異世界のスカーレット超外伝:人物の呼称方法、主に敬称、王侯貴族の呼び方について
先日、本作品を読んでくれた知人と話している最中に、「何でハインツが最初は『一条嬢』なのに最後は『千鶴さん』なんだ? ってか、そもそも『一条嬢』じゃなくて『千鶴嬢』じゃねーの?」という質問を受け、思わず全力全開でポッカ~~~~~~~~~~~~~~~ンとなりました。
どうもこうも……できれば、私のこの反応の意味が理解できない方は、できれば、できればで構いませんので、以下の注意事項をお守り頂ける前提でになりますが、これをお読み頂ければ幸いです。もうこの機会に前々から思っていたことを――
――全・力・で! 主張させて頂こうと思っております。
一応、内容の性質上、批判も入っているので、そういうのをご覧になって過敏に反応される方は申し訳ございませんがご遠慮下さい。特に後半はもう完全にディスっていると私自身思わざるを得ない内容になっておりますのでご注意下さい。
基本、例として挙げられる際は本編『異世界のスカーレット』の登場人物を用いております。
特に多いのは、
一条千鶴(一般人)
ベアトリクス=ファン・クラウンディ(王女)
アレクサンドル・ラヴァリエーレ=ランスロット(卿)
です。これを念頭に置いてどうぞ。
:前半
本作品内で『嬢』『ミス』『マドモワゼル』のように敬称付きで呼称する場合、ラストネーム以降を持つ人間は必ずそちらで一貫して呼ばれております。というのも、ファーストネームで例えば『ミス・ベアトリクス』なんて呼ぶのは本来ほぼ有り得ないのです、少なくとも英語では。極めて例外的に、呼ばれる本人が『ミス』付ければファーストネームでいいよ、と自己申告した場合はOKになりますが。
ファーストネームを敬称付きで呼ぶなら基本的には『ミス・ベアトリクス=ファン・クラウンディ』とフルで呼ばなければなりません。『ミス・リクシー』なんて尚更、こっちはもう論外です。他作品において、そういう表現がまるで一般的で、むしろ「恋人でもないんだから敬称付けて当然だろ?」くらいの雰囲気で用いられているのをよく目にするのですが、それはまあ、その世界の呼び名基準ということで納得できるにしても、私には凄まじく違和感があるので、初っ端から一貫してそのように表現しております。
ハインツが最初は『一条嬢』と呼んでいて、別れ際は『恵子さん』『千鶴さん』と呼んでいたのは親しくなったからで、『さん』が付いていたのはあくまでも彼の人格から日本語に意訳されて彼女たちにそう聞こえていたからで、表記が日本語なので独り言でもそう表現させて頂いておりますが、本人は『恵子』『千鶴』と呼んでいる……という作者脳内設定です。
仮にもし、本作品が全部英語で映画かアニメにでもなった場合、別れ際のハインツを演じる役者は『Keko』『Chizuru』と呼んでいますが、字幕では『恵子さん』『千鶴さん』と書かれているとご理解下さい。この現象は普通にあります。ファーゼの『リドウくん』も同様です。日本語的にはそのくらいの親しさだと『さん』とか『ちゃん』とか付けますから。
翻訳家が優秀で、ちゃんと『意訳』ができる人であるほど、この現象は頻発します。
『嬢』や『殿』のようなきっちりした敬称付きの場合は絶対に苗字で呼ばれております。リドウの場合はラストネームが無いので『リドウ殿』『リドウ様』と呼ばれていますが。
なお、ベアトリクスがいつまでも日本人少女たちを苗字呼び捨てなのは、彼女の立場で彼女たちを同格として親しく呼ぶのは難しいからです。彼女自身は友人と思っていても、彼女たちを同格と看做すなんて周囲が許しません。この世界はそこら辺、リアリティ重視です。ハインツは彼女と殆ど同じ立場のはずですが、あの時はあくまでも『ただのハインツくん』だったからです。
他作品の世界はファーストネームを敬称付ければ気軽に呼んで良い、もしくは名前にも敬称付けるのが一般的な世界でも、少なくともこのルスティニアは『リリィ』や『リクシー』の呼称が特別であるように、『ラストネームは誰でもOK<ファーストネームは親しい知人<ニックネームは極めて親しい間柄』という、まだ物語内で正確には語られていませんが、そのような公式設定があります。
ファンタジーのご多分に漏れず、本作品もどちらかと言うと洋風の世界観なので、登場人物たちの感覚も西洋人寄りにした方が私自身の執筆する上での脳内イメージがしっくりくるんです。多分そこら辺は既にお気づきの方もいらっしゃるかなとは思いますが。
:後半
注意!
ここから先は姓名の呼び方についてより詳細な説明になります。これをご覧になれば、あまりに酷い言い草だという意味の強烈なインパクトによって二度と間違うことはないでしょう。
ですので、私の知識が間違っていたら、「ここは違う」というご指摘は甘んじて受け入れますが、「ディスってんじゃねーよ!」という類の抗議は一切お受けできませんので、何をお読みになってもご気分を害されない自信がおありな方だけお読み下さい。
超注意!!
特に貴族がバンバン出張ってくるような物語をご自分でお書きになられている方はかなりご気分を悪くされる可能性が高いと言わざるを得ませんので、切実にお願い致します。
よろしいでしょうか?
