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無責任な声

作者: 結城 楓

悲しいニュースが後を絶たない世の中ですが、先日はおめでたいニュースを目にしました。

【電車内で女性が出産、母子ともに健康】

しかしそれに対する一部の世間の目は冷ややかなものでした。

“電車内で出産なんて、自己管理も出来ないのか”

こういった心無いコメントに強い憤りを感じました。

また、本人の許可なく平気で動画を撮影しメディアで流れるような事実は納得いかないと感じております。


貴方の周りにこんな方居ませんか?

若しくは貴方自身、こんな人になっていませんか?


私は、良い事も悪い事も、必ず巡り巡って自分に返ってくると信じています。

――私は何も間違っていない。

いつだって正しいのは私だ。


そう思ってやまないのは元アナウンサーの女・蒲田麗子、42歳独身。

アナウンサーを退職した現在でも昼過ぎのワイドショーなどにレギュラー出演するなど、テレビ業界で活躍している。

彼女は何事に対しても常にはっきりとした物言いで人気を博していた。


ある時は子供が行方不明になったニュースでその子供の親に対して、「まだ3歳の子供ですよね?親は何をしていたんでしょうか?目を離さなければ子供がいなくなることもなかったはず。親の監督不行届でこんなニュースになるなんて……」というコメントして、同意の声も多数挙がっていた。


またある時は、ストーカー被害に遭い殺害されてしまった女性のニュースで被害者女性に対して「彼女は日頃からブランド品を身につけ、水商売をし、ふしだらな生活を送っていたんでしょう。これはとんだB級殺人ですね」と笑いながらコメントした。


先日はブラック企業に勤めた末に自殺した方のニュースで「死ぬ程辛かったら仕事辞めれば良かったじゃない。何で辞めなかったんでしょうね?彼女は。これを受けて労働基準が改正されて、残業したい人達が残業出来なくなる、残業時間が減ってしまう事も考えてほしいです」と少々辛辣なコメントを残している。


こういった彼女の批判的発言に、都度インターネットは賛否に沸いていた。



そんなある日、いつも通り仕事を終えて電車で自宅に向かう途中の出来事だった。

星空はおろか窓の外すら見る事が出来ないほどの満員電車で、麗子は自身の臀部に違和感を覚え身を固くした。

明らかに人の手の感触……痴漢に間違いない。

麗子はその手を掴もうとしたが、身体が動かない。

声をあげようとしたが、そんな簡単な事すら出来ないのだ。

恐怖が身体を支配し、膝は震え、早く駅に着く事をひたすら願った。

この時既に痴漢の手は彼女の下着の中までまさぐり始めていた。


駅に着くと急いで車外に飛び出し、一目散に駅員に報告し、警察に通報した。

「どのように触られたんですか?」

「最初はスカートの上からお尻を撫で回されて、それから下着の中に手を入れられました」

「どうしてそこまでされて黙ってたんですか?犯人がいないと現行犯逮捕も出来ないですし、これから被害届出しても多分捕まらないですよ」

余りにもあっさりと言うので、麗子は愕然とした。

「でも、いきなり撫で回されてとても怖かったんです。満員電車で逃げる事も出来なくて……」

「怖くてもちゃんと言わなきゃ駄目だよ、犯人逃げたら意味ないでしょ。それに貴女も悪いと思いますよ?満員電車でそんなスカート穿いて、『痴漢して下さい』って言ってるようなものじゃない」

彼女が身につけていたのはごく普通のフォーマルなスカートであり、別にミニスカートではなかった。

それに、スカートの種類や丈は身に着ける個人の自由であり、それを理由に痴漢をしていい事にはならないでしょうと言いたかったが、悔しさと不甲斐なさに唇を噛む以外の事が出来ない。

その後は何を話したか思い出せないし思い出したくもない。

ただやっとの思いで被害届を出し、ふらふらと帰路に就いた。


自宅に着き何となくインターネットサイトを見ていると、麗子はぎょっとした。

そこにはこんな見出しが踊っていた。

【あの超辛口女子コメンテーターが痴漢被害?!驚くべき痴漢の手口と彼女の痴態とは?】

全身に鳥肌が立ち、汗が噴き出てくる感覚。

見出しを開き、記事を読む。


“本日午後7時頃、JR山手線新箸駅から乗車した蒲田麗子氏。彼女はお尻を触られて痴漢だと気が付いたものの声をあげずにいたのだ。黙認された痴漢は彼女の下着の中にまで手を伸ばしたそう。ここまでくると最早彼女自身も楽しんでいたに違いない。

