真っ直ぐな男たちの声
ステージ上のライトが一気に弾けた瞬間、胸の奥が、きゅっと掴まれた。
正直に言えば、俺ー夏目 航大はアイドルに興味があったわけじゃない。
ここに来た理由は、ただ一つ。
高校二年になって、やっとできた友達――矢桐真悟に誘われたからだ。
薄暗かったライブハウスが、光に満ちる。
三人の少女が、手を振りながら現れた。
最初に名乗ったリーナは、モデルのような長い手足で堂々としていた。
隣のあきほは、柔らかい雰囲気で、少し照れたように笑う。
そして最後に現れた、ひときわ小柄な少女――ミズりん。
真悟が何度も語っていた名前だ。
「……ああ、この子か」て思って見ていた小さな身体から放たれる声は、想像していたよりもずっと低く、かすれていて、強かった。
外見と声とのギャップが、大きかった。
この声を武器に、これまで積み重ねてきた時間みたいなものが滲んでいた。
――でも。
本当に俺を揺さぶったのは、ステージの上じゃなかった。
「リーナちゃーん!」
「ミズりーん!」
「あきほー!」
地鳴りのような声援が、腹の底から響いてくる。
男たちの声は、正直言って少し怖いくらいだった。
けれど、その声には、茶化しも、冷やかしも、そんなものは一切なかった。
ただ、真っ直ぐだった。
君たちが好きだ、応援している俺たちはここにいる――
それだけを、全身で叫んでいる。
暗闇に慣れてきた店内で、俺はその声の主たちの顔を、ひとりひとり見回した。
派手な服の人も、地味な人もいる。
年齢も、職業も、きっとバラバラだ。
それでも彼らは、同じタイミングで声を張り上げ、押しの名前を呼び、同じ瞬間に息を吸っていた。
――こんなふうに、一心不乱に誰かを本気に応援できるってすごいことだよな。
ふと、真悟の姿が目に入った。
クラスでは目立たず、声も小さなあいつが、周りに負けないくらいに大きな声で叫んでいる。
顔は真剣で、少し涙ぐんでいるようにも見えた。
俺は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
歌が進むにつれて、三人の声が重なっていく。
音響も照明も完璧とは言えない。
けれどその不完全さすら、完璧さに変わっていた。
ステージの上で輝く少女たちと、
その光を必死に支える、押しのファン達。
その間に、確かに“何か”が行き来している。
それは、テレビ越しじゃ伝わらない。
録音された音楽でも、画面の中でもない。
ここに来なければ、絶対に感じられなかったものだ。
俺は、気づけば拍手をしていた。
誰に合わせるでもなく、自然と。
――ああ、なるほど。
アイドルのライブって、こういうことなのか。
歌やダンスだけじゃない。
応援する人たちの声も、表情も、熱も、全部ひっくるめて、一つの舞台なんだ。
終演後、喉が少し痛かった。
叫んだ覚えはないのに、喉の奥が疲れている。
「……悪くなかったな」
そう呟いた俺に、もし真悟が気づいていたら、きっと言っただろう。
来てよかっただろうと……。
これは、俺が初めてアイドルを見た日の話で、
それ以上に――
人が本気で“好き”を叫ぶ姿に、初めて心を動かされた日の話だった




