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11話・女王という言葉に胸が高鳴るのは俺だけではないはずだ

王都に辿り着いた瑛太達は、ラカウの状況を伝える為、女王の元へ謁見に向かうが……

「おはよう、シュシュさん、ササさん」


 翌日、俺が宿の食堂に向かうと、食堂前の椅子に二人は腰かけていた。何やら話し込んでいたようだが、俺の顔を見ると話を止め、シュシュさんは笑い掛けてくれた。


「ふふ、おはようございます、エータさん」


「あ、う? おはよう?」


 不思議そうな顔のササさん。その様子を見るシュシュさんは、以前自分が感じた事を今ササさんが感じてるんだろうなー、というようにクスクスと笑っている。

 ――そうか、この世界じゃ朝の挨拶は無いんだった。

 頭に?マークが浮かんでいるササさんに、シュシュさんが面白そうに説明している。


「それじゃ、朝食を食べたら早速行こうか」


「はい」


「分かったッス。にゃふふ。おはようッスね、おはよう。何だか面白い響きッスねぇ」


 何だか気に入ってしまったらしい。その後の食事中に俺は、ササさんに俺の世界の話を色々とした。興味深そうに聞くササさんを見て、シュシュさんも楽しそうだった。久しぶりの落ち着いた食事を、俺達は楽しんだのだった。



 食事を終えた俺達は、森林国の王様に会いに行く。王宮の前に来てみれば、とても木の上には似合わない……いや、そう言ったら失礼か。ともかく凄く立派な宮殿に一同息を飲んだ。白を基調として濃い緑色の旗が随所に取り付けられている宮殿は、聖樹の太い幹や枝を伐採せず、上手く融合したような造りになっていて、何と言うかこう……言葉は矛盾するが、綺麗で立派な廃墟のように感じられた。

 宮殿前の衛兵に話をすると、衛兵は一瞬曇った表情になったが、直ぐに通してくれた。王に会わせてくれると言うので、そのままついて行く事に。


「――変、ですよね」


「うん、変ッス」


 宮殿内の廊下を案内されている時、俺の後ろで二人はコソコソとそんな事を言っている。


「な、何が?」


 俺もコソコソと話す。首だけを後ろに向けているので、キツイ。


「だって、こんなに簡単に入れますか? 普通。王様に謁見なんて、簡単に出来るものじゃないんですよ?」


 そう言われればそうだな。ゲームとか漫画だとすんなり入れたりするので、そういうものだと思っていた。


「ここでお待ちください。順番が来たらお呼びしますので」


 そう言って通された部屋の中を見回すと、俺達以外にも数十人の人がいる。それらの人が普通に入れる部屋の広さも凄いが、室内の質素さも凄い。上品で美しい装飾ではあるのだが、王宮にしては派手さに欠けるというか……いや、俺の世界の常識で考えるのが間違っているのだろうな。


