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14話・涙は美しいと言うけど、俺は出来れば見たくなんて無い

ついにラカウへと帰還を果たす時が来た。僅かな希望を信じた瑛太達。果たして集落は無事なのだろうか。

 ラカウへ出発する日、王都『グランエルノ』の正門内側。そこに俺達はいた。総勢二十名ほどの人数が整列する。天候は良く晴れた日なのだが、大きな葉っぱが陽射しを遮り、差し込んだ光が神秘的な空間を演出している。


「いよいよだね、シュシュさん」


「はい。いよいよです」


 緊張した面持ちのシュシュさん。返事の声からも緊張しているのが分かった。それはそうだ。僅かな希望だが、故郷が無事かどうか、やっとその目で確かめる事になるのだから。


「これより集落『ラカウ』方面の調査を開始する。諸君らも知っての通り、魔物の活性化は由々しき事態である。今回の調査にて原因を突き止めるか、活性化した魔物を減らす事、それがウルバリアスの平和に繋がる。各員、油断するな。それでは、出発!」


 もうね、凄いと思うよ、ササさん。貴女は本当に何者ですか。まさか今回の調査隊を率いるのがササさんになるなんて。自覚無いけど、一応勇者の俺が率いるかと思ったら、違ったもんな。それも驚いたよ。


「ふぃ~。緊張したッス」


 そう言って俺達の方へ戻ってくるササさん。先頭は探知が得意な兵を配置し、俺達は真ん中だ。

 いよいよ始まった、ラカウへの旅。この王都にやって来た日が遠い昔のようだ。俺がこの世界にやって来て、シュシュさんに出会って、数か月過ごした集落。シュシュさんの生まれ故郷。

 正直、無事であってほしいというのが一番ではある。しかし、その望みは恐らく宝くじが当たるくらいに低いだろう。それくらい低いからこそ、集落のオジさんやオバさんは残ったのだ。俺やシュシュさん、若者を生かす為に。




「――着いたッス……」


 王都を出てから三日目の昼前、俺達はラカウへ到達した。道中、猿どもに何度か遭遇したが、難なく討伐。俺達の消耗は至って軽微であった。強くなった事を実感しながら進めた事は大きな成果ではあったが……肝心の集落の様子は、集落を最初に目にしたササさんの複雑な表情が、全てを物語っている。


「……」


 生まれ故郷を見て、シュシュさんは膝から崩れ落ちる。俺も彼女も言葉は……出なかった。無残に破壊された集落の入口の門が、俺とシュシュさんにまるで「入って来るな」と言っているように思えた。


「シュシュとエータはここにいるッス。他の者は生存者確認急げ! 魔物への警戒は怠るなッ!」


 ササさんも辛いはずなのに、凄いな。彼女を先頭に、兵達はラカウへ入っていく。結界も消失していて、門も滅茶苦茶……もうどこからが集落なのか分からなくなっていたが。


「……私も、行きます」


 シュシュさんがよろよろと立ち上がる。まだ、もしかしたら……建物等は駄目でも、皆何処かに隠れて無事かもしれない。別な所へ逃げたかもしれない。そんな僅かな希望を、彼女は諦める訳にはいかないのだ。


「俺も行くよ」


 俺とシュシュさんは一緒にラカウへと入る。集落の中は……更に酷いものだった。建物は壊され、木の中に作れられた住居も滅茶苦茶だ。そこかしこに爪痕とみられるキズが残されている。酷い臭いも立ち込めている。何て言うのだろうか……鼻腔に入った瞬間に顔を背けたくなる臭いだ。


「――おばさん!」


 集落の商店街で、シュシュさんの家の隣に住んでいたジルおばさんを発見する……見るも無残な姿で。

 背後から爪の一撃でやられたであろうジルおばさんは、既に時間が経過していて判別が難しかった。いつも付けていたお気に入りの大きなネックレスで……かろうじて分かるくらい。そのネックレスも千切れてしまっている。シュシュさんはジルおばさんに駆け寄り、ペタリと力なく座り込む。


