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第52話:えっ?

遅れてしまって申し訳ありません。

ボーグル編は書き終わりましたので、これからボーグル編終了まで毎日投稿します。



 ムンに乗りひとっ飛びしたアルス山が茜色に染まる。

 山の中腹に一際濃い地点があった。そこは銀色の雪山には不釣り合いな程に赤々としており、夕日に照らされた他の場所が偽物に感じられるほど色付いていた。

 ムンがこの地へと降り立つ直前に赤い光は揺らいだ。僅かだが確かに光は東へと移動した。それは遠目からでも肉眼で確認できたが、そのことに宗一郎は気づかなかった。


 時刻は夕方に入り、門が閉まる一歩手前である。

 生前の知識を得意げに披露してしまった宗一郎は、トールとナターシャから尊敬の念を向けられ、いたたまれなくなり話題を変えることにした。

 

「で?確かこの町に盗賊団が出ているんだって」


「そうであります。まず領主に会うように宰相から言付かってます」


「なら行こう」


 ムンと別れた(当然文句を言ったが、アリッサから叱られた)宗一郎は町に入るように促した。町の手前まで来ると後ろから兵士がダダダッと走ってきて、ナターシャにぶつかった。


「キャ」


 ナターシャが衝撃で倒れそうになるのを宗一郎が支えた。


「キャーーーー」


 するとナターシャは男とぶつかった時以上の絶叫を発して、宗一郎の手を振りほどき、離れ、アリッサの背に隠れた。


(俺なんかした?)


 宗一郎がナターシャの反応に凹んでいると、男が立ち止まり凄んできた。


「気ぃつけろや。往来でぼーっとしてんじゃねーよ」


「あんたがぶつかってきたんじゃない?」


 気の強いアリッサは男の脅しに負けず言い返した。


「あん?誰に向かってモノ言ってんだ?俺達はジョット様の兵だぞ」


「ジェット様っ」


 トールが驚きの声をあげると、背後から兵士の集団がやってきた。


「おいっ、お前らジェット様のお通りだ。道を開けろ」


 ナターシャにぶつかった男は門の外側にいる人々に道を開けさせた後、門をくぐりボーグル内でも道を開けさせた。その道を兵士の集団が通って行く。最後列には縄で繋がれた男達がいた。よく見ると全員無傷ではなく怪我をしていた。中には痛々しく包帯を巻いている者もいる。


「ジェット様って?」


 宗一郎がトールに聞いた。


「この町の領主にしてルクス王の叔父ガンツ公爵が長男、ジェット男爵であります」


「親父が公爵……ってことは?」


「はいっ。ルクス王の従兄弟に当たる人物であります」



「某はルクス王の命令により、この町の盗賊団を倒しに参った次第であります。これが命令書であります」


 トールは懐から丸められた紙を取り出した。


「確かに王印が押されていますね。では確認してきますので少々お待ちください」


 門番が役人に何やら言いつけると、役人が小走りになって町の中をかけて行った。

 タージフでは命令伝達を確実にするために、王は領主と使者に割印した手紙を与える。使者の持つ手紙には3箇所王印が押されている。これは手紙を届ける鳥が領地へたどり着かない場合を考え、保険として3羽飛ばすからである。鳥の持つ手紙には1箇所王印が押されており、使者の持つ手紙と割印されている。

 ボーグル側の手紙とトールの持つ手紙の3つの割印の内どれか1つに合えば、トールが正式な使者だと判別出来るのである。

 少しすると役人が兵士に護衛されながら手紙を持ってきて、トールの手紙と照合した。

 王印はピッタリと合った。


「間違いないですね。王の使者殿、歓迎いたします。領主代行のジェット男爵が館にて控えております」


 役人の案内でボーグルの町を歩く。

 大通りに面した店は活況を呈しており、商品を収納しきれず路上にはみでている店もあった。買い物客は役人の先導で領主の館へと急ぐ宗一郎に好奇の眼差しを向けていた。

 リーザは物珍しげに辺りを見渡して、アリッサから注意を受けていた。ナターシャは宗一郎から極力距離を取り、決して近づかなかった。


 領主の館は3階建てで、2階建ての離れが併設されており、宗一郎は本館へと案内された。

 役人が開けた部屋に入ると、30代くらいの男が片膝をつけてしゃがんでいた。胸の前に、丸めた右拳を左手で覆った状態、「拝」と呼ばれる礼儀を示す姿勢である。この礼儀正しい男がジェット男爵である。

