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悪魔な悪役令嬢 〜愛猫からの余計な恩返し〜

作者: 三香
掲載日:2026/09/23

ジャンル的にコメディとファンタジーとで迷ったのですが、とりあえずファンタジーにしました。

 友人はいない。

 恋人はいない。

 婚約者もいない。

 でも、お金持ちの両親と優秀な兄から深く愛されているのでシフォンヌはぬくぬくと快適生活をおくっていた。

「あーん」

 と、美人メイドたちにチヤホヤされてご飯を食べさせてもらうくらいにシフォンヌは怠惰であったのだ。


 自尊心を捨ててしまえば人生楽々、とシフォンヌは思った。


 もともと前世から引き篭もり傾向にあったので、それが転生しても引き継がれただけとシフォンヌは確信していた。そうして生まれた時から前世の記憶があったシフォンヌは、赤ちゃんのチヤホヤ生活を継続させて成長したのだ。


 前世では、友人も恋人もいないと言うと同情の眼差しを向けられたが、家で仕事をして自活をしていたので大きなお世話であった。親孝行は3歳までで終えている(両親公認)し、本人がその生活に満足をしているのだし、誰にも迷惑をかけずに暮らしているのである。

 それに臆病な性格から、人と関わらない寂しさや孤独よりも人と接して傷付く方が怖かった。前世では孤独は一時的に埋められた。ゲームやAIや推し等で、疑似の承認欲求も疑似の達成感も味わうことができたのであった。

 何より快適なのだ。

 大好きな愛猫と暮らす生活は、この上なく快適で幸福だった。愛猫と戯れるのではなく、愛猫が遊んでくれているのだ。尊死である。愛猫は人生での推しであり、推しは人生の光であった。光に貢ぐのだから光熱費である。どれだけ愛猫に浪費しようと文句を言われる筋合いはない。

 一度だけ恋人はいたが遅刻の挙句、「遅くなるから仕事の車で直接待ち合わせ場所に行くね」と言って、金箔と彫刻が施された豪華な宮付き霊柩車で来たのだ。乗る度胸はなかったし、恋人はサンタクロースならぬ恋人は死神とリフレインする即席自作の替え歌が頭の中で流れたので即刻でお別れをした。インパクト盛り沢山な体験だったので一度で十分、とそれからは恋人はいない。

 だいたい成長しただけで立派な大人になれるなんて幻想なのだ。大人が落ち着いて見えるのは疲れていることが多いからである。

 そして一人の時は優しくても集団の皆になると残酷になる人も少なくない。


 ということをシフォンヌは前世で学んだのであった。

 それにシフォンヌは前世からちょこっとマイペースな女の子だった。小学生の時には大学ノートを使っていたし、セブンイレ○ンは時間外で行っていたし、お菓子のファミリーパックは一人で食べていたし、午後の○茶は午前に飲んでいた。


 なので誕生した時から前世の記憶持ちであったシフォンヌは、せっかく大金持ちの公爵家の令嬢に生まれたのだからと怠惰一択の選択をした。

 普通ならば許されないだろうが、両親はシフォンヌに激甘だった。

 生まれたフレッシュな瞬間から天使の顔立ちだったシフォンヌに、両親と兄は息をしているだけで偉いと、欠伸をしただけで可愛いと、寝ハゲがチャーミングと絶賛しまくりであった。

 赤ちゃんの頃から17歳になった今もシフォンヌを甘やかして甘やかして甘やかし続けているのである。


 そんな育てられ方をすれば傲慢でわがままな令嬢に成長する可能性が高かったが、シフォンヌには前世の経験と知識がある。身の丈にあった善良さと消極的な小心が前世から染みついていたので、怠惰であったが他者を侮ることも見下すこともなかったのであった。


 怠惰を優先するシフォンヌであるのでチャキチャキと勉強もした。2回も3回も同じ勉強をするなんて効率が悪くて時間の浪費と何事も一発クリア。来月にやる、なんてことを12回唱えると1年がすぎるのである。サボるなんて時間の無駄だった。


