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3話・魔物の討伐なんて、異世界転移した俺なら楽勝だろう

ウルバリアスでの生活にも慣れ、シュシュから魔法を習ってホクホクの瑛太。いつも通りお使いに出ていると……

「もう、彼らに干渉するのは、止めにしましょう?」


 何かの研究所のような、清潔というよりは最早無菌に近いと思わせる程に白い壁の部屋の中、一組の男女が対峙している。腰まで伸びた黒髪の女性が、横目にモニターを見ている男に話しかける。彼女の掛けた眼鏡にモニターの光が反射し、目元は見えない。


「……何故だ? 彼らを作ったのは我々だ。我々の好きなようにして、何が悪い」


 男は女の方に顔をやり、不満そうに応える。モニターの光が彼の金短髪をくっきりと際立たせていた。


「そんな……好きにして良い命なんて無いわ。例えそれが、作られた命でも」


「ふん、ならば何故、貴様はこの場にいる? あの時に計画に乗らなければ、今、貴様はここで苦しむ事は無かったはずだ」


 女の言葉に更に不満げになった男は、女に吐き捨てるように言った。二人の身に纏った白衣がモニターの光で青白く浮かび上がる。


「……そうね、あの時の私はただ生きたかった……いえ、死にたくなかった。その身勝手さが、この神をも恐れぬ愚行を許してしまったのよ!」


 女は男に詰め寄り、強く訴える。悲痛にも聞こえる彼女の訴えは、決して狭くない部屋に響き渡り木霊した。


「神をも恐れぬ? それは違うな。我こそが神。我が我を恐れてどうする?」


 冷たい目線で男は笑うように言い放つ。


「貴方は、どこまで……!」


 よろよろと女は男から後退り、離れる。その姿を見て男はニタリと笑った。


「これ以上の問答は不要だ。残念だが、君は計画より外れてもらう」


「結構よ、私は大陸を護ります。大陸に住むヒト達を、貴方の実験道具になんてさせない!」


 女はそう言うと踵を返し、部屋の出入口に向かって足早に歩きだす。


「君一人で何が出来る? まず、我がタダでここから逃がす訳がないだろう?」


 男が右手を挙げる。すると部屋の出入口より男の私兵が入り込んでくる。兵士達は直ぐに女を包囲すると、手にした銃器を彼女に向け、静止する。


「っ!」


「それではな? サクラコくん」


※※※※※※※※※


「お、おじさん、これと、これ……それから、キ、キナの実、あるかな?」


「ほいよ! あー、悪いなエータ、キナの実は今日は無いな、というか、今の時期はラスーどもが木の実関係を食い散らすもんでな、なかなか入荷せんのよ」


「そ、そうですか……ざ、残念、です」


「あー、でもな、そろそろ、『掃除』の時期だからな、心配せんでも終われば入荷してくるさ」


「そ、掃除?」


「ん、あぁ、まぁ、エータが気にする事はない。兵士どもの仕事だからな、ありゃ」


「は、はぁ」


 お金を支払ってお使いを済ませる。好物のリンゴ……もといキナの実が手に入らなかったのは残念だったが、まぁ無いんなら仕方ない。

 それにしても、この世界は面白い。リンゴのような木の実はキナの実というように、名称が違うモノもあったかと思うと、蛇はそのまま蛇だったりする。犬も犬。猫も猫。でも猿はいないらしい。似ているモノもある。スプーンはスプン。フォークはフーク。パンはパネ。法則性があるのかと思ったりもしたが……分からない。まぁ、それを探すのも面白いかもな。しかし、「掃除」ってなんだろう。年末の大掃除みたいな事をやるのかな?まぁ、俺には関係無いらしいし、まずは良いか……


 シュシュさんから魔法を教わり始めてから一ヵ月が過ぎた。彼女曰く「もう教える事、ないです」とのこと。(しゅん、と小さくなる彼女にちゃんとフォローはした、つもり)魔法の勉強は正直、楽しい。教えてもらった基礎魔法を使って自分の得意系列を探ってみた。どうやら俺は火が得意みたいなんだけど、光と地の系列も割と得意な感じ。

 シュシュさんが言うには「ふ、普通は一つだけなんですけどね」だそうだ。(またも落ち込んだシュシュさんには、俺の家の鍵に付いてた『京都』って書いてあるお守りキーホルダーをあげて機嫌をとった)

 魔法の属性は主に六つ。六角形の図に表すと分かりやすい。上から右回りに、火、地、闇、水、風、光となっていて、得意な属性から遠いほど苦手とされているらしい。俺は火が一番得意だけど、両隣の光と地も割と適正があるみたいだから、かなり魔法の幅が広まる。最早チート級の能力だと一人ほくそ笑んだ。


