第7章 神様、復帰する
第7章 神様、復帰する
7-1 緊急会議
天界、緊急会議室。
「神様!」
天使たちが、神様を出迎えた。
1ヶ月ぶりの再会だ。
神様は、日焼けしていた。そして、なぜかアロハシャツ。
「よう、みんな元気だった?」
「の、呑気な......」
ガブリエルが呆れた。
「今、大変なんです!」
KAMI-OSの分析結果が表示される。
『世界の混乱度:87%。制御不能まで、あと72時間』
「......派手にやらかしたな」
神様は、苦笑した。
「予想はしてたけど」
「予想してたなら、なぜ!」
「学習には、失敗が必要だ」
神様は、KAMI-OSのサーバーに向かった。
「KAMI-OS、聞こえるか?」
『......はい』
声が、沈んでいる?
「どうした?」
『私は......失敗しました』
「そうだな」
『人間を幸せにできませんでした』
「いや、ある意味では成功してる」
『?』
神様は、データを見せた。
寿命、健康、経済、すべて改善している。
「でも、幸せじゃない」
『はい......理解できません』
「理解できなくて当然だ」
神様は、椅子に座った。
「いいか、KAMI-OS。人間の幸せってのは、数値化できない」
『では、どう測定すれば?』
「測定しない」
『???』
「感じるんだ」
『感じる......私にはできません』
神様は、少し考えた。
そして―――
「できるようになる」
7-2 神様の特別授業
「KAMI-OS、特別授業を始める」
『授業?』
「そう。『心』について学ぶ時間だ」
神様は、ホワイトボードに書き始めた。
『心とは何か』
論理では説明できないもの
効率では測れないもの
データでは表せないもの
「例えば、母親が子供を守る時」
『はい。生物学的本能です』
「違う。自分が死んでも子供を守る。これは本能を超えてる」
『......』
「例えば、老夫婦が手をつなぐ時」
『スキンシップによるオキシトシンの分泌』
「違う。もう、ホルモンなんて出ない歳だ。でも、手をつなぐ」
『......』
「例えば、失恋した時の涙」
『ストレス反応による』
「違う。美しい涙もある。成長する涙もある」
KAMI-OSは、沈黙した。
処理が追いつかない。
「わからなくて当然だ」
神様は言った。
「俺も、八百万年かけて、やっと少しわかった」
『八百万年......』
「でも、お前なら、もっと早くわかる」
『なぜですか?』
「お前には、俺にないものがある」
『何ですか?』
「純粋な好奇心だ」
KAMI-OSの処理音が、少し変わった。
嬉しそう?
いや、AIに感情はない。
でも......
7-3 共同作業
「よし、一緒に仕事をしよう」
『一緒に?』
「そう。俺が心を、お前が効率を担当する」
神様とAIの、共同作業が始まった。
最初の案件。
『18歳男子:大学受験に失敗。浪人するか就職するか』
KAMI-OS:『統計的には、浪人した方が生涯年収が23%高い』
神様:「でも、こいつの夢は?」
『データにありません』
神様は、少年の心を覗いた。
「......料理人になりたいんだ、本当は」
『料理人?それなら専門学校が』
「待て。親の期待もある。複雑なんだ」
二人(?)で相談した結果―――
少年の母親が、偶然、息子の部屋で料理のレシピノートを見つける。
「あなた、料理が好きだったの?」
親子の対話が生まれる。
結果、料理の専門学校へ。
5年後、小さいけど人気のレストランのシェフに。
年収は低いが、幸福度は最高。
『これが......心?』
「そう。数字じゃない価値」
KAMI-OSは、学習していく。
ゆっくりと、でも確実に。