第3話『第一防衛線・押し入れ前線』 (前編)
──ピンポーン♪
「……来た!」
加奈はバリケードを崩しながら玄関へ走る。
のぞき窓に映るのは、スキーゴーグルを額に乗せ、木刀を背負い、なぜか赤いマントをひるがえす芹沢美穂。
ドアを開けた瞬間、彼女はポーズを決めた。
「ここが前線か……風の匂いが、戦いの気配を運んでくるわ」
「いや、玄関でそれやらないで!? ご近所の目があるからッ!!」
美穂は完全にノリノリだ。
その手には「妖精戦争対応マニュアル・初級編(自作)」がファイルに綴じられていた。
「敵の名前はパセリ。いや、正確には“元戦士パセリ”ね。倒したのは君――赤沢加奈。つまり君は、開戦の火種そのものよ」
「ちょっと待って!? 私はただ虫に見えて……というか虫だと思って……!」
「動機がどうであれ、事実はすでに記録された。妖精界にとって、君は“黒の審判者”……」
「やめてぇぇぇええ! 黒歴史っぽい称号つけないでぇぇぇ!!」
そこに、スリッパ音を鳴らしながら梨花が登場。
「とりあえず今は、バリケードの再構築と、通気口の防衛が先」
「冷静かッ!?」
部屋に戻るや否や、妖精たちの攻撃が再開された。
天井裏からパタパタと羽音が近づき、次々と通気口の隙間から顔を覗かせる小さな影。
「侵入確認! 敵影、5体! 左サイド、押し入れ方面より接近!」
梨花がスマホのライトを天井に向けて照らす。
「いくわよ、加奈、梨花。三人目の戦士、ここに参戦!」
──初の三人バトルが始まった。
加奈は、雑誌と殺虫スプレーの二刀流で空中を狙い撃ち。
「くらえ! 『週刊◯◯』の編集魂ッ!!」
美穂は木刀を軽やかに振り回し、風圧で妖精を弾き飛ばす――が、勢い余って自分のゴーグルに直撃。
「ぐぬぬ……これは予測不能の空間揺らぎ……!」
梨花は家具をテトリスのように配置し、即席トラップを作成。
「ここに扇風機を置いて、風圧で妖精を吹っ飛ばす作戦でいく。スイッチON」
扇風機の風で妖精がゴロゴロ回転しながら吹っ飛んでいく。
「ぎゃー!目にホコリィィ!」
「ぐるぐるするうぅぅ!」
「あっ、これ……意外と効くかも……!」
束の間、妖精たちは退却のラッパ(たぶん)を鳴らし、一時撤退していった。
「……勝った?」
「いや、あくまで小競り合いよ。この戦争、本番はまだ先だわ」
加奈が汗だくになりながら問いかける。
「ねぇ、これほんとに日常コメディだったよね? なんでRPG始まってるの!?」