「……しっかし、これ全員謁見かよ」


「そ、そうでしょうね。時間かかりそうです」


 俺とシュシュさんはちょっと引いてしまう。見渡すと皆同じように深刻な顔をしている。これだけ人数がいるというのに、ほとんど話声も聞こえず、変な緊張感が漂っていた。


「ま、順番は仕方ないッスよ。焦らず待つッス」


 ササさんは落ち着いた様子で壁際に並んで用意されている椅子に座った。


「そ、それもそうだね」


 そう言って俺とシュシュさんも椅子に座る。派手さは無いが、座り心地の良い椅子だ。ふかふかした羽毛のクッションがとても良い。ラカウではお目に掛かれない逸品だ。


「そう言えば聞きたかったんスけど、エータは剣技も魔法もシュシュから教えてもらっただけッスか?」


「え? うん、そうだけど。どうかした?」


「ふむふむッス。確かエータは三ヵ月くらい前にウルバリアスに来たんスよね? それから習得したにしては、サマになってるッス」


 褒められたようで、素直に嬉しい。


「エータさん、天才なの。魔法なんて三系列が得意なんて、滅多にいないでしょ? しっかり修練を積めば、絶対に大魔術師になれますよ!」


 ふんふんと興奮した様子で言ってくれるシュシュさん。嬉しいけど、ちょっと声のトーン下げようか。周りからチラチラ見られてる。


「ほうほうッス。それは興味深いッスね。天才なら、もしかしたら魔法を生み出す(・・・・)事も可能かもしれないッスね」


「魔法を生み出す?」


 ササさんが物凄く興味深い言葉を発する。しかし、女性二人から天才天才と言われるのは悪い気がしないな。思わず頬が緩みそうになる。てか緩んだ。


「そうッス。エータもシュシュも、他の皆もッスけど、詠唱して魔法を発動してるッスよね? 何でだか分かるッスか?」


 そう言えば、シュシュさんから魔法を教わった時にはその辺りはスルーしたな。そういうものだと思って疑問に思わなかった。


「魔法は詠唱の文言で組み立てられているから、でしょう?」


 ――ほう、そうなのか。


「正解ッス。ってシュシュは知ってて当たり前じゃないッスか」


 ササさんにペロっと舌を出すシュシュさん。可愛い。


「あ、もしかしてその詠唱の文言を考えれば、新しい魔法が作れるっていうのか!?」


 そうだとしたら、『ファイアランス!』とか、『アイスストーム!』みたいなゲームで使えるような魔法が撃てるのかも……ヤバい、テンション上がってきた。


「まぁ大体当たりなんスけど、それが上手く行かないんスよ」


「え? 何故?」


「上手く組み合わさらないって言うんスかねぇ……適当に言葉を繋げても魔法は発動しないんスよ」


 ガックシ。俺は肩を深く落とした。果てしない組み合わせから正解を探すようなものか?


「でも、エータさんなら出来るかもしれませんよ? だって天才ですから」


「にゃはは。そうッスね、天才ッスからね」


 むむむ……くぅ。天才は天才でも実績の無い無冠の天才……今は笑われても仕方ない。いつか「エータさん素敵!」「エータ!カッコいいッス!」とか言わせてやる。


「そう言えば、ササさん。ササさんは物凄く強いし、魔法にも詳しいし、変……凄い袋持ってるし、一体何者なの?」


 良い機会だし、疑問をぶつけてみる。


「何者ッスか…………私はただの加工屋ッスよ。まぁ、ちょっと昔に色々習ってただけッス」


 にゃはは。と笑う彼女からは、「これ以上聞くな」という雰囲気が感じられた。本当はめっちゃ気になるけど、そういう反応をされたら踏み込めない。俺もそれ(・・)を感じられるようになった辺り、少しはコミュニケーションが上手くなったのかな?


「エータ殿。シュシュ殿。ササ殿。お目通りです。こちらへ」


 丁度その時に衛兵さんが呼びに来た。俺達は待合室を出て謁見の間へ。ここからはササさんが先頭になる。何故なら、俺は作法とか全く知らないからだっ!なんて、偉そうに言う事ではないな。


「ラカウからの使者様、お目通り!」


 木で出来た大きな扉がギギギっと開く。重そうな音を出しているんだが、こんなに大きな扉じゃなくても良いと思う。中に入り、青い絨毯の上を進んで行くと、三段ばかりの階段の上に玉座があり、そこに一人の女性が鎮座している。傍らには大臣のような老人が一人と、衛兵が数人。俺達は階段下まで進むと、ササさんに習って片膝を着いて頭を下げる。


「うむ、(おもて)を上げよ。余がウルバリアスが聖王、ガーデナ・ロス・テトである」


 女王と思わしきその人物が大儀そうに言うと、俺達は顔を上げる。そこには女王と呼ぶに相応しい人物が見受けられる。白銀の長い髪。整った顔立ち。白く透き通るような肌。

 ――まるで作り物のように綺麗だな。


「この度は陛下の御尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。ラカウで加工屋を営んでおりました、ササ・スディルマと申します。後ろの二名はエータ・サエジマ。シュシュ・ウィンエリアと申します」


 ――え?誰?ササさんの声に聞こえるけど……?


「堅苦しい挨拶はよい。本題に入られよ」


「はっ。実は――」


 ササさんはこれまでの経緯を説明する。ラカウ周辺にガドルラスーが出た事、それが活性化で強化されてラカウを襲っているかもしれない事。女王はそれを黙って聞いた後、こう言った。


「ふむぅ。話は分かった。そうか、ラカウも(・・・・)か……」


「ラカウ、も?」


 俺はつい口に出てしまう。側近の兵達にギロリと睨まれたが、女王がそれを手で制した。


「よい。うむ、最近魔物どもが活性化しているという話は知っておろう、ラカウと同じような被害にあっている集落が助けを求めに来ているのだ」


「そんな……どうりで謁見者の数が多い訳だ」


 各地で起きているとカルロが言っていたが、まさかこれほどとは。これではラカウへの救助は絶望的だと推測される。他の集落も危機に瀕しているのに、ラカウだけ優先されるとは……正直考えにくい。


「各地には調査兵も出してはいるのだが、ラカウへ行った調査兵とは会わなんだか?」


 きっとカルロ達の事だろう。


「はい。会いました……」


 悔しそうな俺の顔を見て察してくれたのだろう。女王は軽く唇を噛み、目を伏せた。


「とても勇敢でした。俺達を逃がす為に、自らを犠牲にして……」


 カルロは死ぬつもりは無いとは言ったが……


「そうか、立派な兵士を持てた事……余は誇りに思う。そしてその兵を失う事はとても辛い。魔物の活性化は国を挙げて対処すべき問題である」


 兵士一人の為に心を痛められる王か。俺は好きだな。カルロ、お前が仕えた国のトップは良い人物だ。誇って良い。


「しかし、現実的な問題となると、ラカウに優先的に兵を出せるという訳ではない。そこは分かってほしい」


「……はい」


 女王の言葉にシュシュさんは力無く返事をする。無理もない、故郷を出てここまで助けを求められると思ったからこそ気丈に振舞えたのだ。それが難しいとなれば、誰だって落胆する。


