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第46話:またか…


 泣きじゃくる獣人の女の子をリーザが慰めた。ルッツの件もあって宗一郎は慰め役をリーザにお願いしていた。女の子は近づいてきたのが犬の獣人だとわかると、リーザの胸へと飛び込みより一層大声で泣き出した。


「奇妙なこともあるもんだな」


「そうね」


 宗一郎とアリッサはルッツと出会った時のことを思い出していた。あの時も、ルッツは1人で泣いており、周囲を荒らした形跡はなかった。今回と同じである。周囲に荒れた形跡がないことだけでも奇妙なのに、それが続くとなると得体のしれないものを感じざるを得ない。


「ともかく事情を聞かないと」


 宗一郎は女の子との距離を詰めようとしたが、半歩踏み出した時点で女の子が怯えたので諦めた。


「リーザ、事情を聞いてくれないか?」


「はいっ。よしよし。パオちゃん。どうしてこんなとこに1人でいるの?」


「わかんニャい。村の外で1人で遊んでたら知らニャい人間のおじさんに捕まって、気がついたらここに。怖かったニャ」


(キタコレ、キタコレ。本当に『な』が『ニャ』になるんだな。小説の中だけと思っていた)


 宗一郎は誘拐されたパオの手前笑顔を見せなかったが内心はにやけていた。


「私が、私が悪かったニャ。ママが村の外で遊んじゃいけませんって言ってたのに……昨日ママと喧嘩しちゃって」


 パオは母親と喧嘩をして、反抗心から村を出た所を連れ去られたようである。


「事情はわかった。村まで連れてってやろう」


 宗一郎が提案するとアリッサとリーザはコクリと頷いた。


「家まで連れて行ってくれるのかニャ?」


 パオは宗一郎に顔を向いた。


「ああ」


「やったニャー」


 両手を上げてパオが喜びを表すと、振り上げた手リーザの顎に直撃した。しかしリーザは全く痛がる素振りも見せずに、パオの謝罪を聞いていた。



「人間って初めて見たニャ。ちょっと触ってもいいかニャ?」


 宗一郎の答えも待たずに、パオはペタペタと服の上から宗一郎の身体を撫でる。猫獣人との触れ合いは宗一郎にとっても望むところだが……


「こらっ」


 大事な所にパオの手が伸びてきたので、流石に宗一郎も声を荒げた。


「ご、ごめんニャさい」


「……そこまで凹まなくても良いぞ」


 怒られたパオは目に見えてシュンとなっていた。


「そうかニャ?」


 パッと顔を明るくしたパオは、再度宗一郎の身体をまさぐった。猫だけに気分屋のようである。


「人間の身体も獣人のと変わんニャいニャ。尻尾はどうニャってるのかニャ?」


「おい」


 ズボンを降ろそうとするパオを宗一郎は叱る。


「ごめんニャさい」


「尻尾はない。俺に何かする前には断ってくれ」


「わかったニャ。耳がニャいか確かめさせて下さいニャ」


 答えを待たずにパオは宗一郎の頭を触った。

 そんなスキンシップをアリッサは苦々しい顔で眺めていた。


(私でも宗一郎の髪に触ったことないのに)


 パオの謝罪を聞いたリーザは「出番ですね」と言って走り去った。その間パオのお守りを宗一郎とアリッサが担当することになったのだが、ルッツの時とは違い、パオは宗一郎に興味を示した。アリッサには一瞥をくれただけで何の反応もすることはなかった。

 現在パオは宗一郎の頭の上にチョコンと乗っており、アリッサに勝ち誇った顔を向けている。

 30分するとリーザが戻ってきた。


「早かったな。見つけたのか?」


「はい。今回はたまたま最初に行った方角にありました。南東の方角です」


「南東か。よし、行こう」


 宗一郎とパオ、アリッサとリーザのペアで相乗りして馬を走らせる。パオは馬ではなく宗一郎の頭の上に乗っている。どうやら宗一郎の頭の上が気に入ったようである。パオが時々動くので宗一郎はバランスを取るのに苦労した。


