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何でも出来て何にも出来ない男が平穏無事な生活を手に入れるまで  作者: 大山秀樹
第1章:仲間をつくろう
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第11話:アリッサ発見


 宗一郎はアリッサの跡を追った。

 アリッサは既に魔の森へと入ったようで姿は見えない。探知魔法だけが頼りである。

 宗一郎が魔の森に入るとポツポツと雨が降ってきた。タイミングが悪い。雨は探知魔法の精度を著しく下げる。強くならないでくれよと宗一郎は心の中で念じた。


 願いも虚しく雨は強さを増し土砂降りになった。宗一郎にはその雨がアリッサと自身を分かつ神のイタズラのように思えた。


(神になんか負けるかよ。こちとら『女神』の『加護』を貰ってるんだから)


 この雨だと宗一郎の探知魔法は範囲が半減するくらいだが、アリッサのは殆ど効果がない。早くアリッサを見つけないと危険である。

 宗一郎はアリッサが今日起きた場所に帰ったと当たりをつけた。


(急がないと)


 森の中は障害物や魔物が多い。さらに大雨によって人里に降りる時につけた目印も所々消されている。それを探知魔法を使い補いつつ進んでいく。最後は魔の森で暮らした2ヶ月間で身についた野生の勘を頼った。

 宗一郎は風魔法を全身にかけ飛ぶように走っているが、大雨で風魔法も本領を発揮出来ていない。障害物で服は擦り切れ、魔物との戦闘で皮膚に裂傷を追ったが宗一郎が気にすることはなかった。

 早く。

 とにかく早く。

 


 早朝に宗一郎が1人でラジオ体操した場所に着いたがアリッサはいなかった。


(クソっ。ここじゃなかったか。アリッサはどこだ?修行中はコロコロ拠点を変えていたから、候補がありすぎる。……焦るな。焦るな)


 アリッサは知り合いの村人に拒絶され精神的ダメージを負った。そして無我夢中で走りだした。そこに深慮は無い。自然と足が向くままに走っただろう。

 そうして行き着く先は………


 

 やっぱりね。それが私の感想かな。

 そうだよね。追い出された所に戻ろうとするなんてどうかしているよね。

 でもソウイチロウと一緒ならって、一緒なら大丈夫かなってそう思ったんだ。結果は散々だったけどね。

 あーあ、あの後ソウイチロウは私のことをシンさんに聞いているよね。

 シンさんが全て知っている訳ではないけど、私が魔族と混血だって知っちゃったよね。ソウイチロウは魔族でも大丈夫って言ってたけど、実際その魔族が2ヶ月隣りにいて、正体を隠していたって知ったらどう思うんだろ?

 正直に告白した方が良かったかな?


 でも……嫌われるのが怖かった。


 この世界で唯一優しくしてくれた人。

 奴隷も魔族も差別しないって言ってくれた人。

 私に食べ物をくれた人。私1人じゃ満足に狩りも出来ないからね。ちょっと現金かな?

 毎夜面白い話を私の求めるままに、嫌な顔せずにしてくれた人。

 数多の魔法を使えるのに、出会った頃にはコントロールがさっぱりで見当違いの所に魔法を撃って私を笑わせてくれた人。

 でもこの2ヶ月で尋常じゃない努力をして魔法のコントロールを身につけた人。

 就寝中ずっと結界魔法を貼ってくれた人。おかげで危険な森で見張りをせずに安眠出来たんだ。有り得ないことだよ。そんな魔力をもった人間なんて見たことも聞いたこともない。

 そして……一緒にいてワクワクさせてくれて、疲れず、時折するなにげない行動が私の胸をときめかせてくれる人。

 

 世界に捨てられた私が、何もかも失った私が、そんな人から嫌われたら……生きていられない。

 ーーだから隠した。

 例え隠すことがソウイチロウに対する背信になるとしても私にはその方法しかなかった。


 これ以上……大切な人を失うのには耐えられない。


 ごめんね、ソウイチロウ。


 色々と隠していたことを謝ります。誠心誠意謝ります。

 だから……またいつもみたいに笑いながらおしゃべりしてくれないかな?


 そしてできればこの先もずっと一緒に…



(いた!探知魔法にアリッサが引っかかった)


 膝を抱えて座っている。怪我もなく無事な様子で宗一郎はほっと一息をついた。魔物にでも襲われてないか不安でたまらなかったからである。

 アリッサは宗一郎と初めて出会った泉にいた。ほとりでしゃがんでいる。

 寝床ではなかったら、ここしか無いと思っていた。様々な場所を巡ったとはいえ、宗一郎とアリッサの一番の思い出はここである。


(初対面が強烈だったからな)


 思い出の泉はこの大雨により水位を増し今にも溢れそうである。

 宗一郎はアリッサとの距離を詰めていく。

 すると自然とアリッサより奥の光景も探知魔法で見渡すことが出来た。宗一郎はそこで目を疑うような光景を感知した。

 1頭のケンタウロスが泉に近づいてきていたのだ。


(ケンタウロス?泉が氾濫して放流される魚でも狙いにきたのか?……ってそんなことは関係ねー)


 宗一郎は混乱しそうになった頭を瞬時に立て直した。

 問題はアリッサと接触するのが宗一郎よりケンタウロスの方が早いことだ。泉を挟んでではあるが、ケンタウロスの斧なら泉など問題にもならないだろう。アリッサはケンタウロスの接近に気付いていない。宗一郎のスピードはこれ以上上げられない。

 つまりアリッサとケンタウロスが接触する前に、アリッサにケンタウロスの襲来を知らせるか、ケンタウロスを排除しなければならない。

 しかし宗一郎の自身を冷静に分析して、攻撃という選択肢は捨て、ケンタウロスにアリッサを発見させない方法をとった。

 

