1-3 「遠野君は相手をしてくれない」
遠野 来世は成績優秀。
秋子がさり気なくテストの点数を覗くと、そこには100点の数字が並んでいた。
周りの男子と違って、下品な話題で盛り上がったり、変に気取ったりしない。
「わたし、どうしちゃったんだろう?」
秋子は図書館でプリントを渡してから、遠野のことを眺めるようになっていた。
「遠野くん」
「……なに?」
「何の本を読んでるの?」
図書館で度々話しかけるが、本から視線を外してくれない。そこに痺れるような、切ない想いを感じながら、遠野にちょっかいをかける日々を過ごしていた。
秋子が気付いたのは、遠野は誰かを特別に無視するわけじゃない。
声をかければ、本に熱中していなければ返事をしてくれる。もちろん、本から目を離すことはないが、事務的な受け答えをしてくれる。
読んでいる途中で本を取り上げられるのが逆鱗らしく、それをすると冷たい表情と声で見つめられる。
自分の行動を阻害されるのが気に入らないらしい。
「……」
ある日、声をかけても反応しない時があった。無視していればこの波が去ると考えているのか、秋子に限れば逆効果でしかないのを本人は気付いていなかった。
無視されていることに悦びを感じていて、視線を向けることのない遠野がそんな秋子の様子に気付けるはずもなく、だんだんとエスカレートしていくのは、また別の話しである。
カクヨムで9話まで投稿中。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883892890