6-1 「いつも明るい彼女が」
清川 秋子はいつも笑ってる。
自分の意見は主張するけど、強い反対があれば簡単に折れる。
クラスの力関係を適切に把握していて、何が地雷なのかを知っている。
リーダーのように振舞っているが、世渡りが上手いからこそ、みんなからの信頼があつい。
「はぁ……」
そんな少女が、今日だけは来世の隣りで伸びていた。
「はあー」
「……」
(私って、遠野くんに無視されてばかりだな……)
この日だけは、無視せずに話しを聞いて欲しいと思っていた。
どこか大人びて見える遠野 来世は、秋子にとって、先生よりも頼りになる人物だった。
真面目な相談をすれば、きちんと答えてくれる来世。夢を壊さないよう『気を使った説明』しかできない大人ではなく、誰よりも来世に聞いて欲しいと思っていた。
「……どうしたんだ?」
「え?」
「元気だけが、君の取り柄だろう。何か聞いて欲しい悩みでもあるのか?」
「うん」
秋子には悩みがあった。
母が再婚することになり、新しい父親がやってくる。
初めてその人と会った秋子は、不安を感じてしまい、どうしても父親と認められなかった。
「新しいお父さんがね、できるの。お母さんが再婚するみたいで」
「……」
「でもね、あの人の笑った顔を見たとき、とても……とてもこわかったの」
秋子へ視線を向けると、少しだけ力んでいて、膝の上でこぶしを握っていた。
「顔は笑っているのに、目のおくは笑ってないの。それが本当に、こわかった。何を考えているのか、分からなくて」
「母親には、嫌だって言ったのか?」
秋子は否定するように、首を振る。
「お父さんが死んでから、お母さんは私をひとりで育ててくれた。とても大変そうなのに、疲れていてもご飯の用意をしてくれる。私も手伝うんだけど、やっぱり仕事から帰ってくるお母さんは、つらそうで」
「……」
「そんなお母さんが、新しい恋人を連れてきた。私がどうして、嫌だって言えるの? お金のこととか、お母さんだって、あの人のことが好きみたいなのに……」