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短編

ジャックとスリーピングビューティー

登場人物は皆高校二年生です。

「起きて下さい」


 目が覚める。

 目の前一杯のかぼちゃ。

 ……何の悪夢だ。

 心の中で突っ込んで、再び目を閉じた。


「あぁっ、寝ちゃダメですよう!」


 ユサユサと揺すられて、仕方なく目を開ける。

 ……かぼちゃがいる。

 正確にはハロウィンの名物かぼちゃのジャックオーランタンを被った女子。

 この上なく異常な光景だ。

 まあ、取りあえずする事は一つだ。


「へ?」


 かぼちゃを鷲掴みにして向きを反転。


「ひゃわっ!? 前が……」


 そして、持っていた枕で殴った。


「きゃん!!」


 かぼちゃ、いや、ここはジャックと仮称するとしよう。ジャックはえらく可愛らしい声で尻餅をついた。

 黒のTバック。


「いやいや、学校に着てくる下着じゃないだろ……」


 思わず、突っ込んでしまった。


「うひゃうっ!」


 ジャックは慌ててスカートを押さえつける。

 やれやれ、だ。


「おい、ジャック」

「ジャック?」


 ジャックはかぼちゃを直しながら首を傾げる。可愛さの欠片も無い。


「あんたのことだ。なぜ、俺の眠りの邪魔をした。返答しだいでは……」


 ジャックは動きを止めて俺を見る。なにやら困惑してるように見える。


「……その、手紙を読んでここにいるんじゃ……」

「手紙? 何のことだ? 俺はここが日当たりも良く、人がほとんど来ないからここで寝てただけだ。それに、俺は茶道部の部長だぞ」


 ちなみに、説明は遅れたがここは茶道部の部室だ。人が来なく、俺が開けっ放しにしているせいか告白スポットの一つとなっている。俺がよく部室の押し入れで寝ているせいか誰も使っていないんだと生徒の多くは思っているらしい。

 ともあれ、俺の言葉の後には沈黙がしばらく続いた。


「……」

「……」

「…………」

「…………」


 動揺してるのが手に取るようにわかる。なんというか、ジャックの雰囲気は分かり易い。どうしょうと思っているのがひしひしと伝わってくる。

 更なる沈黙。


「………………」

「………………」

「……………………」

「……………………」


 そして、


「……ハ、ハローウィーンだからっ! trick or treatでっ! お菓子を下さいで! い、悪戯しちゃうからっ、だからっ、起こし、」


 再び、かぼちゃを鷲掴みにする。

 そして、シェイクっ!


「ヒャアァァァ!!」


 一心不乱にかぼちゃを揺する。下らないことで心地好い一時を邪魔されたのだ。この怒り、晴らさでおくべきか!

