表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

暗闇バトルロワイアル

作者: church


 真っ黒な、世界。

 人間が捉えられる、全ての光という光が遮断された世界。

 気が付くと私はそんな、完全な暗闇の中だった。そして夢かと思うくらいに、突然私は、裸足でそこに立っていたのだ。


 起きてすぐに、脳に響いてきたアナウンス。

 「ゲームには、数人の人間が参加している。最後まで生き残った一人を勝者とし、解放する」

 って感じの、男のひとの声。

 それが唯一、最初で最後の、外部から与えられた信号であり情報だった。


 もう三日は経ったように思う。


 誰とも会わない。誰の声も聞こえない。


 最初の最初に歩けるだけ歩いてみたけど、この世界は私を嘲笑っているのか、あるはずの壁にさえ、私は辿り着くことが出来なかった。

 あるはず、なのに。ずっと暗闇の世界がこの世にあるのならば、それは部屋の中にしか作れないのだから。

 どれだけ、どのくらい、巨大な「場所」なのだろう。

 あるいは、ほんとうに、ここは「世界」なんだろうか。

 静寂の暗闇で、誰とも会えない暗闇で、私は思考することしか出来なかった。


 私の手には――凶器である銃が、握られている。最初から手に持っていた。

 これが唯一、最初で最後の、支給品ということなのだろう。

 丸い銃口、回るリボルバー、冷たい引き金、動く撃鉄、握るグリップ。

 テレビや映画で見たことのあるそれは、思ったよりも重い。

 歩いたとき、これを持ったままだったから、いまも少し腕が痛い。


 それでも、これから手を離すわけにはいかなかった。黒い拳銃は闇に溶けている。

 床に置けば、見失ってしまう気がして、怖かった。

 拳銃だけじゃなくて。小さな現実感とか、張りぼての安心感とか、そういうものも。


 私は体育座りで時を過ごしていく。

 時計の針も太陽も無いのに、時間の過ぎるのが分かるのは、少し不思議な気がした。


 それから私は二回眠りに落ちて、二度の目覚めを経験した。




 変化は、ない。

 音もなく、光もなく、においがするとすれば、お風呂に入れていない自分の汗のにおいくらいで、世界は飽くまでも淡々と続いていた。

 ああ、あと、お腹が空いていた。

 それと、お家に帰りたい気持ちが、にわかに強くなっていた。


 寝ている間に、涙が流れていたらしい。スカートの膝の当たりが少し、濡れていた。

 体育座りのまま頭をうつぶせに寝たから当然だと、私は無感動した。


 見回す、辺りを、何の意味もなく。

 変化は、ない。

 静かな暗闇。

 見えない静寂。


 アナウンスは、ゲームには数人が参加していると言っていた。

 この広い世界に、数人。

 小さな私が歩いたところで、誰にも会えないのは、当たり前だと思える。

 でも、本当にそうなのだろうか。私は、だんだん信じられなくなっていた。


 私の手には――凶器である銃が、握られている。最初から手に持っていた。

 これは、この中に込められた弾丸は、誰に向けて使うモノなのだろうか?


 私は、怖かった。

 自分の姿さえ見えない暗闇のなかで、自分がどんな顔で拳銃を見ているのか、分かってしまうのが、何番目かに怖かった。


 それから私は眠れなくなってしまって、三回意識を失って。三回、悪夢に醒まされて。





 真っ黒な、世界。

 人間が捉えられる、全ての光という光が遮断された世界。

 気が付くと私はそんな、完全な暗闇の中だった。そして夢かと思うくらいに、突然私は、裸足でそこに立っていたのだ。

 ――これはもう、語ったことだったろうか。どれがまだ、語っていないことなんだっけ?


 私は、倒れていた。お腹はさらに空いて、喉が明らかに乾いていた。

 だれにも会うことはない。だれの声も聞こえない。

 鼻がきかなくなってしまって、自分の体臭も感じない、ひかりの無い世界。

 だれ、なんだろう、私をここに閉じ込めたのはだれなんだ、最近そればかり考えていた。それ以外なにも考えられなくなっていた。


 だって、私は、こんな理不尽に、時間と自由を奪われるなんて、可哀想すぎるじゃないか。

 はぁ、はぁ、って声がする。私の口からだ。私は、興奮して、冷たい床を、爪で、がりがり、がりがり、掻いて、叫んでいた。

 いつからだっけ。

 私は、叫んでいた。


「だして、よぉ……私をここから、だして、だして、よぉ……ああぁ、ごはん、たべさせ、て、みず、飲みたい、……ひぁっ! ……うえっ、ぁあぇっ、つ」


 急にしゃべったから、喉に舌べろが張り付いて、私はえずく。涙を流したような声になる。目からはもう、こぼれないのに。


「なん、で、だれぼ、ごだえでぐれな……うぇ、こたえてぐれないの!? ひとりっで、ごわいよ……やぁ、だして、はやく、だしで、なんでぼするがら、がみざま、か、げぇ、神様……たすけてよ!!」


 私は、冷たい床を、爪で、がりがり、興奮して、がりがり、叫んで、掻いていた。

 爪はがりがり、興奮して床を、冷たい私で、がりがり掻いて、叫んでいた。

 がりがりは床を冷たく、掻いて爪を叫びで、私をがりがり興奮していた。


 それでも、

 助けは来ないし、私は叫び続けて、声が枯れてしまって、

 それでもこの暗闇は、何にも映してくれないのだ。


「あ、はは」


 手で、私は、確かめる。

 まるい銃口、まわるリボルバー、つめたい引き金、うごく撃鉄、にぎるグリップ。

 テレビや映画で見たことのあるそれは、重い。とても重い。

 ――はやく使わなければ、ひきがねを引く力さえ無くなってしまうんだろうなと、私は思うようになった。





「七番、自殺しました」

「おお――そうか。これであと八人だな」


 暗闇バトルロワイヤルのモニター室では、十四個のモニターを覗く二人の男が語り合っている。

 モニターのまえに座ってる部下らしき男と、それを煙草をふかしながら見ている、上司風の男だ。

 なんだかつまらなそうに――上司が、部下に語りかける。


「しかしな、エグいことを考えるやつもいたもんだな……全く」

「そうですね。『殺し合い』を示唆させておいて、暗闇の箱に『一人一人別々に』少年少女を置き去り。自殺か、餓死するまで待つ……って、最悪以外のなにものでもありませんねぇ、これは」


 あ、また死にました。これであと七人。

 部下は嬉しそうに笑う。


「何の実験か知りませんが、観察する側で良かったですよ。さっきの叫び、いかしてましたねぇ。彼女は気付いていたんでしょうかね」

「知らん。知りたくもない。ただ、俺たちは観察の役目を全うし、最後に残ったひとりを解放してやるだけだ」


「ねぇ、部長」

「なんだ」

「この企画、『暗闇バトルロワイアル』って名前ですけど。殺し合いは絶対に起こらないのに、バトルロワイアルって言えるんですかねぇ」


「……」



 上司は煙草をふかしながら、ただ首を傾げるように横に振った。


「それは当人たちが決めることだ。俺は、知りたくない」


 ただ、時間だけが過ぎていく。

 二人の監視者はモニターの中の彼らを、最後まで見ていた。見放して、いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オチがかなりエグくて印象に残りました。題名が暗闇バトルロワイヤルだったので、本家のように殺しあいな話かと思っていたので、オチには驚きました。 主人公の気持ちに共感することができました、怖い…
2010/08/18 14:10 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