ではのっけから飛ばして参りますので、お覚悟を。
『嬢』ってほぼ最上級の敬称です。そこをまずご理解下さい。
文化の違いと言ってしまえばそこまでなのですが……何せ明確に『さん』に相当する敬称が基本的に存在しませんからね、西欧圏の言語には。正確には、というか近い意味でというか、日本で名前を呼び捨てにするのが極めて親しい間柄での呼び方だとすれば、あちらではそれが愛称で呼ぶ行為に相当するのですが。
つまり、日本で『一条様』ならあちらでは『ミス・イチジョー』、『一条さん』なら『チヅル』で、『千鶴』なら例えば『チヅ』とか言った感じですかね。これもあくまで“近い”というだけで正確なニュアンスは大分違いますが。『ミス』=『さん≦様』というか……。申し訳ございません、正確なニュアンスを端的に表現しきるには私の言語能力の範囲を越えます。
でも日本でだって砕けた場や間柄でしか用いないはずのファーストネームの方に付けて『恵子嬢』とか『千鶴嬢』って呼ぶとか、冷静に考えて有り得ないでしょう! 『嬢』付けて堅く呼びたいのか、『恵子』と砕けて呼びたいのか……意味が理解できません、申し訳ありませんが。
だってこれ、『~~家のご令嬢』を短縮した意味ですよ、本来。『嬢』の直訳の『ミス(英)』とか『マドモワゼル(仏)』とか『フロイライン(独)』とかも完全に同じ意味です。多少のニュアンスは違いますけどね。マドモワゼルとか、どちらかと言えば、それこそ『お嬢さん』という意味の方が近かったりしますし。用い方は基本的にミスとほぼ同じですが。
『千鶴嬢』ってどういう意味に捉えればいいのでしょう? 『千鶴お嬢様』でしょうか? それにしても、仕える相手ならばともかく、他人に対して用いるには大分違和感あります。『千鶴お嬢さん』とか『千鶴お嬢ちゃん』だったら、もうこれ格下に見てますよね? 少なくとも完全な同格以上相手に嫌味でなく『お嬢さん』なんて論外だと思いませんか? 精々が年下を丁寧に呼ぶ時くらいでしょう、本作中でクリスが用いたように。
多分これ、『ミス』の直訳は『嬢』→『ミス』は『さん』と“意訳することもできなくはない”→日本語なら『千鶴さん』って呼ぶから『千鶴嬢』もOKだよね? という思考の連想ゲームで始まったのではないかと個人的には分析しているのですが……。もしくは『一条千鶴嬢』をそのまま親しげに呼びたくて『千鶴嬢』と単純に短縮したか。でも日本では『嬢』って本当に最上級の女性敬称なため一般的ではないので、おそらく前者が理由ではないかと思われます。
『一条千鶴嬢』で『一条家令嬢、千鶴様』の短縮です、本来は。
実はこのように、日本語の『嬢』に関してだけは『一条嬢』でなくフルネームで用いるのがもっと正しいらしいのですが、『ミス』に代表される洋語の敬称の直訳が総じて『嬢』であり、『ミス・一条』は問題無いので『一条嬢』までは(翻訳されているという事で)許容範囲内だと思うのです。しかしながら、やっぱり名前に付けて呼ぶのは非常に違和感ございませんか? 千鶴家のご令嬢って何よ……。
本人自己申告で『名前にミス付け』はOKですが、それも他に的確な敬称が存在しないからこそ許されるのです。日本語で『千鶴嬢』なんてもう論外でしょう。
そして『ミス』は『さん』の英訳では決してないのです! 最も近いのが『嬢』、次点で『様』です。そこから越えられない壁を隔てて、一番最後辺りにくる意訳が『さん』です。
自作品の登場人物に気取った言い方させたいのは理解できなくもないのですが……。「この人物ってファーストネーム呼びが許された親しい女性でもこんなに丁寧な敬称付けて呼ぶくらい紳士的なんだよ?」というアピールをされたいのも一応ニュアンスとして理解はできます。
ですが!
これ、こういう敬称を用いるのが一般的な階級でリアルにやらかしたら、「ファーストネームで親しく呼んでほしいのに、この人は私を親しく呼びたくないんだ……」と、嫌味で言われているんだという意味で受け取られても文句は言えません。「ファーストネームを許したのに、奥ゆかしい人だわ」なんて好意的に解釈するようなヒロインが居てくれたとしても、主人公のやること為すこと何でもかんでも好意的に解釈してくれるような、よっぽど頭の中にお花が咲き乱れてる恋愛脳なのでしょう。
本当に紳士的で奥ゆかしかったら「恋人でもないご婦人をファーストネームで気安く呼ぶことはできません。申し訳ありませんが、今まで通り『ミス・苗字』で通させて下さい」と男の方から申し出ています。貴族社会なら「そうですわね。性急すぎましたわ」と女性の側も納得しつつ、「誠実な人ですわね」と本当の意味で好意的に解釈してくれるでしょう、リアルでも。一般社会だと「堅苦しい人ね」と呆れられるかもしれませんが。
役不足と役者不足の誤用をお馬鹿キャラがやってツッコミを入れられるエピソードをしばしば目にしますが、正直全く同じだと思うのです。その手の受け狙いなら分かるんですが……もしくは『欲都市滅す断罪の黒炎』と書いて『メギド・フレイアー』と読むように、『嬢』と書いて『さん』と読むみたいな意図で用いられるのが、こうしたネット界隈では常識なのでしょうか? 私が存じ上げないだけで。こういう場(投稿サイト)を利用させて頂いておいて非常になんなのですが、私はそういうの全然詳しくない自覚があるので……。
それでしたらこの時点で土下座級に謝罪させて頂きますが……。
同じラストネーム(同姓)を持つ同性が同じ場に居て、区別する場面ではもちろんリアルでも『ミス・ベアトリクス』は許容されますが……明らかに違いますよね?
取り敢えず、リアル常識でここはお話しさせて頂くということで――気を取り直して、続けていかせてもらいます。
『ミス』のような『敬称』ではなく、その人物の立場を表す『称号』、例えば『プリンスorプリンセス(共通して日本語では殿下)』のような場合は『プリンセス・ベアトリクス』と表記します。
※訂正
『殿下』は正確には“敬称”でもあるそうです。称号と敬称と、どちらでも使用できるようですね。
大変失礼致しました。
某超有名作品で用いられたのでこれまた勘違いしていたリアル知人が過去実際に居たのですが、『the Prince of Wales』は本来、この一節でリアルの英国王室太子に与えられる『称号』であり……と述べるのも実は正確ではなく、公国に代表される『宗主国を持つ国の王』を『the Prince of 国名』と呼称するため、太子の時点でウェールズ大公の地位を自動的に持っているからこのような“称号を持っている”ことになります。本人にはちゃんとした名が他にあり、本人を呼ぶ場合は基本的に『プリンス・名前』です。何でもかんでも『プリンス・オブ・名前』ではありません。
冷静に考えて下さい、『プリンセス・オブ・ベアトリクス』で直訳したら『ベアトリクスの王女』ですよ? 明らかに変だと思いませんか?
