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何でも出来て何にも出来ない男が平穏無事な生活を手に入れるまで  作者: 大山秀樹
第1章:仲間をつくろう
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第8話:アリッサ先生爆誕


 訝しげな目を向けアリッサは宗一郎に問いかけた――何者なのかと。

 アリッサの奥に目をやると熱々のケンタウロスカップルが仲良く水を飲んでいる。

 宗一郎は対称的な状況だなと苦笑し、アリッサの問いに答えた。


「だから俺は飲み込みがいいんだって」


「これはそんなレベルじゃないわよ。見た魔法をいきなり使えて、しかも範囲が私の先生より広いだなんて」


「じゃあその先生が狭いんじゃないのか?」


「そんな訳ないわ。帝国随一の魔道士なのよ。もうとっくに引退したけど、それでもすさまじい魔道士で、未だに帝国の魔法部隊が束になってもかなわないのよ」


「帝国随一の魔道士が先生ってアリッサこそ何者なんだ?」


 目に見えてギクッとしたアリッサは目を逸らして、汗を手で拭った。


「わ、わ、私のことはいいじゃない。まずソウイチロウのことを聞かせなさいよ」


「んーと言っても本当にそれしか言えないんだ。魔法が使えるようになったのはごく最近でな。やってみると結構な威力出て、町中でやると迷惑かかるかもって思ったからこの森に来たんだ」


(この言い訳ならば不自然じゃないかな?)


「ごく最近使えるようになった?そんなことあるの?他にはどんな魔法が使えるのよ?」


「火・水・風・結界・回復・空間・封印魔法だな。中々制御できないけど」


「7つ?いえ探知魔法も合わせれば8つも使えるの?おまけに見ただけで使えるならもっと増えるかも知れないってこと?」


「まぁそうなるな」


「はは。普通の人は魔法が使えるってだけで尊敬されて、熟練者でも2.3個程度の魔法しか使えないのに」


 アリッサは乾いた笑いを浮かべた。


「でも制御できないんだ。だからアリッサが制御の仕方教えてくれ」


 反応がない。ただのしかば…もとい、宗一郎が多くの魔法を扱えることに対して衝撃を受けているようだ。対象的にケンタウロスは満足したのか、帰っていく姿が見えた。しっかり手は繋いでいた。

 ケンタウロスが出現したことで、宗一郎は拠点を変える必要性に迫られた。


(ケンタウロスの水飲み場の近くになんて居たくない。鉢合わせしたら凶暴なケンタウロスのことだ、問答無用で斧が飛んでくる気がする。ってかケンタウロスって斧どうしてんだ?鋳造しているとは思えないし、やっぱり人から奪っているんだろうな。そしてその斧が親から子へ受け継がれているんだろう。泣ける話……ではないな)


 うんうんと唸っていたアリッサがやっと我に返った。


「なんか言った?」


「だから俺は魔法が制御できないから、制御の仕方をアリッサが教えてくれって」


「……わかったわ。私が教えてあげる。でもその前に2つだけ聞きたいことがあるから正直に答えて。これは私にとって非常に大事な問題だから心して答えてね。まず……ソウイチロウは奴隷についてどう思う?」


「奴隷?唐突だなおい。んー俺が住んでいたところにはいなかったし、こっち来てから見てないからなんとも言えないが、俺は奴隷を頭から否定する気はない。国家に根付いた制度で需要があるんだろ」


 アリッサは真顔で宗一郎の言葉を聞いていた。


「けどな、奴隷を蔑む奴は軽蔑する。奴隷制の許容と、奴隷を差別することは全くの別問題だ。奴隷は人間だ。国王・貴族・商人・農民と同じ人間だ。言ってみれば奴隷って職業の名前なんだよ。奴隷を蔑む奴は、『奴隷』って言葉を発するときに、奴隷っていう生物の名前を言っているニュアンスがあるんだ。人間と奴隷を区別してるんだよ。違うだろ?そうじゃない。奴隷だって親もいれば子もいる1人の人間なんだよ。別に奴隷に人権を、なんて高尚なことを言いたくはない、言うつもりはない。ただ1人の人間として扱えばいいんだよ。怪我をしたら治療、腹が減ったら飯、冬になったら寒くないように毛布を支給すればいい。それすらできないのなら奴隷を持つ資格なんてないよ」


 それは宗一郎が生前様々な媒体に触れながら感じてきた思い。

 息子にわずかしかない食料を手渡し餓死する奴隷、怪我をして捨て置かれ衰弱死する戦闘奴隷、冬の寒波にあてられ凍死する農奴、そして主人の慰みものにされる性奴隷。

 そんな不幸話は歴史と物語に溢れかえっている。腐る程に。


「あと奴隷は経済的な観点からも合理的とは言い難い。消費者にはなるが購買者にならないからな。お金を循環させないと社会は発展しない。それに奴隷はお金を貰えないんだろ?金銭報酬があるかどうかってのは労働者、奴隷の労働意欲にも関わってくる。労働意欲がないと効率は上がらないし現場での改善も起こらない。技術革新なんて夢のまた夢さ。奴隷に働かせて1部の富裕層の労働力を余らしているのはもったいないしな」


