3-2 「なぜ勉強する必要があるのか②」
「ちょっと待ってて」
そういうと、来世は説明するのに補助となりそうな本を探す。
適当な棚から三冊の本を持ってくると、隣に座っていた秋子の前にそれを積む。
「これが建築の本。このページを見てよ」
そこには、趣味で小屋を作るための方法が書かれていた。
「うーん……むつかしくて良く分からない」
この図書館には時々、小学生が読むには難しい本が置かれていた。どれも司書の先生が、趣味で購入した大人向けの本が含まれていた。
来世が豆知識や雑学を取り入れるために、ちょうど良い内容だと探して読んだ本の中に、それらは含まれていた。
「算数で図形の長さを求める問題があるでしょ。何を作るにもまず、長さを測って加工して、部品を作り、それを必要な個数だけ用意する」
そういうと来世は、床を見るように促がした。
「図書館のタイルで例えると、均等な材料をいくつ敷くのかを考えるのに、この広さだと何枚必要なのか。それを購入するのに、いくら必要なのかを計算する」
「それを知るのに、算数が必要ってこと?」
「そう。お金は有限だし、材料だって無料じゃない。たんさん買えば値引きされることもあるし、そういう全てに算数で見たことのある計算がされる。だけど、それだけじゃないよ」
「まって。たくさん買えば、なんで値引きされるの?」
「それを説明するのは面倒だから、そういうものだと思ってて」
どこか諭すような来世の口調が、大人の男性と話しているように秋子には感じられた。それを変だと思いつつも、来世が語る内容を思い浮かべて想像する。
「材料を購入するには、売っているお店を探して、何枚をいくら、いつまでに売ってくれるかを交渉する必要がある。そのためには数学だけじゃなくて、国語や社会の勉強をしないと、騙されてしまうこともあるから気をつけなきゃいけない。そういう場合は契約書っていう、約束した内容を紙に書いて文章を作ることもある。口頭では11枚くださいと約束していたのに、実際には10枚しか来ていなかったら困るよね。分かる形で記録がないと、間違えたときに訂正してもらうのが難しい」
秋子は混乱してくるが、それがいけないことだと漠然と思った。
「11枚って約束したのに、10枚なの? それは嘘で、いけないことじゃないの?」
だから、純粋に思ったことを口にしていた。