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真っ直ぐな男たちの声

作者: いづる
掲載日:2026/10/29

ステージ上のライトが一気に弾けた瞬間、胸の奥が、きゅっと掴まれた。


 正直に言えば、俺ー夏目 航大はアイドルに興味があったわけじゃない。

 ここに来た理由は、ただ一つ。

 高校二年になって、やっとできた友達――矢桐真悟に誘われたからだ。


 薄暗かったライブハウスが、光に満ちる。

 三人の少女が、手を振りながら現れた。


 最初に名乗ったリーナは、モデルのような長い手足で堂々としていた。


 隣のあきほは、柔らかい雰囲気で、少し照れたように笑う。

 

そして最後に現れた、ひときわ小柄な少女――ミズりん。


 真悟が何度も語っていた名前だ。


 「……ああ、この子か」て思って見ていた小さな身体から放たれる声は、想像していたよりもずっと低く、かすれていて、強かった。

 外見と声とのギャップが、大きかった。


 この声を武器に、これまで積み重ねてきた時間みたいなものが滲んでいた。


 ――でも。



 本当に俺を揺さぶったのは、ステージの上じゃなかった。


 「リーナちゃーん!」

 「ミズりーん!」

 「あきほー!」


 地鳴りのような声援が、腹の底から響いてくる。

 男たちの声は、正直言って少し怖いくらいだった。

 けれど、その声には、茶化しも、冷やかしも、そんなものは一切なかった。


 ただ、真っ直ぐだった。


 君たちが好きだ、応援している俺たちはここにいる――

 

それだけを、全身で叫んでいる。


 暗闇に慣れてきた店内で、俺はその声の主たちの顔を、ひとりひとり見回した。

 派手な服の人も、地味な人もいる。

 年齢も、職業も、きっとバラバラだ。


 それでも彼らは、同じタイミングで声を張り上げ、押しの名前を呼び、同じ瞬間に息を吸っていた。


 ――こんなふうに、一心不乱に誰かを本気に応援できるってすごいことだよな。


 ふと、真悟の姿が目に入った。

 クラスでは目立たず、声も小さなあいつが、周りに負けないくらいに大きな声で叫んでいる。

 

顔は真剣で、少し涙ぐんでいるようにも見えた。


 俺は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


 歌が進むにつれて、三人の声が重なっていく。

 音響も照明も完璧とは言えない。

 けれどその不完全さすら、完璧さに変わっていた。


 ステージの上で輝く少女たちと、

 その光を必死に支える、押しのファン達。


 その間に、確かに“何か”が行き来している。


 それは、テレビ越しじゃ伝わらない。

 録音された音楽でも、画面の中でもない。

 ここに来なければ、絶対に感じられなかったものだ。


 俺は、気づけば拍手をしていた。

 誰に合わせるでもなく、自然と。


 ――ああ、なるほど。


 アイドルのライブって、こういうことなのか。


 歌やダンスだけじゃない。

 応援する人たちの声も、表情も、熱も、全部ひっくるめて、一つの舞台なんだ。


 終演後、喉が少し痛かった。

 叫んだ覚えはないのに、喉の奥が疲れている。


 「……悪くなかったな」


 そう呟いた俺に、もし真悟が気づいていたら、きっと言っただろう。

来てよかっただろうと……。

 

これは、俺が初めてアイドルを見た日の話で、

 それ以上に――

 人が本気で“好き”を叫ぶ姿に、初めて心を動かされた日の話だった

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