 ――まぁ、元の世界で呼んでた漫画とか小説だと、「全属性適正MAX!」とか、「一つでも無双級スキルを五つも!」みたいなのだったから、少し、本当に少ーしだけ残念な気がしたけど。

 そんな事を考えながら家路につこうとした俺は、集落の商店街(道具屋と食料品屋と加工屋があるだけ)にいたシュシュさんを見つける。


「あ、シュ――」


 呼ぼうとしたが、彼女の横顔を見て声を止めてしまった。よく見れば向かい側には見た事の無い男が立っている。何だろう、皮加工のような軽装鎧に、腰には「THE・剣」といった感じの剣が下がっている。そんな出で立ちの男がシュシュさんと話しているというのは……


「面白くないな」


 ポツリと呟く。気が付くとズカズカとわざとらしく大きく歩いて近づいていっていた。


「あ、エ、エータさん」


 シュシュさんは俺を見つけ、こちらを向く。困ったような笑顔が俺の心臓をぎゅっと掴んだ。


「ど、どうしたの?」

 

 いつもよりも大きな声を出して威嚇する。俺に気づいた男がこちらを向く。身に着けた皮の鎧に付いた少しの装飾と剣がぶつかり、カチャリと金属音がなる。

 ほんのり緑掛かった白い短髪が褐色の肌によく似合う。なかなかのイケメンで、元の世界でいうDQNと呼ばれる連中に思える。要するに俺の苦手なタイプだ。俺が男とシュシュさんの間に割って入ると、小さく「わぁ」と言ってシュシュさんは後ずさった。


「おや、お連れの方ですか? 初めまして、ウルバリアス軍所属、カルロ・マー上等兵です」


 そう名乗ると、握った右拳で軽く自らの左胸を叩く男。ウルバリアス軍の挨拶だろうか。


「え、あ、え、瑛太、冴島、です」


 カルロと名乗る男の、思ったよりも柔らかい物腰に調子を崩され、引いてしまう。いやいや、シュシュさんは困った顔をしていたんだ、引いてどうする。ここは毅然(きぜん)として立ち向かうべきだろ。


「じゃ、じゃなくて、ど、どう、どうかしたんですか? かの、彼女、こ、困ってる、みみ、みたいです、けど……」


 知らない人と話すのはやっぱり緊張する。でも、シュシュさんが困っているのは見過ごせない。


「あぁ、すまない。困らせるつもりは無かったんだ。この集落で一番魔法が上手いのは彼女だと聞いてね、ラスー討伐を少し手伝ってほしいとお願いしていたんだよ」


 カルロは小さく笑いながら頬をポリポリと掻いた。

 ――ラスー討伐?ラスーって、あの猿みたいな魔物のことか?あぁ、これが食料品屋のおじさんが言っていた「掃除」か。

 シュシュさんは再び困り顔だ。こんな可愛らしい人に魔物討伐させようとするなんて……


「なな、なぜ兵士さん方だけではダダ、ダメなんですか?」


 一般の人を巻き込んで討伐するような事なのだろうか。おじさんは「兵士どもの仕事」って言ってたけど……まぁ、兵士だけで解決できないからこそ、こうして人足の確保に来ているのだろうとは思うけど。


「いやなぁ、国中の魔物が活発化しているという噂は……知らないか」


 頬をポリポリ掻きながら話すカルロ。おほん、と小さく咳をする。


「まだはっきりとしていないんだが、国中の魔物が増加や活性化しているという報告が上がっていてね? 軍で調査はしているんだが、人手が足らんのだ。そこで各集落より使えそうな人材を確保している。この集落ではウィンエリアさんが魔法の扱いに長けていると聞いて誘っている。という訳だ」


