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The Severed World

隔離の特等席に至る(前編) 〜世界の外側へ〜

作者: Anon
掲載日:2026/01/21

俺はエルディオ。

探検家さ。

ま、自称だけどな。


狭い世界に疑問を持った俺は、

"世界の外側"が知りたくなった。


世界がこんなに狭いわけがない。


この海の向こうにはきっと、

果てしない大地が続いてるはずだ。


俺は生まれつき与えられた"加護"で、

槍の扱いは誰にも負けなかった。

誰かが名付けた"槍術の加護"。

これがあればどんな困難だって乗り越えられる。


そもそもだ。

世界中がこんな山々に囲まれて、荒野だらけで、

乾ききってるはずがないんだ。


緑豊かな土地や発展した王国。

水上都市なんかあっても面白いな。


こんな魔法しか取り柄のない世界なんて面白くない。

絶対に…絶対にこれだけじゃないはずなんだ。


俺がそう思うのには理由がある。


探検の最中、大きな山脈の中腹にある、

廃れた遺跡に残された書物の千切れた1ページ。

ここには"嘘"が書かれていた。


生い茂る密林。

夜が明けない沼地。


後は擦り切れて読めないが、この情景だけは読み取れた。


こんなものどこにもない。

世界の半分をバカでかい山脈が占めているのに、

どこにあるっていうんだ。

あれば噂になるし、知ってる人が1人くらいいるはずだ。


しかしこれは恐らく誰かの日記。


にわかには信じがたいがこれは紛れもなく、

"世界の外側"から持ち込まれたものだ。


ただ、どうやって持ち込んだか…だ。


世界のどの位置から見ても、

この急流の海を渡ることはできない。


出ようものならその瞬間に海の藻屑だ。


四方八方そんな海だ。もちろん陸路もない。


空は………飛びたい。


距離もわからないしどれも現実的じゃない。


世界を隅々まで探検できたわけじゃない。

恐らくどこか見落としているところがあるはずだ。


"世界の外側"だからって外に目を向けすぎていた。

ここは魔法の世界だ。

魔法でどうにかなることなんて沢山ある。


ただ…。

俺は魔法が使えない。

それだけでみんなバカにしてきやがる…!

槍なら誰にも負けないのに。

魔法使い相手にだって。



はあ…。奴らと顔を合わせるのか。

行きたかねーけど、背に腹は代えられねーよな。

魔導学院、行ってみっか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おーい!エルディオ!どこへいく!?

そっちは、学院だぞー!?」


俺を呼び止めるのは幼なじみのロウだ。



「お前!またバカにしてんのか!?」



「そうじゃねーって…!

魔法が使えないことに敏感すぎんだよお前は!」



「…そうか?まあそうじゃねーんならいいんだけどよ」



「そっちに何しに行くんだよ。あれだけ(きら)ってただろ?

今更行ったって何も変わりゃしねーよ。

だからあれだけ槍を頑張ったんじゃねーか!」



「違う違う!そうじゃねーよ!

"世界の外側"に行く方法をさ、

マギステリウムのアイツに聞きに行くんだよ」


魔導学院マギステリウム。

この世界の中心で広く統治している。

ほとんど国家といっても過言ではないほどの学校だ。

そのマギステリウムの"アイツ"とは…。



「…アルケイン卿か。

エルディオ、お前くらいだぞ?

アルケイン卿を"アイツ"呼ばわりするのは。

あの人も別に悪気があったわけじゃないんだろ?」



「わかってるけど……。

わかってるから頼りに行くんだよ。

まあ、その、俺も言い過ぎた面もあるしな」



「お前のその素直なところ、俺は好きだぜ?」



「おい、からかうんじゃねーよ…!」



「1人で行けるか?

ついてってやってもいいんだぜ?」



「親かよ!1人で行けるわ!」



「そうか。気をつけてな。

"世界の外側"のこと、気になるのはわかるけどよ、

自分の命は大事にしろよ?」



「だから親かよって!わかってるよそんなこと!

