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布の向こうの眼差し

噂の出どころは、たいてい酒場だ。


昼を過ぎた頃、食堂兼酒場では、肉と薄い酒の匂いに混じって、妙にひそひそした空気が漂っていた。

シグルスたち三人はてきぱきと配膳をこなしていた。


兵士が近くの街のお世話になることは少なくない。そうした場合、食料や寝床は街の方のご厚意に甘えるしかない。

しかし、街の人間にも生活がある。

兵士たちもその状況は心苦しいものがあり、無償の奉仕活動を行うことが慣習となっていた。

シグルスたち新兵は、この食堂の手伝いを任せられていた。


「だからよ、本当に見たんだって。白い布を頭からかぶった変な女だよ」

「頭から布?顔を隠すなんて怪しいな」

「怪しいが、本物だ。あの占い師に見てもらった兵隊、急な熱も呪いじみた悪夢も、次の日にはけろっと治ってたんだぞ」


テーブルから聞こえてくる会話に、ロッドの耳がぴくりと動いた。


「なあシグルス、今の聞いたか?」

「聞こえた」

「怪しげな占い師か.....そうとなれば確認に行くしかねえ!」

ロッドは娯楽に飢えている。それもそうだ。シグルス達がこの街で待機を命じられてから二週間近くが経とうとしていた。


「エイナも興味あるよな?」

背後の炊事場で皿を洗っているエイナは、落ち着いている。


「占い師……?おもしろいね。でも、呪いを解除できるならそれは魔法師か呪術師だよ」

「ほら見ろ。エイナも興味あるってよ」

「そんなことは言ってないけど……」


そんなことをしていると、カウンターの向こう側から声をかけられた。


「お前たち、きちんと励んでいるようだな。結構」


そこには部隊長が外套を羽織ったまま立っていた。


「ここの仕事が終わってからでいい。今度は村の墓地の掃除を頼みたい。最近人手不足のようでな。前線で死んだ兵士の家族も眠っている。草むしりくらいしてやらんとバチが当たる」


「墓地の掃除、ですか」

シグルスが聞き返すと、ロッドが顔をしかめた。


「へいへい、今度は墓掃除かよ……」

「文句言うな。前線よりはよほど平和だ。三人で行け。終わったら自由時間にしていい」


そう言って、部隊長は小さな地図と、墓掃除の手順を記したメモを渡してきた。



街はずれの墓地は、町の喧噪が嘘のように静かだった。


丘の斜面に石の墓標が並び、伸び放題の草が風に揺れている。


「こりゃあ確かに放置だな」

ロッドが鎌を振るいながらため息をつく。


シグルスは無言で草を刈り、石にこびりついた苔を落としていく。


ふと、背後から小さな息の音がした。


「……っ」


振り返ると、エイナが墓標にもたれるようにしてしゃがみ込んでいた。顔色が悪い。唇が乾き、肩が細かく震えている。


「エイナ?」

シグルスが駆け寄ると、エイナは額に手を当てたまま首を振った。


「ごめん……ちょっと、気持ち悪い。寒い……のに、頭が、痛くて……」

「大丈夫だ、とりあえず横になれ」


ロッドも鎌を放り出し駆け寄る。


またこれだ。

エイナはときどきこうなる。

最近だと、戦場に向かう道でも同じ症状を訴えていた。


「無理するな。医者に診てもらおう」

「でも、わたしも──」

「こういう時くらい、俺たちに頼れって。エイナの()()には慣れてるからよ」

「ごめん、ありがとう。ちょっと離れたところで横になってるね」


ロッドの明るい声に、エイナは悔しげに目を伏せ、ゆっくりと歩いて行った。


草を刈る音だけが、墓地の静けさに小さく響く。


一区画の掃除が終わったころ、ロッドがぽつりと言った。


「なあシグルス。さっきの噂、覚えてるか?」

「......占い師の話か」

「そう。もし本当に“どんな病気も呪いも治る”なら、エイナも見てもらった方がいいと思うんだよ」

「……エイナが楽になるなら、俺も何でも試したい。行ってみる価値はある。」


「よし、決まり! 墓地の掃除終わらせて、夕方に占い師の捜索開始!」

草を刈る手の動きがどんどんと速くなっていった。



夕暮れ。通りの人影が伸びる。

街に戻るとエイナはけろっとした顔でいつも通りに戻っていた。

「大丈夫だから」というエイナを二人で無理やり説得し、占い師探しに協力させた。

以前からエイナの寒気のことは心配の種だったのだ。


「占い師なら、さっき広場の近くの裏路地にいるのを見たよ」


パン屋の娘の言葉に従い三人は石畳を抜けた。確かに小さな路地に誰かが机を構えて座っている。


近づいてよく見てみると、全身を白い布で包み、顔の上半分まで布を垂らした女が座っていた。


風に揺れる白布は神殿の巫女のようでいて、どこか異質だった。


「……白い布だ」

ロッドが小声でつぶやくと、女は布の奥で微笑んだ。


「いらっしゃい、どうぞこちらへ。もっと近づいて。」


「占いをされている方ですか?」

シグルスが問うと、女はゆっくり頷いた。


「ええ。わたしは──アヤ。道から外れた運命を見る者よ」


「病気とか呪いとか、治せるって聞きました」

ロッドが言うと、アヤはふふっと笑った。


「治るかどうかは本人次第。でも……どこが歪んでいるかは、見えるわ」


布の奥で視線が動く。


三人を順番に追い──シグルスで止まった。


「本当はその子の方が限界に近いけれど……」

アヤはちらっとエイナの方をみた。


「先にあなたね。物語に触れてしまった子」

アヤはシグルスを真っすぐに見据えて言った。


シグルスの心臓が大きく跳ねた。


「……なんのことです?」

トーブの中でまた微笑む気配。


「あなたはわかっているはずよ。この世界のゆがみにも気が付いているはず。いや、あなたならもっと奥のものまで触れられるかもね。」


アヤの声は澄んでいた。


「どういうことだ?シグルスも病気なのかよ?」


「ねえシグルス。あなた、自分が“書かれた通りに動いていない”って、自覚はある?」

ロッドを無視して、アヤが言った。

言葉が喉で固まり、そのまま動かなくなった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

謎の占い師.......一体なにが見えているんでしょうか?


伏線は全て回収しますので、ご安心を!!

これからも三人の冒険を応援していただければうれしいです!!


評価・ブクマ・感想をいただけると継続執筆の励みになりますので、ぜひぜひお願いします!

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