 そうしてシフォンヌは愛らしい天使フェイスから究極の絶世の美女へと成長した。

 人類の至高の領域に達しているような美のレベルカンストである。

 視線ひとつで高熱エネルギーのごとく相手の心を焼きつくし、熱烈な信者を量産してしまう美貌なのだ。まさに魂を吸い取られるような美しさであった。


 シフォンヌは立っているだけで、「なんてお美しい(感涙)」モードで全方位から傾倒されて絶賛の嵐なのである。さながら、心臓を一撃する『心撃(しんげき)の美女』だった。


 この傾国級の美貌がシフォンヌにとって素晴らしく役に立った。

 怠惰ゆえに何もしたくないシフォンヌは、社交もしたくないので表向きは病弱設定にしている。が、公爵令嬢なので最低限のパーティーの出席は必要であった。しかし飛びぬけた美貌でにっこりと微笑すれば十分に事足りた。相手が恍惚となって下僕になるので、社交は微笑のみで目的が達成されるのである。


 美貌、教養、お金持ち、のフルコンボでシフォンヌの人生は超イージーモードであった。

 と思っていたが、シフォンヌが17歳の時に公爵家に激震が走った。

 実は、シフォンヌは公爵家の実子ではなかったのである。本物の令嬢は、誕生した日の深夜に使用人の女性によってすり替えられていたのであった。


 使用人の目的は身代金だった。

 借金のある夫に唆されての犯行であった。

 そして逃亡する時間稼ぎに、令嬢と同じ髪色の赤子を裏組織から買ってベビーベッドに置いたのだ。

 しかし身代金を要求する前に、大規模な馬車同士の事故に巻き込まれてしまい身元不明の夫婦として死亡した。その結果、本物の令嬢は孤児院に送られたのである。

 

 そうして17年後、たまたま公爵夫人が慈善事業のために孤児院を視察に訪れて、自分にそっくりな少女を発見したのだ。


「ローナです。よろしくね」

 公爵家の応接室で初対面の挨拶をするローナに、シフォンヌはクラクラと目眩がした。

 マズイ、と思った。

 何となく既視感は幼少期からあったのだ。けれども怠惰ゆえに深く考えることはなかったのだが、ローナの姿を見て前世の小説の挿し絵を思い出したのである。

 ここは小説『破滅へようこそ』というバッドエンドの世界だ、と。


 ヒロインはローナ。

 悪役令嬢はシフォンヌ。

 シフォンヌは公爵家に戻ってきたローナに嫉妬して虐め、最後には公爵家から追放される役割りであった。

 しかし『破滅へようこそ』はバッドエンドを楽しむ小説だったので、ローナはハッピーエンドにはならない。もちろんシフォンヌも公爵家も破滅一直線である。


 冷や汗を背中に流したシフォンヌは頭をかかえた。

 すると。

 何故か、ぴょこんとネコミミがシフォンヌの頭部に出現をしたのである。


 応接室には、公爵夫妻と兄と使用人たちがいた。

 全員がネコミミを見たのではなかった。

 ネコミミを見ることができたのは、公爵夫妻と兄だけであった。シフォンヌ本人すらも自身のネコミミに気づいていない。


 美貌のシフォンヌにネコミミ、凶悪なまでの可愛い絵面に公爵夫妻と兄はグフッと鼻血を噴き出しそうになった。あわてて鼻を押さえる。

 いきなりネコミミという不思議現象が出現したのだから常ならば警戒や疑問を抱くところであるが、可愛すぎるのだ。シフォンヌの圧倒的な美貌にネコミミが付いて、美しさは無敵、可愛いは無罪、状態であった。


 しかも。


〘にゃうん。どうしよう。このままだとお父様もお母様もお兄様も破滅にゃ。お母様が止めたのに、ローナは軽い教育だけで社交界に出てしまって、王宮のパーティーで他国の王族に無礼をしてしまうのにゃ。激昂した王家が公爵家を潰してしまうのにゃ〙

 シフォンヌは口を開いていない。

 なのに、公爵夫妻と兄にはシフォンヌの声が聴こえた。正確には直接に頭に響いてきたのである。

 公爵夫妻と兄は視線を交わした。

 これはシフォンヌの心の声だ、と。

〘私は偽物の令嬢だから公爵家から追放されることは仕方がないけど、お父様とお母様とお兄様が没落して苦労をするのは嫌にゃ。だって私を愛してくれたもの。可愛がってくれたもの〙