…じゃあ行ってくる」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



魔導学院マギステリウムまでの道程は遠い。


道中の魔物は肩慣らしには丁度いい。


物理耐性の高い魔物ばかりだが、

俺の槍にかかればこんな奴ら一突きだ。



「ったく!どこ行っても硬い奴らばかりだな!

どんだけ魔法に優しい世界なんだよ!」


この世界において、武器主体でしか戦えないやつは、

それだけで負け組だ。

どこに行っても、

物理攻撃耐性が高い魔物ばかり生息している。


魔法耐性は比較的低く、見習い魔道士でも簡単に倒せる。


一方で、武術家や剣術家は達人レベルでなければ、

一人で歩き回ることすらできない。

そんな道、選ぶだけ無駄だ。


だから皆、魔法使いを目指す。

魔法が使えれば、強くなくても生きていける。

それだけで勝ち組だ。


……気に食わねー。


だから俺は槍を選んだ。

極めれば、どこへだって行けると証明するために。


俺は魔法なんかに頼らない。

この槍一本で、世界の常識を覆してやる。


まあ、頼らないっていうより――

頼れないだけなんだけどな。





「おい、お前。

ここから先はマギステリウムしかない。

なんの用だ?」



「てめーこそなんの用だ。

マギステリウムは誰でも出入り自由のはずだ。

天下の魔法使い様がうじゃうじゃいるんだから、

安全だもんな?」



「ふん。どうやら喧嘩を売っているようだな。

そんな棒切れ一本で何ができる」



「…ここで人生終えたくなかったら、

大人しくおうちに帰んな。

もうそんな言葉、聞き飽きたと思ってたけどよ、

やっぱ聞くと苛つくんだわ」



「お前、俺が誰だか知っているのか?

俺がちょっと本気出せばお前なん―――」


魔法使いは血を吐き、その場に倒れた。

気づいた時には、既に腹を貫いていた。



「はあ、だから言わんこっちゃねーんだ。

てめーら魔法使い様はいつも隙だらけなんだよ。

こんな"遅い一撃"も見極められねーんじゃ、

命がいくつあっても足りねーぜ?」



「お、前…本気…か?」

突然の死を受け入れらない、恐怖に満ちた目を向けてくる。


勝った。



「喧嘩売っといて命は取られねーと思ってんのか?

まあ丁度いい。アルケインの野郎への用事が増えたな。

―――あ。

急所は外してるから大丈夫だぜ?

あとは自分で何とかしろよ。じゃあな」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ここは、魔導学院マギステリウム―――


が、よく見える町だ。

もう既に魔法使いだらけだ。



「やっとここまできたか…。やっぱ遠いわ…」


そんな俺を見て何やら呟きながら通り過ぎる連中。

全員いけ好かねー魔法使いだ。

武器を持っているだけで見下してきやがる。


お前らなんていつでも殺れんだぞ?


そう言い聞かせながら自分を抑えるしかない。



「くっそ…。イライラするぜ…。

少し休みたかったが、宿で話すのも嫌になるな…」



重い足をズルズルと引きずりながら、宿へと向かった。


宿の主も、俺の槍を見て少し態度を変えた気がしたが、

ロウの言う通り、俺が敏感過ぎるだけなのかも知れない。



その夜。



「なんだ?なんか騒がしいな…」


俺は窓の外へ様子を見に行った。



「あ!アイツだ!俺を殺そうとしたのは!」


なんだ。街道であった間抜けか。



だが、『殺そうとした』

この一言は、本当であれ嘘であれ、

その場を不安に包むには十分な言葉だった。


そしてその矛先は俺へと向いている。


槍を持つ俺のことを魔法使いたちが見ている。



バカでもわかる。

真実なんてどうでもいい。

俺が、敵だ。


向けられるこの視線は、

どんな魔法を向けられるより痛い。



「何黙ってやがる…!

その槍で俺を刺した!殺そうとした!」


街道で会った魔法使いは俺を嵌めるように、

しつこく民衆に言い聞かせている。



「……自分を守る為に必死か?

