1-1 「先生から友達でもない男子に届け物を頼まれる」
「清川さん、これ遠野君に渡しておいてくれない?」
「わたしが、ですか……」
「お願いね」
清川 秋子は先生からプリントを渡される。同じクラスの男子生徒に、届けるよう頼まれてしまった。クラス委員長をつとめる彼女は、こうして時々、雑用を押し付けられる。
「遠野くん……か」
秋子は遠野 来世が苦手だった。
元々、クラスでは浮き気味だった遠野が、少し前からおかしくなってしまった。誰とも仲良くしようとせず、自分から孤立するような行動をしていた。同じ小学六年とは思えないほど、諦めたような顔をしている時があった。
そんな態度が気に入らない男子達が、靴を隠したり陰口を叩いたり、いじめをしていた。一部の女子もそれに乗っかって、一緒になって聞こえるように悪口を言っているのを目撃したこともあった。
それでも本人は気にせず、何も反応しないものだから、いつしか誰も触れなくなった。いじめていた側も、つまらなくなって興味を失ってしまった。
「どこにいるんだろう?」
放課後、既に帰宅してしまったのだろうかと、校内を探し回る秋子。先生も早めに渡せばいいのに、どこか抜けているときがあって、忘れっぽいのが学校の先生らしくなかった。
熱血気味な先生なのに、その元気が空回りすることがあって、遠野のいじめを増長させてしまったことがある。
前に先生の机へ近づいたとき「私は教師、失格だ」と呟いているのを秋子は聞いていた。生徒の前で言っていいのだろうかと、周囲が見えないくらいショックを受けているみたいだった。
「遠野くん知らない?」
「あいつ? この時間なら、図書館にいるんじゃないの」
教室に残っている男子に聞くと、あっさりと居場所が分かる。遠野に対して、あまり敵意を持っていない生徒を選ぶ程度には、秋子は教室の空気を読んでいた。
「図書館?」
「あいつ、付き合い悪いよな。ずっと本ばっか読んで……そんなに楽しいかよ」
「ありがと。ちょっと行ってみるね」
そうして秋子は図書館へ足を運んだ。