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死体回収業務は真似っこさん  作者: ⻆谷春那
CaseK.1 真似で救われる人生
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第3話

死体回収業務は真似っこさん

⻆谷 春那

CASEK 1

真似で救われる人生

第3話


ノックの音が、聞こえる。


控えめで、弱弱しい音だ。




あの子は、ノックの音だけは、激しい。

だから、あの子では無い。


「・・・お嬢様。

お客様がお目見えです。」


老婆の声が聞こえる。

やけにしゃがれているが、小さな頃から聞きなれているからか、謎の安らぎがある。


「・・・すぐ行くわ。

応接間で、待たせておいて。」


あの男―「窓口担当」と名乗った、痩せた【極大陸】出身者特有の、

黒髪黒目・一重まぶた・彫りが薄い顔をした男―は、

「死体回収担当」―つまり「真似っこさん」を向かわせると、言っていた。


つまり、今日の午後、この屋敷に来る客人は、例の「真似っこさん」だと言う事だ。




勿論、あの男が本当の事を言ったかどうか、怪しい。

あのような事を言いながら、あの男が来ていそうだ。


「予定が意外と空いたもので。」


あぁ。容易に想像できてしまうのが、忌々しい。


「期待は、非推奨。」


冷静でいるために重要な事だと、あの人気者も、そう言っていた。




だが、謎に。

あんなに胡散臭い男だが。


あの言葉は。


「【真似っこさん】に取り次いでくれる」

と言う、あの言葉は。


少なくとも、「業務・・」に関する内容に、嘘を吐く程、堕ちた男ではないと言う印象を、私に持たせた。




高い仲介料(料金)を所望したのなら。

すぐに切っていただろう。


それが、手口なのかもしれない。


巧妙な、手口だ。


流石に、貴族を騙す馬鹿は居ないだろうが、童話の王は、間抜けにも服屋を名乗る詐欺師に騙された。

あの話の面白いところは、臣下も国民も、騙されたところだ。

人間の、ひいては集団の性質を、とても軽快に、暗喩的に、表している。

素晴らしい童話だ。


着替え終わる。

これはただの着替えの時間ではなく、最後のチャンスでもあった。

その最後のチャンスを、私は丁重に無下にしたわけだ。


最も、私はドアノブを回して、待たせていた老婆と共に応接室に向かうだけなので、

何も地面に叩き落としてはいない。

落としたものは、この老婆からの信頼だけだろうか。


勿論、この大人しく、従順な老婆は、反論などしなかったが。

――――――――――――――

鼠だって、窮地に陥れば、猫だって嚙むそうだ。

逆を返せば、窮地に陥らなければ、猫を嚙めない。


人間は、窮地に陥れど、噛めるかどうか。

生物の学習能力の、悪いところだ。

だがつまり、鼠は私を噛めないと言う事で、安心しても良いのかもしれない。


だが最近は、「ねずみ講」と言うものも存在するらしいから、ねずみも侮れない。

気を付けないと、自分も鼠にされてしまうという事だ。

――――――――――――――

応接室のドアを開ける。


床に映る、様々な色の光が、蝶番の音を合図として、一斉に動く。

洒落たステンドグラスが、ドアに取り付けられているからだ。

この屋敷を建てた、当時の当主の趣味らしいが、私の趣味とは合わない。


まるで教会のように、天使を模した磨硝子が、古めかしい。

科学が発展した今の世情には、合わないと、少なくとも私は、そう思う。


しかし、客人は皆、口裏を合わせたかのように、この「趣味硝子」を褒める。

そのような事を言いたくなるような、催眠的な効果があるのだろうか。

もしそうだとしたら、科学的大発見だ。


蝶番と、やはり当時の当主の趣味である、

小さな真鍮製のドアベルの音で気が付いたのか、客人が後ろを向く。


後ろ姿から既に、以前会った男ではない事は、一目瞭然だ。

体格や身長以前に、髪だ。

髪が根本的に、違う。


だから私は、振り返った客人の顔を見て、とても驚いた。


私は最初、客人の頭髪―まるで老人のように、白い髪―を見て、

老いぼれかと思ったのだ。


否、老人にしても、どこかおかしい。


白髪でも、無いのだ。

かといって、黒でも、茶でも、無い。

何とも言えない、まるで狼の毛皮のようだ。


かと言って、むさ苦しい印象は受けない。

とてもありきたりな表現になってしまうが、

「此岸のモノではないような」

と言う言葉でしか、言い表せない。


正直、ありきたりではないモノを、ありきたりな表現で表したくはない。

だが偉大な先人達の生み出した便利な表現以外に、的確なものがなかったので、しょうがない。

そう思う一方で、この表現を生み出してしまった先達と、広めてしまった先達。

彼ら彼女らを、恨みがましくも思う。

「何て、勿体ない事を。」

と。




ありきたりではないその色は、観賞用の、鳥類のような、派手な色合いでは無い。

だが、美しいのだ。

象牙のような、大理石のような。


光の加減で、まるでラリマーのような、水色がかった輝きを魅せる。

光の加減に頼らずども、やや青みがかったグレーのような、白のような髪色だ。

思い出した。

カルセドニーだ。

あのような、複雑な色をしている。


染めているのか?

いや、でも、何のために?

でも、染毛剤でこのような色が出せるのか?


そのような思考が堂々巡りする間すら、彼女は与えてくれなかった。

いや、彼女なのか?


「お前が、今回の御依頼人様?」


随分と、失礼な口ぶりである。




しかし、何故か納得してしまう。

何か、超常的な、超人的な、雰囲気。

そう、まるで。

もはや現代では絶滅した、「神」と呼ばれる存在、またはそれに準ずる存在のよう。


人には、超常的な力を持つ存在を信じ、信仰してきたと言う、現代人に言わせれば阿呆な歴史がある。


しかし、今だけは。

少なくとも、今だけは。

そのような超常的な力の存在を、信じても良いのかもしれない。


「・・・聞こえている?

・・・と言うか、此の国の言葉で、合っている?

イントネーション?」

「合っているわよ。」

「・・・どれが?」

「全て。」

「そう。お前が、御依頼者様。」


椅子から、立ち上がる。

外套は、脱がなかったようだ。

確かに、脱ぐほどの暖かさでは無い。


紺色の外套が、ヒラリ。

蝶のよう。


髪も、フワリ。

結ばれてはいないが、まとまっている。




完全な正面からの顔を、初めて見る。


まるで獣のように、細長い目。

そして、アンバーのような色合い。

グレーの髪に、映える。

クリソベリル・キャッツ・アイと言う宝石を、思い出す。


「お初に御目にかかる。

俺が『死体回収担当』。

此の度の御契約、誠に感謝致します。」

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