 シェイクしだして少し、部室の扉が開いた。


「やあ、待たせてしまったね!」


 そこにいたのは悪友の富樫智弘(とがしともひろ)。一言で言い表せば愚か者だ。

 無駄に格好付けて現れた馬鹿は俺とジャックを見て、アホ面を晒した。


「……何してんの?」

「見てわからんか、こんこんちきのすっとこどっこい」


 どっからどう見ても、俺がジャックの頭を掴んでるだろう。それ以上でも以下でもあるまいて。


「わかるかよ……。それより、」


 言いながら辺りを見回す智弘。


「ここに、可愛い女の子は来てないか?」


 智弘の手には何やら可愛らしい紙が握られていた。


「ここにいるの女子はジャックだけだ」


 そうやってジャックを智弘の前に突き出した。すると、


「ぬぁあぁあああぁっ!!」

「!!?」

「なぁっ!?」


 ジャックは突如、素っ頓狂な叫びを上げて智弘から手紙を引ったくった。智弘が何か言おうとする前に、ジャックは一言。


「これっ、私が出したのっ!」

「は……?」

「ごめんなさい、入れる下駄箱間違っちゃって……。だから、えーと、あなたに用はないんです。ごめんなさい」


 ……その一言は酷かろうよ。

 かぼちゃに用なしと言われた男って、どうなんだろうな。それと、ぬか喜びも甚だしかったな、智弘。


「女なんてっ、女なんて〜〜〜〜〜〜っ!」


 泣きながら部室を飛び出した。

 ジャックはというとひたすらに困惑していた。

 やれやれ、天然なのか。悪意の無いってのはエグいものだな。


「ジャック、もっと考えて喋るべきだ」

「あう、ごめんなさい……」

「謝るならば俺ではなく、智弘に謝るんだな」

「そうだよね……」


 何やら落ち込んでるように見える。

 すぐにヘコむ奴だな。

 そういえば、


「さっき言ってた手紙って、もしかしてそれか?」

「えっ!? えー……」


 再び、沈黙が流れた。

 本当に面倒な奴だな。


「はっきりと言え。さっきみたいな誤魔化しもいらん」


 俺は早く惰眠を貪りたいんだ。

 ジャックは暫く俯き、そして顔を上げた。


「あのっ、私っ!」

「ちょっと待て、ジャック」


 忘れるところだった。


「今更と言えば今更だが、顔を隠したままというのはどうなんだ?」

「あっ、すいません、スリーピングビューティーさん。ついうっかり」


 今、なんて言ったこのかぼちゃは。文句を言おうとして、俺は息を飲んだ。

 ジャックは大層な美少女だった。それも、黒く長い髪の似合う。

 はっきりと言おう。完璧に俺の好みの容姿だ。見た目だけなら大和撫子といった感じだ。

 いやはや、何だってかぼちゃを被っているのか……。

 とにかく、ジャックは顔を朱に染めて、俺を正面から見つめる。

 そして、先程の続き。


「私っ、あなたが、スリーピングビューティーさんが好きです! 私とお付き合いさせて下さい!!」

「ジャック……」


 好みの容姿の女性の恥じらいながらの愛の告白というものは、なんとまあ、どうしてこうも破壊力が凄まじいのだろうな。

 俺も男だ。

 二つ返事で了承した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 俺は頭をジャックの膝の上に乗せながら尋ねる。


「なあ、ジャックよ」

「何でしょうか、スリーピングビューティーさん」

「そのスリーピングビューティーというのは止めてもらえると有り難いのだが……」


 ジャックは再びをかぼちゃを被っていて表情はわからなくなっているが、雰囲気はどこかいたずらっ子のようだ。


「だって、四六時中おねむの美人さんだもの。それに、私の名前だって、ジャックじゃないです」


 うむ、もっともな話だな。それに、言われてみれば名前も知らない。


「そういえば、互いに自己紹介をしていなかったな。俺は戸宮尋(とみやひろ)だ。スリーピングビューティーとは呼ばないでくれ」

「私は春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)とお祭りで春夏秋冬祭(ひととせまつり)です。ジャックではないですからね」


 何ともめでたい名前だな、一年中祭りか。


「騒がしそうな名前だな」

「えへへ、名は体を表すを地で行ってます」


 さて、自己紹介も終えたところで、ずっと後回しにしていた疑問を尋ねることにする。


「ところで、結局その被ってるジャックオーランタンはなんなんだ?」


 祭の返答は簡潔だった。


「だって、今日はハロウィンです!」


 つまるところ、ジャックこと春夏秋冬祭という俺の彼女は名前通りの女で、それ以上でも以下でもないらしい。

 変なのに捕まってしまったな……。

 俺は、しみじみとそう思いながら祭の膝枕で夢の国へと旅立った。






イメージしてみよう、無駄に美人な男と顔がジャックオーランタン(かぼちゃ)の女が会話している風景を。ちなみに、背景は畳部屋です。

……意味不明過ぎる。

おねむな美人の尋くんと年中お祭り天然変人美少女の祭ちゃんの物語は続きます。基本的にイベント時期のお話がメインです。そこで、祭ちゃんが毎回コスプレします。まあ、可愛い格好はさせないけどね!

次はおそらくクリスマス。さて、何のコスプレにしようか。


評価や感想、批評等をお待ちしております。

こんな駄文を読んでいただき、ありがとうございました。

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