怪人譚 壱
死体回収業務は真似っこさん
⻆谷 春那
CASEK.1
真似で救われる人生
怪人譚 壱
繁盛していない店に、人が入る。
華奢な体つきから、女なのかもしれないが、ギリギリ「ヒョロイ男」でも納得できそうだ。
実際の所、本人にも分からない。
性別が、無い訳ではない。
「本当の姿か」が、分からないのだ。
果たして今の姿が、本当の姿なのか。
それとも、『誰かが求める姿』―即ち、【真似】の結果なのか。
だとすれば、誰が求めた姿なのか。
「上司」か?
それとも、他の誰か?
果ては、自分が望む『誰か』なのか。
どうしても、確証は得られない。
それもそうだ。
まだこの怪人は、若いのだ。
生まれて間もない所を、見つけられたのだ。
少なくとも、これだけは言えるのだ。
これだけは、確かな事だ。
これも揺らいでしまっては、もう確固たるものは、何一つ無くなってしまう。
そもそも、何故「生まれたて」と言われるのか。
過去に、似たような存在が確認されていないから?
熟練度が、低いから?
それとも、誰かの嘘?
その怪人―「アタシ」の能力の危険性は、自他を揺らがせる事にある。
一人称が、揺らぎやすいのだ。
「アタシ」は、きっと世話役の一人称。
「オレ」は、初めてだ。
だからきっと、あの女爵が望む者。
名前も揺らぎ、一人称も揺らぎ。
姿も移ろい。
その果て、人格まで揺らいでしまえば。
今、閑古鳥が鳴いている店に入った「アタシ」は一体、誰になるのだろうか?
「肉」が「喰う側」になる事は、有り得ない。
しかし、「肉」が消化されず、地層のように積み重なり続けている。
「アタシ」の居住空間すら、脅かしている。
「アタシ」が占めている割合が、必然的に減り続けている。
「アタシ」と「肉」共の割合は、平等に分けられている。
なので必然的に、減る。
半分に、3割に、2割5分に。
「『アタシ』も、『肉』なのか?」
そんな考えも、頭を過ぎる。
もし、「肉」共が消化されて、溶けて。
鉄のように1つになってしまったら。
1番強いのは「肉」である。
割合的にも「アタシ」はきっと、肉になる。
肉に、明け渡さざるを得なくなる。
そもそも。
これはあくまで、中年の店主に憎まれ口を叩かれている「アタシ」の体感でしかないのだが。
「多分【アタシ】は、揺らいだ後の残りカス。」
そんな気が、してならないのだ。




