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星空の下で  作者: 春野涼
3/4

再会

体育館の二階が更衣室になっているので、わたし達はそこで体操服に着替える。



今日の体育はバスケだ。



葵はバスケ部で莉子は元陸上部のため運動神経が2人とも抜群だ。対照的に茶道部のわたしと吹奏楽部の悠里は文化系の部活の所属で分かるように運動が苦手である。



わたしは、運動苦手同盟を組んでいる悠里に向かって改めて同意を求めた。



「わたし達ってシュート入ったことないし仲間だよね?」



悠里が味方だ。そう思っていたが、返ってきた言葉はわたしの求めていた言葉ではなかった。



「あ、わたしこの間の体育でようやく念願のシュート決めたよ!」



悠里は笑顔でわたしに答える。



……えっ?嘘でしょ。悠里さん、今なんておっしゃいました?



わたしはポカンとして悠里の言った意味が分からず、もう一度心の中で悠里の言葉を復唱した。



『念願のシュート決めたよ!』



そして、意味が分かったわたしはビックリして悠里にたずねた。



「うそっ!悠里、とうとうシュート決めたの?」



「うん!でね、ちょっとコツもつかんだしバスケ好きになったかも」



「そっか……、おめでとう。とうとうシュートを人生で経験していないのはわたしだけかぁ」



わたしは、はぁっとため息をついて肩を落とした。



……気合いだけはあるんだけどな。



そう思っていると葵が後ろからガバッと抱き締めてきた。



「そんなアヤナが大好きだよー」



「わたしもー」



莉子もわたしの肩に体重をのせる。



ふ、2人の愛が重い。

物理的な意味で。



わたし達は着替え終わったので、1階に降りた。



1階に降りると、そこには成瀬君達と着替え終わった女子数人が話してた。

どうやら、成瀬君達はバスケットボールを片付けに体育館に来ていたようだった。



「今日見てたよ! スリーポイント格好よかった!」



「マジで! あっ、でもゴメン……。次からスリーポイント決めたら一人見物料500円とるって決めてるから毎月の小遣い100円の千夏はもう俺の勇姿、見れねぇな」



「お小遣い100円じゃないし! じゃあ、次スリーポイント決めれなかったら罰金500円ね!」



「うわっ! マジかよ高ぇ! 毎月100円の小遣いをもらっている俺の身になれ!」



成瀬君が頭を抱えながら言うと、 周りの皆が「お小遣い安すぎだろ!」と爆笑した。


成瀬君の発言が面白くてわたしも笑ってしまった。



その時、成瀬君と目があった。



「ん? あれ? もしかして、昨日ぶり?」



成瀬君が私に近づいてきて言った。



「翔太の知り合い?」



身長が180cmほどはあるだろうか?

