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第15話:いざタージフへ


 宗一郎はアリッサにポカポカ殴られた後、再度羽を触らしてくれないかと頼んだがへそを曲げたアリッサに断られた。次に私を助けてくれたら触らせてあげると言われては黙るしかなかった。

 アリッサがへそを曲げたままでは困ると思い、日本の文字で「アリッサ」ってどう書くのか知りたくないか?と聞いたら、そっぽを向いていたアリッサが宗一郎を見て、目を輝かせながらウンウンと頷いた。そして道端にあった木の棒を使い地面にカタカナで「アリッサ」と書くと、アリッサは宗一郎から木の棒を強奪して(受け取り)、何度も真似をしながら地面に書き、完璧に覚えたところで、そういえば「宗一郎」ってどう書くの?と聞いてきた。漢字で教えるべきかカタカナで教えるべきか迷ったが、「アリッサ」をカタカナで教えたこともあって、カタカナで地面に指を使って「ソウイチロウ」と書いた。するとアリッサは先ほどと同様に木の棒で地面に何度も書き完璧に覚えると、まるで先ほどの出来事を忘れたかのように上機嫌になっていた。

 宗一郎は胸を撫で下ろした。


 アリッサと話し合い、十分な食べ物と薪を空間魔法に収納してからタージフへ向かうことになった。薪を採取し、サブタを狩り(サブタは比較的繁殖しやすい為、この森には相当数いる)、魚を水魔法で取り準備を終えると夜になった。いつも通り大樹の一葉の上で寝た。修行時代から寝床としていた一葉の上で寝るのは、これで最後と思うと感慨深いものがあった。タージフへ向かうのは明日である。

 その夜もアリッサは話をねだったので、適当な故事成語を話してから睡眠した。アリッサは異常に物覚えがよく、宗一郎が言った話を全部覚えていて、同じ話をすると「それ前聞いたー」と言われてしまう。そのため宗一郎は毎夜必死に前世の知識を思い出して語っているのだが、このままいくとアリッサに語る話がなくなってしまう。


(ヤバし)


 翌朝、日の出前に起きると、日課の体操をしてからタージフに向かって出発した。うららかな日差しを浴びながら南へ南へと歩を進めた。

 途中で広大な川に出くわしたが、風魔法で驚くほど簡単に渡れた。魔法とは便利なもので、着地に失敗してひと悶着あったなんてことはない。ないったらない。

 そこでふと宗一郎は見慣れぬものを見た。前方に見えるジラソーレが、枝葉の下に何やら実のようなものを生やしているのだ。


「おいアリッサ。前方のジラソーレが実をつけているんだが?」


「あっホントだ。タージフに近づいている証拠だね。ジラソーレはね、タージフの北側にあるショール川で生態が異なるんだよ。ショール川以北に生息するジラソーレは、獲物から水分を吸い取り栄養に変えて成長する。ショール川以南に生息するジラソーレは水分を吸い取ってミイラ化した生物を、地中に埋め水分を貯める貯水槽を作る肥料にするんだよ。つまり実みたいに見える物体はただの貯水槽。これまたジラソーレから刈り取っても2束3文にもならない。むしろジラソーレ自身の水魔法の使用回数が増えるという人間にとっては大変迷惑なものなんだよ」


「何だソレ。相変わらず最悪の魔物だな、ジラソーレって」


 当然宗一郎とアリッサは迂回してジラソーレに近づかずに先に進んだ。


 歩き疲れて日も落ちてきたので、また手頃な大樹の一葉の上で寝た。

 この位置は非常に便利である。虫や鳥くらいしか登ってこれない上に、数も少ない。10日に1回遭遇すれば良い方である。つまり安心して寝れるのである。

 魔の森生活でピョートルが戦ったワイバーンの姿はチラリとも確認できなかった。相当な深手で負傷しているのだろうか?でも2ヶ月も前のことだからなーと考えてみたが、詮なきことなので止めた。

 宗一郎は結界魔法を発動させてから就寝した。


 明朝、日課の体操中にアリッサがもうすぐでタージフ領だと教えてくれた。なんでもタージフ独特の植物が見えてきているとの事だった。博識なアリッサは頼りになる。


 それから歩き続けると昼前には森の終わりが見えた。

 やっとこの森を抜け出せるーー苦節2ヶ月と3日、ついに屋根がある場所で寝られる時間が近づいている喜びを噛み締めながら歩いていると、森の外で2人組が待ち受けているのが探知魔法で感知された。


「アリッサ、森の外で2人組が待ち構えているんだけど、検問とかあるのか?」


「聞いたことないなー。そもそもこの森から人が抜け出てくることは想定してないはずだからね。ほら、ユティエ村にもなかったでしょ?」


「ユティエ村って?」


「私が前住んでいた街だよ」


「そんな名前だったのか。初耳だ」


「ウソッ、言ってなかったっけ?あっ、言ってなかったかも。ごめんね」


「まぁいいよ。ってことはあの2人組は何なんだろうな?」


「どんな2人組なの?」


「……1人はゴテゴテした鎧と剣を持っている男だな。馬に乗っている。ってか馬いたのか。欲しいな。移動がずっと楽になる。っともう1人は……アリッサさん、頭の上に犬耳のようなものをつけた少女がいるんですけど、あれはもしかして犬の獣人でしょうか?」


