第7話『裁きまであと三日』 ― 前編 ―
朝が来た。……はずだった。
だが、それはもはや「通常の朝」とは言いがたい。
玄関のドアも、窓も、電子レンジでさえ、世界とのつながりを断たれたままだ。
ベッドの上で、加奈は毛布にくるまったまま呟く。
「……ねえ、あと三日ってさ、なに? 裁判? 死刑? それとも……体育祭?」
ソファで翻訳ノートとにらめっこしていた美穂が、ぼそっと返す。
「妖精王の“裁き”って、たぶん概念的なやつだと思うのよね。法廷が開かれるってより、“運命が決まる”系」
「それ、むしろ怖いやつじゃん……」
加奈は天井を見つめたまま、深くため息をついた。
梨花はというと、窓辺でトーストをもぐもぐやりながらスマホのメモ帳を開いていた。
「で、じっとしてても不安になるだけでしょ。だったら、“備える”しかないよね」
美穂が目を細める。「……対王戦、ってこと?」
梨花はうなずく。「正式名称、“妖精裁き対策本部”。今からここがその本部室。さ、各自の持ち場ついて」
◆作戦開始:「備える日々」へ
こうして、三人の新たな役割分担が始まった。
・美穂:妖精語の解読・羽根や遺物の分析
・梨花:防衛システムとトラップの設計・実装
・加奈:訓練係(筋トレ+逃げる訓練+気合い)←本人猛抗議
「……なんで私だけ根性論担当!? 妖精相手にスクワットして何になるの!?」
「筋肉は裏切らないって、どこかのマンガでも言ってたでしょ」
梨花はすでに部屋の隅で、100円ショップの道具を並べてトラップを作り始めていた。
「私は“スモークフレーバーチップ”も作る予定。煙に焼きそばの匂いを混ぜて、妖精の食欲を撹乱する」
「いやそれ私が惑わされるんだけど!?」
「……でも想像しただけで腹減るよね」
「なんで共感しちゃってるの!?」
◆幻覚攻撃・再び
その日の昼頃だった。
またも部屋の空気が、ぞわり、と波打つ。
「また来た……音波系」
最初に流れてきたのは、加奈の担任の声だった。
「だからお前はだらしないって言っただろ」
次に、梨花の耳に届いたのは、懐かしい少女の声。
「ほんとはひとりになりたいんでしょ?」
そして美穂には、何より厄介な相手――過去の自分の声が語りかけてくる。
「また逃げるの? “真実”から」
三人とも、一瞬息が止まった。
でも――誰も崩れなかった。
加奈は、雑誌を強く握りしめた。
「だからって、もう逃げるつもりはないし!」
梨花は静かに言った。
「自分の弱さ、いまさら恥じても意味ない。やれるだけやるだけ」
美穂は深呼吸し、言葉をかみしめるように微笑んだ。
「たとえ“存在の可否”を問われても、こっちは“生きる可否”をこたえるしかないでしょ」