でも仮に『ベアトリクス公国』があって『ベアトリクス公国の大公』なら理解できますよね? 私は二次創作を幾つか読んだことがあるだけで、当該作品自体は直接読んだことがないので詳しくは判らないのですが、某作品の初期でお亡くなりになった王子はきっと、ご自分の名前と同じ大公位をお持ちな方だったのでしょう。でなければ『プリンス・オブ』が英語なのではなく、その一節で『王子』と表現される単語か熟語が存在する世界だったのでしょう。かなり馬鹿にしたような言い方になってしまってご気分を害されたかもしれませんが、そうとでも無理やり好意的に解釈しないと私には理解ができないのです。
もしこの『プリンス・オブ』がその世界特有の言語なのではなく英語の『プリンセス・オブ・ベアトリクス』で『ベアトリクス王女』という意味で当該作品中で用いられているなら、大変失礼ながら私が編集者だったら即刻作者様に変更させています。
これは作者様にではなく、担当編集者に非があるでしょう。作者様に何でもかんでも知っていろというのは無理があるでしょうが、それを修正する編集者がそれは許されないと思います。公式に発売された書籍で、まるでそれが当然のように用いられていたら、知らない人間なら誰だってそれを『正しい用法』だと思い込んでしまうのは無理もありません。
仮に『ベアトリクス=ベアトリクス(大公)』=『ベアトリクス大公のベアトリクスさん』が実在したとして、また、まず私たち一般人がそんな状況はありえないと思いますが、オフィシャルな場以外でこの『プリンセス・オブ・ベアトリクス』の呼び方で相手を真顔で呼んでしまった場合、「私はベアトリクス殿下に用があるのではなく、あなたの大公という地位に用があるんです」って言外に嫌味を言うのとほぼ同じ意味で受け取られてしまいますからね!? 冗談抜きで。
どうしても『プリンセス・オブ・ベアトリクス』を付けて『ベアトリクス大公ベアトリクス様』と表現したいなら『プリンセス・オブ・ベアトリクス・ベアトリクス』と最後まで言わなければなりません。まあ名前と爵位名が同じ人物なんてまず存在しないと思うので、こんな妙な呼び方される人は有り得ないと思いますが。
プリンスやプリンセスは基本的に『殿下』という意味ですが、他にも色々と意味があるのです。
仮にこれをベアトリクスに当て嵌めるなら、作中の彼女は個人の爵位は持っていないという設定なので、彼女の国のアレスブルグをそうであると仮定し、『プリンセス・オブ・アレスブルグ、ベアトリクス=ファン・クラウンディ』です。
『オブ』付けて表記できるのか→何となく『オブ』付けた方がカッコイイし、自分もそうしよ――は英語では決定的に誤りなので、勘弁して下さい。
仮に現在の英国王室太子を『プリンス・オブ・チャ○ルズ』なんてイギリス人相手に言ったら、おそらく十秒ほど「誰それ?」って顔された後に、「ああ、プリンス・チャ○ルズね! もう、ちゃんと言ってくれなきゃ!」ってなりますよ……。だってイギリス人たちには『チャ○ルズ王子』ではなく『チャ○ルズ公』って全くの別人に聞こえていますから、まず自分の記憶の中の『チャ○ルズ公』を探します。
これはべた褒めさせて頂くので、実際の題名を使用させて頂きますが、その点『銀河英○伝説』などは本当に作者様、もしくは担当編集者なのかもしれませんが、よく勉強された方なのだと思います。プロと比べるのもなんですが、私のような素人などとは物書きとしての意識のレベルが違います。当該作品内で貴族や軍人同士が名前を呼び合う時など、オフィシャルとプライベートをきっちり区別した上で、一切ケチのつけようがありませんでした。
なお、流石にこれは有り得ないと思いますが、『ミスター・プリンス』や『ミス・プリンセス』のように『敬称+称号』も無いと一応述べておきます。絶対にこの表現を使用不可というわけではありませんが、『ミス・日本』みたいに『王女の中の王女』くらいの意味になるでしょう、おそらく。その後に名前付けて『ミス・プリンセス・ベアトリクス』なんて論外です。『ミス・プリンセス』の時点で限定して『ベアトリクスのことである』という意味が含まれるからです。
仮に本編五十四話のベアトリクスとレイアの会話を『ミスター、ミス』表記にしたらこうなります――
レイア:「ランスロット卿です」=「サー・ランスロットです」
ベアト:「ラヴァリエーレ殿か!?」=「ミスター・ラヴァリエーレか!?」
これは、ベアトリクスが王女で『ラヴァリエーレを同格以下に見ることが許されるから』と『レイアが淑女で丁寧な人であるけど公的な立場は無いから』発生した現象です。相手の地位で呼び合うのが“オフィシャルな場”では当然ながら『サー・ランスロット』の称号のみでOKです。前述の『プリンス・オブ・~~』でアウトなのは『個人としての会話』だからです。
その後の――
ベアトリクス:「ランスロット卿アレクサンドル・ラヴァリエーレは――」
――の場合は「サー・ランスロット、アレクサンドル・ラヴァリエーレは――」という表現になります。英語にしたら逆だから『アレクサンドル・ラヴァリエーレ、サー・ランスロット』じゃありません。『サー・ランスロット』で称号なわけで、これが『ミスター』の代役になっているのですから、当然付けるのは最初です。
※訂正
ここで『サー・ラヴァリエーレ』は可と書いていましたが、『称号+姓単独』はありえないようです。
重ね重ね、大変失礼致しました。
重要なのは『サー』の称号を持っていることになるので、『サー・アレクサンドル』は可です。この『サー』は既出の『プリンセス』と同じ扱いなわけですから。
また、仮にラヴァリエーレが『ランスロット男爵』だったとしたら呼称する際は『ロード・ランスロット』です。男爵以上王族未満は『ロード』です。別にそのまま『バロン(男爵)・ランスロット』でも構いませんが。
ただし、これを令息令嬢に使用することはできません。称号とはあくまでも『個人に与えられた物』だからです。
そこで!
『ミスター』や『ミス』の登場となります。この『ミス』の中には『男爵令嬢』や『公爵令嬢』とか全部の意味が含まれている超便利用語なわけですよ!
正確に述べるならば、姓の方に『男爵』やら『侯爵』やらが含まれていて、ミスは『令嬢』という意味のみなのですが。
私が本作中で『実家の爵位に与えられた名』を『=』で区別しているのもこれが最大の理由です。正確に述べるならベアトリクスは日本人で『姓』に該当する部分を持っていないんです。本作中で登場済みの貴族で明確にそれを持っているのはハインツの『ディ』だけです。これはお国柄であり、私がリアリティに拘って一つ一つの国の背景まで公式でちゃんと考えているのであると思って頂けると幸いです。
アレクサンドル・ラヴァリエーレも同じじゃないかと思われるかもしれませんが、この人は元々ラヴァリエーレ姓を持っていたのを後付けでランスロット卿を得たから、ちょっと事情が違います。
仮にベアトリクスが本人固有の爵位を与えられたら、例えばそれがランスロット卿なら『ベアトリクス=ファン・ランスロット』に変更されます。以降彼女を『ミス・クラウンディ』=『クラウンディ王家令嬢』なんて呼ぼうものなら、それは「自立してもクラウンディ王家におんぶに抱っこかよ」と揶揄することになります。要するに『爵位と結婚したのだ』とお考え下さい。まあ王女の彼女の場合、実際に爵位を持つならもっと遥かに高い地位になるでしょうが。
よって、仮にラヴァリエーレに娘が存在したら、娘さんを『ミス・ランスロット』と呼ぶのは“本作中世界の制度的”(←ここ重要です)には可能ですが、本人を『ミスター・ランスロット』は論外です。『ミスター』の中に『卿』の意味は存在しません。
まあ貴族制には色々な形態があり、国によって多少の特色はありますから一概に言い切ることはできませんが……。
英語で生徒が教師を呼ぶ際は『ミスター・ラヴァリエーレ』になるのも、あちらには『先生』と呼称する習慣が無く、また『サー』を持っていない目上だから“これしか選択肢がない”んです。
なお、ベアトリクスが『ミスター・ラヴァリエーレ』だったのは――
「仮想敵国の人間で、しかも最上位の地位を持つ自分の立場で彼を『サー・ランスロット』と最上級で呼ぶのは難しい。でも地位を呼び捨てて『ランスロット』とか、それこそ『ラヴァリエーレ』とか単純に呼び捨てはしたくないな、自分としては尊敬できる人でもあるし。じゃあ『ファーストネームから一番遠い部分』を使わせてもらおう。確か彼の場合はそれが姓でもあったはずだし」
↓
「よし、ミスター・ラヴァリエーレでいいんじゃないかな」
――という非常に貴族的な思考が働いていたのです。言っておきますが、マジです。作中で説明したりはしていませんが、そういう背景って、その登場人物の気質、性格、本質を表現するのに重要だと思います。じゃないと、キャラのイメージが作者自身あやふやで、あっさりとブレた言動をさせてしまうと思うのです。
本作品も洋風の世界観を持つために、呼称については洋風に扱われています――少なくともルスティニアでは。少なくともルスティニアでは! 大事なことなので二回言いました。
……でも、洋風の世界観って、下手したら作中で断言するくせに、『ミス』とか普通に用いているなら……やっぱ名前に付けるのはアウトだと思うんですよね……。その人が名前しか持たないなら話は別ですけど……。
……以前に――
主人公「初めまして、ミス・ベアトリクス」
お姫様(まあ! この人は私をプリンセス・ベアトリクスではなく、ベアトリクスという個人で見てくれているのですね!)