「リーザ、どれくらいかかる?」


「1時間くらいでしょうか?今回はルッツくんの時より近いです」


 リーザは馬の足を学習したらしく、それから1時間程で猫の村に着いた。そこは森であった。


「ここです」


「ここニャ、ここニャ。ありがとうございますニャ」


 お礼を言ったパオは森の中へスイスイ入っていった。それを見守ってから宗一郎は出発した。

 すると5分位馬を走らせたところで、リーザがパオの接近を宗一郎に報告した。宗一郎が止まって待つと、後方に土煙が2つあがっているのが確認できた。


「待つニャ、待つニャ。ハーハー……全くニャんげんは忙しくてしょうがニャいニャ」


 肩で息を切らしながら、やれやれといった表情をつくったのは、パオよりちょっとお姉さんで、リーザと同年代くらいの女の子であった。


「早いよ、ローズ」


 少し遅れてパオもやってきた。


「パオが遅いニャ。後おニャえちゃんをつけニャさい」


「やだニャ」


「ニャニャニャ……ニャんげん、村ニャ来てもらうニャ。おとニャがお礼をしたいって言ってるニャ」


「ローズ、ニャ、ニャ、うるさい。いつもはそんニャに『ニャ』言ってニャいでしょ?ニャにしてるニャ?」


「ニャニャ。ニャんげんニャはこれが良いと聞いたニャ」


 じろりとした目をローズは宗一郎に向ける。


「普段通りの喋り方で構わないが、『ニャ』が多すぎると理解出来ないぞ」


「ニャんと。聞いたはニャしと違うニャ。あいつめ〜。今度あったら袋だたきニャ……取り敢えず付いてきて。は、なしはそれからだから」


 少し溜める必要があるが、ローズは「な」と発言できた。


「別に言いやすい方で大丈夫だぞ。『ニャ』が一つもないってのは寂しいし」


「ニャんだ。ニャらいつも通りはニャすニャ。こっち、こっち」


 パオとローズは四足になり、宗一郎を先導した。付いて行くとアリッサの後ろに乗っていたリーザが対抗意識を燃やしたのか、馬から飛び降りローズと並走した。リーザは普段二足歩行なのだが、走る時だけは四足歩行になる。四足になると二足の倍以上のスピードが出せるようになるらしい。

 2人が並走を始めると視線が絡みあい、明後日の方向へとかけて行った。


「な、なんだー?」


「気にしニャい。気にしニャい」


 そのまま馬を走らせると、森の入り口に着く頃にリーザとローズは帰ってきた。リーザはぴょんぴょん跳ねており、反対にローズはがっくりと肩を落としている。


「勝ちました、勝ちましたよ」


「僅差で負けたニャ。村で一番速い私が負けたニャ」


 どうやら彼女達はかけっこをしていたらしい。勿論かけっこなんて可愛らしい次元の戦いではなかった。馬よりも速いリーザと僅差であったと言うのだから、ローズの足も相当速いに違いない。


「そうか、良くやったな。リーザ」


(良くわからんが取り敢えず褒めとけば大丈夫でしょ)


「はいっ、ありがとうございます」


「良いニャ、褒められて良いニャ。私も褒められたいニャ」


「……ローズも頑張ったと思うぞ」


「人間に褒められても嬉しくニャいニャ」


(なんだ、コイツは)


「しかし、良い足だったニャ。私達はライバルと言えるニャ?」


「ライバル?」


「敵のことニャ。敵と言っても友達ニャ。だから私達は友達にニャったニャ」


「……初めてのお友達です」


 ううっと目尻を抑えながらリーザはローズと握手する。


「何言ってんのよ、リーザ。私とソウイチロウもあなたの仲間にして友達よ」


 パッと顔を向けたリーザの瞳は少し濡れていた。


 森に入って猫の村へと行った。この村もゴブリンの村と同じで人間の町と同じ建物が立ち並び、秩序ある町並みであった。


「ゴブリンの町と似てるな」


「そりゃ……ニャンでもニャいニャ」


「ん?何か言ったか?ローズ」


「言ってニャいニャ。さっひとまずお祝いニャ。ニャんったって、この村に客人が来るのは5年振りニャ」


 その後もルッツの時と同じコースで進んだ。

 宴に出された料理も人間のものと然程変わりがなく、アリッサが2人抜きを決めたのまで一緒であった。違った点と言えば、リーザが宗一郎ではなくローズの隣で食事を楽しんだことくらいである。中々言い出せないリーザに宗一郎が助け舟を出した結果であった。そのため宗一郎は十分に猫成分を補給できた。特にパオが疲れたのか宗一郎の膝にチョコンと座って寝息をたてたのには感動していた。