本当にそれでいいのか?」



「なんだ!どういうことだ!」



「おい、お前ら。

天下の魔法使い様はこんなヤツばかりなのか?

今こいつは、槍しか持たねー俺に刺されたって言ってんだ」


聡い人々はざわつき始め、周囲の人間を巻き込み始めた。



槍しか持たない俺に何もできずやられた。

それが、この世界でどういう意味を持つか――

分からない連中じゃなかった。


一瞬、敵意を向けられたが、

魔法使いたちは何も言わず黙って散っていき、

残されたのはその"間抜け"だけだった。




「さ、お前はどうする?また殺されるか?

今度も上手くいくとは限らねーぜ?」



「お、俺が何をしたって言うんだ…!

こ、殺されるようなことはしてないぞ…!」


魔法使いは、思っていた反応と違い狼狽えている。



「…お前が特別間抜けなんだな。

一つ、世界の歩き方を教えといてやる。

街道で吹っ掛けるならそれはもう命の取り合いだ。

学院で温々とやってきたお前らにはわからねーだろうがな」



「…な!くそっ…!」


その魔法使い言葉を失い、拳を握り締めるしかなかった。



「じゃ、俺は部屋で休むから。暗殺とかやめてくれよ?」


バタンッ!


宿の扉がその幕引きとなった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「フェルディナント。こんな廃れた宿で何をしている?」



「ち、父上。何故こんなところに…」



「この町に住む知り合いに用事があって訪れていたのだよ。

そこに、騒ぎがあったと聞きつけたものでな」



「申し訳ございません。父上。

もう二度とないように気をつけます」



「馬車が間もなく到着する。そこで聞くとしよう。

お前を責めるつもりはない。ありのままを話せ」



その親子は、マギステリウム行きの馬車へと向かったのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


早朝、俺はマギステリウムへ向かう為、

宿の扉に手をかけた。


「に、兄ちゃん。

マギステリウムに向かうんだよな…?」


いつもとは違う声色が鼓膜を揺らした。


俺か?

そう思い振り返ると、

宿屋の主は俺の方を真っ直ぐ見ていた。



「まあそうだけど。

普通に声かけてくるなんてここらでは珍しいじゃん」



「あのお坊ちゃんを言い負かしたのがスカッとしてな。

お礼に一ついいことを教えてやろうと思ったんだ」


昨日のあれ見てたのか。

あいつ、あんまりよく思われてねーんだな。


エルディオ

「いいこと?なんだ?」


店主は俺に紙切れを手渡しながら言った。


「これを持って今止まってる馬車に行ってみろ。

多分、"ソレ"を持ってても普通に扱ってくれるはずだ」


店主は顎をクイッと動かし、俺の背中の槍を示した。



「いいのかよ。俺にこんなことして…」



「いいんだいいんだ。それよりまた泊まってくれよ?

あの坊っちゃんな、よく使ってくれるんだが、

家名を出して好き放題しやがるもんでな」



「へっ!わかったよ!そんときは任せときな!

