第二話 ORANGE
エモは困っていました。
お鍋と首飾り。
両方とも、一体どうやって使えばいいのか分からないのです。
本をたくさん読みましたが、どうにも答えが見つかりません。
そんな時に、扉を叩く音が聞こえました。
とんとんとん、とんとんとん。
「こんにちはーっ、居ませんかーっ?」
エモはびっくりしました。誰かが訪ねて来たことなんて、今までに一度も無かったのです。
それなのに、どうして?
とんとんとん、とんとんとん。
扉の向こうから、男の子の声が聞こえます。こんにちは、こんにちは。エモって子のお家はここですか?
がちゃ。
「こんにちは! キミがエモ?」
「う、うん……」
その小人の男の子は、チョンと名乗りました。水色の帽子、黄色の肩掛け。橙色のシャツに、黄緑色の半ズボン。とってもおかしな格好をしています。
チョンは、いちばん大きな木に聞いて、エモのところへ来たと話しました。
「ねぇ、キミ、虹を作るんだよね?」
「うん、そうだよ」
「僕も仲間に入れてくれない?」
「!」
エモはまたびっくりしました。白黒の子と仲間になりたいなんて小人は、普通は居ないのです。白黒の子とはかかわらないと言うのが、小人達の常識です。
「僕の色は、透明なんだ」
エモがびっくりしていると、チョン話し始めました。
「どんな色にもなれるんだけど、どんな色でもないんだ」
どんな色にもなれるんだけど、どんな色でもない。エモには、少し意味がわかりませんでした。そもそも、透明色の人なんて聞いたことがありません。エモはまた少しびっくりしました。
「だから、虹が作りたいの?」
「うん。それに僕、色が見えないから、困ってたんだ。でも、エモって虹を作る子の所に行けば色が見えるようになるよって、いちばん大きな木が教えてくれたんだ」
「でも、でも、わたし、作り方もまだよくわからないし……」
ばたんっ
「え?」
突然、エモの視界からチョンが消えました。
なんということでしょう、床に倒れてしまっています。
「うわわ、ち、チョン、くん? どうしたの、大丈夫?」
ぐぅぅぅ。
大きな音で鳴ったのは、チョンのおなかの音でした。
「ありがとう! 僕、ごはん食べ忘れてたんだ」
そう言いながら、チョンはエモが作ったごはんをもりもり食べました。
エモは、本で読んだ『常識』に従って、倒れた人を助けただけだったので、チョンがこんなに喜んでいるのを見てびっくりしました。さっきから、チョンにはびっくりさせられっぱなしです。
そんな間にも、チョンはがつがつ、もぐもぐとごはんを食べました。
エモは、何だか可笑しくなって来てしまいました。くすくす笑いが抑えられません。
「ふふ、食べ忘れるの? 変なの」
「うぐ、ぼぐ、……、いろんなこと忘れやすくって。えへへ。でもこんなにおいしいごはんが食べられたから、食べ忘れててよかった」
チョンが嬉しそうに笑ったので、エモもなんだか嬉しくなりました。
それから食事をする間、チョンはくるくると表情を変えて、エモを楽しませてくれました。
そして、チョンは何度も何度も「ありがとう」と言いました。
「エモ、本当にありがとう! また来るね!」
そう言うと、チョンは帰って行きました。最初の目的は、もう忘れてしまったようです。
また来るね。
「うん……!」
エモは、もうチョンには聞こえないと分かっていたけれど、小さく答えました。
すると、ぱぁっと胸元にあたたかさを感じます。
びっくりして見てみると、なんという事でしょう、首飾りに、お花がひとつ、咲いています。
ささやかで小さい、でも鮮やかな橙色の華。
「わぁ……っ」
橙色はきらきら輝いて、エモの胸元を飾ります。
初めて自分を飾る色は、それはそれは嬉しく、エモはいつまでもにこにこして、それを眺めていました。
お友達が出来た日、橙色。