履歴書の写真
ここは内定レストラン。
就職活動をしている人々が日夜集まり、お互いにアドバイスしたり、面接の練習をしながらご飯が食べられる素敵な場所。
今日もまた、悩みを持った人が来たようだ。
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「はぁ、履歴書何枚出しても全然面接に行けないの。もう履歴書書くの疲れたよぅ~」
そう言いながらため息をつくのは清楚そうな雰囲気の女性だ。
さらさらとして艶のある黒のストレート、柔らかそうな白い肌。喫茶店で本を読む横顔はきっと男たちを虜にするだろう。
彼女の名はレイコという。
一緒にテーブルを囲むのはスーツ姿の男。彼は現在、市役所で働いている公務員だ。名はアキラという。
「とりあえず……俺は生クリームパスタを」
「私もそれで。あとドリンクバー」
お腹が空いていた二人はメニューの中からずいぶんと甘そうな『生クリームパスタ』をチョイス。
ドリンクバーでコーヒーを淹れてから、アキラは「相談に乗ってほしいことってさ」と切り出した。
「俺が、履歴書の書き方をアドバイスしたらいいの? レイコの」
「うん、おねがいっ」
レイコはバッグの中から「これなんだけど」と履歴書を取り出した。
アキラは履歴書を見た瞬間、ブハ! とコーヒーを吹き出した。
「おい、なんだよこの写真!」
履歴書には、はだけたワイシャツを着たレイコの写真が貼られていた。白い肩と胸の谷間、赤い口紅が艶めかしい。本来、そこはスーツ姿で撮った写真を貼り付ける場所なんだけれど。
レイコは得意そうに笑った。
「面接官を誘惑しようと思って。露出高い方が、男の人は食いつくでしょ」
「お待たせしました」
紳士風な老人が、生クリームパスタを運んできた。レイコはその凛とした雰囲気とは裏腹に、男らしく「ずずず!」とパスタを吸い上げる。アキラはその豪快な食べっぷりを見て、レイコは女子大出身って聞いてたけど……とやや幻滅しつつ、礼儀正しくパスタを食べる。女子大出身者がみんなおしとやかで清楚だなんて、男が勝手に抱いた幻想でしょう?
生クリームのついたフォークをブンブンと振るレイコを見ると、そんな風に思えてくる。レイコはパスタを食べながら、さらに力説する。
「わたし、考えたの。この世界における男女の割合は半々でしょ。でも、日本で管理職につくのは男性の方が多いの。まあ会社によっても違うけど、8割が男性とするじゃない? 管理職になるには5年から10年かかるとして、大学を卒業して22歳から働きはじめたら30歳前後よね。つまり、この履歴書を見る人は30歳前後の男性である可能性が8割くらいあるってことなの」
レイコは一度そこで水を飲み、一息つく。このように、様々な仮説をもとに現象を推定していくことをフェルミ推定と言い、コンサル系の会社の面接ではたまに聞かれることもあるらしい。
ニューヨークにある床屋の数は? とか。
日本のマンホールの数は? とか。
コンサル系を志望する諸君は要チェックだ。
まあ、今回のレイコの『推定』が役に立ったのかは謎だけれど。
アキラは「それで、この写真?」と口元を歪ませた。怒るのも無理はない。この二人は、浅からぬ関係の男女である。
しかしそんなアキラの様子を気にする様子もなく、むしろ誇らしそうにレイコは胸を張った。
「自信作なんだ。いい写真でしょ?」
「はぁ!?」
イライラが頂点を極めたアキラだったが、レイコは不敵に微笑んだ。
「男性はオフィスラブに憧れているのよ。見てよ、このワイシャツのはだけ具合! いかにも『会社で二人っきりになったからって、ダメ! 会社でそんなこと……』って感じが出てるでしょ? その割にキツめのこの口紅が、写真にアクセントを出しているのよね。写真屋さんで5時間ねばったかいがあったわ」
アキラはどこから突っ込んだらいいかわからんなという顔をして、しばらく眉間を指で押さえていたが、「あのさ、俺たちって付き合ってるんだよね?」と声を絞り出した。
「うん。それでね?」
アキラの抗議も華麗にスルーして話を続けようとするレイコに、アキラは「目を覚ませよ、レイコ!」と悲痛な声を上げた。
「いいか? 履歴書ってのはいろんな人が見る書類なんだよ。確かに、30代前後でオフィスラブに憧れてる男の人が見ることだってあるかもしれない。でも、履歴書はそのまま社長とか部長とか、けっこう偉い人が見る可能性だってあるんだよ。こんな、こんなエロイ写真が貼られた履歴書を上司に見せたら、『お前、何考えてるんだ!?』って怒られちゃうに決まってるじゃん!」
「そ、それは!」
アキラの言葉に、レイコは青天の霹靂といった様子でガクガクと震えだした。
「確かにわたし、その可能性を考慮してなかったわ」
「わかってくれたか……?」
「あんまりエロイ写真を使ったら、会社の中でわたしの奪い合いが起きてしまうものね! だめよ! わたしを独占するなんて!」
「俺は!? 俺の気持ちは!?」
アキラは飲もうとしていたコーヒーを思わずこぼしてしまった。もう覚めてしまったコーヒーがズボンにかかり、茶色いシミになる。
「まったく、ダメねぇ、あんたは。わたしがいないと」
アキラがこぼしたコーヒーを拭こうとレイコはハンカチを取り出し、テーブルの下に潜り込む。
(ちょ、ちょっと! なにやってんだよ!)
「ん?」
アキラは顔を真っ赤にして抵抗しようとするが、ハンカチを手にして膝をつき、献身的に見上げるレイコの純朴そうな微笑みがそれを許さなかった。
数日後、レイコの写真はリクルートスーツに身をつつんだキリッとしたものに変わっていた。
「よく考えたら、いきなりエロイ写真を送り付けたらただの痴女よね。最初は清楚っぽくしておいて、面接でエロくなるというギャップで勝負することにしたわ」
ベッドの上でそう話す裸のレイコに、もうどうにでもなれと、アキラはゆっくりと覆いかぶさる。
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★就職活動ワンポイントアドバイス001
履歴書に貼る写真はキリッとしたスーツ姿で撮ろう!
エロイ写真は、ダメ、ゼッタイ!
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あなたも就職に悩んだら、内定レストランに行くといいだろう。
悩みを解決するヒントが、見つかるかもしれない。