「くそっ! ジルさん……!」


 御裾分けだと言って食べ物や料理を持って来てくれたジルさん。見掛ければ不機嫌そうにだけど、必ず声を掛けてくれたジルさん。俺の冗談にある日鼻で笑ってくれたジルさん。その愛すべき隣人だった彼女の代わり果てた姿を、俺は直視出来なかった。


「くっ」


 周囲を見回すと、加工品屋――ササさんのお店の近くで、道具屋のラオル爺さんと食料品屋のドーズさんが倒れて亡くなっているのを発見する。

 二人は武器を手に勇敢に戦ったのだろう。壊れた武器、建物の壊れ具合からその姿の想像は難しくない。二人の亡骸をじっと見つめるササさん。俺は泣いているシュシュさんと共に加工屋の方へ足を運んだ。


「……この二人、私の店、守ろうとしてくれたんスかねぇ……二人の店より傷が少ないッス。私の店……」


 亡骸を見つめながら、微動だにせず言うササさん。消え入りそうな声が、強く耳に残る。だらんと下がった尻尾と耳が、彼女の気持ちを表しているように思えた。


「ササさん……」


 そんな彼女に、俺は何と声を掛けたら良いのか、分からなかった。シュシュさんと同じく、ラカウには早く来たかったはずなのに、王都では冷静に俺とシュシュさんのやり取りを仲裁してくれていたササさん。きっと、冷静にいてくれたのは、俺達の為だろう。それに今気づくとは、俺は何て馬鹿なんだっ!


「にゃははは。まったく、二人ともバカッスねぇ」


 腰に手を当てて笑い飛ばす。努めて明るく言っているのだろう。その姿が反対に見ていて辛い。震える肩と涙を我慢する声色が、彼女の笑いは強がりであると周囲に知らしめている。


「顔を合わせれば私達、あーだこーだあーだこーだって、ケンカばっかりしてたんスけどね……」


 顔を下げず、店の看板を見つめる彼女の目には涙が浮かんでいる。(こぼ)すまいと必死に上を向くその姿がまた、痛々しい。


「なのに、何でッスかねぇ? 何で……ホント、バカッスよ。うん、バカだよっ……大バカだよ!」


 震わせた小さな体、堪えきれず溢れた涙が頬を伝う。シュシュさんがササさんを抱き締め、一緒に泣いている。自分も辛いだろうに。いや、辛いからこそか。


「私の店なんて守ってる暇あったら、逃げてよッ! このクソ爺、ケチ爺……」


「ササちゃん……ササちゃん……!」


「私……まだ、あり、がとうも……言えて、ない、のにっ」


 止めどなく流れる涙を、ササさんはもう堪えない。ガタガタと震えているのは抱き付いたシュシュさんか、立ち竦むササさんか。或いは両方か。


「クソ爺……ケチ爺……せめて、お礼、くらい……聞いてから、死ね……!」


 ササさんは抱きついているシュシュさんを優しく引き剥がし、二人の亡骸の前にペタリと座り込んだ。


「――ありがとう。ありがとうっ! 私がこの国に来て楽しく過ごせたのは、ラオルとドーズのお陰だよ! ラオル、いつも、気に掛けてくれてありがとう! 鬱陶しいくらいに様子を見に来るの、心配してくれてたんだって、気づいてた! ドーズ、余ったとか言って差し入れしてくれてありがとう! 新鮮な野菜が余る訳ないくらい、私にだって分かるよ……」


 溢れ出たササさんのお礼の言葉に、いつしか近くにいた兵士達からもすすり泣く声が聞こえる。


「二人は私にとって……喧嘩友達で、世話焼きのお節介爺で……最高の家族でしたッ! 本当に、本当は……大好き、でした……うぅん、今もっ! 大好きだよ、クソ爺ども……」