――というエピソードをマジで目にしたことがあります。どんだけチョロいんですか!? お姫様が好意的にも程があります。ご都合主義とか言えるレベルじゃありませんよ。申し訳ありませんが、ギャグにしか見えませんでした。この主人公の台詞をリアルに意訳すると――
主人公「よっ、初めまして、ベアトリクス」
――というニュアンスで受け取られます。王女相手にどんだけですか? でなければ「ああ、この人は敬称の付け方一つご存知ないのだわ、貴族なのに」と哀れに思われるだけです。本人申告で可とは述べましたが、あくまでも一般階層での話であり、上流階級でこれはまず有り得ません。この会話の時点ではそもそもそんな自己申告もありませんし、もう論外です。
ニュアンスとしては理解できなくもありません。要するにこのエピソードで「俺はお前をお姫様扱いせず、ベアトリクス個人として見るよ」という宣言を、貴族社会的な敬称を比喩として用い、両者暗黙の内に察する『上流階級の更に優秀な人材だけが為し得る会話』なのだというニュアンスに表現した上で、お姫様扱いを内心では嫌がっているヒロインが、そんな賢い主人公に「素敵な方ね(ぽっ)」をやりたかったのは。
でも言わせて下さい……それを理解しきるのに私の言語能力ではガチで五分掛かりました。まだネット小説作品に慣れていない頃だったという原因もあったとは思いますが。
主人公がフルで「初めまして、ミス・ベアトリクス=ファン・クラウンディ」と言ってくれていたら、まだ素直に理解できたのですが……。
それか、せめて「この世界ではミスって名前の方に付けて呼ぶのが一般的なんだよ」って予め作中で説明されていたら、まあ……。
ミスターとかミスとかは日本語に“意訳”すると『さん』なり『様』なり『先生』なりと状況次第でかなり変化する敬称ですので、『ミス・ベアトリクス』とか言ってしまいたくなるお気持ちは理解できなくもないのですが、それなら最初から『ベアトリクスさん』と日本語で表記すればいいと思うのです……日本語で書いてるんですから。
仮に、です。仮にあなたの作品がアニメ化乃至は映画化されたとして、海外で放送される際には当然翻訳家が翻訳します。その際に『ベアトリクス嬢』や『ミス・ベアトリクス』を目にしたら、多分どう訳せばいいのか一瞬混乱します。
例えばベアトリクスの呼称に日本語では『(同級生程度に親しい相手が)クラウンディさん』『(親しい友人が)ベアトリクスさん』『(親兄姉が)ベアトリクス』『(弟妹が)お姉ちゃん』などは英訳したら全部『ベアトリクス』です。『ベアトリクス様』で英訳が『ミス・クラウンディ』か『プリンセス・ベアトリクス』です。それを踏まえて次に行きますと――
ベアトリクス嬢? ミス・ベアトリクスってことだよね? ベアトリクス様って言ってるつもりなのかな? じゃあ翻訳はミス・クラウンディでいいのかな? でも明らかにこの二人ってそんな他人行儀な間柄じゃないんだけど……。
――といった具合です。まあ翻訳家はプロですから、何となくニュアンスを察して最終的には『ベアトリクス(呼び捨て)』を選んでくれるとは思いますが。ここに限らず投稿小説サイトのファンタジー系作品で『嬢』を用いられている呼称の殆どは英訳されたら呼び捨てで表現されます、間違いなく、七、八割方は。
わざわざ気取って『ミス・ベアトリクス』とか言わせているのに、肝心の英語に訳されたら「ミス・ベアトリクスは意味が判らないし、ミス・クラウンディかな?」という判断をされるとか、もうギャグでしょう。
まあ、こういうニュアンスの誤解が生じるのは、学校の教育にも問題があると思わないでもないですがね。
昨今は英語も会話重視という風潮が出てき始めたようなので、現在はもう少し改善されているとは思います(というか信じたいです)が、私が高校生の頃の教科書に、こんな感じのエピソードがあったのが、とても記憶に鮮烈で、細かい部分は忘れましたが、今でも覚えています。
Aさん:「おはようございます、ミセス・イチジョー。今日はいい天気ですね」
Bさん:「あら、おはようございます、ミセス・クラウンディ。ええ、雲一つなく」
この二人の間柄はお隣さんの奥様同士です。しかも完全な一般人です。……本物のイギリス人やアメリカ人がこれを見たら失笑ものですよ。初対面ならともかく、お隣さんくらいはファーストネームを呼び捨てでしょう。
この教科書を作った人が、日本人の感覚でお隣さん同士の会話として、『一条さん』と『クラウンディさん』で、短絡的に翻訳して『ミス』を用いたのだという原因が目に見えています。もしかしたら、勉強する日本人自身が理解し易いよう、日本人の感覚に合わせて、気を利かせてくれたのかもしれませんが、それならそれで、ハッキリ言って余計なお世話だと思います。
最初の方でも述べましたが、ミスとかミスターとかは、『さん』と訳す事もできなくはないというだけであり、日本人の感覚で言えば『様』という意味の方が遥かに近いのです。一般人のお隣さん同士で『~~様』って呼び合っているのですよ? おかしいでしょう、どう考えても。
全くの余談ですが、『Mrs』がどうしたら『ミセス』に聞こえるのか、私は今でも不思議でなりません。『Mrs』を『ミセス』と表記するのだけでも、かなり違和感が拭い切れませんよね。
例えば、です。超お嬢様学校で「あら、クラウンディさんったら冗談がお上手ね、おほほ」みたいなのは『ミス・クラウンディ』ですが、一般学校で「はは、クラウンディさんは冗談が上手いね」みたいなのは基本的に英訳されたら『ベアトリクス』です。上流階級で同格以上を呼ぶ際には『ミス』を用いるのはありますが、友人だけでなく、同僚、同級生に至るまで、普通はプライベートでちょっとでも付き合いがある『同格以下』が相手なら基本的には『名前呼び捨て』です。
洋画で「キミとファーストネームで呼び合う仲だった覚えは無いんだが?」というシーンをご覧になった覚えはございませんでしょうか? これは要するに「お前とちょっとでもプライベートで親しくした覚えなんて俺には無いぞ」という嫌味を言っているわけですが、その『姓名の呼び方に関する一般常識』の前提があってこそ成立する嫌味なわけです。
