答をした気がする。


「嘘などつくものか。まぁ良い。貴公に命令しているというのは誰だ?」


 淡々と口を開く王子。私を含め、この場の全ての味方達は、武器に手を掛けて待機している。


「それにはお答え出来ません」


 ミアも淡々と答える。というか、表情が変わらな過ぎて怖い。


「なら、この町の者は?」


 まさか、とは思うけど……


「この町の方々は、全て建物内で眠っています。安心してください。生きています」


 本当の事を言っている保証は無いが、見たところ嘘を言うようにも見えない。取りあえずは胸を撫で下ろす。


「そうか。では、遊ぶというのは? これから何かするのか? 生憎、こちらは少々苛立っていてな? 優しく遊んでやれる保証は無いぞ」


 語尾を強めて言った王子を、ミアは変わらず無表情で見つめている。


「予定していた今日の遊びは、終了しました」


「もしや、この妙な術を解くのが、遊びとやらか?」


「はい」


 この子、ひょっとしたら生物じゃないんじゃないかと思うくらい、無機質だ。でも体は小さく揺れているし、呼吸はしているみたいね。


「そうか、ならば去れ。もう用は無いのだろう?」


「いえ、予想よりも優秀な成績ですので、追加での遊びを許可されています」


 ミアはそう言うと、私を指差す。


「ライブラリデータに照合……登録番号9888434621。個体名未登録。個体名をお願いします」


 え?何言ってるの??


「えぇっと、個体名って……名前で良いの?」


 完全に向こうに飲まれてるわね、私達。


「はい」


「私はハルフィエッタ・サングリエッドよ。貴女の家名は何て言うの?」


「――ライブラリデータに登録完了。ハルフィエッタ。その質問の答えですが、私に家名はありません。ミア、が全てです」


 淡々とした雰囲気、私は苦手だな。


「ハルフィエッタ。追加の遊びですが、少し私と戦いましょう」


「なんだと? それが遊び?」


 王子が発した言葉に、ミアは頷く。


「はい」


「ハル、何だか分からぬが、戦いというのなら、これを利用し奴を捕らえろ。分からぬ事だらけだが、尋問して吐かせてやる」


 王子が私に耳打ち。私は意見に同意し、頷く。


「別れの挨拶でしょうか? 大丈夫です。今日は殺しはしません」


「調子に乗っちゃって、後悔しても知らないわ……私は強いわよ?」


 随分と自信があるようね、全く動じる素振りが無い。

 ――獣人国、第二王子の側近、近衛騎士の私をナメるんじゃないわよ!

 私は無言でミアを睨みつけ、前へ出る。真っ直ぐに歩き、ミアと対峙する。


「それでは、遊戯を開始します」


 ミアは小さな黒い棒状の板を取り出すと、それをへし折った。

 ギュウン!そんな音が聞こえたかと思うと、私とミアを取り囲むように土が盛り上がり、壁が、いや、すっぽりと半球状に覆われてしまう。結構広い空間だが、全て覆われているせいで、圧迫感がある。


「王子!?」


 私は叫ぶが、外には聞こえていないようだ。外の音も聞こえてこない。


「それでは、行きます。来なさい――バルムンク」


 ミアは再び黒い棒状の板を取り出しそう言うと、先ほどと同じようにへし折った。

 ブゥン。そう聞こえたかと思うと、黒い渦のようなモノが発生し、ミアはその渦に手を入れた。渦から手を抜くと、ミアの手には銀の装飾が施された大剣が握られている。私と大して変わらない身長のクセに、自身の身の丈以上の大剣を扱う姿が私をイラつかせる。