 そう言い終わると、ササさんは声を出して泣いた。わんわんと泣くササさんを、再びシュシュさんが抱き締める。


「……」


 俺は泣く二人をまとめて抱き締めた。自分でも驚きの行動だが、今はこうする事しか出来なかった。こうする以外に、辛そうな彼女達を見なくて済む方法が分からなかったのだ。だから、誰か教えてくれ。どうしたらこんな悲しい事が起きなくて済む?なんでこんなに悲しい事が平気で起きる?頼む、誰でも良いから、教えてくれ……


※※※※※※※※※


「なるほどねェ……ディエゴさん、変に凝ったやり方をするなァ……よっぽどサクラコさんを虐めたいんだろうねェ」


 冷たい鉄のような壁の部屋の中、アベルは興味深そうに、大型モニターに映し出された映像を観ている。すると、機械的な音を発し、部屋の扉が開いた。


「マスター。お茶をお持ち致しました」


 ツインテールにメイド服の女性、ミアはそう言いながら、アベルの横にある、本やら薬品やらでゴチャゴチャした机の上にマグカップを置いた。


「あァ。ミア、丁度良かったァ。お前に仕事を与えようと思うんだァ」


 ニヤリと笑ったアベルを、ミアは表情を変えずに見つめる。


「はい。御命令を。マスター」


「ディエゴさんさァ。勇者とかっての決めたみたいなんだけどさァ、勇者の旅って言ったらァ、ハプニングやら強敵との出会いやらァ、盛沢山だよねェ?」


 アベルはミアを見て首を傾ける。その悪意に満ちた微笑みを見ても、ミアは何の感情も無いかのように表情を変えなかった。


「はい。仰る通りです。マスター」


「ふん。本当に分かってるのかァ? まァ、良いやァ。でさァ、お前には強敵役をやってほしいんだよねェ。そうだなァ……」


 アベルはそう言って手元のパネルをカタカタと操作し、壁に埋め込まれた大きなモニターに画像を映し出す。


「こいつゥ。えーとォ……ガンザリアっていうらしいねェ。獣人国の王子だってさァ。こいつをやるからさァ、遊んで来いよォ」


 ミアはモニターに映し出された、熊と人間が掛け合わさったような獣人を無表情でまじましと見つめた後、口を開いた。


「どのような方法が宜しいでしょうか?」


「それは任せるよォ。あァ、でも僕が良いって言うまでェ、殺しちゃ駄目だよォ? 適度に試練を与えてさァ、育ってからァ、ちゃあんと『邪神』の所まで行ってもらわないとねェ♪」


 笑いを堪えるように、アベルの体がピクピクと動く。禍々しい邪悪な笑み、上がる口角の端からは今にも涎が零れそうだ。


「承知致しました」


 ミアはアベルの禍々しい雰囲気など意にも介さない様子で、深々と頭を下げる。


「あ、魔具や武器庫の使用も許可するからァ、ドンドン使って良いよォ。特に転移装置は忘れないでねェ? 定期的に帰って来ないとォ、お前は死んじゃうんだからねェ?」


「承知致しました。マスターの御意思の通りに」


 ミアは頭を下げたままそう言った。


「ひひひ……さァ。始めようかァ……くくくッ。あははッ。ひゃーはっはっはっはッ!」


 狂ったように笑うアベルを残し、ミアは部屋を後にした。

 

「……小さい時の夢見たの、久しぶりだわ」

「まさか王子、ついに私に求婚ですか?」

「王族たる者、負けず嫌いで何が悪い」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」三章1話――

「モッフモフのフッカフカよ?」


「次回から始まるのは私と王子の純愛熱愛物がた――いったぁ!」

「適当な事を言うんじゃない」

「うぅ……獣人国の勇者の話ですよっ!」

「うむ。そういう事だ。是非読んでくれ」

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