第3話『第一防衛線・押し入れ前線』 (後編)
「第一日目の被害状況を報告します」
輪になって座った三人の中心で、梨花がノートを開いて言った。
その横にはチョコ、カップスープ、麦茶。もはや会議というより深夜のオタ活に近い光景。
「物的損害は、殺虫スプレー1本消費、雑誌3冊変形、カーテン2枚黒焦げ。
人的損害は、姉のメンタルと美穂のゴーグル、軽度の被弾」
「ゴーグルは……再調整済みだ」
美穂はゴーグルをクイッと上げ、わずかに誇らしげだ。なお、調整=ガムテープ補修。
「で、状況まとめるとだね」
加奈がポテチをかじりながら、あくまで気軽に言った。
「……私、何か悪いことしたっけ?」
「殺したじゃん、パセリ」
「それは、あくまで事故です! 判定的には自衛です!」
美穂がノートの端に何かを書き込みながら口を開いた。
「でも、彼ら――妖精たちの行動には秩序がある。
“感情的な復讐”っていうより、“明確な軍事作戦”の匂いがするわ」
「ってことは……?」
「彼らの世界には、おそらく“国家”か“軍組織”がある。
パセリはその一員で、今回の襲撃は正規の報復行動よ」
「えー、じゃあ私、“国家間戦争の火種”とかいう嫌なポジションじゃん!?」
梨花がふうとため息をつき、スープをすすった。
「ライフラインは生きてるし、食料も一週間はギリ持つ。
でも妖精が毎日襲ってくるとしたら……消耗戦になる」
「夜、寝てる間に襲われたら終わりだよね」
加奈の声がやや震える。
「じゃあ決めよう。見張り交代制」
梨花が、スケジュール表(裏紙)を取り出し、さらさらと書き込んだ。
■ 見張りシフト表(暫定)
0〜2時:美穂(夜型。中二病テンションで乗り切る)
2〜6時:梨花(もともと勉強で夜更かし派)
6〜8時:加奈(朝弱い。寝起き戦闘は大事故の予感)
「……この表、全体的に私にだけ厳しくない!?」
「人生とは理不尽でできている……」
美穂がスッと立ち上がり、窓際へ。
「この目……“闇夜でも真実を見抜く”右目があれば、見張りなど造作もない……」
「その目、たぶんただのド近眼だよね!?」
***
そして夜が更け――翌朝。
朝7時。加奈がふらふらと起き上がり、あくびをかみ殺しながら部屋の空気を吸い込んだ。
「……ん?」
天井が、光っていた。
いや、正確には――
花粉のように舞う、金色の粉が、部屋の空気を静かに漂っている。
「なにこれ……朝の粉……?」
美穂がゴーグルをクイッと下げて、金粉をすくい上げるように手をかざした。
「……あれは“警告”だね。第二波が来る」
「第二波って何!? てか“第一波”でこっちはもう限界なんだけど!!」
三人のサバイバル生活、まだ始まったばかりだった。
→ 第4話『妖精vsチョコチップパン』へつづく!