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2-2 「図書館の住人」

 来世の主観では十五年が経過していて、改めて見る当時のクラスメートたちは、最初は誰か認識できなかった。ロッカーや名簿から名前を割り出しても、関連するエピソードが思い出せない。

 少なくとも、高校まで一緒だった人物はかろうじて面影があり、ぎりぎり記憶が残っている程度だった。


「出席を取るぞー」

 さすがに小学生は守備範囲ではない来世は、女の子にすら興味が持てず、なおかつ高校を過ぎたあたりから、小学生以下の子供の相手をするのが嫌だった。

 ただ学校に通う「義務」を果たすことしか考えられず、誰から話しかけられても返事は最小限で済ませ、本を読んでいるか、誰ともコミュニケーションを取ることなく日々を過ごした。

 そうしている内に、来世に話しかける者はいなくなり、先生ですら苦手意識を持つまでになっていた。


 それ以降は、休み時間や放課後は図書館で過ごすようになり、ただ読書をして過ごすだけの日常になった。

 社会人となってから、あまり本を読む時間が取れていなかった来世は、喜々として興味のある本を片っ端から読破していった。


「最高」

 仕事に追われることなく、あと何年かはこうして本を読んで過ごしていられる。

 前回(?)と同じ進路を辿たどるかは別にして、本のページをめくる瞬間は、至福の時間だった。


 教室では靴が隠される、教科書に落書きされる。

 これらは些細な問題だった。

 ただひとこと、置いてあった場所から消えていて、授業が受けられないと固辞すればいい。それでも受けろと言う教師には、冷静に事情を説明すれば納得してくれる。

 こういう所で、教師もきちんとした大人である以上は、融通を利かせてくれる。

 来世が納得できない教師の言い分には、顧客対応で鍛えた"正論"で言い返すと、論破されて泣きそうになっていた。


「いじめられる遠野にも、原因があるんじゃないのか?」

「先生、それは加害者の言い分です。確かに、俺にも原因となる行動はあるでしょう。しかし、加害者の『家庭教育』や『情操教育』の問題を無視して、被害者に責任を押し付ける先生の理論には納得できません。そういう子供は、いずれ俺以外にも標的を見つけます。それらを正せなかった保護者、そして、親に代わって道徳を教えるべき場所である学校の教師があきらめていたら、いったい誰が彼らを正しい道へ導くのです――」


「あ、あ……」

 来世は自分でも、もしこんな子供がいたら嫌だと思いつつ、通じるかも怪しい理論で教師を論破する。最近はモンスターペアレントで耐性がある場合もあるが、教師というのは基本的に、言葉の攻撃に慣れていない職業である。

 子供を監督したり、休日が少なく勤務時間が長いなど、大変な面は確かにある教師という職業は、しかし、一般の企業とは大変の種類や内容は大きく違う。


「私は……間違っていたのか……」

「先生、安心してください。俺は気にしてませんから」

 これをマッチポンプと言うか、自ら責めたてておいて、先生に優しくする。

 来世を見る教師の目が、どこかすがるような色を帯び始める。

「……とにかく、俺のことは自分で何とかします」

 来世の良心が痛んできたところで、この茶番を切り上げて、逃げるように去っていく。行き先は当然、図書館である。



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