「犬耳がついているならそうだね。間違いないと思うよ。タージフは元々獣人や魔族を差別なく扱っている国だからね。それが理由で他の6カ国には蛮族扱いされてるんだけど、私からしたらどっちが蛮族かわからないよ。ってソウイチロウ歩くの早くない?ちょっと待ってよ」


(そりゃあ早足にもなりますよ。目の前には犬耳少女がいる。そう聞いただけで心が踊るってもんだぜ)


 宗一郎は早る足に任せて進んでいくと、背後からビチャっと水を浴びせられた。アリッサの魔法である。振り返ると怒り顔のアリッサがいた。

 宗一郎はアリッサが追いつくのを待ってから一緒に進んだ。

 

 そして、とうとう魔の森を抜けた。


 宗一郎の目に飛び込んできた光景は、期待通りの、いや期待以上のものであった。


(晴れ渡った空?地平線?そんなものは今は関係ない。目の前にはリアル犬耳少女がいるのだ)


 白い犬耳をチョコンと頭に載せた、金髪で、もじゃもじゃ髪、くりっとしたお目目に、健康そうに焼けた小麦色の肌、真っ白い尻尾、着ている服はボロボロで裸足だが、まごうことなき美少女犬獣人との出会いだった。


(ビバ異世界)


 服は所々が擦り切れて、何回も繰り返し着ている様子が伺えた。髪の毛はボサボサで手入れが全くなされてない。

 こんな子が何故と考えている宗一郎の耳に、キンキンと五月蝿い声が響いてきた。


「そのほうら、少々話を聞かせてもらいたい。私はこの近くに住む貴族シャフタール家当主ジリ・シャフタールが次男ロンベルク・シャフタールである。2日前にこの魔の森から龍が昇ったという話を聞きその調査に参った次第である。そのほうらがこの森を抜け出てきたところは見ていた。何か知っていることはないか?またそのほうらは何者だ?」


「犬獣人さん、初めまして。私は宗一郎と言います。私は獣人を初めて見ました。可愛いですね。モフモフしたいですね。大変不躾なお願いですが、その犬耳を触らせてもらえないでしょうか?」


 宗一郎は犬獣人に近づき頭を下げる。


「ダメよ」


 アリッサが宗一郎の耳を引っ張り後ろへと引きずっていく。


(あぁそんな無情な。まだ答えも聞けてないのに。確かに初めて犬獣人を見てテンションが上がりまくって、ハメを外したのは認めよう。でも一触りくらいしたかったなー)


「そのほうら、我を馬鹿にしておるのか。このロンベルク・シャフタールが話を聞きたいと言っておるのだぞ。普段庶民が口を聞くのも恐れ多い貴族が話を聞いてやろうと言っておるのだぞ。また我を無視して奴隷であるリーザに話しかけるなど言語道断。これ程の恥は初めてだ……ようし。話したくないなら話させてやる。決闘だ。そこの男よ」


 突然見知らぬ男から決闘を挑まれた宗一郎は異世界荒っぽいなとは思ったが、より気になる事実があった。


(奴隷?リーザっていうそこの犬獣人の少女は奴隷なのか?えっ、でも獣人は差別されてないってアリッサから聞いたな)


 宗一郎は問うような視線をアリッサに向けた。


「獣人や魔族は差別はされていない。国王の政策だからね。だからといって奴隷がいないわけじゃない。この国にも人間の奴隷がいると同様に一定数の獣人と魔族の奴隷はいるのよ。まぁもしかしたらこの土地は辺境だから国王の目を盗んで悪さをしている可能性があるけどね」


「見くびるな粗末な女よ。我が家は、しかと国王の命を聞き、国境を守護する役目を授かっているのだ。そのような国王の政策に反発するようなことをするはずがない」


「粗末な女ですってーーー。ソウイチロウ、私がこいつの相手をするわ」


「いやっ俺が相手するよ。アリッサは見ててくれ」


 血走った目をしたアリッサに向けて言う。宗一郎にとっては初めての対人戦である。自分が対人戦でどれほど戦えるのかを見極めたい思いがあった。


(ここは譲ってもらおう)


「……わかったわ。怪我したら治してあげるから存分に戦ってきなさい」


「おう、ありがとなアリッサ。ところでロンベルクだっけ?そのリーザって子は戦わないのか?」

 

 宗一郎は初めてマジマジとロンベルクをみた。


 ゴテゴテした鎧を身につけており、年齢は15といったところか。顔立ちは整っていて間違いなく美少年といえる。身長は160CM程度でアリッサと同じくらい。茶髪で短く切り揃えられた髪型は如何にも貴族のお坊ちゃん風であった。陽の光を反射して輝いている高そうな剣を持つには不釣り合いと思えるほど、やせ細っていた。


「リーザ?リーザは探索のために連れてきただけだ。戦闘をするためではない」


「お前よりずっと強そうに思えたんだがな」


「リーザが我より強い?そんなはずがあるまい。ただの奴隷に宝剣を持った我に勝てる道理などない」


「まぁいいや。じゃあそっちのタイミングで始めてくれていいぜ」


「ふむ。その前に一つ忠告しといてやろう。我が家に伝わるこの宝剣は先々代の当主が行商人から『何者も切り刻む剣』と紹介されて買い取り家宝にしたものだ。つまりお前がどんな立派な盾や剣を持っていたとしてもこっちには通用しないことを知れ」


(何者も切り刻む剣ときたか。誇大広告も甚だしいな)

 今日は2話投稿します。次は21時予定です。予約投稿を初めて使うのでミスるかも知れませんのでご容赦下さい

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