 心の声がザバザバと水のようにダダ漏れしていることも知らずに、シフォンヌは思考を続ける。ネコミミが現れてから、常は令嬢らしい言葉であったのに語尾が変化していた。

〘パーティーの出席を阻止する? でもローナは公爵令嬢に戻れたことでハッチャケて他にも色々とやらかしてしまうのにゃ。遅かれ早かれローナのせいで公爵家は没落コースにゃ。そうだわ、没落しても私がお父様とお母様とお兄様を養えばいいのにゃ〙


 シフォンヌが拳を握った。ネコミミがぷるっと震えた。可愛い。

〘私には神様がくれた美貌があるにゃ。この美貌でお金持ちをメロメロにして、お父様とお母様とお兄様に快適な生活を提供するのにゃ〙


 王国一の美貌のシフォンヌの婚活なぞ鴨が葱を背負って包丁とまな板と鍋も持参しているようなものだろう。求婚者が殺到すること間違い無しである。


 ドバッと公爵夫妻と兄の涙腺が崩壊した。

「「「シフォンヌ〜!!!」」」

 怠惰なシフォンヌが、自分たちのために婚活する決意をしたのだから公爵夫妻と兄の感動たるや現界突破であった。


 そもそも犯人は死亡しているので真相は闇の中なのである。

 状況証拠とローナの容姿だけで公爵家の令嬢だと認めることには無理があった。公爵家なのである、簡単な問題ではない。それどころか赤子の入れ替え自体も正真正銘の事実であったのか、DNA鑑定もない世界なのだから不明なのだ。


 ゆえに小説では公爵家の令嬢として受け入れられたローナであったが、現実の公爵家ではローナを公爵令嬢として認めることをしなかったのである。

 シフォンヌの心の声の、貴族にとってトップワーストである没落という警告の影響も大きかった。公爵夫人の貴婦人らしい所作とローナの平民としての粗野な振る舞いは、同じ顔であるだけに落差が激しく目立ち、かえってシフォンヌの言葉の信憑性を高くしたのである。

 そのためシフォンヌの言う通り、ローナを公爵家に害を及ぼす存在と考えたのであった。


「どうしてよ! あたしはお母さんとそっくりじゃない!!」

 ローナは喚くが、容姿だけで正当な公爵令嬢と肯定することはできない。しかし再びローナを孤児院に戻すこともできない公爵家では、ローナを公爵派閥の末端である男爵家に嫁入りさせたのだった。

 男爵家には相応の見返りがあり、公爵家も怪しい血筋のローナを押し付けられる。双方に利益と満足の得られる結婚であった。

「あたしは公爵令嬢になるのよ!」

「平民から男爵夫人になるだけでも大出世だ。大人しくしなければ、男爵夫人の地位もなくなるぞ」

 ローナは不満をぶつけたが、男爵の厳しい言葉に黙るしかなかった。


 そうして『破滅へようこそ』の小説の世界は、序章すら始まることなく幕を閉じたのであった。


 その数日後。


〘にゃあ? 小説のストーリーと違う展開になっているのにゃ。でも強制力があるかもだから、やっぱり婚活をしてお金持ちをゲットするのにゃ〙

 王宮のパーティーに出席したシフォンヌは周囲に視線を走らせていた。美女フラッシュのごとく美貌が眩しい。


 ゴフッ、と一部の男性から鼻血が迸った。

 シフォンヌのネコミミが見えている男性たちである。

 どうやらネコミミが見える見えないは、シフォンヌの中での相手への愛情や関心に関係しているらしい。くわえてネコミミが現れるのは、シフォンヌが何かを強く思ったり願ったりした時限定であった。