「わ、私何かより、もっと適任なヒトはいると言ったのですけど……」


「ははっ。恥ずかしい話、他の方々には既にフラれてしまってね」


 大げさに肩をすくめてアピールする。お前は深夜のテレビショッピングか。このチャラい感じ、やっぱり苦手だ。


「それで、ウィンエリアさんが最後な訳なんだが、さすがにこれ以上断られると困るんでね……」


「きょ、強制という、わわ、訳ですか?」


 内心、焦る。国の危機的な状況であれば、ここは俺がとやかく言える状況ではない。


「いや、強制ではないが、活性化の話が本当だとすれば、いずれはこの集落も無事では済まないだろう」


 ため息交じりにカルロは言った。ちらっとシュシュさんの方を見る。困り顔だが、お人好しのこの人の事だ、きっと行くと言ってしまうだろう。


「まぁ、ウィンエリアさんに断られれば、公平にクジ引きで決める事になる。上司からその様に決めるようにと指示は出ているんだ」


 ――クジ引きって、そんな決め方有りかよ。人権無視だろ。

 苛立ちながらカルロを見ると、何と言うか……これは本気だと理解出来た。ここは異世界なのだから、俺の常識など通用しないのだ。


「さて、どうするウィンエリアさん。僕達からすれば、ここで志願してくれると大変助かる。僅かばかりだが、報酬も出るよ?」


 カルロの優しそうな表情と対照的に、俺は精一杯険しい顔をして見せる。こんな可愛い女の子を戦場にナンパするなど、男のする事ではない。


「行きま――」


「おお、俺、俺が行きます!」


 前に出ようとしたシュシュさんを遮り、俺は言った。こうして俺は、思いもよらなかったタイミングで異世界初の実戦を経験する事になったのだった。




「まったく。エータさんは人が良過ぎです」

 

 そう言ってシュシュさんは、ぷくーっと頬を膨らませる。怒っていても、笑っていても、何をしてもこの人は可愛い。


 俺が魔物退治に行く事になった日の夜。シュシュさん宅。俺が買い物で買って来た食材で作った料理が食卓に並び、そのどれもに舌鼓を打った。そんなゴキゲンな食後に、シュシュさんが切り出し始めたのだ。


「ご、ごめんって。で、でも、お、俺が行かないと、シュ、シュシュさんが、い、行くん、でしょ?」


 行きま、まで言いかけてたし、あの雰囲気でまさか「行きません」とは言わないだろう、シュシュさんの性格から考えて。


「それは……そうですけど。私はラスー退治くらい、行った事あります。いくらエータさんが魔法の扱いを覚えてきたと言っても、実戦と練習は違うんですよ!」


 頬を膨らませてぶんぶん腕を振るシュシュさん。控えめに言って、可愛すぎる。


「何をニヤけているんですか! もう、こうなったら私も一緒に行きますからね!」


 おっと、顔に出ていたようだ。って、え?


「そ、それじゃあ、い、意味が――」

 

 俺が魔物討伐に行くのは、シュシュさんの代わりな訳で、シュシュさんには待っててほしい訳で。


「意味って、なんですか。意味って。私が行ってダメな意味は何ですかぁ?」


 テーブルに身を乗り出し、対面に座っている俺にグイっと顔を近づける。膨らんだ右頬、ジトっとした目付き。金髪の綺麗な髪がサラサラ揺れる。俺が彼女を行かせたくない理由?そんなの、決まってる。


「シュ、シュシュさんが、し、し、心配! だだ、だから! だよ!」


 尚もグイグイ来そうなシュシュさんを制し、口から出た言葉は紛れもなく本音だった。


「……むぅ。エータさんに心配されるなんて」


 しゅるしゅると小さくなりながら席へ戻るシュシュさん。頬もへこみ、文字通り空気が抜けたみたいだ。


「心配してくれるのは……正直嬉しいですけど、私はエータさんの方が心配です。いくらエータさんの魔法の才能が天才的だとしても、まだ実戦は早いです。ラスーは素早いですし、爪の一撃は当たり所が悪ければ一撃でも致命傷になります。それに――」


「で、でも、あぶ、危ないのは、シュ、シュシュさんも、お、おな、同じでしょ?」


 まだまだ続けようとする彼女の言葉を遮る。話途中で遮るのは良くないけど、どれだけ危険な事を教えられても、いや、教えられれば教えられるほど、シュシュさんを行かせる訳には行かない。


「それは……そうかもしれませんけど。でも、やっぱりダメです。私もついていきます。エータさんと私、一組でやりましょう」


 俺の思いとは裏腹に、引いてくれない。どうしたら……席に戻った彼女とふと目が合う。彼女の綺麗な瞳に見惚れてしまうが、同時にゾクッと背筋に冷たいモノが走る……なんだ?


「そうと決まれば、今日はもう休みましょう。出発は三日後です。それまで少し、剣の使い方も教えますからね」


 結局一緒に行く事になってしまったな。しかし、先ほど感じた悪寒はなんだろう?


 今のシュシュさんからは何も感じない。綺麗な金髪が開けた窓から入る風でなびく。目を閉じてお茶を静かに飲む彼女はまさに一枚の美術絵のようにすら感じられる。俺はまたそんな美しいシュシュさんに見惚れてしまい、悪寒を感じた事など……すぐに忘れてしまうのだった。

「ちょ、ちょ、シュ――」

「ふげっ!」

「エータさん! エータさーん!」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」二章4話――

「異世界の女の子は剣も普通に強いのかよ」


「べ、別に強くなんて……その、読んで――くださいね?」

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