じゃ、ありがとな!」


相変わらずみんなの目線が痛いのは変わりねーけど、

話してみたら案外良いやつなのかもな。




そして店主の言う通り、馬車の手続きは問題なく終わった。


これに乗ればマギステリウムまで行ける。


長い旅路も一旦ここで終わりだな。


さて、後はアイツに会うだけだが…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導学院マギステリウム。


ここに住む大人も学生も皆、当たり前のように魔法を使う。


日常生活ですら、欠かせない技術だ。


魔道具にまで頼って自動化しているものまである。



エルディオ

「ここはいつ見てもすげーな…」



魔法使いは嫌いだが、魔法を否定しているわけじゃない。



エルディオ

「もし世界から魔力がなくなったらどうなっちまうんだ?」



そんな独り言も街の喧騒で掻き消されてしまう。



店の呼び込み。

立ち話。

口論。

子供たちの笑い声。


色んな人の色んな思いが交錯していた。


エルディオ

「街を抜ければマギステリウムか…。

にしても、あの爺さん…会いたくねーな…」


そう思いながらも、

体が覚えた学院までの道程を無意識に進んでいた。



そして―――。


「止まれ。学生ではないな…何者だ!」

門番の勇ましい声だ。

ま、聞き覚えしかないけど。


俺は、俯いて隠していた顔を上げた。


「…エルディオ…か…?元気にしていたのだな。

諦めるのを諦めたか?」


やはり、門番のフリードだった。

この学院の門番の仕事は意外と位が高い。


「っるせーよ!だから来たくなかったんだよ!」



「悪い悪い。久しぶりだな」



「ああ。で、あの爺さん…アルケイン卿はいるか?」



「……案内しよう」



フリードは気が利く。

俺が通りたくない道を選ばずに案内してくれている。



「…何の連絡もなしに何しにきた?」

黙って案内をしていたフリードは、静かに問いかけた。



「まあ…、どうしても魔法が必要になった…」



「また学ぶのか?」



「…いや、もうそれはいいんだ。

どれだけ学んでも、練習してもダメだったんだ。

あ、努力が足りないなんて言わせないぜ?」




フリードは微笑みながら言った。


「わかってるよ。お前の努力は俺も何度も見たからな。

おっと…!…ここだ」



「入っていいのか?」



「自分で聞いてみればいい。じゃあな」


聞くって…。

まあ、そうだよな。

でも…。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


俺はノックもせず、こっそりと部屋に入った。

その部屋は大量の書物が囲むように壁を作り、

俺の身長の何倍も高くそびえ立っていた。


もちろん、魔法で取るんだろう。



「その魔力…久しいな。エルディオ」

そう声をかけたのは、学院のトップであるアルケイン卿だ。

だけど、魔力…この言葉は嫌いだ。



「久しぶりに会ったってのに…早速皮肉かよ」



「まだそんな事を言っておるのか、お前は。

皮肉などではない。何度も言っただろう」



「じゃあなんで魔法が使えないんだよ!」



「使えていないわけではない。無意識に使っておるのだ」



この爺さんはまたわけのわからねーことを…!


「無意識ってなんだよ!使ってねーのと同じだろーが!」


アルケイン卿は咳払いをした。


「……そんな話をしにきたのではあるまい。

遥々来たのであろう?何があったのだ?」


そうだ。

俺も以前とは違う。

大人になったんだ。

冷静に話そう。



「"生い茂る密林"、"夜が明けない沼地"。

このことについてなんか知ってるか?」



「知らぬな。そんなものこの世界にはない」


ん?やけに返答が早い。

何か知ってるのか?



「じゃあその世界に"外側"ってあると思うか?

これは知識を聞きたいんじゃない。

アンタの考えが聞きたいんだ」



「…やはり、何か…掴んだのだな?」

アルケイン卿は恐る恐る問いかけた。



「あるってことでいいな?

その"外側"への行き方を知りたいんだ。

陸路も海路も全滅だ。

もう、魔法に頼るしかないんだ」



「千年竜の尾の先だ」



「ん?なんだって?」



「千年竜の尾の先に世界の外側へ通ずる道がある…。

これは古い書物に綴られているだけだ。何の確証もない」


千年竜の尾の先か…。



「その千年竜ってなんだ?」



「千年竜というのは、本当の竜ではない。

この世界を縦断する巨大な山脈のことを、

古くから『千年竜の背骨』と呼んでいるのだ。

その尾ということは、山脈の端、または麓…。

そこは行ってみないとわからぬが…」


ちょっと気に入らねーけど、

相談相手は間違ってなかったか


「そうか。まあ行ってみるしかねーか…。

その、あ、ありがとな。教えてくれて」



「待て。お前一人では行かせぬ」



「まだ俺の力を認められないのか?」



「そうではない。武器を使う者を見下すつもりもない。

『千年竜の背骨』は、古代迷宮と言われておる。

どんな困難が待ち受けているか何もわからぬのだ。

そんな所に愛弟子を一人で行かせられぬ。

ただの親心だ。わかってくれるな?」



「……ああ。わかったよ。で、誰がついてくるんだ?」



「一人魔法使いを連れて行って欲しくてな。

貴族の子供なんだが…」



「貴族だって!?いいのかよ!