お坊ちゃまお嬢様学校だと、学校という『階級を持ち込まないでお互い付き合いましょう』という暗黙の了解があるから、誰が相手でも失礼にならないよう『ミス呼び』が求められるだけです。男爵令嬢が公爵令嬢を呼び捨てって、いくら暗黙の了解があるからと言っても明らかにまずいですよね? かと言って、公爵令嬢が男爵令嬢を呼ぶのは呼び捨てで、男爵令嬢が公爵令嬢を敬称付きでは、その暗黙の了解が成り立ちませんから。
貴族同士で相手を呼ぶ時に『ミス・クラウンディ』は当然です。だって前述の通り、この『ミス』の中には『騎士爵令嬢、男爵令嬢、子爵令嬢、伯爵令嬢、侯爵令嬢、公爵令嬢』と全部の表現が可能なんですから。まあベアトリクスの場合は王女なので本来は駄目ですけどね。他の貴族令嬢ならこうなるという話です。
もちろん、階級による格差はありますが、公式の場で公爵が男爵を呼ぶ際でも『ベアトリクス』呼びなんてまず無いでしょう。それをするなら「互いの親しさを周囲にアピールするため」くらいです。その際は当然、敬称の『ミス』を付けたりなんて有り得ません。
よって、貴族学校みたいな設定の中で『ミスター(氏)』『ミス(嬢)』を用いるのはむしろ当然ですが、それを名前に付けて呼ぶのは非常に理解に苦しみます。
それが日本語に翻訳されたら『さん』なのも当然です。王女のベアトリクスでは面倒なのでここは彼女の配下の『ファーゼ=ファン・クロイツェフ』で表現しますが……
同級生同士で『クロイツェフ様』とか『クロイツェフ伯爵令息』とか常に呼ばれているなんて、日本ではどんなお坊ちゃまお嬢様学校でも明らかにおかしいですよね? 状況に相応しいように意訳されているのです。『ミスター』付けるなら『クロイツェフ』で、直訳は『クロイツェフ様』か『クロイツェフ伯爵令息』ですが、意訳されれば『クロイツェフさん』か『クロイツェフくん』になるだけです。『ミスター・ファーゼ』で『ファーゼさん』『ファーゼくん』が許容されるわけでは断じてありません。
ファンタジーですから、登場人物の大半が西洋人的外見の人たちばかりなので、特に主人公が上流階級だと一々『さん=ミス=嬢』で表現したくなるお気持ちも理解できなくはないのですが……それが『西洋風の世界では一般的』という表現はちょっとマズイと思うんです。ちゃんと苗字に付けてあげましょう。
某アインシュタインなゲートのスーパーハカーのように女性を『~~氏』と呼ぶのは理解できます。これはそういう俗語なのですから。それに確かあの人、女性を苗字以外で呼ぶこと無かったでしょうし。非常に納得いきます。
……と思いましたが、作中でも名前に付けて呼んでましたね。でも別にいいでしょう、俗語ですから。
なら『嬢』もいいじゃないか? 冗談でしょう。丁寧に呼んでるつもりなのに大真面目な顔で俗語って……。
『ベアトリクスさん』でいいじゃないですか……日本語で書いているんですから。気取った物言いさせたいならせめて『ベアトリクス君』とか。『ミス・ベアトリクス』はどう好意的に解釈しても無理があるでしょう。
どうしても名前呼びで気取った物言いさせたいなら、一つだけOKなのが英語にはあります――『レディ』です。
と言うのも、これは『嬢という敬称の英訳』に一瞬思われるかもしれませんが、本来は『立場を表す称号』だからです。要はプリンセスと同じです。
リドウは更に「あんたとは精神的な距離を置きたい」という意味を込めて敢えて『レディ・クラウンディ』と用いていますが、『レディ・ベアトリクス』は可です。社交性高い頭脳派なベアトリクスはリドウの言葉のニュアンスを大体察せてしまったから「名前で呼んでくれ」と作中で固執たんですね。
更に言わせて頂くと、このやり取りだけで「俺はあんたを俺より上に見るつもりはないが、あんたに対しての敬意はちゃんと払うぜ」という言外の意思表示でもありました。当然、ベアトリクスはそれを理解しています。
ただこの『レディ』、上流階級にしても割と格式ばった用法です。
しかしながら、おそらくこのなろう内で用いられている『~~嬢』の意味に一番近いのは『ミス』ではなく『レディ』だと思われます。
『レディ』の中に『男爵夫人』とか『公爵夫人』までが含まれて『男爵』とかが省略されていますが、例えばベアトリクスが『ランスロット伯爵位』を持っていたとして、英語では『レディ・ベアトリクス』と呼称は可能ですが、日本語訳された場合は『ランスロット伯爵夫人』です。旦那が伯爵ではなくベアトリクス自身が伯爵を持っていても、独身だったとしても『伯爵夫人』ですし、日本では『名前+称号』って呼び方が基本的に存在しないため、こうなります。敢えて述べるなら『レディ』の中に『ランスロット伯爵夫人』が全部詰まっているのです。つまり『レディ・ベアトリクス』=『ランスロット伯爵夫人、ベアトリクスさん』ですね。
面倒だと思われるかもしれません。しかし、世の中はそうなっているのですから仕方ありません。
いずれにしても、間違っても『ベアトリクス嬢』ではないのですが……しかし、意味的には最も近いと思われます――名前に単独で付けられるという意味で。
ちなみに『レディ』の対義語は本来『ジェントルマン』ではありません。「レディース&ジェントルメン」と用いられるため、現代では英語圏でも混同されるようになってきておりますが、『レディ』と『ジェントルマン』では格が違います。無論『レディが上』という意味で。
確か『ジェントルマン』の本当の対義語はある意味そのままの『ジェントルウーマン』だったと思うのですが、「ジェントルウーメン&ジェントルメン」乃至は「ジェントルメン&ジェントルウーメン」では語呂が悪かったのでしょう。それが根付いて『レディ=淑女』となってきたのだと思われます(あくまでも個人的な推測ですが)。でも本来の意味は『貴婦人』や『夫人』です。
ここでまた本題とは関係のない話題に及んでしまい申し訳ありませんが、「レディース、アーンド、ジェントルマーン! お集まりの皆さま~~云々」と登場人物に言わせるのは絶対に止めましょう。
私は英語のカタカナ表記には疎いのであまり偉そうには言えないのですが、『レディース』は『レディ』の複数形である以上、当然『ジェントルメン』は『ジェントルマン』の複数形でなくてはなりません。「レディース&ジェントルメン」をアルファベットにすると「ladies and gentlemen」です。『man』は『マン』でいいでしょうが、『man』の複数形である『men』は『メン』でしょう、どう考えても。
