プロローグ
再出発です。宜しくお願いします。
「ハァ。ハァ。あはは……流石にその辺りの魔物とかより、全然強いね……」
肩で息をしながら、少女は手にした青い刀身の直剣を正眼に構え直す。その目は対峙している少年をしっかりと見据えて離さない。
肩までの長さの赤茶色の髪が、風でサラサラと流れている。
「フー。フー。魔物と一緒にされちゃ、困るな……」
少年はニヤリと笑いながら呟く。少年もまた、肩で息をする。
じりじりと間合いを詰める足運びは、戦い慣れている者のそれだ。
「ふぅ。それもそうだね。なら――暗がりの主よ。影に溶ける我が友よ! 闇を脅かす者どもに鉄槌を!」
少女の周りが黒い魔力で覆われていき、突き出した左手に集中していく。
「魔法か――聖なる光、正しき怒りよ! 悪しきを討ち滅ぼせ!」
少年の周りが白い魔力で覆われていき、突き出した左手に集中していく。
「ストア・イソ・ディバウ!」
「ホーリー・ブラスト!」
少女から放たれた黒い魔力が、少年から放たれた白い魔力とぶつかり合い、大きな音を轟かせて爆発する。
周囲は土埃に包まれ、互いに姿を確認する事は出来そうになかった。
しかし――
少年は片手で握っていた剣を両手で握り直し、切っ先を少女の方向へ向ける。
魔法で終わるはずが無い――少年にはそれが分かっているようであった。長い時間切り結んでいた体は、互いに限界が近い事も。
次の一撃で全てが決まる。声に出さぬまでも、互いにそう予感していた。
「終わりに……しようッ!」
言い終わる前に少年は地を蹴り、駆け出す。その勢いに迷いは一切感じられない。
彼は自身の黒髪と、身に纏う黒系の防具品のせいで、一つの黒い塊となった。
迫りくる黒い塊に圧倒されないよう、少女は地につけた足に力を込め、迎え撃つ。
ふぅ。と息を整えた少女は、全神経を剣に集中させ、しっかりと前を見つめている。
「いくよ……グラキアイル」
彼女が呟くと、手にした剣の鍔部に付いた目玉が、ギョロリと動いた。
「はぁぁあああッ!」
「うぁああああッ!」
どちらのモノとも分からぬ二人の雄叫びが混じり合い、だだっ広い平原に響いて草木を揺らす。
既に周囲の生き物は逃げ去っており、伸びた草木のみが彼らの戦いを静かに見守っている。
天気は曇り。暑くも寒くもない、過ごしやすい気温。
死ぬには良い日、なのかもしれない。
しかし……二人はどちらも、死ぬつもりなど無かった。
「私は……!」
「俺は……!」
迫り来る塊の方を睨みつけながら、少女は剣を握る力を強め、自身の全てを込めて構えをとる。
大きな力の奔流は、少女の体を漏れ出て黒いオーラとなり、彼女を包む。
迎え撃つ少女の影を見据えた黒い塊は、自身の全てを込めてぶつかっていく。
大きな力の奔流は、彼の体を漏れ出て白いオーラとなり、彼を包み込む。
二つの大きな力の塊が風を呼び、土埃を晴らしていく。力の奔流に圧倒された周囲の木々は倒れ、岩には亀裂が走り、砕けた。
「「絶対に……負けられないんだッ!」」
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ここはレンデ大陸。五つの大国と、いくつかの小国や領地からなるこの大陸には、魔物と呼ばれる存在があった。
人々は魔物を恐れ、自分達の生活圏に大きく堅牢な壁を築き、生活した。
大陸各地では、魔法と呼ばれる超常的な現象の研究、実用化が進められており、殆どの者が魔法を日用的に使用している。
その昔に神々が作ったと言われているこの大陸は、ここ数十年、大きな危機も無く、穏やかな時間が過ぎていたのだった。
これはそんな世界を舞台とした、一人の兵士見習い――
「フィズ・アウレグレンスです。中央国で兵士になる為に、兵学舎で勉強してるんだ」
と、一人の男子高校生――
「冴島瑛太です。ここは、どこだろう? 俺は確か、高校にいたはずじゃ……」
と、一人の近衛兵――
「ハルフィエッタ・サングリエッドよ。獣人国の王子の側近! 強いんだから!」
この三人の視点を中心に描かれる、冒険の物語である。
今後とも宜しくお願いします。