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第83話:説明7

読みやすいように章分けをしてみました。


「ソウイチロウ様」フシがビットに聞かれないように宗一郎へと話しかけた。


「ビットさんを連れてきたのは、あやつの性格を考えて、ですか?」


「そうです」宗一郎は笑みを返した

 昨日宗一郎は中年と話し終わった後に世間話をしていた。そして中年がビットへ怒りを向ける人物ではない、怒りっぽいが子供を迫害しないと確信し、ビットを連れて行こうと決断した。


「あやつは子供に優しいですからな」


「だと思いました」


 どんなにパームが可愛かったか、イリーナに感謝しているか、を滔々と語られた。子供に俺は救われたんだ、と中年は目頭を押さえた。子供は宝だ、と中年が言ったのを聞いて、宗一郎はビットをこの人に会わせようと思った。いつかは乗り切る必要のある壁ーーその相手としては適切だ、と思った。

 そしてその目論見は当たった。予想以上に中年の言葉はビットの心に響き、「自殺」などどいう馬鹿げた考えは無くなったようである。宗一郎は中年に感謝した。


「何の話?」ビットが割り込んできて、この話は終わった。


「儂もドレスデンに出店したいな、とソウイチロウ様にお願いしていたのだ」


「えっ?」寝耳に水である。


「ふーん、サイスさんって商人がいるけど?」


「商人はたくさんいた方が良いんじゃよ。ですよね? ソウイチロウ様」


 フシにつられてビットも宗一郎を見る。その瞳は灰色ではなく、透き通った輝きを放っていた。


「……その通りです。独占は民衆にとって害になりえます。特殊な技能労働などは秘密保護の観点から独占すべきですが、商業はそうではありません」


「仰る通りです。流石は、ソウイチロウ様、わかってらっしゃる。では、後日改めて伺います」そう言ったフシは笑いながらゾールの看板が掲げられた店舗に戻っていった。その素早い行動に宗一郎とビットは呆気にとられた。


「良いの?」


「良いさ。悪い人じゃないし、おまけに知名度もある。あの人が出店してくれれば、ドレスデンの知名度も上がるかもしれない。おまけにあの中年を紹介してくれた恩もあるしな」


「ふーん、だと良いけどね」


 橋を渡って、王宮へ帰る道でビットはふと足を止めた。宗一郎が振り返ると重い顔をしたビットがそこにはいた。


「ちょっと聞きたい」


「なんだ?」


「おいらが……フローの息子、盗賊団の一員だっていつまで言われるの?」


「嫌か?」


「父さんやおじさんには感謝してるけど、やっていることは間違っていた。世間から憎まれていた。これからもあんな事があるかと思うと……」


 最終的に中年はビットを許したが、ビットがフローの息子だとわかると、ビットを倒し拳を振り上げた。その顔は憎しみに染まっており、容赦無い敵意をビットに向けていた。今回は宗一郎の執り成しで事なきを得たが、次はどうなるかわからない。盗賊団の罪はビットの罪ではない、という開明的な考えを持っている人間がどれほどいるか。ビットの不安は当然だった。


「……ビット、こっちへ来い」


 宗一郎はビットを脇にある砂利道へと誘導した。そこに足のつま先で1m四方の正方形に区切った。


「ここの土の上にあるモノ、全てを取り除いてくれ」


「?」


「騙されたと思って、やってみろ」


「こんなのこれで」


 ビットは足で砂利を蹴飛ばした。何回か繰り返して、約7割の砂利を吹き飛ばした。


「まだ残ってるぞ」


「わかってる」


 更に足を使い、約9割の砂利を吹き飛ばし、残り約1割の砂利を丁寧に手で拾った。


「ほらっ」


「まだあるぞ」


 小石につま先を当てながら、宗一郎は指摘した。


「うるさいなー」


 ビットは細かくチェックして、小石を拾っていく。拾い集めた小石を正方形の外へと捨てた。


「これでーー」


「草が生えている」


「……………」


 ビットは草を抜く。


「ミミズがいる」


「ミミズはしょうがないだろ?」


「俺は土の上にあるモノ、って言ったんだ。全てだ全て」


「クソっ」


 ビットはミミズをどかす。パッと見では完全に土が露出されたように思えた。


「まだ微生物がいる」


「微生物ってなんだよ」


 微生物の存在は知られていない。


「目に見えない小さな生物だ。髪の毛より細く、小さい生物だ」


「そんなのどかせないだろ?」


「その通り、不可能だ」


「じゃー、無理な要求じゃないか」


「その通り、無理だ。これがお前の質問の答えだ」


「えっ?」


「お前の経歴を消すのは無理だ。今の行動を思い出してくれ。土がビットで、上にあるモノが悪評だ」


「…………」


「少なくするのは可能だが、完全に消去するのは不可能だ。どんなに俺やアリッサ、リーザ、ナターシャ達がお前を擁護し、民衆に呼びかけ、ビットはしっかり者だ、と言い続けても、お前の悪評を消す事はできない」


「…………」


「しかも見てくれ。ほらっ石がある」


「あっ!?」


「風だ。それで石が運ばれたんだ。更にーー」宗一郎はビットがどかした石を蹴飛ばし、元に戻した。


「何すんだよ!」ビットは急いで石を排除したが、宗一郎は再度石を戻し、土を掘り草を植えた。

「ふざけんな」ビットは石をどかし、草を抜く。


「何でこんな事するんだ」


「こうなるんだ」


「は?」


「悪評を取り除いても、折りに触れてそれはお前に降り注ぐ。例えば何かミスをしたら、フローの息子だから、と囁かれる。つまり悪評が戻ってくるんだ。更にお前に悪意を持った人間が、フローの息子だと人々に語りかけるかもしれない。俺が石を蹴飛ばしたように。お前の事を全く知らない人間は、それを信じてしまうだろう」


