第3話『第一防衛線・押し入れ前線』 (中編)
「よし、敵は一時撤退した。今のうちに……拠点を築こう」
なぜか「戦場指揮官ポジション」に落ち着いた梨花が、冷静に告げた。
髪はボサボサのままだが、目つきは完全に“マネジメント脳”である。
「まず、出入り口の防衛ラインを再強化。ドア前は本棚と布団でバリケードを作って。窓は段ボールと……アルミホイル使える?」
「ある! 冷蔵庫の裏からごっそり!」
「……どこからでも道具を出すな、姉」
その間、美穂は「結界強化」と称して、壁に自作のお札を貼りまくっていた。
「この“厄除け式札・ver3.2”なら、小妖精くらいは撥ね返せるはず……!」
「それ何で作ったの?」
「ラミネーターとセリアの厚紙と、魂」
「最後だけ要らなかったな」
***
防衛ラインの全容はこうである。
ドア前:本棚、布団、ランドセルで物理封鎖。
窓:段ボールをテープで貼り、アルミホイルで“謎の防光処理”。
ベッド下:非常用物資(スナック・水・トイレットペーパー)を格納。
天井近くの通気口:スリッパ詰めて封鎖。見た目は完全に生活感の塊。
「……見た目ひどいけど、なんか“要塞感”出てきたかも」
「むしろここがファンタジーサバイバルの最前線なんだよ」
「うーん、悲しいな……。でもちょっと楽しくなってきた自分もいる……」
***
そのとき梨花が立ち上がる。
「私は後方支援に回る。家の中の物資、全部回収してくる」
「え!? 一人で!? 危ないって!」
「大丈夫。私は派手な戦闘は苦手だけど……潜入と収集には自信あるから」
「かっこよく言ってるけど、ただの家事能力だよね!?」
梨花はスマホとカゴを持ち、バリケードの隙間からスッと消えていった。
「じゃあ、私と加奈で部屋の守備に集中よ!」
「守備って言うけど……私ほぼ戦力になってないからね!?」
***
一方その頃――
梨花は薄暗い廊下を、まるでスニーキングミッションのように歩いていた。
部屋の壁には相変わらず霜のような模様。空気も微かに冷たい。
「まずはキッチン……非常食、非常食……」
引き出しを開けると、出てくる出てくる、インスタント麺・スープ・レトルトカレー・チョコバー。
一瞬でカゴがパンパンになっていく。
「……この家、災害の備えだけは一丁前なんだよなあ」
だが――
洗面所でタオルを回収している時、洗濯機の隙間からひょこっと出てくる影があった。
カサッ……
「……ん?」
ぱっとライトを向けると――
「コンニチハ!」
**4cmサイズの妖精(小型偵察型)**がニッコリ笑っていた。
「っぶな!!」
梨花は瞬間的にシャンプーボトルで弾き飛ばす。
妖精は「シャボォ!!」と叫びながら洗剤に突っ込んで泡まみれで撤退。
「ちっちゃいくせにやたら元気……油断できないな……」
最後にリビングでティッシュと電池を回収し、満載のカゴを抱えて部屋へ帰還した。
***
「……帰ったよ。なんとか全部回収」
「わあ! これ一週間くらい戦えそう!」
「チョコ率が異常だけどね」
梨花は淡々と物資を並べ始めた。
三人はその周りに輪になって座る。
「……さて、じゃあ“作戦会議”するか」