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第76話:君は誰だ?


 ルクス王との対話は盛り上がった。ルクス王は武勇伝が好きらしく、トールが剣を放擲した下りに感激して拍手していた。雷魔法を伏せる必要があったため、風魔法でレッドドラゴンを吹き飛ばしたことにした。ルクス王はさして疑問も挟まずにその話を聞いた。


「面白かった。久しぶりに血が沸き立ったよ」


 その後リーザの機転でフローの息子を助けられた事を話した。


「あの獣人の女の子か。土地を貰うなんて良く思いついたな」


「俺も驚いたさ。そういえばビットを連れて来ている。お前にお礼を言いたいそうだ」


「なら今聞こう。呼んできてくれ」


「わかった」


 宗一郎は部屋を出てビットとオリジが控えている部屋へと向かうと、マーベラス伯爵が目的の部屋の前で立ち止まっていた。


「お前は誰だ?」


「ビットだよ。おじさんは誰だ?」


「僕は北の防御都市ムーの領主マーベラスだ。ビット、お前の父親は?」


 「それは……」ビットは言いよどんだ。実の父親は盗賊団頭である。父は好きだが、この国では罪人である。それを公言すれば、ドレスデンに迷惑が、引いてはソウイチロウに迷惑がかからないか、とビットは悩んだ。

 そんな時に宗一郎が見えた。宗一郎はおもむろに首を縦に振った。言って良い、そういう動作だった。


「おいらは冬にボーグルで捕らえられた盗賊団頭フローの息子です。ルクス王に許しを頂いて今はドレスデンに奴隷としています」


「……手を見せろ」


 怯えているビットの手を取り、掌を見た。ビットの掌は特徴的で、掌線が真横に一直線に通っている。それをマーベラスはまじまじと見た。

 そしてクルッと宗一郎を見て詰め寄った。


「フローの死に際を教えてくれ」


 宗一郎は先ほどとは打って変わったマーベラスの声色に驚いた。その表情には鬼気迫るモノを感じさせた。マーベラスの態度の変化を宗一郎は真剣に受け止め、主観を排除し淡々と事実のみを語った。


「フローはレッドドラゴンの子供を殺して、ボーグルへおびき寄せました。ボーグル軍により盗賊団が打撃を受けていた事に対する復讐です。しかし我が子を殺されたレッドドラゴンは驚くほど冷静で、フローにだけ復讐をして、住民には被害を与えませんでした」


「…………」


「そして俺が誤解をして、レッドドラゴンに戦いを挑みました。何とかレッドドラゴンに一撃を与えましたが、力及ばずでした。レッドドラゴンは帰っていきました。その後俺がビットを奴隷として引き取り、今はドレスデンで暮らしています」


「……そうか。フローはどんな奴だった?」


「私が見たのはレッドドラゴンに殺される寸前の姿です。しかも拷問を受けて、両手両足を縛られた姿です。どんな奴か、と言われても、しっかりと伝えられる自信がありません」


「…………」


「ビットに聞けばわかると思いますが、トラウマを掘り起こす事になるのでご遠慮ください」


「……フローはどうやってレッドドラゴンを呼び出したのだ?」


 随分とフローに拘るな、と宗一郎は疑問に思いながら、あの出来事を思い出した。


「確か『ドラゴンは子供を天に捧げると、その親を操る事が出来る。だから儀式を行った』と記憶してます」


「あやつめ、まだそんなことを」


 マーベラスは目頭を抑え、俯き、しばらくそのままの姿勢でいた。唐突に顔を上げたマーベラスはビットの肩に手を置いた。


「幸せか?」


「おいら?」


「ああ」


「うん。幸せだよ。父ちゃんが死んだのは悲しいけど、ナターシャおねーちゃんは優しいし、キャスカおねーちゃんは厳しいけど毎日が楽しい。それに初めて同年代と年下の友人が出来たんだ。盗賊団にいた頃には考えられないような食事や住居もある。おいらは幸せだよ」


「……そうか」


 それだけ言って、ビットの肩から手を離してマーベラスは去っていった。宗一郎とビットはマーベラスの行動に呆気にとられ、無言になったが、「何だったんだ?」というオリジの言葉で気を取り直した。


「ビット、ルクス王がお前を呼んでいる。行くぞ」


「あっ、はいっ」


 宗一郎はビットを連れて戻ったが、扉の前でゲーリッヒ宰相に止められて、ビット1人だけが部屋の中に入った。

 ビットは緊張から落ち着きがなくなっていたので、宗一郎はビットの背をバシッと叩いた。痛っ、とビットは宗一郎を睨んだが、身体の震えは止まっていた。



 10分くらいでビットは出てきた。顔は晴れやかであり、何かをやり遂げた顔をしていた。「ありがとうございました」とゲーリッヒ宰相に頭を下げた。「ソウイチロウを呼べって」と言い残して、ビットは去っていった。宗一郎は部屋へと入った。


「やあ、待たせて悪かったね」


「いやっ、全然。ビットが満面の笑顔だったんだけど、何を言ったんだ?」


「お礼を言われただけだよ。それだけ」


 ルクス王は嘘くさい笑顔を浮かべた。何か隠しているな、と宗一郎は思ったが、ルクス王が喋るとは思わない。話を進める事にした。


「それで聞きたいことがあるんだが」


「良いよ。何でも答えよう。正しこちらの質問にも答えて欲しい」


「わかった」


「まずそちらからどうぞ」


 宗一郎は疑問をぶつけた。

 Q、ドレスデンの復興がなったら、キャスカの奴隷刑期は短くなるのか。

 A、王の権限で短くする

 Q、その刑期は?