ちなみに『man』も『メン』と表現できない事もないと思いますので、『man』を『メン』で表現するのは個人の自由だと思いますが、『men』を『マン』は無いでしょう。カタカナではとても表現しきれませんが、manとmenでは発音がかなり違います。
男性の場合は『卿』などが『レディ』に相当します。『サー』や領主、もしくは王族未満の主君を表す『ロード』などの『王族未満の男性貴族の立場を表す称号』に対する『女性用称号』が総じて『レディ』なわけです。
というと、リドウがベアトリクスに用いるのはちょっと違わね? と思われるかもしれませんが、作中でもあったように、ルスティニアの常識的には『最上位のハイエンドが王族を対等と看做すのは問題無い』ので、リドウには必ずしも『ベアトリクス殿下』と尊称しなければならない義務はありません。そもそもあの時のリドウは『アリスに対して用いても問題無い』という理由もあったわけですし。
『イエス、サー』『イエス、マイ・ロード』なども、洋風世界観の上流階級に仕える部下が用いるシーンをしばしば目にしますが、当然これは男性専用です。割と普通に女性に対して用いているシーンがありますが――
ヒロイン「分かってんの、あんた!?」
主人公「いいいいいいえっさー!」
――みたいに日本語としてギャグシーンで使うなら許されても、大真面目に女性に対して『イエス、サー』とか単なる嫌味です。だって男性相手に使うのが本義なわけで、ベアトリクスを『ミスター・クラウンディ』と呼ぶのとほぼ同義です。
『イエス、ユア・ハイネス(王族)』『イエス、ユア・マジェスティ(陛下)』は男女共用ですが、王族未満の女性貴族相手なら当然『イエス、マイ・レディ』です。もしくは『イエス、マム』というのもありますが……。
ニュアンスとしては『サー』に対する『マム』、『ロード』に対する『レディ』が最も近いかなと思われます。その前に『マイ』が付くか付かないかの違いも同じですしね。『サー』や『マム』は目上全般に対して、『ロード』や『レディ』は領土を固有する爵位持ちに対して、というニュアンスです……が、前述のように『レディ』は目上女性全般に使用可能です。なぜなら『マム』は称号ではありませんので、それ単独で名前に付けて『マム・ベアトリクス』なんて呼び方もやっぱり有り得ませんから。ちなみに『マム』は『ママ』を赤ちゃんが言ったように砕いた意味ではなく『Ma'am』というきっちりした尊敬語です。
また、なぜ『マイ』とか『ユア』とか付いたり付かなかったりなの? と思われましたら、日本語訳してみて下さい。
『イエス、サー』=『了解です、卿』=目上全般=誰にでもOK
『イエス、マイ・ロード』=『了解です、我が主』=自分の直接の主君に対してのみ
『イエス、ユア・ハイネスorマジェスティ』=『了解です、あなたの高貴さに誓って』となります。これだけではちょっと理解し辛いかもしれませんが、要するに公爵の直属の部下だろうと伯爵の直属の部下だろうと、王族の命令は上司のさらに上位にくるのだとご理解下さい。
本来、伯爵直属の部下が他所の公爵の命令を聞く必要はありません。現代の日本人にとっては、王族という社長の下で伯爵=部長、公爵=副社長くらいの感覚かもしれませんが、両者は一応『陛下の下で対等』です。王族という会長の下で雇われの公爵社長と伯爵社長が自分たちの『領地という名の会社』を経営しているのだというイメージが最も近いかなと思われます。
何らかの理由により公爵の庇護を得ている伯爵ならば上司と部下の関係も一応成立しなくはありませんが(買収されて子会社になった、みたいなイメージですかね)、全く関係無いのなら命令権なんて存在しません。よって、公爵が伯爵の部下に対して、伯爵の許可も無く勝手に命令なんて本来なら許されません。
だからと言って、伯爵が公爵を下に見るような言動は断じて許容されませんが。
王族の命令なら最優先しなければならないのだということ。直属の上司(我が主)でもないので、王族個人の高貴さに対する誓いが必要とされること。そういうことです。
ちなみに、『Her Majesty』という言葉を耳にした経験がある方もいらっしゃると思いますが、これは英国女王限定です。別にこの表現を作中の王様に対して使用不可という話も無いと思いますよ。
少し詳しくお話させて頂くと、英語における『敬語』とは基本、『自分と相手の距離を隔てるほど丁寧』になる、と考えるとイメージ的に理解し易かったりします。「Can you~~?」よりも「Could you~~?」にした方が丁寧になるのはそのいい例ですね。過去形にした方が現在形よりも距離が遠く感じられる気がしませんか?
女王陛下に対して直接『Your』なんて畏れ多いから、『Her』の方が遠くなって丁寧なわけです。当然、男性の陛下なら『His』です。
それともう一つ言わせて下さい。また知人からツッコミ……いや、質問ですかね? されたのですが……
『Knights of the Round(Table)』ですからね!? テーブルは省略しても割と通じると思いますけど、『円卓の騎士“達”』あるいは『円卓の騎士団』ですからね!? 『円卓達の騎士』じゃありませんからね!? そもそも私は、カインがラヴァリエーレの地位を受け継がない表向きの理由づけとして何か適当なのはないかと考えた末に、円卓の騎士の「皆が対等で上座下座が無いように意図して作られた円卓会議室」というアーサー王叙事詩のエピソードが丁度いいと思い、ラウンドナイツとしただけで、あの反逆アニメからパクったわけじゃありませんから! というか、ラウンドナイツの構想を考えている時にあのアニメの事なんて欠片も思い出さなかったわ! だってあの中で用いられてる英単語ってメチャクチャでしょう……。あそこまで清々しく本来の用途から外れているのですから、原作者様は理解していながらキャラに格好つけさせるためにわざとやられているのだとは思いますが……マンガやアニメで使用される外国語をそのまま信用するものではありません! 演出重視で本来の用途と違うケースはしょっちゅうですからね!?
