第一話 white
そこはとてもきれいで、みんなの笑顔が輝く町でした。
「よいしょ、よいしょ……っと」
小人のエモは、大きな真っ黒いお鍋を運んでいました。
抱えるのに精一杯の大きさの物なので、エモの細い腕は悲鳴をあげます。
「重いよぉ……」
何度も何度も休憩をとって、汗を拭き拭き、エモは歩き続けました。
カラフルなお家。カラフルな小人。みんながエモとすれ違います。
そこはとてもきれいで、みんなの笑顔が輝く町でした。
けれど、エモは笑ってはいませんでした。
エモは、白黒の子。色の無い子だったので、感情があまり無いのです。
そこはとてもきれいで、自分の色を持つ小人達の住む町でした。
けれど、明るく楽しそうに笑いあう小人達の中に、エモに話しかける者はたったのひとりも居ませんでした。
『人はこんな時、悲しくなる』
エモは、この前読んだ本にそう書いてあったことを思い出しました。
でも、エモには『こんな時』の悲しさがわかりません。
だってこれは、彼女にとってはあまりにも日常で、それ以外の物を感じたことなんてなかったのですから。
一歩、一歩と前へ進むと、シンプルな真っ白いワンピースが、ふわり、ふわりとなびきました。
エモのお家は、町のはずれにありました。白黒のお家です。
中に入ると、壁一面に並んだ本が出迎えてくれます。エモは本が大好きで、毎日本を読んでいます。
そこはとても安心できて、エモが一番好きな場所でした。
「よいしょっ……と、」
炉の上にお鍋を置くと、何かがかつんと音を立てました。
今日、森のいちばん大きな木に貰った首飾りです。
それは円い形をしていて、真ん中に開いた円い穴を、黒い涙型がお花のような模様になるように囲っています。
さわるとつるつるしていて、傾けるとつやがぴかぴかします。
この首飾りとあの大きなお鍋を使って、エモは虹を作るのです。
そうすれば、虹色が見つけられるはず。そう、いちばん大きな木が教えてくれました。
さぁ今日はもう寝ましょう、エモはとても疲れています。
布団に入るといつも、エモのまぶたの裏には町の人たちの笑顔が浮かびます。
きらきらと輝く、エモには無いものです。
「虹色が見つけられたら、わたしもあんな風に笑えるのかなぁ?」
憧れだけを胸にして、エモは眠りへと堕ちてゆきました。
笑顔への憧れ、白色。
第一話、読んでくださってありがとうございます。
今回は、オフラインのお友達のリクエストで、虹に関するお話を書かせていただきました。
最後まで読んでいただけると幸いです(^-^)