8-1 「二人の少女①」
「……」
「……」
時は少し遡り、来世が図書館を去った後のこと。
清川 秋子は静かに、本を読んで過ごしていた。
(姉崎さん、少し変わったな)
横目でちらりと、近くに座る少女を見る。
その姉崎 千鶴は、黙々と本を読みながら、自然な笑みを浮かべて楽しそうにしている。
教室にいる時とは別人のように見えて、普段は自信なく俯いている少女とは思えないほど、可愛く見えた。
表情ひとつで女の子は変わるものだと、秋子はそのとき始めて気付いた。
「何の本を読んでいるの? 姉崎さん」
「……え?」
気になった秋子は、千鶴に話しかけていた。
「な、なに?」
「その本、面白そう。何を読んでいるのか教えて欲しいの」
さりげなく、少女は隣りの席に移動して距離を詰める。
「……こ、これ。どうぞ……」
いきなり話しかけられた千鶴は、混乱しながら読んでいる本をそのまま渡す。
図書館の外では接点がなかった千鶴としては、秋子に話しかけられるとは思っていなかった。
そのせいで、タイトルや内容を聞かれているのに、本を丸ごと突き出してしまう。
「ごめんね、いきなりすぎたよね。本を読む姿が素敵だったから、つい声を掛けたくなったの」
「う、うん」
(私、何か悪いことしたかな?)
教室では、秋子は誰にでも気さくに見えた。千鶴に対しても普通に接してくれる人物だったが、自分から面倒な人間関係に首を突っ込む性格でもなかった。
押しが強い部分もあるが、場の空気は読む。良くも悪くも、好かれることはあっても嫌われることのない少女。
そんな風に考えていた秋子から、話しかけられる理由が見つからなかった。
「ピンと背筋を伸ばそう? そして笑顔で。さっき、本を読んでいた時みたいに、笑った方が素敵だよ」
「あ、ひぅ」
そういいながら、秋子は千鶴の背中に手を添えて、胸を張るように姿勢を正す。
「や、やめて」
「ご、ごめん。痛かった?」
千鶴は悲しそうに顔をゆがめる。
そんな反応を返されるとは思わなかった秋子は、自分の軽率さを反省する。
「大丈夫……」
「こうした方がいいかなって、ついやりすぎちゃった。本当にごめんね」
「気にしてないよ」
「あの、姉崎さん。良かったら私と友達にならない? よく図書館にいるし、もっと姉崎さんのこと、知りたくなっちゃった。ダメかな?」
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