そんな偉いヤツをそんな危ない旅に連れて行っても!」



「貴族の当主である、マグヌス卿たっての願いでもあるのだ」



「いや、だってそれって…死んでもいいってことだろ…?」



「そう思う者も少なくないだろうな。

だが、案外生きて帰るとも思っておる。

マグヌス家の息子フェルディナントは、素行こそ最悪だが、

こと魔法においては天才以外の何者でもないのだ」


エルディオ

「そりゃあ心強いな。

フェルディナント・フォン・マグヌスってことか…」


アルケイン卿

「まさにそうである。

今、ここに呼んでくるから少し待っておれ」


そう言ってアルケイン卿は部屋を出た。




天才魔法使いか…。

まあ確かに、

同行してくれて気が合うんならそりゃ最高なんだが…。

天才なんてどうせいけ好かねーヤツに違いないな。


少し呼びに行ったとは思えないほどの時間が過ぎ、

ようやくその扉が開いた。




「すまない。エルディオ。

待たせてしまったな。

フェルディナント・フォン・マグヌスだ」


って……!


「お前かよ!!」



「なんでお前がー!!!」



「こんな間抜けが天才だなんて…。

この学院も落ちるとこまで落ちたか…」



「なんだ、知り合いだったのか?

なら話が早いな。

あとは2人で話し合って決めてくれ」

アルケイン卿はわかっているのかわかっていないのか、

ただ粛々と話を進めた。




「なんでこんなやつと!!

話が違うじゃねーか!!」



「こっちのセリフだよ!

ほら、いつまでもここで邪魔はできねー。

とりあえずどっか行くぞ!」


俺はフェルディナントの腕を引っ張り、部屋を出た。



さて、こいつと旅なんて…しかも古代迷宮なんて…。

守りきれねーな。断るか。



「なあフェル―――」



「おい…!その、先日は………るかった」


謝ってんのか?

ちょっといたずらしてやるか。


「あ?なんだって?

いつもの威勢はどうした?」



「悪かったって言ってんだよ!」



「だとしたら態度がおかしいぞ…?」



フェルディナントは語りだした。


「父上にこっぴどく叱られた。

もうマグヌスを名乗れなくなった。

俺はもうただのフェルディナントなんだ……」



「…一人になっちまったのか。ま、自業自得だな」



フェルディナントはずっと黙って俯いていた。

俺はそんなフェルディナントを見て、

昔の自分を思い出した。



「そんなやつが出来ることなんて一つしかねーんだ」



「…なんだ?一つって」



「家からは勘当され、退学になり、家族も友達も失った。

それが意味することはただ一つ。

お前はもう、何にも縛られない…自由なんだよ。

ま、完全に納得いったわけじゃねーけど……来るか?」



「…いいのかよ。俺、あんな…」



「さっきの謝罪は嘘か?じゃねーだろ?

そりゃあ綺麗さっぱりとはいかねーけど、

どっかで折り合いつけなきゃやっていけねーだろ?

孤独同士、仲良くやろーぜ」



「お前…。いいヤツだったのか…」



フェル、お前も意外と良いやつだな。


「いいヤツかどうかなんて知らねーよ。

だが、魔法使いにバカにされる謂れはねーな」



「俺もその一人だったから何も言えないが…。

まあ、もう帰る場所はないんだ。力になるよ」



「案外素直なやつなんだな、フェル」



「な!?フェルってなんだよ!」



「いつまでそんな名前にすがってんだ。

お前はもう探検家フェルだ!胸を張りやがれ!」



「横暴なやつだな、お前…。

まあ、いい。よろしくな」



「ああ。よろしくな。

天才魔法使いさん!」



「くそ…!見てやがれよ…!」



俺は唯一、"こいつだけはねーな"

と思っていたヤツを連れて、古代迷宮に挑むこととなった。


まあ、あの爺さんに天才と言わせたヤツだ。

魔法の実力は本物なんだろうな。

格下と思い込んだ相手に油断する癖だけは、

俺がトコトン叩き直してやろう。



「フェル、方角わかるか?」



「いや…わからん」


だよな。俺もどこ行きゃいいかわかんねーし。



「とりあえず、聞き込みするか」


俺とフェルは、もう一度外れの町へ戻ることにした。



「フェル、お前あんまりいい噂がねーから大人しくしとけよ?」



「わーってるよ!さっさとやってくれよ?」



「まあ、今回はしゃーねぇか。

どっか人目につかない所で待ってな!