 この場合、婚活のターゲットとなった金持ち男性がネコミミを見ることができていた。

「ただでさえお美しいシフォンヌ嬢なのに凶悪すぎる……」

「可愛いは罪というが、あのネコミミは反則の大悪……」

「う、動いているぞ。ネコミミがぴるぴると動いている……」

「し、尻尾もゆらゆらしている。ぐぅぅ、たまらん……」

 一方、大多数のネコミミが見えていない者たちは半信半疑である。

「ネ、ネコミミだと!?」

「見えないぞ」

「羨まけしからん嘘を言うな!」

 少数の見える者たちの中には王族もいた。

「嘘ではない」

 と国王。

「シフォンヌ嬢にはネコミミと尻尾がある」

 と王太子。

「キャワイイ!」

 と第二王子。


 パーティーは大混乱である。


「シフォンヌ、今夜のパーティーは騒がしい。早めに帰ろう」

 兄に促されてシフォンヌが頷く。

 しゅるん、としなやかな尻尾が兄の手に絡んだ。ニンマリと兄の頬が緩む。細い目が三日月となった。


「「「「「羨ましい!! 尻尾が手にっ!!!」」」」」

 国王たちが叫ぶ。

 マナーを重んじる貴族なのに兄を指差して悔しげに地団駄を踏んでいる者もいた。


 シフォンヌ自身はネコミミに気づいていないので、不審げに首を傾げた。

「皆様、ネコミミとか尻尾とか何のことかしら?」

「いいんだよ。シフォンヌは気にしなくて」

「そうですか?」

「そうだよ」

 にゃにゃにゃの可愛い心の声を聴きたい兄は、シフォンヌにネコミミのことを教えなかった。

「シフォンヌ。婚活なんてしなくてよいのだぞ。公爵家は没落なぞしない」

〘迷うにゃ。お兄様は優秀だし、ローナは結婚したし、もしかしたら強制力とかないのかもにゃ。公爵家は無事かもにゃ。少し様子を見て、婚活はそれからでも遅くないかもにゃ〙

 シフォンヌは微笑んだ。

 怠惰優先のシフォンヌなので、正直な気持ちとして婚活は面倒臭いのである。

「はい、お兄様。しばらくは屋敷でゆっくりいたします」


〘でも、保険はかけるにゃ〙

 シフォンヌは振り返ると、パーティー会場で最も金持ちであるイリヤ公爵に視線を合わせた。

 じっと見つめて、花蜜のような甘い笑みを浮かべる。毒のように瑞々しい唇には致死量の艶があった。

 ネコミミがぴこぴこと動く。

 あざとい。

 大悪魔である。

 瞬時に目も心も奪ってしまう破壊力であった。

 可愛さと美しさによる魅力値は魅了のごとく凄まじい。


 イリヤ公爵は、全身の細胞が発火したかのように赤くなっている。


 そしてバターンと倒れたイリヤ公爵を見届けて、何事もなかったかのようにシフォンヌは兄とともにパーティー会場を出ていったのだった。

 

 しかし、シフォンヌは知らない。

 翌日から王家と高位貴族たちからの求婚の申し込みが今まで以上に山積みとなることを。

「シフォンヌは公爵家の癒しだ!」

 と激怒した公爵と兄が求婚者と全面対決をすることを。

 特に兄とイリヤ公爵の戦いが熾烈を極めることを。


 何も知らないシフォンヌはその夜。

「あーん」

 と美人メイドに苺を口に運んでもらいつつパーティーで疲れた手足をマッサージしてもらって、いつも通りぐーたらを満喫した。

 そして、シフォンヌは翌日からの騒動を想像することもなく健やかに眠ったのだった。


〘ご主人、ぐーたらせずに頑張って今世こそお婿をゲットするのにゃ〙

 と夢の中で心配する愛猫の声に耳を傾けることなく、寝息すら芳しい美の女神のごとく長い髪を星のように煌めかせて麗しく眠るシフォンヌであった。

読んでいただき、ありがとうございました。





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漫画は、カ加羽先生です。


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どうぞよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
悪魔な公爵令嬢は前世から悪魔な所業を繰り返していたのですね ファミリーパッ〇をひとりで食し、午後ティーを午前に飲むなんて…! でもシフォンヌの揺れる耳と絡みつくしっぽはさらに罪深い!!(๑•̀ㅂ•́)…
傾国の美貌に猫耳、最強ですね♡心の声も可愛かった~ とても面白かったです! 是非ともコミカライズしてほしいです~
「羨まけしからん嘘を言うな!」 羨ましいといえるくらいには皆さん想像力豊かなようだ。
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