また、当該作品内では相手が上官なら誰でも『マイ・ロード』だったようですが、現実に自分の主君以外に『マイ・ロード』なんてありえませんからね……? いえ、それを用いて、実は部下が上司を裏切っているという意味深なシーンを演出されるなら分かるのですが……。
ここまでを総括して教訓として述べさせて頂きますと、マンガやアニメで使用される外国語をそのまま信用するものではありませんし、文化的な違いから日本人的感覚で用いるとかなり意味不明になる言葉は少なくありませんので、格好つけさせたいキャラをただの間抜けにしたくなければ、一度ちゃんと調べてから使われた方がよろしいでしょう。
という私も、思い込みで使ってしまっている単語や熟語が決して無いとも言い切れないのでしょうが……そういうの発見されたら教えて下さい。お願い致します。
ここからは、これを読んだ知人その他から後日にあった質問への回答になります。
まず、アニメ化もされた某神殺しが題材となった作品に『アリス・ルイ○ズ・オブ・ナヴァ○ル』という女性キャラが登場するそうです。私は当該作品は小説もアニメも拝見していないので、取り敢えずウィキで確認した知識だけでの推測ですが、この人の『オブ』は問題ありません。
おそらくこの人の場合、『ナヴァ○ルという爵位』を持った『ルイ○ズ家』の『アリスさん』なのでしょう。
重要なのは――この人は『英国貴族』だそうです。英国貴族って名前と苗字と称号を明確に区別します。称号は保有者とその配偶者のみで、姓(家の名)は他に持つのが一般的なのです。拙作内で一番近いのはラヴァリエーレですね。
この女性キャラが子爵なのか伯爵なのかまではウィキには書いてありませんでしたが、『公爵令嬢』と明記されていたので、少なくとも『ナヴァ○ル』が公爵でないのは確かでしょう。また、その公爵家の爵位の名が『ナヴァ○ル』でないのも、逆説的に言えます。更には、この人が公爵以上の地位の持ち主ならば『公爵令嬢』なんて表現をされることは有り得ないでしょうから、少なくとも『ナヴァ○ル』が侯爵以下であるのは間違いないでしょう……ここら辺は蛇足ですかね。
……まあ、もし当該作品内で『ミス・ナヴァ○ル』なんて呼ばれていたら色々な意味でアウトでしょうが。この人を『ミス』で呼ぶなら『ミス・ルイ○ズ』です……『ルイ○ズ』が私の思った通りに姓であるならば、ではありますが。この人の『姓が作中未公開』ならば『ルイ○ズ』はセカンドネームという風にも考えられますので。少なくともウィキには明記されておりませんでした。
なら拙作の貴族たちが『実家の爵位名』を苗字として使っているのは可笑しいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私の知る限りの貴族制度で苗字と家名を別にしているのなんてイギリスくらいです。大抵は実家の爵位名がそのまま苗字として扱われますし、例えばファーゼがフランス貴族だったとして、イギリス人が彼を呼ぶ際に「我が国ではこういう制度だから、あなたをミスター・クロイツェフと呼ばない。よってミスター・ファーゼと呼ばせてもらう」なんて頓珍漢な発言をする人間は居ないと思われます。
また、このアリスさんの名前を直訳するなら『ナヴァ○ルのアリス・ルイ○ズ』というちょっと意味が分からない言葉になってしまうと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この呼び方で訳す場合、意味としては『ナヴァ○ルという領地の主のアリス・ルイ○ズさん』です。それこそ、この『ナヴァ○ル』が仮に伯爵だったりしたら、『ナヴァ○ル伯爵夫人、アリス・ルイ○ズ』ですね。
呼称するなら基本的には『レディ・ナヴァ○ル』。同格以上なら『ミス・ルイ○ズ』も許されるでしょう。ウィキを見た限りでは『プリンセス』とも呼ばれているそうですが、公爵令嬢ですのでかなり高位の王位継承権を保持しているか、もしくは『何たら議会』の名誉会長だか何だからしいので、その地位の人間は『伝統的にプリンスかプリンセスで呼ばれる』という作中設定が有るなら問題無いんじゃないですかね。私はそこまで存じ上げませんが。
実は、フランス貴族の『ド』やドイツ貴族の『フォン』なども、この『オブ』と同じ意味だそうです。なので……
私もフランス語やドイツ語に堪能というわけでは決してありません(英語は堪能と自負できるレベルというわけでも断じてありませんが)ので、確信的に否定はできないのですが、『ド』や『フォン』が付く貴族を相手に、例えば『フォン・ランスロット』とか呼ぶのって多分違うんじゃないかなと思うんですよね……結構そういう呼び方されているのも公式発売されたラノベを含め、投稿小説サイトでも見かけるのですが。いえ、フルネームで呼ぶ、もしくは、貴族ってセカンド、サード、フォースネームまで持っているとかざらなので、せめて『ファーストネーム・フォン・苗字』とかって呼ぶならフォン付けは当然だと思いますが、単独で『フォン・ランスロット』って呼び掛けるとか……どうなんでしょう? ご存じの方がいらっしゃれば是非ご教授下さい。
次行きます。
前述で褒めちぎった銀河英○伝説で、当該作品中の帝国側で軍人同士が格下相手でも常に『卿』で呼び合っているのは可笑しくないか? と言われました。貴族でもない相手にまで『卿』なんてそれこそ可笑しいだろ、という論拠でした。
が、作中帝国側の事情を鑑みれば当然の成り行きでしょう。私は小説自体は拝読したことはなく、大分昔にアニメを一度見ただけで、作中で説明されているかも覚えてはおりませんが。
帝国軍では貴族と平民が入り乱れており、場合によっては平民の高官が貴族の部下を持つこともありえる。が、それを公然と格下呼ばわりはマズイ。かと言って、軍では軍の序列が優先されなくてはならない、少なくとも建前上は。よって皆が相手を丁寧に呼べば問題は無いだろうという規律が出来上がった……という舞台背景なのだと推測されます。下士官を呼ぶ時は『貴様』で構わないのは、貴族なら最低でも尉官以上の士官待遇で軍務が開始されるからなのでしょう。『殿』とかではなく『卿』なのも、“軍人になる可能性のある貴族の中で最高位の人間を呼ぶ際に失礼にならない的確な呼称を持ち出したのだ”と解釈できます。
よくこんな複雑な設定を考え付くものですよ。これまたプロに対してなんですが、本当にマネできないなと思わされます。
おそらくこの作品にあやかっているのでしょうが、貴族が相手を呼ぶ際に『卿』を用いていられる方も投稿小説サイトでまま目にしますが……やたらめったら用いてしまって、逆に「紳士で頭がいい設定らしいけど、周囲からそう勘違いされているだけで、このキャラって本当は馬鹿なんだよって暗にアピールしているのかな?」と思いきや、別にそんなこともないという、滑稽になっている例も希に見かけますね。
次行きます。
FFⅩのインターナショナル版をプレイされた経験が有る方はお覚えでしょうか? インターナショナル版では作中でヒロインのユ○ナが『レディ・ユ○ナ』と呼ばれていましたことを。これがまた可笑しいだろと言われました。
ですがこれは、むしろ翻訳家の優秀さが際立った例でしょう。
日本版では仲間と格上以外からは『ユ○ナ様』で一貫して呼ばれている。この時点では『ミス』『レディ』『プリンセス』と何でもありですが、以下の条件が加わって『レディ』になったのだと思われます。
1.本人に苗字は無い。
2.彼女は別に貴族ではありませんが、召喚士(召喚師でしたっけ? すいません、忘れました)という、一般人とは明確に区別されるべき人物だった。
3.王女(または作中で『唯一の一族』みたいに扱われるほど絶対的存在)では絶対にありえない。