聞き込みしてきてやっから!」


俺はフェルと一旦離れ、町へと繰り出した。


町での情報は一貫していた。

知らない俺が冷たい目で見られるほどに。


"千年竜の背骨"という迷宮はどうやら観光名所らしい。


その手前までは簡単に行けるし、

"千年竜の背骨"が生み出している小迷宮は、

冒険者の間で一大ブームを起こし、

稼げるスポットになっているようだ。


学院の卒業生も腕試しに向かうこともあるそうだ。



……町からの観光馬車が出ているということだ。



「んだよ!めちゃくちゃ簡単じゃねぇか!

フェル!どこいった!もう出てきていいぞ!」



「おい…!あんま大きい声で呼ぶなよ…!」


木陰からフェルが出てきた。



「どうやら観光名所らしいぞ。

俺等の目的地は…」



「なんだって!?じゃあ旅も何も直通の馬車があるってこと?」



「そういうこと!

じゃ!いくぜ!」



俺とフェルは観光馬車に乗り、"千年竜の背骨"麓の町へ辿り着いた。



"千年竜の背骨"は大きいと聞いていたが、

来てみればその大きさはよくわからなかった。


大きさはその全貌が見えて初めて理解できるのだと確信した。



「さーて!早速行ってみるか!古代迷宮!」


「いや、待てよ!エルディオ!

いきなり過ぎんだろ!まずは小迷宮で俺等の力を試そう!」



「なーにビビってんだ?そんなんじゃ世界渡れねーぞ?」



「お前はもうちょっと慎重になれよ!

そんなんじゃ命がいくつ合っても足りないって!」



「うるせー!ついてこい!」




早速俺たちは"千年竜の背骨"に足を踏み入れた。

小迷宮ではなく正真正銘本物の迷宮だ。


これを進めないと本当の旅は始まらない。


まずは小手調べといこう。



「おい!エルディオ!走るなって!

まだ何も中のこと知らないんだぞ!?

罠も魔物も!調べないと!」


「大丈夫だ!何が来ても返り討ちだ!」



その時、突然辺りが暗くなった。

まだまだ真っ昼間だと言うのに。

雲が偶然太陽を覆ったにしては暗すぎる。


フェルは何かに怯えたように声も出さず何かを訴えている。


ん?後ろってことか?



壁が呼吸をしていた。


見上げてもずっと壁。でも確かに呼吸を感じる。

初めて見る光景に戸惑いすら出来なかった。


フェルは俺よりももっと上を見ている。


その壁は、巨竜の腹だった。

巨竜の腹が俺の視界を全て奪っていた。


途端に訪れる恐怖。


咄嗟に逃げようとした俺の手には槍が握られていた。

もうわけがわからない。

逃げろ逃げろと頭ではわかっているのに、手は攻撃を選ぶ。


コイツを何とか出来なければ遅かれ早かれ俺たちはここで終わる。


俺の手は、槍を握るこの手だけは現実を、その先を見ていた。


訓練の日々に感謝だな。


「フェル!!もう慣れたろ!?

コイツぶっ倒すぜ!!」


「お前…!死にたいのか…!?

こんなやつ2人で無理だろうが!」


「やってみねーとわからねーよ?

