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2-1 「遠野君は時間の跳躍者」


「俺、いつの間に実家に……」

 遠野 来世らいせが目を覚ましたとき、世界の色彩は明るく変わっていた。

 まるで歳月が逆戻りしたように、寝そべっていたソファーの布地は新品のようになっていて、年末に帰省したときに零したコーヒーの染みが、綺麗さっぱり無くなっていた。


「あれ、俺はそもそも、何をしてたんだっけ」

「来世、どうしたの?」

「母さん……。え?」

 最初に見たとき、自分の目を疑った。もう五十も半ばになる母親の顔は、とても若く見えた。

「化粧品、変えた? 若返ったような」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。この前のアレが良かったのかしら」

 来世の母は、そう言うと台所へ消えて行った。時計を見れば夕食前で、食事の準備を始めたらしい。


「いやいやいや」

 思わず戸惑いが口に出て、来世はとても混乱していた。

 自分の手を見れば、いくら室内で仕事をするからと言って、細すぎる両手は明らかに子供のものだった。

 地声はいつもより高く、カラオケで裏声を出すくらいの音程で喋っている。


「うそ、だろ?」

 洗面所に走り、顔を映すのに十分な鏡を前にしたとき、そこにいたのは十年より前の自分だった。

 カレンダーの日付を見れば、最後に記憶していたより十五年も前の日付が書かれていた。おそらく今は11歳か12歳。小学六年生の春だった。


「タイムトラベル? いや、タイムリープか?」

 最初はその現象に喜んでいた時期が、来世にもあった。

 漫画やアニメ、ドラマのように自分には何か「使命」や「義務」があって、この時間に遡行したのではないかと。

 しかし、現実は何もなかった。

 何気ない日常が続くだけ、フィクションではお決まりの『状況を解説してくれる人物』は現れないし、かといって不思議な事件が起きるわけでもない。

 過去に戻ったからといって、子供の身分でやれることは限界があるわけで、この時間の、昨日までの自分の素行は変化しないから、大人からの信用なんて無いに等しい。


「タイムリープしたのに、使命も何もないのだが?」

 その言葉が出てくるまで、さして時間は必要なかった。



カクヨムでの作品URL

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883892890

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