第7話『裁きまであと三日』 ― 中編 ―
◆バリケード強化と“新兵器”の導入
幻覚攻撃を乗り越えた三人は、再び黙々と防衛作業に取り組んでいた。
部屋の出入口には本棚とクッションの壁。窓際にはアルミホイルと段ボールで謎の輝きを放つ“結界風バリア”。
その上で、梨花は新たな秘密兵器を披露する。
「名付けて——“風圧式ミニ吹き矢トラップ”!」
「なにそれ怖い!」と加奈が飛びのく。
梨花はクールに説明した。
「扇風機の風力を利用して、割り箸に刺したストローの弾を発射。妖精の飛行を妨害しつつ、精神的威圧を与える構造」
「絶対に物理的じゃない何かで勝とうとしてるでしょ、アンタ……」
もう一つ、梨花が取り出したのは謎の缶。
「こっちは“スモークフレーバーチップ(焼きそば風)”。煙幕の中に匂いを混ぜるの」
「ねえほんとなんで焼きそばにしたの!?」
「私が食べたかったから」
「そこは迷えよ!?」
美穂はそれを見て笑いながら、「でもいいセンス」と親指を立てた。
「混乱に香ばしさが加われば、敵も判断を誤る。妖精だって人間だ、じゃなくて……えーと、生き物だし」
◆翻訳進行と、“王”の正体
美穂は“転送の羽”の断片データと、妖精兵の記録装置(ミニ端末)を解析していた。
日々の翻訳作業で、美穂の“妖精語読解力”はもはや検定級レベルに達していた。
その中で、ついに妖精王についての情報を発見する。
「“妖精王セリフェリオス九世”——彼はかつて人間界に通じていた“扉”を封じた存在だったみたい」
「扉?」加奈が眉をひそめる。
「うん。人間と妖精の世界をつなぐ“道”が昔はあった。でも王がそれを閉ざした。“干渉を防ぐため”って記録がある」
「で、今わたしたち、その“干渉側”になっちゃってるわけね……」
さらに、美穂はとんでもない一文を見つける。
「“裁きとは、存在の可否である”……って書いてある」
梨花が顔を上げる。「存在の、可否……?」
「つまり、王が“ここ(空間)ごと消す”判断を下せるってこと」
加奈の顔が引きつる。「なにそれ! そんなの——選択肢の規模が違いすぎるじゃん!? こっちまだ部活と単位と進路で迷ってる段階なのに!!」
美穂は苦笑しながら、そっと呟いた。
「裁きっていうより……これは“消去命令”だね」