 A、社会情勢や復興の度合いによるからはっきりとは言えないが、10年程度を考えている。即時解放はない

 Q、復興の条件は?

 A、杓子定規に判断したくないが、反乱以前の繁栄を取り戻したら間違いなく復興した、と言える

 Q、それだとキャスカの奴隷刑期が終わるまで不可能かもしれない

 A、それが王の権限で出来る最大の譲歩だ。元々刑期を短縮する事自体が異例で、それ以上は不可能だ。

 Q、ドレスデンが復興へと舵を切ったら、援助をしてくれるのか?

 A、四方防御都市の1つであるドレスデンの復興はタージフの課題だ。財政と相談するが、後押しは間違いなくする。

 Q、領民は復興のシンボルとして、キャスカの奴隷からの解放を望んでいる。キャスカを開放した方がその課題を解決するのが早くなると思う。

 A、無理だ


「なら剣闘大会について聞きたい」


「何だい?」


「俺が剣闘大会に優勝して、『キャスカを奴隷から解放してくれ』と言ったらそれは可能か?」


「ん?……可能だ。剣闘大会の優勝者の願いは『法』に違反しない限り叶えられる。キャスカ解放に伴う国民の不満を取り除く必要があるが、それはこちらでやる」


「『ん?』って何だ?」


「気にしないでくれ」


「俺が剣闘大会に参加するのは可能なのか?」


「んー。可能というか、何と言うか。むしろ君は既にエントリーしている」


「えっ?」


「レッドドラゴンを倒した新任領主なんて、参加させるに決まっているだろう?」


「いやっそうだが」


「君の了解を取らずに申し訳ない」


 ルクス王は頭を下げる。機先を制されたな、と宗一郎は思った。


「頭を上げてくれ。どうせ俺は参加するつもりだから順序が後先になっただけさ」


「ありがとう。ちなみに剣闘大会に新兵は全員参加だが、有志の出場も認めている。君は有志枠だ」


「ふんふん」


「レッドドラゴンの討伐者が出場すると宣伝したら、予想以上の反響があってね。剣闘大会を開催してから最多の出場者を迎える事になるだろう」


「えっ?」


「昨年の出場者は200人程度だが、今回は1000人を超えるだろう」


「えっ?」


「君が通ってきた魔族の村々からも出場者が相次いでいるからもっと増えるかも」


「えっ?」


「こっちとしても嬉しい悲鳴だよ。出場者の管理は面倒だけど、出場者は王都に金を落とすからね。しかも観戦者が増えれば、彼らも金を落とす」


「いやっ優勝難易度が跳ね上がってないか?」


「それはしょうがないさ。それにレッドドラゴンを倒す程の腕を持った君なら大丈夫だろう」


「そんなこと言われても」


「いやいや君には優勝してもらいたい。なぜならキャスカの腕を埋もれさすのは惜しい」


「気づいていたのか?」


「勿論。俺の長所は人を見る目だ。彼女を一目見た瞬間から腕が立つ、軍を預けられる、もっと言えば『人』を預けられると感じたよ。だけど、『法』の手前その才能を活用する方法はなかった。助命するのが精一杯だったのさ。それを君が引き上げてくれるなら、こんなに嬉しいことはない」


「あいつは根っからの剣士だ。俺より役に立つかも」


「そうかもね。彼女は優秀だ。彼女が俺の妻だったら良かったのにな。パトリシアじゃなくてね」


「あっ、もう1つ聞きたい事があった」


「パトリシアの事かい?」


「ああ。パトリシアさんはーー」


「巷で言われている事は全て事実だ。証拠も押さえてある。弟との浮気の証拠もある。だがそれを公表すれば、ただでさえ嫌われているドレスデンが更に軽蔑されることになるだろう。だから俺はそれを非公表にした」


「証拠もあるのか。って事は、マジュール伯爵は勘違いして死んだのか」


「おそらくマジュール伯爵は知ってたと思う。パトリシアの愚行を。でも心のどこかにそれを仕舞い、俺へと怒りを向けた。パトリシアの怨念が乗り移ったと言っていい。それ程の凶行だった。そして死んだんだ」


「そうか」


「これで君が聞きたいことは全てかい?」


「ああ、十分だ。時間をつくってもらってすまない」


「気にすることはない。好きでやっていることだ。次は俺の質問だな」


「ああ」


「……君は誰だい?」


 この質問は宗一郎の意表を突いた。こんな抽象的な質問が来るとは思っていなかった。


「俺はドレスデンの新任領主の宗一郎だ」


「そうか。では次の質問に入る。君は誰だい?」


「……レッドドラゴンを倒した中級魔導師だ」


「そうか。次の質問だ。君は誰だい?」


「……ゴブリンキングを倒したダンの英雄だ」


「君は誰だい?」


「同じ質問を何回するんだよ」


「君が俺の意に沿う答えをするまで」


「……俺はアリッサと共に魔の森から出てきた男で、アリッサの仲間を取り戻すために行動している」


「君は誰だい?」


「武田宗一郎だ」


「君は誰だい?」


「……ビットの奴隷主だ」


「君は誰だい?」


「リーザの奴隷主で仲間だ」


「君は誰だい?」


「キャスカの弟子だよ」


「君は誰だい?」


「……どうしても聞きたいのか?」


「聞きたい」


「…………」


「君は俺達と全く違うところの生まれとしか思えない。モノの考え方が全く違っている。それほどの魔導師で世間に名が広まっていない理由も聞きたい」


「はぁー。わかった。話す、話すよ。アリッサとリーザにしか言ってない秘密だぞ。絶対に他所に漏らすんじゃねーぞ」


「約束する」

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