また、彼女の服装は痴漢をされる事を最初から望んでいたようにも受け取れると話してくれたのは現場に立ち会っていた駅員Yさん。

「彼女が着ていたのは少し短いセクシーなものだった。ああいった格好をして満員電車に乗っていたのだから本当は彼女自身も痴漢されたかったんじゃないですかね?いつも怒ってる人だし、身も心も解放されたかった〜みたいな?(笑)」

警察は痴漢の行方を追っていて……”


あまりの適当な記事に彼女は思わず声を荒げた。

「どうしてこんな適当な記事が出回ってるのよ!私はセクシーな格好なんかしてないのに!痴漢されたいなんて思ってもないのに!痴漢被害遭った事ないからそんな事言えるのよ!」

でも世論はきっと正しい認識で痴漢を批判し、自身を擁護するコメントを寄せているのではないかと思ってコメント欄を覗いた。


“いい歳して痴漢被害妄想?草生える”

“俺コイツ嫌いだからどうでもいい(笑)”

“可哀想だけど現行犯出来なきゃ逮捕は無理だろうね。まぁ普段から発言気に食わなかったし、バチが当たったのかもね”

“痴女のBBAとか勘弁してww”


「どいつもこいつも好き勝手言いやがって!被害者の気持ちも知らないでこんな事言えるなんて信じられない!」

そうだ、同じような被害に遭った方なら痛みを解ってくれるかもしれない、そう思った彼女はSNSサイトで自身の痴漢についてコメントしている痴漢被害に遭った方を検索した。


“私も痴漢された事あるけど、ちゃんと声出して捕まえた。それすら出来ないで後から『犯人捕まえてください』は無理があるよねー”

“痴漢は良くないと思うけど、女性専用車使うとか何かしらしてれば対策出来るよね?私は痴漢された時点で女性専用車しか使ってない”

“スカートなんて穿いてるのが悪い!痴漢された事あるから分かるんだけど、あんな格好して満員電車乗ってたらそりゃ痴漢されますわ。嫌なら自己防衛しないと!”

彼女の味方をする人は殆どいなかった。

「何も知らない癖に、現場を見た訳じゃないのに、何で赤の他人にこんな事言われなきゃいけないのよ……!!」

麗子は声を出して泣いた。


翌日以降はマスコミとパパラッチに追われる日々が続き、その行為は麗子の心身を徐々に崩壊させていった。


私は何も間違っていない。

いつだって正しいのは私だ。

そう思いながら生きてきた彼女は、この事件をきっかけにテレビ業界から退いたという。

この物語に興味を持って頂きありがとうございます。


序盤の彼女の発言は、私自身がネット・メディア・一般人の発言などで実際に見聞きしたものです。

例えばストーカー殺人事件に対する彼女のコメントですが、これは1999年に実際に起こった悲劇・桶川ストーカー殺人事件で実際に会見を開いた上尾警察署の人間が発したと言われるものからの引用致しました。

もしかしたら、貴方自身も見聞きしているかもしれませんし、違う言葉であれ誰かを非難していた立場かもしれません。

私自身も、何処かでこういった発言とは違う形で誰かを傷つけていると思います。

だからこそ、様々な角度で物事を捉え、考えて、発言には慎重になるべきだと思うのです。

『誰にでも優しくしろ』なんて言うつもりはないですし、『嫌いな人を好きになれ』なんて無理な事を言ってる訳じゃありません。

ただ、インターネットサイトの向こう側には必ず人がいて、その人もまた、自分と同じように心を持っている事を忘れないでほしいです。


昨今の様々なニュースに心を痛める事が多い中、インターネットの中などで彼女のような発言をする方を多く見かけます。

車椅子利用者が便利に利用出来るように改造した車椅子をネットにあげれば『不謹慎だ』

着付け予約をしていた会社が計画倒産した挙句社長が逃亡すれば『振袖くらい自分で着ろ』

暴力を受けて警察に通報した力士に対し『何故協会に言わず警察に?非常識だ』

など、耳を疑う言葉が飛び交っている現状はとても気分がいいものではありません。


彼女の言動は世間一般的にはよく目にするようなごく当たり前の景色かもしれません。

当事者でない外野の立場で批判ばかりをする人は、どんなにもっともらしい発言をしていても醜く映っています。

この物語が少しでも外野からの目線ではなく、“当事者の目線”を考えてみるきっかけになれば幸いです。


彼女のような人が減ることを願って。

全力の皮肉を込めて。

自戒を込めて。


最後までお読み頂きありがとうございました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


Twitterやってます。

@Poetry_weave40

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