 そうして夜が来て、宗一郎は寝床に入った。


「ソウイチロウ?」


「なんだ?アリッサ?」


「ちょっと相談したいことがあるんだが」


「恋の悩み以外ならいくらでも」


「恋って……ゴホン、実はね、ルーさん、私の羽をソウイチロウに見せるように助言してくれた人なんだけど、その人の家に行った時に妙なことを言ってたのよ」


「妙なこと?」


「ええ。確かにこう言ってたわ。『魔族のお客人は半年振り』って」


「それは……妙だな。ルーさんの家だけに客が来たのかな。ほらっ、人間を集落に入れるかどうかは族長の専権事項って言ったから、魔族なら個々人で勝手に招けるのかも」


「そうかもしれないわ。でもこの村とゴブリンの集落に客人が来たのが『5年』ってのも気にならない?」


「気になる」


「ねっ?それにソウイチロウが村長にパオがいた現場が荒らされてなかったことを言った時の、村長の反応も少しおかしかったわよね?」


「ああ、『妙だな』の一言だけで会話が終わったな。ゴブリンの族長と同じ反応なのもおかしい」


「どうなってるの?」


「俺にもわからないよ。でも……心配するだけ損だよ」


「どういうこと?」


「気にしない、気にしない。さあ、明日も早いし、今日はもう寝よう」


 意味有りげな態度をとる宗一郎に不審な点を感じながらアリッサは床についた。


 早朝にいつものごとくラジオ体操をしていると、寝ぼけ眼のパオが宗一郎の屈伸の隙を狙って頭に飛び乗って2度寝をした。そのため宗一郎はなるべく頭の位置を動かさないようにラジオ体操をしなければならなかった。


 そして朝日を浴びながら猫の村を後にした。リーザとローズは涙ながらに別れていた。昨日リーザはローズの家に泊まり、一晩ですっかり仲良くなっていた。そのため2人で寝ることになった宗一郎は中々寝付けず寝不足の状態だった。アリッサも同様である。


 それから3人は旅を続けたが、ルッツやパオのようなことが度々起こり、その都度歓待されるため、王都への旅は遅々として進まなかった。

 中には女の子に「魔物が出た。助けて下さい」と懇願されて向かったら、ただの小さなネズミであった時もあった。おまけにその女の子がイタチの獣人であり、「いやっお前はネズミの天敵だろう」とツッコミをいれた。

 争いの仲裁を頼まれたこともあった。「種族間の争いなので、第3者の協力が必要」と言われて向かったのだが、その内容が「森と森の間の土地はどちらに属するか?」という到底宗一郎には解決出来ない問題だったのには頭を抱えた。「半分にするか、朝夕など時間で変化させるか、月ごとに変化させるか」と色々案を出したが、了承してもらえず「なら、共同管理は?」と破れかぶれに言った所、「「それは良い」」とあっさりと問題が解決した。それ以降その土地は、鷹の獣人と鷲の獣人の共同管理となった。ここでは双方の宴に招かれたため、2日程滞在することになった。

 宗一郎に一騎打ちを挑んだミノタウロスの若者もいた。拒否っても拒否っても頑として聞いてくれなかったため、宗一郎は仕方なしに引き受けて、叩き潰した。それ以降「兄貴」と呼ばれて付き纏われて、修行をつけるために3日滞在しなければならなかった。村を出る際には滂沱の涙を流し、「いつか俺も兄貴に追いつくっす。だから待っていてください」と熱い口調で語りかけられた。


 そんなこともありながら旅を続けた宗一郎はやっと王都へとたどり着いた。勿論道中では各々強くなる為の鍛錬は欠かさなかった。


「やっと、やっとたどり着いたな」


「そうね、1ヶ月で行けるかと思ってたけど、予定外のことが有り過ぎて4ヶ月もかかっちゃったわね」


「雪振ってますからね。冬は食べ物が少なくなるんで、嫌な季節ですよね……今はお腹一杯食べれて幸せです」


 南端にあるタージフの王都はすっかり雪化粧がされており、季節の移り変わりを示していた。


「よし!行くぞ」


「「おー!」」


 この旅を始めた頃のリーザは遅れて返事をしていたが、今では遅れずに返事をするようになった。


 すっかり宗一郎とアリッサに打ち解けていた。

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