背の高い良介君が首を傾げて成瀬君にたずねている。



「んー、昨日会った。よな?」



成瀬君が自信がないのか疑問系でわたしに聞いてくる。



「何でそこ、疑問系なの?」



そう笑いながら突っ込んだのはテレビのアイドルにいるような可愛い系の顔の光輝君だった。



「会ったの夜だったから。……で会ったで正しい?」



成瀬君がもう一度聞いてきた。



昨日チャラいと思った女の子はわたしだとバレたくないという気持ちと成瀬君に顔を覚えていてもらえたい。そんな気持ちが交差した。



……昨日はチャラいと思ってごめんなさい。


わたしは罪悪感の気持ちを含みながらたじろい気味に



「はい」



と答えた。



成瀬君は昨日のやりとりを思い出したのか小さく吹き出しながら



「気にしてねーよ?」



と言ってイタズラっぽい笑みでくしゃりとわたしの頭を撫でた。



それと同時に予鈴がなり黒縁メガネの広哉君が慌てたように言う。



「あっ! やべっ! 次、岡田の数学の授業じゃん。早く戻らないとまた、ネチネチ言われ るぞっ!」



「そうだな、じゃあ、またなっ!」



成瀬君が手を振って帰っていった。



いきなり髪を撫でられたので顔が赤くなったのかもしれない。



顔が赤くなったわたしに、莉子から「恋は体育館に落ちていましたね!」とからかわれたのは言うまでもない。



成瀬君達が帰った後



「アヤナ頭撫でてもらってずるーい」


「やっぱり、翔太ってカッコいい!」



と女子達がキャアキャア盛り上がっていた。



「二人ってどんな仲なの?」


「綾瀬さんは、誰派?」



周りの女子から質問攻めをされたが



「授業始めるぞー!」



ホイッスルを鳴らして体育の先生が「集合」と合図をかけてきた。

神だ。救世主がやってきた。



「はーい」



わたしは質問から解放されてホッとした。



本当に成瀬君達って人気者なんだなぁ……。



そして、バスケを始める前に全体で準備体操を始めた。



「まさか、翔太と知り合いだったとは」



そう準備体操の時に、話しかけてきたのは莉子だ。ニヤニヤしながら



「ああいうのがタイプなの?」



とわたしに質問してきた。



確かに格好いいけど昨日会ったばかりだし、どんな人なのかも分からない。

第一、恋がどうゆうものなのか分からないのに。




「もう、からかわないでよ」



と莉子に言った。



「ゴメンゴメン! 人の恋バナ聞くの好きだからさぁ。許して。でも、本当に好きな人できたらいつでも相談してね」



「ん、ありがと」



準備体操を終えて、バスケの試合が始まった。



バスケの試合ではAからDの4つのグループ対抗戦だ。私と莉子がA、葵がC、悠里がDグループだ。



グループ決めは体育の時間、毎回変わる。



何度かシュートするチャンスがわたしに巡ってきたが、いつもながらゴールからボールが外れる。



……うーん、ゴールにはいるイメージはできているんだけどなぁ。



昼休みに成瀬君がスリーポイントをいれた時のことを思い浮かべた。



結局、人生初のシュートは叶わないまま休憩にはいりローテーションで数試合した後、体育の時間が終わった。



そして、その後はいつも通り午後の授業を1時間過ごした後、帰宅することに。



「じゃあ、今日は先に帰るね! また明日ー」



「うん、また明日ねー」



莉子は敦君との約束のため教室で別れた。



わたしも今日は部活もないし少し図書室寄ってから帰ろうかな。



毎週火曜日と金曜日が活動日の茶道部だが、今日は木曜日だから部活は休み。



図書室の扉を開けて、以前から借りたいと思っていた本を数冊手に手に取り椅子に座って読むことにした。


わたしは本に集中すると周りの音が聞こえなくなる。本はその世界に簡単に行くことができるので好きだ。



今日は、主人公が旅にでてそこで出会う人との交流や苦難を描いたファンタジー小説を読んでいた。



しばらく、黙々とページを読み進めていたがふと辺りが気になって周りをみまわす。



すると、気づいた時には図書室にいたのはわたしひとりだけになっていた。



……本を読んでからどのくらい時間が経過したのだろう?初夏だから辺りはまだ明るい。



時計を確認すると時刻は17時30分を回っていた。



……あれ?こんなに時間が経っていたんだ。そろそろ帰ろうかな。



続きは家で読むことにしてわたしは貸し出し手続きを行ったあと、バックに本をいれて、図書室を出た。



帰ろうと玄関へ向かう時、



「綾瀬!」



後ろから名前を呼ばれた。



誰だろうと思って後ろを振り向くと声の主は2年3組の担任の中原先生だった。



中原先生は荷物を抱えていて



「悪いがこの資料を2年3組の教壇に置いてきてくれるか? 先生、これから会議なんだ」



と申し訳なさそうに頼んできた。



……けっこう量が多いなぁ。



わたしは先生からこういう雑用をよく頼まれる。

頼みやす のかな?