「そなたらの心中、察して余りある。しかし、今のウルバリアスの状況から見て、戦力が足りんのが現状である。そなたらには酷な話やもしれぬが、国民として手を貸してほしいところ。どうだ? 今後、そなたらと同じ思いをする者を減らす為にも、協力をしてもらえぬか?」


 俺の中では王様なんて偉そうに踏ん反り返って命令ばかりするか、へなちょこで何にも出来ないイメージしかなかったが、この女王は違うようだ。


「具体的に言うとだな、ウルバリアス軍に入って兵として働いてほしい。いや、臨時兵としてある程度自由を聞かせても良い。どうだ?」


 ――軍、か。自分を鍛えるには良いかもしれない。でも……


「少しお時間を頂けますか?」


 そう答えたのはササさん。俺も同じ事を言おうとしていた。いきなり軍人になれと言われても、心の準備なんて出来ている訳がない。


「良い。返事は急がぬとも構わぬ。後日で良い。要件は以上であれば、下がるが良い」


「はっ。それでは失礼致します」


 謁見の間を後にする。そのまま宿に帰還。帰りは無言であった。


「はぁ。緊張したぁ……」


 宿のラウンジのソファに腰掛けると、どっと疲れが襲い掛かってくる。


「そうッスねぇ、私も緊張したッス」


 ふぅ、と胸を撫で下ろすササさんを見て、「あ、いつものササさんだ」と思った。


「ってか、さっきのササさん、別人みたいだったよ」


「一応、王の前ッスからねぇ、さすがに私も使い分けるッスよ」


 にゃははと笑うササさん。その横には対照的に沈んでいるシュシュさんがいた。


「……」


「これからの事、考えないとね」


 真顔になって俺は言う。これからどうするか……ラカウに戻るにしても、ガドルラスーの圧倒的な武力には、さすがに三人で勝てるとは思えない。ならば、確実に勝てるまで強くなるか、勝てる戦力を連れて行くしかない。


「……」


「……」


「……」


「俺さ、女王の話、受けようと思う」


 少しの沈黙の後、俺はそう切り出す。


「国に協力するって事ッスか?」


「うん。このままじゃどの道、俺は何も出来ないままだ。それが痛いくらいに分かったよ。だったら軍に入るでも何でもして、強くなる。強くならないと……またあんなに悔しい思いをするかもしれない。そんなのはもう、嫌なんだ」


「――ラカウの……皆は?」


「そ、それは――」


「エータさんはそれで良いかもしれません。でも……ラカウの皆、残ったおばさんやおじさんは? 今から向かえばまだ大丈夫かもしれない……でも明日はダメかもしれない。いつ行くの? 明後日? その次? いつ行けば皆を助けられるの? ねぇ、いつ?」


 静かに、それでいて強く、シュシュさんは訴えかける。今まで抑えてきた感情が、静かに爆発しているようだ。


「シュシュ。それは――」


「ササちゃんもっ! 貴女もエータさんも元々は余所者だからそんなに冷静でいられるんだよ! 酷いよね! 集落が無くなってもどうでも良いんでしょ!? でも、私にはあそこしか、ラカウしか……お父さんとお母さんの思い出があるのは、あそこしか無いの。ねぇ、助けてよ――」


「シュシュさん……」


 泣き崩れる彼女を俺はどうしてやれたのだろうか。何も分からず、動けず、ただ泣きじゃくる彼女を見つめる事しか、俺は出来なかった。やがて彼女は「すみません」と小さく言い残して自室に戻っていった。ずっと我慢してきた彼女の前で、俺は軽率過ぎたのかもしれない。


「俺、俺、どうしたら良かったのかな」


「……私にも分からないッス。でも、エータの気持ちも、シュシュの気持ちも分かるッス。きっとどっちが良いも悪いも無いッス。こればかりは仕方が無いんスよ」


「うん……ありがとう」


 この日の夜、シュシュさんは髪を切った。ウルバリアスにおいて、夜に髪を切る事は『大切な者に対する別れ』を意味するのだと、俺が知ったのはそれからしばらく経ってからの事だった。


「エータさん。ちょっと良いですか?」

「――取り返しに行こう、シュシュさん」

「いくッスよ? エータ」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」二章12話――

「自分よりも能力高い人に褒められると嬉しいような恥ずかしいような」


「……調子乗んなッスよ?」

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