第6話『囁く羽根と王の使者』 (後編)
夜。部屋には疲労と沈黙が漂っていた。
バリケードの隙間から見える外の空は、またあの“止まった月”を浮かべていた。
時間が進んでいるのかも、もうよく分からない。
そんなときだった。
窓際が、カッと冷たい光に包まれる。
風もないのにカーテンがふわりと持ち上がる。
「……来た」
美穂が小さく呟くと同時に、天井の影がすっと伸び、再び“銀の副官”が舞い降りる。
その姿は以前よりも、なぜか荘厳で、冷酷さをまとっていた。
まるで――“判決”を下しに来た者のように。
副官は、冷たい声で言った。
「貴様らの命運は、妖精王・セリフェリオス九世の裁定に委ねられた」
一瞬、静寂。
「三日後――王自らがこの場に降臨する。
そのとき、貴様らの行いに対する“裁き”が下される」
そして副官は、それ以上何も言わずに、闇とともに去った。
……ただ、その羽ばたきの余韻が、天井から長く響いていた。
◆凍りつく沈黙
三人はただ、顔を見合わせていた。
加奈の口元が、乾いた笑いを浮かべた。
「……“裁き”? “降臨”? え、なに? 神様来るみたいなテンションなの?」
梨花:「王政ってほんとにあるんだね……ていうか、裁判じゃなくて、裁きって言ったよね……」
美穂:「つまり、あれだよ。“有罪ありき”のやつだよ、きっと」
加奈:「ちょっと待って、私“パセリをゴキと間違えただけ”なんだけど!? そこまでされる!? ゴキだと思ったら妖精だったら、誰でもやるじゃん!!」
梨花:「姉さん、正当性で戦えるフェーズもう終わってる。これたぶん“外交問題”とか“戦争犯罪”の扱いだよ」
美穂:「うん、今の私たち、きっと“歴史の教科書に載る側”だね」
加奈:「嫌すぎる! 教科書に“加奈、チョコパンで妖精を殴打”って載るの!? なんの未来!?」
◆ラスト:静かな決意
笑いながらも、部屋の空気は確実に重くなっていた。
3日後――
何が来るのか、誰が来るのか、それにどう立ち向かうのか。
加奈は、ベランダから空を見上げた。
欠けたまま動かない月が、彼女たちを見下ろしていた。
→ 次話:『妖精王セリフェリオス九世、降臨』 へ続く!