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私が魔法少女になった日 ―Epilogue―

 駐車場に静寂が戻る。

 先ほどまで狂ったように笑い転げていた少女は,ふと意識を現実に戻すと顔を真っ赤にして走り去っていった。

 そこには,誰の姿もなかった。 

「シュヴァルツ,どう?」

 不意に,声が響いた。

 凜,と,少女特有の鈴の鳴るような高い声。

「はい,あの光はリュミエールのものです」

 続くのは,落ち着きのあるハスキーな声。

 無人であったはずの駐車場には,いつの間にか人が立っていた。

 夕闇にとけこむようなノースリーブシャツに,その色と対比するかのようなフード付きの白のジャケット。

 闇を体現したかのような黒のプリーツスカートに,同色のニーソックス。

 フードを被っているため顔は見えないが,その小柄な体躯から彼女が年端もいかぬ少女だということが推察できる。

 そして,その手に持つのは長大な杖。

 闇をそのまま取り出したかのような黒い柄に,三日月をあしらった金の装飾。

 その装飾の中央に浮かぶ,夕闇色の丸い宝石。

 少女からシュヴァルツと呼ばれたその杖は,先ほどの光景を分析する。

「恐らくは魔力を固め方向性を持たせただけの単純な魔力衝撃です。魔力の量から察するに,あまりに膨大な量を流し込まれたため指向性を与えるだけで精一杯だったのでしょう。」

「…そう」

 少女は先ほどの状況を思い浮かべる。

 マジカルステッキ”リュミエール”を持った少女から放たれた,目映いばかりの光の柱。

 確かに,あれほどの魔力を一度に流し込まれれば,魔術の構築が間に合わず,あわや己の身を荒れ狂う魔力により蹂躙されていたことだろう。

 それをただの魔力衝撃とはいえ,指向性を持たせて解き放つという作業を,あの短時間で行うというのは流石としか言いようがない。

 とその時。

 ずりっという音と共に,先ほどの魔獣が廃墟から這い出てきた。

 その姿は先ほどまでとは違い,後ろ半分がちぎれ,這って動くのが精々といった風体だった。

「…どうやら,指向性を持たせるのに必死で直撃させることが出来なかったようですね。大部分は消し飛ばしていますが,活動を停止させるには至っていません」

 魔獣は残る前足で這いながら少女の所へ向かってきていた。

「シュヴァルツ」

 少女はそちらを一瞥すると,短く杖に呼びかける。

「はい」

 杖が答えると,少女の周りに5つの光る球体が現れた。

 魔力で作られたその球体は,まるで主の命を待つ猟犬のように少女の周りを廻り

「shoot」

 少女の命により,魔獣に向かって殺到した。   

 魔獣の肉を削り,存在を穿つ自身の魔法を尻目に,足下に落ちていた一冊のノートを手に取る。

 普通の大学ノートの表紙には,持ち主であろう,この場にいた少女の名前が書かれていた。

「野々宮…明菜」

 その呟きは風に乗り,夕闇の彼方に消える。

 後に残ったのは,無人の駐車場と地面に広がる黒いシミだけだった。

  

      ◇


「はー…つっかれたー…」

 あの後,ひとしきり笑い終えた私は,時間を確認して慌てて家に帰った。

 転げるように走り,飛び込むように帰ってきた家で待っていたのは,おねえちゃんの鬼のような形相。

 幸いにも訳を話してお菓子抜きは免れたものの,そこからは2時間の正座&お説教。

 この間のテストの点数に話が飛び火しかけたところで,慌ててお風呂に逃げて来た,という状況だ。

「まったく,ほんと今日は散々な一日だったよ…」

 パーカーを脱ぎ,脱衣カゴの中に入れる。

 今日一日の,狐にでも化かされたかのような出来事は,人生の中でも一度あるかないかだろう。

「普通に考えれば,あんな事あるわけないよねー」

 上着を脱ぎ,スカートに手をかける。

「まーでも,明日からはこんな事が起きないように忘れ物をしないようしっかりと確認を―――ってあれ?」

 シャツを脱ごうとして,違和感。

 首に,なにか見たこともないネックレスが掛かっている。

 ハート型の金の装飾。

 中央に赤く丸い宝石。

 それは,まるであの夢に出てきた――――

「むっはー,幼女の生着替えむっはー。縞パンとは明菜さんわかってますねー。ブラをまだつけてないのはちょっと残念ですが,いや,それもまた味があってよいよい。おっといかんいかん,よだれがじゅるり。さぁ,はよ,その平坦でつるぺたんなミラクルボディをはよぅ」


―――変態の魔法の杖だった。


「な,なな,なんでえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「おや明菜さん,ようやくのお気付きですか?さぁ,私のことはいいので,ぬぎぬぎしましょうよ~ぬぎぬぎ~。読者サービスはまだ始まったばかりですぜぃ?」

 ネックレスが私にしゃべりかける。

 間違いない,この声はあの変態の詐欺師以外ありえない。

「リュ,リュミエール!?え,あれ!?なんで!?」

「なんで,といわれましても~。明菜さんが一度にあんなに激しくするから…っぽ。私今の今まで意識なくしてたんですよぅ?まぁ,明菜さんの生着替えを見逃さなかったあたりは流石私!私ぐっじょぶ!」

―――あの時話しかけても返事がなかった理由はそれかっ!

「ま,まさか,今日のことは夢なんかじゃなくて…!?」

「夢?なにいってるんですか明菜さん!確かにあの格好をした明菜さんはまるで夢に出てくる妖精のような愛らしさでしたけど,どころがどっこい…!現実です!これが現実…!」

 非現実的なものに,現実を突きつけられる。

 ということは,あの時魔獣に襲われたのも現実で,私の中に魔力があるのも現実で,契約したのも現実で―――!

「というわけで,これからもよろしくお願いしますね?マスター!」

 なぜか,リュミエールがにやりと笑う顔が見える。 


―――悪魔の手に,囚われたような気がした。


「う,うそだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

  

 私の叫びは空に溶けて。

 桜と共に風に舞う。


 こうして私―野々宮明菜―のいつもの一日ではない一日は終わりを告げた。 

というわけで、一気に一話分投稿です。

続きはいつになるかわかりませんが、多分まとめて投稿することになると思います。

それまで、気長にお待ちください。

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