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夢を抱く揺りかご

「……ここに、兄さんの全部が入ってる、ってこと?」


「“全部”かどうかは、私にもわからない。ただ、彼が最後に守ろうとしたものが、ここに封じられていることは確かだ」


(......守る?何から?)

シグルスの違和感は、一瞬で流れ去ってしまった。


ヘルマンドは扉の前に片膝をつき、両手を紋様の上にかざした。


低い詠唱が地下室に響く。

魔力の気配が扉に集まり、刻まれた紋様がうっすらと光を帯びた──が、すぐにしぼみ、何事もなかったかのように消えた。


「……ご覧のとおりです。わたしでも開け方が分かりません。」


ヘルマンドはゆっくり立ち上がる。


「正しい手順を踏まなければ、扉はびくともしません。無理にこじ開けようとすれば、中身は炎に包まれるでしょう」


ロッドが顔をしかめた。


「そんなもん、どうやって開けろってんだよ……」


ヘルマンドは軽く首を振る。


「ですから、私は“開かない金庫”としてお見せしているのです。それでも挑戦されるというのなら、止めはいたしませんが……おすすめはいたしませんね」


どこか、結末を最初から知っているような言い方だった。


シグルスは一歩前に出る。


「……試してみても、よろしいですか」


「シグルス!?」


ロッドが慌てて袖を掴む。


ヘルマンドは短く息を飲み、それから静かに頷いた。


「構いませんよ。ただし、繰り返しますが、無理に開けようとすれば中身は全て灰になります。それだけは、お忘れなく」


「わかっています。」


シグルスは扉の前に立ち、刻まれた紋様を見つめた。幾重にも重なり合う線、円と三角形、見慣れない精霊文字。常識では手の出しようがない。


だがシグルスは自分の右手をそっと中央のプレートに当てた。


冷たい金属の感触。


(……頼るものは、ひとつしかない)


深く息を吸い込んだ、そのとき。


世界から、音が遠のいた。


白い線が、視界の奥底に滲む。


《第一封印 東の精霊式を反転》

《円の外縁に沿って 左回りに魔力を流す》

《家紋の中心にある“欠けた線”をなぞる》


指先が、自然と動き出す。

プレートの上を、白い線をなぞるように滑らせる。扉に刻まれた精霊文字の一部が、ごく微かに光を変えた。


(……いける)


さらに文字が綴られる。


《第二封印 北の契約文の順序を入れ替える》

《最後に 名を名乗れ》


名を、名乗れ。


シグルスは一瞬だけ迷い、それから小さく息を吐いた。


「……シグルス・ジークフリード」


名を告げた瞬間、扉全体が低く唸る。


刻まれた紋様が一斉に光を帯び、重々しい音とともに内側の錠前が動き始めた。

ガコン、ガコン、と何重もの鍵が外れていく。


ロッドが目を見開く。


「おいおいおい、マジかよ……!」


エイナも、言葉を失ったままシグルスの背中を見つめている。


「そんなばかな....あなたは一体....」

ヘルマンドの顔に浮かんだ表情は──驚きだけではなかった。何年も耐えてきた諦めから解放されたような、喜びに近い感情が読み取れた。


やがて、扉がゆっくりと開く。


シグルスがゆっくりと中に入った。


中は意外なほど狭い。それだけ壁が分厚いのだろう。棚が一つ、その上に、丁寧に積まれた三つの束。


シグルスは最前列の束を手に取った。

一番上の紙に、大きな文字が踊っている。


『エイナ・ユルドリッドの器としての運用計画 第12稿』


その下の行に、もうひとつ名前が記されている。


『蘇生対象:テルマ・ユルドリッド』


「……テルマ?」

シグルスがつぶやく。


「これは......素晴らしいですよ!なんということだ!私にも中身を見せていたけますか」

ヘルマンドが扉に近づく。


「おっと、それ以上は近づくな」

シグルスは紙の束を手に持ったまま、自然な動きで、ゆっくりと剣を鞘から抜いて入り口に立ちふさがった。

静かな部屋に、場違いな金属の擦れる音が響く。


「どうしたのです」

ヘルマンドの目は笑っていない。


「あんたはヴァルドが死んでから研究室の中を動かしていないと言った。確かに壁の本棚はホコリまみれだったが、机の上の書類は驚くほどきれいだった。」

ゆっくりとシグルスが言う。


「それに、聞きたいんだが、どうしてこの書類にあんたの名前が書いてあるんだ?」

確かにシグルスの持つ書類には、「著:ヘルマンド・ユルドリッド」と達筆で記されていた。


「こう書いてあるな....『エイナに生体呪術刻印を記すことによって、呪詛を一時的にこちらの世界に留めることができる。ついにあちらとの懸け橋がかけられた』......これは一体どういうことか、説明してもらおうか?」


ヘルマンドの表情は変わらない。ただシグルスを真っすぐと見つめている。


紙の上の黒いインクが、まるでこちらを嘲笑っているようだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

なんか気のいい人だと思ったんですけど、こんなことになるとは……


へルマンドにも守りたいものがあるので仕方がないのです、お互い悪くないんです。

一触即発という雰囲気ですが……

ということで次話でお会いしましょう!!よろしくお願いします!

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