「……じゃあ無理なの? おいらはずっとその不安と戦わないといけないの?」


「いやっ、そうでもない」


「えっ?」


「例えばこうだ」宗一郎は周囲に咲いていた花を抜き、石を蹴飛ばした部分に植えた。更に空間魔法からナイフを取り出し置く。まだ足りないな、と考えた宗一郎は大きめの石を運び、土を完全に隠した。


「こんな風に、お前が努力して悪評ではなく、良評……良評? 違う、好評だ。悪評ではなく好評を集める事で、悪評が入る隙を無くす。花やナイフ、大きな石はお前の評判だ。お前が社会に貢献し続ければ、お前を貶めようとする人物の話を誰も聞かなくなる」


「……社会に貢献ってどうやれば?」


「それはわからん。お前が成長して何に適性があるかを見極める必要がある。何にせよ、自身の行いを正し、日々努力するのが肝要だ」


「…………」


「キャスカは幾らでも稽古つけてくれるだろうし、アリッサもお前に頼られたら嬉しいらしいぞ。お前アリッサを少し避けているだろ?」


「うん。なんて言うんだろう……気品? そんなのが感じられておいらが近づけない雰囲気がするんだ」


「アリッサはお前と仲良くなりたいって」


「わかった。おいらも話したいって思ってたんだ」


「ならそうしてやれ。後今日の事を俺からオリジや他のみんなに話す気はない。お前に全て任せる」


「うん」


 それからは無言で王宮へと帰った。部屋で待機していたオリジはビットを見た瞬間に抱きついてきた。

 「大丈夫だったか?」「大丈夫だよ」という会話をする2人を残して宗一郎は1人で部屋を出た。


 この経験がビットを大いに変える。



「今日は他に話したい事がある」


「なんだ?」あいも変わらずルクス王とゲーリッヒ宰相は興味津々の目を宗一郎に向けている。


「実は俺がいた世界の人間が、俺以外にもいるんだ」


「なんだと?」ルクス王が机を叩き立ち上がる。ゲーリッヒ宰相は目を見開いた。


「座ってくれ」


「ああ」


「サルーンにジュライという男がいる。俺の友人だ」


「そ、その者をタージフへ引き込むことは可能ですか?」堰を切ったようにゲーリッヒ宰相が話しだす。


「難しい……と思う。あいつは困窮時にサルーンの人に助けられた。その恩返しでサルーンのために働いているそうだ」


「そう……ですか。残念です」


 もしジュライがタージフに協力してくれたら、宗一郎を戦場に引っ張り出すのに躊躇はない。強大な戦力を国内で腐らせておく必要はない。冷酷にみえるが、ゲーリッヒ宰相はタージフの事を考えてその質問をしたに過ぎない。


「もしかしたら他にも俺と同じ世界の人間が来ている可能性がある」


「……確かにその可能性はありますね。最優先で保護する必要があります」


「俺が保護を約束しよう」


「すまない。それで俺の世界の人間だと見極めるために、ちょっと書くモノを用意してくれないか?」宗一郎は中空で線を引く動きをする。


「紙を用意させよう」ゲーリッヒ宰相が扉を出て、紙を持ってきた。そこに文字を書いた。


「なんだこれは?」その紙には『地球人はドレスデンへ』『Come On Dresden』と書かれていた。


「地球人はドレスデンへ、と書いた。流石に1人で王宮へ行く勇気はないだろう。俺が保護してから王宮へ連れて行くさ」


「2つあるようですけど?」


「俺の故郷の言葉と、世界で一般的な言葉で書いた」


「文字に違いがあるのですか?」


「国、民族によって差がある」


「ど、どれくらいですか?」


「わからんが、100以上の言葉がある。文字の違いは……2桁に昇るのはわかるがはっきりとはわからん」


「そんなに……」ゲーリッヒ宰相が絶句する。この世界は文字や言葉に違いはない。それだけに地球の文化の多様性に衝撃を受けていた。


「意思疎通が大変そうだな」


「全くだ。俺だって母国語しか話せない。さっきの言葉もひどく簡単な言葉だから、書けるだけだ」


「ソウイチロウはこちらの言葉をどうやって学んだのだ?」


「それがよくわからん。スグに話せた。そういうモンなのかもしれない」


「ソウイチロウ以外の転生者もそうであって欲しいな」


「ジュライに聞けばわかるかもしれないが、気軽に行ける場所じゃないからな。サルーンは敵国なんだろ?」


「そうだ」


「そういえば聞きたいことがある」


「なんだ?」


「宗教だ。サルーンはラビア教を信仰していたが、タージフは、お前たちは何を信仰しているんだ?」


 ずっと胸に支えていた疑問だった。宗一郎がここで話したのは、その予測がついたから。中年の家である像を見つけて、それは確信に変わった。それにはこの世界の文字でその神様の名前が掘られていた。

 両手を胸の中心で合わせ、蛇が腰に巻かれた神様の像。そこに書いてあったのはーー


「ラビア教だ」ルクス王の澄んだ声色が宗一郎の耳に虚しく響いた。

全世界には28の文字と7000弱の言語があるそうです。知らなかったー

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