 ジェット男爵はトールと比べると遥かに位が上である。本来ならトールが声をかけるのも不敬に当たる程だが、トールは王の使者としてここにいるため、ジェット男爵はこのような礼儀をつくしている。


「ボーグルへようこそ、王の使者よ。私はガンツ公爵が長男ジェットと申します。父は病気で臥せっており、今は私が代官を務めております」


「某はトールと申す者であります。この町を脅かす盗賊団を壊滅しろとの王の仰せであります」


「ははっ。この町に盗賊団を蔓延らせたのは私の不徳と致すところ。王にご心労をかけてしまい、申し訳ありませんでした。しかし盗賊団はすでに壊滅しております。今朝盗賊団頭を捕縛後、今しがたまで残党狩りをしていましたが、幸運なことに全員の身柄を確保出来ました」


(えっ?)


「使者にはとんだ無駄足を踏ませてしまい申し訳ありません。昼に王都へと鳥を飛ばしたのですが、どうやら行き違いになってしまったようです」


 盗賊団を討伐せんと意気込んできた宗一郎はハシゴを外された。

 情報伝達に時間のかかるこの世界では行き違いは珍しいことではない。例えアルス山1つ挟んだだけのボーグルでも同様なのだ。


(これじゃあ男爵になれな……アリッサの言う通りにダンを救ったことを公言すればいけるか。まっ何はともあれ、盗賊団が捕まったのならめでたい)


「……そうでありますか。盗賊団を壊滅できたことは喜ばしいであります」


「ははっ」


「しかし某も王命を拝している身なれば、盗賊団の壊滅を確認したいであります」


「さすれば、役人に盗賊団を閉じ込めている牢へと案内させます」


 ジェット男爵が立ち上がり呼び鈴を鳴らすと扉が開き、宗一郎らを先導した役人が顔を見せた。


「王の使者が盗賊団を一目見たいと仰せだ。案内してさしあげろ」


「畏まりました」


「では使者殿、私は公務があるためこれにて失礼します。本日の宿はこちらで手配致しますので、その者にお聞き下さい」


 ジェット男爵はそう言い残すと部屋を出て行った。

 宗一郎は要件を済ませてサッと出て行ったジェット男爵の態度に何処か冷えたものを感じた。


「盗賊団は捕まったのでありますか?」


 トールは牢に向かいながら役人に事情を聞いた。


「今朝ジェット男爵が自らお捕まえになりました」


 早朝警戒に当たっていた兵からアルス山で聞き慣れない音がすると報告があった。そのためジェット男爵自らが兵を率いて確認にいくと、盗賊団頭のフローを発見し捕らえた。フローは特に抵抗する様子もなく捕らえられた。その後フローに拷問してねぐらを聞き、盗賊団を一網打尽にした。フローとは違い盗賊団は激しく抵抗して、兵士に負傷者も出たが、捕縛することに成功した。

 そうやって盗賊団を捕まえて連行してきたのが、宗一郎と遭遇した集団だった。


「あの集団は盗賊団だったのか」


「ええ、そうです」


「事情はわかったが一つ腑に落ちない点がある」


「どこでありますか?」


「警戒に当たっていた兵士が聞いた『聞き慣れない音』だよ。何だったんだろうな?」


「フローの叫び声……じゃないわよね?流石に人の声を『聞き慣れない音』なんて表現するとは思わないわ」


「とすると、魔物の声でありますか?」


「音ならリーザが詳しいか。リーザ、何か聞こえるか?」


「すみません。聞こえません。ただ……」


「ただ?」


「ムンさんがイノシシを丸呑みした時に変な声を聞きました。人間ではなく魔物だと思います」


「どんな魔物かわかるか?」


「いえっわかりません。少なくとも王都への道すがら聞いてきた声とは違いました。記憶にない声でした」


「……そうか」


「ジェット様もそれを気にしてらして、明朝調べに行くそうです。王の使者との会談を早々に切り上げられたのはその準備があるからです」


 だからあんなに素っ気無かったのかーー宗一郎はジェット男爵の態度に納得がいった。

 屋敷を出て大通りを抜けると一階建ての建物に着いた。


「ここが牢屋となっております。盗賊団はここに閉じ込められています。入りますか?」


「お願いするであります」

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