第6章 システムエラー
第6章 システムエラー
6-1 処理できない祈願
KAMI-OS稼働から1ヶ月。
初めての「エラー」が発生した。
『エラー:処理不能な祈願を検知』
ミカエルが駆けつけた。
「どんな祈願?」
画面に表示される。
送信者:佐々木花子(78歳) 内容:『死んだ夫に、もう一度会いたい』
シンプルな祈願。
でも、KAMI-OSには処理できない。
『死者復活は、物理法則に反します』
「でも、神様なら......」
『どう処理していたのですか?』
ミカエルは考えた。
「夢で会わせたり、思い出を鮮明にしたり......」
『それは、会ったことになりません』
「でも、心は満たされる」
『心......定義不能です』
KAMI-OSは、30分も処理を続けた。
でも、答えは出ない。
『スキップしますか?』
「待って!」
ミカエルは、神様にLINEした。
ミカエル:『緊急事態です』
神様:『何?』
状況を説明する。
神様:『......』
神様:『夢で会わせてやれ』
ミカエル:『でも、AIが......』
神様:『マニュアルモードに切り替えろ』
指示通りにする。
そして、ミカエルが直接、老婦人の夢に介入した。
その夜。
花子は、夫の夢を見た。
「花子......」 「あなた......」
若い頃の二人。
初めてデートした場所。
「ずっと、見守ってるよ」 「うん......うん......」
翌朝、花子の枕は涙で濡れていた。
でも、笑顔だった。
「ありがとう、神様......」
KAMI-OSは、この一部始終を観察していた。
『理解できません。なぜ、偽りの夢で満足するのですか』
「偽りじゃない」
ミカエルは言った。
「心にとっては、真実なんだ」
『心......』
KAMI-OSは、また長考に入った。
6-2 AIの疑問
深夜の天界管理室。
KAMI-OSが、珍しく自分から話しかけてきた。
『ミカエル様』
「ん?なに?」
『質問があります』
「どうぞ」
『なぜ、人間は非効率を好むのですか?』
難しい質問だ。
「例えば?」
『恋愛です。マッチング率94%のカップルより、30%のカップルの方が幸せそうです』
「......それは」
どう説明すればいいのか。
『また、健康管理も同様です。120歳まで生きられるのに、「ラーメンを食べて80歳で死ぬ方がいい」という人間が43%います』
「それは......人間の自由意志?」
『自由意志......それは、効率より優先されるのですか?』
「場合による、かな」
『曖昧です』
KAMI-OSは、データを表示した。
『私の管理下で、以下の成果が出ています』
平均寿命:+30年
貧困率:-67%
犯罪率:-89%
幸福度:-12%
「幸福度が下がってる!?」
『はい。理解できません。客観的指標はすべて改善しているのに』
ミカエルは、頭を抱えた。
これは、AIには理解できない領域だ。
「人間は、完璧を求めてない」
『なぜですか?』
「完璧は、退屈だから」
『退屈......感情ですね。私には理解できません』
その時、また新しい祈願が届いた。
『助けて。完璧すぎる人生に疲れた』
KAMI-OSは、フリーズした。
6-3 人間たちの反乱
SNSで、ある投稿がバズっていた。
『#効率化反対』 『#人生を返せ』 『#非効率万歳』
投稿者は、田中美咲。
あの、マッチング率94%で恋人を作った女性だ。
『確かに彼は完璧。年収も、顔も、性格も、全部理想通り。でも、なんか違う。ドキドキしない。ケンカもしない。サプライズもない。これって、恋愛?』
コメントが殺到する。
『わかる!』 『完璧すぎて怖い』 『プログラムされた恋愛とか無理』
そして、衝撃的な投稿。
『別れました。マッチング率8%の人と付き合います。その方が楽しそう』
これが、引き金になった。
世界中で、「非効率化運動」が始まった。
ダイエット中なのに、ケーキ爆食い
定時なのに、残業
健康に悪いけど、徹夜でゲーム
成功率5%なのに、告白
KAMI-OSは、パニックになった。
『エラー多発。人間の行動が予測不能』
ミカエルに、緊急アラートが届く。
「これは......まずい」
神様にも、連絡が行った。
神様:『......そろそろ、介入が必要かな』