翻訳した方はきっちり世界観を把握した上で翻訳したのでしょう。私も好きな作品でしたので、かなり詳しく未だに覚えているくらいにやり込みましたが、それでも私が翻訳していたら絶対に安直に『ミス・ユ○ナ』を選んでいたと思います。呼び方一つだけでもお見事の一言しか無い翻訳ですね。素晴らしい“日本語力”をお持ちな翻訳家だと思います。翻訳家の名前なんて気にしたこともありませんし、どなたが訳したのかは知りませんが。
拙作でリドウがベアトリクスを『レディ』と呼ぶ意味と絡めて質問されたのですが、リドウの用いている意味もこれに近いです。本来ならお姫様なベアトリクスを『レディ』と呼ぶなんて絶対にありえないのですが、『ルスティニアの常識』並びに『リドウとベアトリクスの互いの立場』という背景を基にこの呼び名は成立し……
作中の日常会話は別に英語で行われているわけでもなければ、英国貴族制度を当て嵌めているわけでもないので、私はできるだけ呼び名関連は日本語で表記するよう努めているのですが、これに相応しい意味の日本語を恥ずかしながら私が思い浮かばず、やむなくレディをそのまま使用させて頂きました。あるんですよね、どうしても相応しい意味に英語から日本語へ意訳できない言葉って。もちろんその逆も。
まあ『レディ・クラウンディ』を思いついた経緯の順序は、別に最初から私が英語で考えていたわけではなく――「この場面に相応しい言葉が日本語で思いつかないな……あっ、英語にあった!」という、白状すれば己の日本語力の拙さを曝け出す非常にお恥ずかしい話なのですが。
銀河英○伝説やFFⅩのことなど、なぜこんな蛇足とも言える話をしたのかと思われるでしょう。
私が何を言いたいのかと言うと、『ミス・名前』や『~~嬢』と言わせたければ、それに相応しい作中設定が欲しいということです。
どうしても『千鶴嬢』や『ミス・ベアトリクス』とか言わせたければ、例えば貴族設定で――
「相手を家の名で十把一絡げに呼ぶことは相手の人格の否定に繋がるから、『ミス・名前』で呼ぶのが最高の礼儀だ」
――という感じの前提が社交界において存在する世界ならば「ほう、なるほど」と納得できます。でもその場合、どの場面なら『ミス・クラウンディ』で『ミス・ベアトリクス』なのか、作者自身の中でかなり明確なイメージが出来上がっていないと……やっぱり、あっさりとブレた言動をするキャラばかりになるでしょう。難しいですよ、きっと。FFⅩや銀河英○伝説は終始一貫して完璧に扱われていたので、呼び名関連の基本を知っている人間は、一々作中で説明されずとも、このように簡単に成立背景を推測できますが、ブレた発言されまくっていたら完全に意味不明になります。
私如きでは、そんな複雑な設定は扱いきれませんね。リドウが相手を呼ぶ際の『あんた』『お前さん』『お前』や『愛称呼び』も私は明確に区別して扱っていますが、それでもたまに間違った呼称をさせている時があり、投稿前はもちろん、投稿直後にも私は必ず最低でも一度は見直すのですが、投稿後に「あ痛っ」となることがあります。そういうのを見つけられた方がいらっしゃれば、「ここ可笑しくない?」と突っ込んでやって下さい。私が見ても本当に可笑しかったら意地なんて張らないで素直に認めて修正しますので。
これまた蛇足かもしれませんが――
翻訳とはタダ単に外国語を別の言語にすればいいというわけではありません。それはタダの直訳です。直訳と意訳を的確に使い分け、『対象国の人間に対して一番理解し易い表現にする』ことが翻訳です。
例えば『貴様』という言葉があります。これなんてぱっと考え付くだけで二通りの訳し方があります。
上司が部下に対して「貴様に命ずる」みたいな場合は単純に『You』ですが、例えば某戦闘民族の王子が敵に対して「貴様ー!」みたいな場合は――
「(You) bastard!」
「(You) fucker!」
「(You) son of a bitch!」
――辺りですかね、一番近いのは。(You)を足しているのは、Youは無くても通用するからです。直訳は順に――
「私生児が!」
「カマ掘り野郎が!」
「売女の息子が!」
――ですが、どれも「この野郎!」みたいな意味で英語では使われます。
このように、その台詞を言った人物の人格、状況、背景などを考慮して意訳することができて、初めて翻訳と呼びます。
じゃあ、です。『貴様』=『You』=『あなた』=『私生児』になりますか? 有り得ないでしょう。極論し過ぎたかもしれませんが、『さん』=『ミス』=『嬢』と同じですよ、思考の連想ゲーム的に。
何度でも言います。『ミス』って『さん』って訳せるから「ミス・チヅル」でもいいじゃん、なんて罷り通りません。ましてや「千鶴嬢」なんて論外でしょう。
西洋人って名前から表記する上に、フルネームで呼ぶ場合は『ミス・ベアトリクス=ファン・クラウンディ』なため、どうしても日本人は『ミス・ベアトリクス』と頭の方だけで区切りたくなってしまい、それで『ミス・クラウンディ』と言っている“ような気分”になってしまう部分が否めないのでしょうが……
繰り返し言いますが『ミス』は『さん』の直訳ではありません。『さん』はあくまでも意訳する場合の一表現であり、日本語には使用方法もほぼ直結する『嬢』という直訳があります。そして『嬢』は名前に単独で付けません。意味は『~~家のご令嬢』です。ここを押えておけば『千鶴嬢』とかいかにも不自然だなと自然に思い至るでしょう。
ようやく語ることも尽きてきましたので、ここら辺で締め括らせて頂こうと思いますが、最後に……
私も今まで漢字の誤用などでご指摘を頂戴した際、タイプミスとかでなく素で間違っていた経験が何度かございますが、非常にありがたく思っております。知れる機会があったのに間違ったままでいるなんて私には耐えられません。こういう指摘を他者から受けるのってムカつくものでしょうか? 私は一切そうは思わないのですが。
ファンタジーであくまで西洋“風”なんだから別に適当でいいじゃん、と思われるのも理解できなくはありません。
が、実際に私の知人は『これが正しい用法』と思っていたわけです。これってかなりヤバくないですか? 自己弁護と思われても致し方ありませんが、漢字の誤用程度とはわけが違うと思うのです。実際、皇太子の件をリアルでやらかしたら、下手したら大恥になってもおかしくはないと思われませんか?
仮にこのなろうにイギリス人が投稿していて、その人が――
「このマンガのキャラ(軽薄ナンパ野郎)が“男女の区別なく”『ちゃん』って呼んでるなー」
↓
「『ミス』って『ちゃん』とも訳せるよね。じゃあ『ミスター』で『ちゃん』もありだよね?」
↓
「ならここのシーン、自分的には『ミスター・ラヴァリエーレ』のつもりだから、『ラヴァリエーレちゃん』って書いても構わないのかな?」
――という思考の連想ゲームで、あんな悪魔のような男を平然とみんなが『ラヴァリエーレちゃん』などと呼んで、しかもラヴァリエーレ本人が全く気にしていなかったら絶対おかしいと思いませんか?
はっきり言わせてもらいますが、レベルとしては全く同じことをしています。
ですが、注意文をお読みになってもご気分を害されたようでしたら、この場で改めて謝罪させて頂きます。
追記
ケチつけるわけではありません。ケチつけるわけではありませんがっ! 苗字持ちのキャラの名前を馴れ馴れしく呼ぶのにわざわざ『嬢』付けるなら、頼むから他に代わるその世界特有の名詞を独自に考えて下さいっ! 違和感が半端じゃないんですよぉ――――っ!(半泣き)
どうも本当に失礼致しました。
一人でも同意を得られると嬉しいなぁ……。