(そうと決まれば、目くらましだ)


 宗一郎は右手に魔力をため、座標地点を泉の上空にしてこう叫ぶ。


「【ナイアガラの滝】」


 泉の上空に出現した大瀑布はあらゆる生物、雨粒を飲み込み泉に注ぎ込んだ。

 宗一郎は2ヶ月の修行の成果で遠距離魔法も可能になっていた。人間の掌くらいの巨大な蚊が、逃走する際に遠距離の火魔法を撃ったのを見たおかげである。宗一郎は足元から噴き出してくる火を見て、蚊がこんな魔法を使えるのかと驚嘆した。それまでは自分の掌からしか魔法を出せなかったが、遠距離から魔法を放てるようになった。遠距離魔法は難易度が高く、宗一郎みたいに1km届く魔法使いは早々いないと、アリッサはため息をついていた。

 宗一郎の水魔法は予想通り目くらましにもなったが、予想外の効果も出てしまった。この大雨で満水状態だった泉が、宗一郎の魔法によって決壊したのだ。冷静に考えれば予想出来得ることだが、アリッサを守ることで一杯一杯だった宗一郎はそのことを考慮に入れてなかった。


 泉は決壊し周囲に水が溢れだした。

 それは鉄砲水のようになり、ケンタウロスとアリッサを押し流した。宗一郎は足を止め、流れてくるアリッサを抱きしめ共に流されることにした。

 なぜならば走っている時に、ある植物の群生地を見つけたからだ。その地点を宗一郎は背にしていた。

 宗一郎がピョートルの指導で水魔法をぶちかました際に、その水を吸い取ってくれた植物ーーメゾニウムの群生地であった。

 因みにメゾニウムは地表に埋まっている青紫色の植物だ。人間大ほどの大きさで非常に弾力があり、上に立つとトランポリンのようにジャンプ出来る。宗一郎は修行中に3回転を決めてアリッサに称賛された。

 アリッサと共に流された宗一郎はメゾニウムの群生地の中頃で止まった。大量の鉄砲水をメゾニウムは吸収しきった。


(とんでもない吸収力だな)


 抱きしめられた相手が宗一郎だとわかり困惑するアリッサに、宗一郎は有無を言わさぬ口調で、「何も言わず付いてきて」と言い、手を取り走った。

 確かにアリッサの手の甲を掴んで走り始めたのだが、いつの間にか掌と掌が繋がれていた。


 10分ほど走って大樹の根本に来た。そして2人で木をよじ登り、大きな大きな、人の家がすっぽり入りそうな一葉の上に乗った。ここは修行中に宿にしていた場所である。2人が乗っても、この雄大な一葉はびくともしない。


 2人は向い合って座った。まだ昼のはずが大雨のせいで夜のように感じられる。

 宗一郎はアリッサとの間に火の玉を作り、暖を取ると同時に服を乾かした。


 ここまでアリッサは無言だったが、いざ宗一郎が口を開こうとすると片手を目の前に出し、指を広げ「待って」という意思表示をしてきた。その意図を汲み、黙るとアリッサは大きく深呼吸をして喋り出した。


「まずは助けてくれてありがとう。あの滝の魔法はソウイチロウのだよね?修行でみたことあるよ。あの滝を見た瞬間に、ソウイチロウの魔法だってわかったよ。でもソウイチロウがなんでこんな魔法を使うんだろ?って考えてみたら、私が探知魔法を使ってないことに気づいて、慌てて使うと泉の向こうにケンタウロスが来るのが見えたわ。あぁだからこの魔法を使ったんだって納得したよ。ありがとう。また助けられちゃったね」


 アリッサは笑顔を見せて、座ったままお辞儀をしてから続ける。


「それでね。たぶんシンさんから色々私について聞いただろうけど、私のことは私が話したい。今まで隠していたけど決心ついたよ。私の生い立ちからこの森に来るまで、洗いざらい話すから聞いてくれる?」


 宗一郎の目を真っ直ぐに見てアリッサは言った。

 宗一郎の答えはもう決まっている。


「あぁ話してくれ。茶髪のおっさんからある程度は聞いたがお前から聞きたいんだ。お前の言葉で、お前の声で……お前のことを語ってくれ」


「うん。わかった。でもこれを聞いちゃうとソウイチロウの夢である平穏無事な生活を送ることが出来なくなる可能性があるんだけど、それでも聞いてくれる?」


 平穏無事な生活ーー宗一郎が追い求めているモノ。

 でもそこには幸せに過ごしているという大前提が必要だ。

 アリッサの話を聞かずにどこか安全な場所を見つけて暮らしたとしても、ずっと心にモヤがかかったような状態になるーーそれは幸せと言えない。

 何より宗一郎はアリッサに何があったのか聞きたいと強く感じていた。

 こんな良い子がなぜカルドビアで指名手配なんてされているのか?その理由が知りたかった。


「勿論だ。今の俺には平穏無事な生活という夢よりアリッサの方が大事だ。だから聞かせてくれ」


(なんか告白っぽくなったが気にしないでおこう)


「ありがと。その言葉で勇気を貰えたよ。長くなると思うけど私の話を聞いて下さい」


 そうして宗一郎はアリッサから話を聞いた。


 それは小説に出てくるような話だった。



(事実は小説より奇なりとはよく言ったもんだ)

 次話はアリッサの話になります。自分の文章力が足りず少し長くなってしまいました。しかし区切ると流れが悪くなってしまうのでそのまま投稿することにします。明日中には投稿したいを思います。

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