それにな、無理だと思ったらすぐ逃げりゃいいんだ!」



その言葉と同時に、巨竜の腹に渾身の一閃を放った。


毎日死ぬ思いで訓練を積み重ねてきた集大成の一撃だ。


だけどその自信は一瞬にして打ち砕かれた。


俺の槍はその巨竜の皮膚を破ることなく、

つつく程度で止まっていた。


「…マジかよ」


いつの間にか絶望感が口から溢れてしまった。



それをみたフェルも魔法を放ち始めた。


アルケイン卿に天才だと唸らせたその魔法はたしかなものだった。


威力、精度、範囲、どれを取っても申し分ない。


そして、俺の槍では成し得なかったことをしてのけた。


巨竜の皮膚が焼けただれたのだ。


「エルディオ!ボーッと突っ立ってんじゃねーぞ!」


火球が迸り、嵐のような砂塵が巻き上がる。

上空からは無数の石礫が降り注ぎ、その全てが巨竜に襲いかかる。


「俺もこうしちゃいられねーな!

フェルがつけてくれた傷の部分ならもしかしたら…?」


そう思った俺が間違いだった。

相変わらず俺の槍は巨竜のどこに当たっても、

優しく撫でるだけで終わる。


「エルディオ!加護の力だけじゃ無理だ!

見たらもうわかるだろ!?コイツには魔法なんだ!

お前もあるんだろ!?魔力!

いい加減本気出せよ!!」


「俺には魔力なんてねーんだよ!

あったら今頃、主席独占してるっての!」


「それなら…無理矢理引き出してやるよ!お前の魔力!

―――エンチャント・アイス!」


その瞬間、俺の槍に確かに魔力が宿った。

槍が氷のように冷たくなっていく。

槍が纏う冷気が、空気を凍らせていく。

初めての感覚…これが…魔法か。


「やっぱりな。

ソイツをちゃんと維持できてるってことは、

お前の中に魔力がある証拠だ。

それを維持する為に魔力を使ってるんだよ」



「これが俺の魔力…。

まだ諦めるなってことだよな。

ありがとよ!フェル!もう一回…やってみっか!」


フェルのあらゆる属性魔法の援護射撃で、

巨竜が徐々に弱っていくのがわかる。


もう一度だ。あの渾身の一閃を…。

いや、あれ以上の限界を超えた一閃を放ってやる。


「うおおぉぉぉ!!!

これで最後だ!喰らいやがれぇー!!!」


俺の渾身の一閃は、さっき放ったものとは桁違いの威力だった。

巨竜の腹から胸にかけてデカい風穴が空き、

氷の魔力によって瞬時に冷凍されていた。

そしてその巨竜の奥の大地もまた一直線に凍りついていた。


そして、俺の腕も…。


「くそっ。限界だ…手が…千切れる…」

そう溢した瞬間、俺の頭上から水が降り注いだ。


「やればできるじゃん。"落ちこぼれ"エルディオ」


コイツ、知ってやがったのか。

久しぶりに聞いたその忌々しい呼び方…。

もう反応する気力もねーや。


フェルは皮肉を言いながらも俺の体を温めて、

凍った腕や体を治そうとしてくれていた。


「ありがとよ、フェル。だいぶ良くなった」



「お前に本当に魔力がなかったら俺たち死んでたな…」


「でも…本当にあったんだな…魔力。

帰ったらアルケイン卿…いや、先生に謝るよ」


「うん、それがいいよ。エルディオ。

さて、とりあえず町に戻ろうか?」


「ああ、そうだな。コイツの素材でも持っていけば、

俺たちにもちょっとは箔が付くんじゃねーか?」


「こんなもんどうやって持っていくんだよ…!」



その後、ギルド員が駆けつけ、その戦闘跡をみて絶句していた。


この辺りを縄張りにしていた巨竜が、

巨大な風穴を空けられ絶命していたら、

誰でも驚くだろう。


俺たちはこの事実から、特例で小迷宮と古代迷宮の探索が許可された。


しかしその許可が、絶望への扉を開くことになるのを、

俺たちはまだ知る由もなかった。





俺が見たかった世界は、希望は、こんなんじゃなかった。

後悔したってもう何も戻らない。取り返せない。

そんな覚悟もないやつが背負える絶望じゃなかった。

でも、俺は進むしかない。それが……。


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