 宗一郎は一息に言った。

 しかしよく考えてみると、あれ?これって体制批判にならない?捕まっちゃう?などと不安になりアリッサを見てみたが、アリッサは下を向いており表情が読めない。


「…ソウイチロウの奴隷についての考え方は理解したわ。では最後に魔族や獣人について聞かせて頂戴」


「魔族や獣人ねー。そもそも俺は魔族と魔物の違いをイマイチ理解してないんだけど。人語を操れるのが魔族、操れないのが魔物ってことで良いの?」


「概ね間違ってないわ」


「じゃあそういう理解でいくとだな、俺は魔族や獣人を見たことがない。見てみたいと思う。人間と何が違うのか、何が違わないのか見てみたい」


「殆ど変わらないわよ。人間と魔族のハーフ、人間と獣人のハーフ、魔族と獣人のハーフもいるわ」


「じゃあ魔族や獣人と仲良くなることも可能ってことだな。俺魔族や獣人と友達になるの夢だったんだよ」


「ソウイチロウは魔族や獣人が怖くはないの?姿形がそれほど変わらないと言っても相手は魔族や獣人なのよ。昔から恐れられ差別されてきたのよ」


「知らねーよ。俺の地元にはそんな差別なかったし。むしろ猫耳とかをありがたがる文化があったくらいだよ。特殊な人たちはスライムとかそこら辺にいってたけどそれは流石にないな。あぁでもスライムを差別するってわけじゃないけどな。スライム触ってみたいし」


「鋭利な爪、太い尻尾や硬い角が生えていたりする魔族が友達になりたいって言ってきたらどうするの?」


「もちろん喜んで友達になるぜ。そして苦労話や魔族特有の話とか聞いてみたいな」


「じゃあさ、じゃあさ」


 ハキハキしているはずのアリッサが急に言い淀む。顔は下を向いたままだ。


「……羽をさ、ちっちゃく、本当にちっちゃくだよ、背中に生やした魔族と人間のハーフの女の子が助けを求めたらどうする?」


「やけに具体的なことは置いておいて、助けるに決まっているんだろ。ただしその女の子に非がないって前提はいるけどな。人間に迷惑かけて自分に捕縛の手が伸びてきてから助けてって言われても、助けない。ただ一方的に差別や迫害を受けている場合は出来る限りの手段をもってその子のことを守るね。俺の人生の目的は平穏無事な生活を送ることだけど、助けを求める手を振りほどくほど俺は薄情じゃない。女の子を助けてから平穏無事な生活を送る方法を見つけるさ。そして助けた暁には、羽を見せてもらうんだ。あわよくばその羽を撫でてみたいね」


「………もし、もしだよ、その女の子が国から、しかもこの世界で一番大きな国から追われているとしたらどうする?」


「そりゃあその女の子を連れて違う国に行くな。7カ国もあればどこかで受け入れてくれるだろ。どこの国にも受け入れられなかったら……そうだなー……人に見つからないようなところに居を構える。そして一緒に暮らす」


「暮らすの?」


「おう勿論だよ。だって俺がいなくなったらそいつ1人ぼっちになるんだろ。それは寂しすぎるしな。もし縁があったら結婚して子供が出来たりしてな。そうして家族が増えれば寂しくならないだろ」


「子供だなんて……」


 言い淀んだアリッサの顔を見るとゆでダコのように真っ赤になっていた。目も涙に濡れているようだ。宗一郎は自分の発言の思い出し、泣くポイントを探してみたが見つからなかった。


「アリッサ、顔真っ赤だけど熱でもあるのか?」


「えっ?嘘?真っ赤になってる?あぁ気にしないで。熱なんかないから」


「後ずっと言えなかったけどお前の右頬に魚の身がついているぞ」


「えっ?嘘?もしかしてずっと。やだー恥ずかしい……てか今言うこと?」


 宗一郎はさっきと同じ反応されたなと苦笑する。

 アリッサは焦りながら右頬に手をやり、カピカピであろう魚の食べかすを口に入れる。


「食べ物を粗末にしちゃダメだからね」


 宗一郎の考えを見透かしたようにアリッサは言った。宗一郎はアリッサに感心した。その声を聞きながら、アリッサの頬から魚の身を取って自分の口に放り込むというド定番のネタをやっとけばよかったと少し後悔した。


「ん。仕切り直して」


 アリッサは右手を丸めて唇に当て話題転換のための咳をする。


「ソウイチロウの奴隷と魔族や獣人への想いを聞きました。私もそれに深く共感したため修行に付き合います。みっちり教えてさしあげます」


「口調変じゃない?やっぱり熱があるんじゃ。それかさっきの魚にあたったとか」


「そんなんじゃないから。と・に・か・く修行につきあうわよ。いいね?」


「おう!こちらこそお願いします。魔法以外も色々教えてくれよ」


「Hなのはだめよ」


「言ってねーよそんな事。この世界の歴史とか文化だよ。あと文字も学びたい。アリッサは文字を書けるのか?」


 アリッサが宗一郎をからかった。


「えぇ勿論書けるわよ」


「俺も文字を書けるようになりたいんでみっちりお願いします」


 こうしてアリッサ先生は誕生した。

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