「――貴女、王子と趣味合うかもね。ちょっとムカつくわ」


 私が言い終わると同時に、ミアは地面を蹴り、大剣の先端を私へ向け、飛んでくる。


「速っ! くっ!」


 突きを間一髪で避ける。大剣が土壁に突き刺さるが、先端だけのようだ。この土壁、相当硬いみたいね。


「予想以下の反応。危うく殺すところでした」


 それを聞き、私はカァッと頭に血が上ったのを自覚する。


「そう! じゃあ今度はこっちの番ね!」


 王子からは捕らえろと言われたし、私もそうするつもりだったけど、この子は殺すつもりでいかないとマズい。手加減なんて、出来るはずも無い。


「汝、燃え上がる火の稚児なり。魔を糧に、我にその猛き炎を与えたまえ!」


 私の剣に魔素が集中していく。


「ギヴン・トルトン!」


 剣が激しく燃え上がり、私はそのままミアの背中を斬りつけた。


「甘いです」


 ミアの声が聞こえたかと思うと、ミアは一瞬のうちに反転し、斬撃を受け止める。


「なっ!?」


 剣と剣が激しく、ぶつかり、炎が空間に広がる。マズい。こんな閉鎖空間じゃ、酸素が――


「大丈夫です。元々、簡易シェルターとして開発されたモノですので、土壁の内側に、酸素生成の術が施されています。後数時間は酸素の心配はありません」


 私の思った事を読んでいるかのように、ご丁寧に説明がある。あんまりよく分からなかったけど、とにかく酸素は気にしないで良いのね。


「そう! それじゃ遠慮無くいかせてもらうわ!」


 一回受け止められたくらいで終わりはしない。一撃目も大事だけど、受け止められたのなら、連撃を重ねて防御を崩せば良い。

 私とミアは、斬撃の応酬を繰り広げる。主に攻めているのは私。纏われた炎が斬撃の度にミアに伸びるが、上手い事避けられている。


「そりゃ! たぁ……りゃあ!」


「……」


「貴女に命令してるのは、誰、よッ!?」


「先ほども言いましたが、お答え出来ません」


「名前くらい良いじゃ、な、いッ!」


「……」


 剣と剣をぶつけあい、ギリギリと鍔迫り合いとなる。こちらは全力で押しているが、ミアは涼しい顔をして余裕がある様子。この子の力、どうなってんのよ?


「じゃあ推測するけど、貴女に命令しているの、邪神って奴じゃない?」


「いいえ、違います」


 即答。違うのか、カンが外れたわ。本当かどうか分からないけど。


「これ以上の問答を続けたければ、私を倒してからにしてください」


 言うじゃない。なら、お望み通り倒してあげるわ。


「そうする――わッ!」


 一瞬の隙を見て、ミアの腹に前蹴りを喰らわせる。


「っ」


 少し怯んだ隙に私はミアから距離を取った。

 

「終わりよ……! 回れ回れ、火の稚児よ――」


 私が詠唱を開始すると、ミアは大剣を手に斬り掛かってくる。


「させません」


 しかし、私は冷静に斬撃を回避し、振り下ろしに合わせて、ミアの持つ大剣に打ち下ろしを放つ。ミアの大剣が地に刺さったを確認し、後方へ飛んだ。


「踊れ踊れ、炎の子達よ」


「っ!」


 ミアは驚いたような表情をする。と言っても、ほんの少しだけど。

 ――やっと違う表情を見れたわ。そりゃ驚くわよね。普通の魔術師なら、集中切らして魔素が散っちゃうもんね。


「猛り狂え、焔の同胞よ!」


 私は左手の平をミアに向ける。ミアは咄嗟に大剣の腹を見せるが、防御したとしても被害は免れないはず。


「喰らえっ! ストア・メガ・トルガー!」


 ズドォォォォオン!と反響した轟音と共に、私の左手から爆裂した炎が放出される。範囲は広く、とても避け切れるモノでは無い。この空間一杯に炎による熱が広がる。


「あちちっ! やり過ぎたかしら?」


 そんな事を言って様子を見ていると、周囲の炎がすぅ、と引いていく。おかしい……さすがに引くの早過ぎじゃない?


「驚きました。詠唱中にも動き回る事が出来るとは」


 炎が消えて、ミアが現れる。

 ――嘘でしょ?無傷どころか、服すら無傷だなんて!?


「予想を上回る能力。大変素晴らしいです。それでは、こちらの反撃を以って、今日の遊戯は終了とします」


 淡々と話すミアをよく見れば、その手に持った大剣に炎が吸い込まれているように見受けられる。

 ――マズい!?何か来るッ!


「くっ! 阻め、遮れ、分断せよ!」


 何が来ても良いように、私は防御魔法を詠唱する。


「――解き放ちなさい。バルムンク」


「燃え盛る壁よ、現れよ! ブレイツ・ウァル!」


 大剣を地面に突き刺し、ミアが呟くと、大剣がカッと強く発光する。防御魔法はギリギリ間に合ったのか、私の前に炎の壁が現れる。しかし――

 何が起きたか、分からなかった。白い光で空間が埋め尽くされたかと思うと、私は轟音と共に土壁に叩きつけられていた。


「がっ! はぁっ!」


 形容できない痛みが全身に走り、身動きが取れない。重力に引っ張られるがまま、私は倒れ込む。

 ――う、嘘でしょ……?お、王子……すみま、せ――――

 薄れゆく意識で王子を想うと、私の意識はそこで途切れたのだった。


「何を言うかッ! ハルフィエッタ・サングリエッド!」

「私、いえ、私達は必ず勝ちます。ミアにも、邪神にも!」

「どど、どういう意味!? お、女たらし!?」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」三章6話――

「敗北を知った後、ヒトは強くなれるの」


「次会ったらあの女、メッタメタにしてあげるわ!」

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