表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンマスクより「俺」  作者: 美憂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

1999 暮れ

そんなことって突然起こるんだ。


俺はサッカーを一生続けたい。

しかし、そんな俺と違い妹は体が弱く、子どもの頃から入退院を繰り返し、俺と真逆の、太陽を知らない白い肌の穏やかな子だ。


俺はサッカーの遠征で好き勝手をしてるが、ばあちゃんも両親も家族旅行はしたことがない。妹の体調次第で予定は変わるし、長時間の移動も難しかった。


でも、妹は俺に不満を言わない。遠征に行く俺に

「いいなー。私の代わりにいっぱい走ってね」そう言って笑う。


走ってはいけないって、どんな気持ちなんだろう。子どもの頃から妹を見ると自分と重ねて考えた。

サッカーができないなんて、俺には我慢できない。


その日も妹の容態が悪化したと母さんから連絡があった。「俺が車を出すよ」そう答えると、妻が小さく頷いた。

「どうする? チビもいるから、家にいてくれてもいいよ」

「私も行く。実家まで送って。実家の車でこの子と追いかけるから」

「わかった」

その旨を母さんに伝えると、

「ちっちゃい子いるんだから無理しなくてもいいのよ。ほら、行ったら元気なんていつものことなんだから」と笑った。


いつものことならいいんだ。そう思った。いつだって俺は、妹がいつ消えてしまうかわからない状況に怯えている。屈強のDFには果敢に向かう俺が。

いつものことならいい。

それなら、みんなで顔だけ見て帰ってこよう。

みんな安心が欲しいんだ。


急ぐ必要もないと思っていた。妻の実家の前で車を止める。妻は眠っている子どもを抱き上げた。小さい手が、妻の服を握っている。


「着いたら連絡する」

「うん」

「お前も運転気をつけろよ」

「そっちこそ」

ドアを閉める直前、妻が少しだけ笑った。

「帰ったら練習するんでしょ」

「バレてる?」

「顔に書いてある」笑われた。

その笑い方が好きだった。


実際、父さんも助手席で新聞を広げていたし、ばあちゃんは「また怒られるわよぉ。みんなそろって大袈裟だって。」なんて言いながら、病院に持っていく荷物を気にしていた。


いつもの家族だった。


俺は運転しながら、帰ってからの練習プランを考えていた。チームはオフだったけど、ボールは触りたかった。練習して、もっと練習して、

絶対にトップに上がる。

俺のゴールで、一年で昇格する。

まずは、ピッチでサッカーをするんだ。

外で見てるなんて、ごめんだった。


信号待ちで、ふとルームミラーを見る。


父さんが何か喋って、後ろでは、ばあちゃんと母さんが笑っていた。


なんでもない景色だった。


俺は、その時、「今」を見ていなかった。

もっと先のことばかり見ていた。


トップに上がること。

試合に出ること。

ゴールを決めること。


家族のことだって、ちゃんと大事に思っていたはずなのに、どこかで、「この時間は続く」と思っていた。


その瞬間だった。


正面に、


車が見えた。


おかしいと思った。


近い。


いや、


違う。


こっちに来てる。


誰かが声を上げた。


ハンドルを切った。


多分。


そこから先は、


覚えていない。


ゴールシーン特集の走馬灯は見る余裕もなく

一瞬

チビとあいつの笑顔が見えたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