別に大した用事もなかったので



「分かりました。持っていきますね」



と言い、中原先生から荷物を受け取った。



引き受けたはいいけど……。

うぅっ…。けっこう重い。



「ありがとな、よろしく頼むぞ!」



中原先生は笑顔で足早に去っていった。



2年のクラスは3階にあるからわたしは、重い荷物を運ぶために腕をプルプルさせながら階段を登る。



……なんとか、資料を落とさず2階まで登り終えたけど腕がきついなぁ。でも、あと1階分頑張れば3階だ。



気合いを入れて3階を登り始めた時



「えっ?ちょっ!大丈夫?」



と慌てたように声をかけられた。声の主は成瀬君だった。



成瀬君は腕をプルプルさせながら重そうに荷物を運んでいたわたしにビックリしたんだろう。



「俺が持つよ、貸して。どこまで運ぶの?」



とヒョイとわたしの持っていた荷物を軽々持った。



「2年3組に持っていってほしいって中原先生が」



「マジか! こんな重い荷物を女子に持たせるなよ。うちの中センがご迷惑おかけしました」



成瀬君が何故か保護者みたいに言うので笑ってしまった。



……それにしても違うクラスなのに今日はよく会うなぁ。



成瀬君の隣に並んで2年3組へ向かう。



「これ教壇の上に置けばいいの?」



教室に到着すると成瀬君が振り返ってわたしに聞いていた。



「あっ、はい、運んでくれてありがとうございました」



「うぃー」



ニッと成瀬君は人懐っこい笑みを見せたので、ドキッとした。



……なにドキドキしてるんだ、私は。



それに、もともと人見知りもあってわたしは緊張してきた。



えーっと……話題。



「成瀬くんは、部活だったんですか?」



急に話題変わって変に思われたかな?



少し心配していると



「俺は帰宅部。今日は日直だから、日誌を提出するために職員室に行く途中でえっと……」



「綾瀬です」



「綾瀬さんに会った」



「職員室に行く途中だったのに手伝わせてすいません」



「ん? 気にすんな。綾瀬さんは今から帰るの?」



「あ、はい」



「じゃあ、ついでに1階まで一緒に行こうぜー」



成瀬君が笑って教室を出たのでわたしも成瀬君の後に続いて教室を出た。



2人で廊下を歩いて、1階へ降りた時、成瀬君が



「そういえば……」



と口を開いた。



その時



パリンっ!!



けたたましい音がなった。




「危ねぇ!」



音がなったのと同時に成瀬君がいきなりわたしを抱き締めてきた。



……えぇぇぇ!!



何が起こったのか分からずビックリしてわたしは呆然としていた。



「大丈夫? 怪我ない?」



我に返ると成瀬君が心配そうに聞いていた。目の前では窓ガラスが割れていた。



「あっ……。大丈夫です。ありがとう」



(庇ってくれたんだ)



成瀬君がホッと息をついた。



すると、窓の外から数人の男子の声が聞こえてきた。



「やべー、窓ガラス割れたぞ! 人もいた!」



「マジかよ!謝ってくる!」



窓ガラスを割ったと思われる1人のテニスラケットを持った男の子がわたし達に近づいて声をかけてきた。



「ゴメン!大丈夫?」



男の子が慌てたようにわたし達の様子を見て謝ってきた。



「ガラス割ったのニッシーかよ! 危ねー」



……成瀬君の知り合いかな?首を傾げていると成瀬君がわたしに説明してくれた。



「綾瀬さん、ごめんな。こいつはうちのクラスの西野」



「ゴメンね! 怪我なかった?」



西野君が心配そうに聞いてきたので



「あっ、大丈夫ですよ。怪我もなかったので」



西野君を心配させないようわたしは笑顔で答えた。



「ニッシー、魔球だすのはいいけど少しコントロールしような?」



成瀬君は苦笑い気味に言い



「本当にゴメン! 気をつける。すぐ掃除するなっ!」



「俺も手伝うわ。んじゃ、綾瀬さんここで」



「あ……、はい」



……もう少し成瀬君と一緒に居たい。



わたしは自然とそう思った。



何で一緒にいたいのか?

その気持ちに言葉をつけるとするなら……。



込み上げてくる初めての感情を自覚するのに時間はかからなかった。



体育の時間に莉子から言われた言葉を思い 出した。



『ああいうのがタイプがなの?』



もしかしてわたしは。



……わぁぁぁ!



わたしは、顔が赤くなっているのがバレないように成瀬君達に背を向け



「じゃ、じゃあここで! さようなら!」



と言って走り去った。



全力疾走で走った。



今なら、運動神経抜群の葵や莉子に負けないかも。



そんなバカな事を考えるほど、わたしの頭がパニックだった。



だって…、だって昨日会ったばかりだよ?



わたしはしばらく走った後、息を切らせて立ち止まる。



ここまで来れば、知ってる人はもういない。知ってる人に会ったとしても顔が赤いのは「走ってきたから」と弁解できる。



わたしは 、もう一度夜の空気を大きく吸いこみ深呼吸した。



……明日、莉子に相談しよう。



はぁっとため息をついて足取り重く、とぼとぼと自宅へ帰った。






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