6-2 「なぜ、その視線は怖くないのか」
――私がどうして、嫌だって言えるの?
その言葉が、少女の悩みを的確に表していた。
言えるわけが無い。軽いアドバイスなんて、実害こそあって誰も求めていないから。
来世は、なんて声をかけるか迷っていた。人生経験という面では、それほど壮絶な経験をしてきたわけじゃない。
まして、年頃の少女が親の再婚で迷うこと、それも相手が異性となれば、複雑な心境となるだろう。
迷った末に、とりあえず関係ないことを聞いてみた。
「何を考えているか分からない、という意味じゃ、俺の視線は怖くないのか?」
「怖くないよ。むしろ、もっと!」
「は?」
「あ……なんでもない。少し怖いんだけど、ゴミを見るような目で、考えていることは分かるの。近寄るなって、言われてるみたいで」
「……」
それを聞いた来世は、秋子のことをジト目で見つめた。
落ち込んでいるはずの秋子は、少しづつ頬を赤くしていき、見られまいと顔を背けた。
わりと図太い性格をしているらしい。
(どうしたものかな)
来世は考えていた。
案外、子供の直感というのは侮れない。だからといって、印象だけで悪い人物かどうかは、判断できない問題である。
少なくとも、五年後までは少女が死ぬようなことはないだろう。しかし、見えないだけで秋子が虐待にあっていなかったという保証はない。
とても難しい問題だった。
「清川さん、その人の名前とかは分かる? あとは、務めている会社とか」
「お母さんに聞けば……でもなんで?」
「とりあえず、聞いてみたくて。ダメかな?」
「いいよ。明日までに聞いてくる」
そう言うと、来世は一冊の本を秋子に渡す。
「俺には、その悩みを解決してあげられない。少し考えてみるけど、期待はしないで欲しい」
「……うん」
「ただ、聞いてて思ったのは、その本の登場人物に似てるなと思った」
来世が渡したのは『不思議の国のアリス』で、古い解釈を元に翻訳された作品だった。